インプレッション

ヤマハ「MT-03」「MT-25」

MTシリーズの小排気量モデルは街乗り最強ネイキッドとなるか?

 最近のヤマハは勢いがある。今週末に日本GPが開催されるMotoGPではV・ロッシを中心に大活躍しているし、今年の鈴鹿8耐では1996年以来となる5度目の優勝を果たした。レースの成績というのはやはり、メーカーの勢いだと思っている。そんなレース界で快進撃を続けるヤマハが「毎日乗れる、スーパーバイク」として発売したのが、「YZF-R3」と「YZF-R25」だ。小排気量ながらスーパーバイクの雰囲気を気軽に楽しめるとあって、瞬く間に人気モデルとなった。

 さて、ここで気になってくるのはバイク業界のトレンドである。まずスポーティなフルカウルバージョンが登場し、次にカウルを取り去ったネイキッドバージョンが発売される。ホンダなら「CBR250R」と「CB250F」、カワサキなら「Ninja250」と「Z250 ABS」、スズキなら「GSR250F」と「GSR250」といった具合だ(多少ジャンルとして異なる部分はあるにしても)。

 では「YZF-R3」「YZF-R25」の兄弟モデル、それもネイキッドモデルはどうなるのだろうか? ヤマハはその答えを「MTシリーズ」という形にまとめた。「MT-09」「MT-07」に続く新しいMTシリーズはYZF-R3とYZF-R25をベースとし、「MT-03」「MT-25」という形で姿を見せたのである。ヤマハのMTシリーズは「軽量コンパクトな車体」がウリなのだが、ここに来てついにMTシリーズの真打ちが登場したようにも感じる。

 ちなみに気になるエンジンはというとベースとなったYZF-R3/YZF-R25とほぼ同じものである。直列2気筒DOHC4バルブ水冷エンジンを採用しており、MT-03は320cc、MT-25は250ccとなっている。多少味付けを変えてくるかとも思ったが、どうやらそういったことはないらしい。諸元を見る限りパワーもまったく同じだし、変速比も同じ、カタログ燃費まで同じなのだ。いや、それはそれで面白い。なぜならライバル車と比較してMT-25の最高出力は36PS(12,000rpm)と高めに設定されている。320ccのMT-03に至っては42PSを10,750rpmで絞り出す。「毎日乗れる、スーパーバイク」が「毎日乗れる、スーパーネイキッド」へと変身したのだ。

モデルコンセプトは「大都会のチーター」

基本的にMT-03とMT-25のスタイルは同一。こちらちはMT-03だが、タンク前方のデカールとステップ部分のヒールガードに注目して欲しい
正面から見たMT-03。ヘッドライトまわりはコンパクトにまとめられている
タンデムシートがグッと持ち上がっているように見えるのは最近のトレンド

 試乗の前にはお約束の撮影。まずはMT-03/MT-25の細部を見て行こう。まず最初に断っておくが、MT-03とMT-25で外観的に大きく異なるのは3点。まず一つ目がデカール、名称からして異なるのだからこれは当然だろう。次にステップ部分に取り付けられたヒールガード、MT-03は穴なし、MT-25は穴有りとなっている。そして最後はメーターのレッドゾーン、MT-03は12,500rpmからレッドになっているが、MT-25では14,000rpmからとなっている。個人的には「最近の直列2気筒はよく回るなあ」と驚いたのだが。ちなみにタイヤは異なるものを履いている。カラーバリエーションに関しても同じもの3色、マットシルバー、ブラックメタリック、レッドメタリックが用意されている。ヒールガードはブーツなどで隠れている場合が多いので、MT-03とMT-25の識別は、タンク前部のデカールで行うのが一番なようだ(後ろから見ればナンバープレートですぐ判別でるのだが)。

 さて、モデルコンセプトである「大都会のチーター」。哺乳網ネコ目の動物であるチーターと、ヤマハのネイキッドバイクであるMT-03/MT-25の共通点は何か? 話は簡単、小顔であることと俊敏な走りということになる。ボリューミーなタンク部分とは対照的に、ライトを含むメーター部分はコンパクトにまとめられている。これが小顔という訳だ。俊敏な走りに関しては、試乗のインプレッションで紹介したい。

 各部を見ていてやはり目立っているのは、ヘッドライトの上に設けられたLEDのポジションランプだ。ヘッドライトカバーを顔(それも小顔)に見立てると、まるでそれはアイラインのように見えてくる。リヤシートは最近のトレンドを反映して、コンパクトかつ跳ね上がっているように見えるタイプ。タンデム時に便利なアルミ製のアシストグリップは、デザインが洗練されている。個人的に気に入ったのはコンパクトながら存在感のあるアンダーカウル、そしてMTシリーズらしさが光るバックミラーである。

 全体に目を戻すとやはりアクセントの効いたボリューム感が印象的だ。その中心になっているタンクは樹脂カバーが取り付けられた14L容量のものだが、それ以上の存在感を感じさせる。そのタンクを中心に小顔なフロント、シュッと仕上げられたリア回りという構成だ。ヤマハによるとMT-03/MT-25のデザインキーワードは3つあり、Extreme Agility(Agility=機敏といった意味)、Sexy Muscle、そしてPerfect Controlなのだという。この3つのうち一番納得できるのは「Sexy Muscle」、MTシリーズを通してセクシー・マッスルというのは見ただけで納得できる。

アルミ製のタンデム用アシストグリップはアルミ製で左右別体。高級感のある仕上がりだ
テールランプはもちろんLED
個人的に気に入ったアンダーカウル。ほどよい存在感が好み
MT-03とMT-25でエンジンに外観的な違いはない
ボリューム感あふれるタンクは14リットル容量で、外装は樹脂製タンクカバー
メーターバイザーに組み込まれたLEDのポジションランプはまるでアイライン
MT-03のメーターはレッドゾーンが12,000rpmから始まっている
MT-25のメーターは14,000rpmからレッドゾーン
マットシルバーは細かく言うと「マットシルバー+ブルー」。グローバルヤマハのスポーツモデルで、戦略カラーとして使われている
こちらはMT-25、タンク前部のデカール。「25」という数字がモチーフ

軽快でパワフル、だから楽しい!

 いよいよ試乗の順番が回ってきた。まず先にMT-25、250ccの方を試乗する。身長176cm、体重80kgちょいという決して小柄とは言えない私が跨がっても窮屈という印象はない。シート高は780mmとなっているが足つきもいいし、跨がった状態で車体を左右に振った時のバランス感も上々。ちなみに撮影のためMT-25、MT-03共にあれこれ取り回したのだが、ふらついたりすることはなかった。スペック上の重量はどちらも165kg、YZF-R25のABSなしモデルの重量が166kgだからカウルがなくなった分だけ軽くなったと考えていい。

 スタートしてまず最初に感じたのは、ほどよいパワー感だ。「驚くほどの!」などと言うつもりはないが、このクラスのバイクとしては充分以上のパワーを発揮してくれている。昔(20年ぐらい前としておこう)の感覚で乗ったとしたら、やはり驚かされると思う。スムーズな吹け上がりとしっかりしたトルク感、繋がりのいい6速トランスミッション。正直、かなり楽しいバイクである。

 事前に行われたヤマハからの説明で強調されていた、市街地に合わせたライディングポジションは、自然な操舵感覚をライダーに提供してくれる。YZF-R3/R25と比較して手前に約19mm、そして約39mm高くしたというハンドルはとにかく扱いやすい。体重移動とハンドル操作でかなり機敏な動きを見せるが、不安定などということはない。一般道ではないので多少無理なことも含めてあれこれ試してみたが、よく走りよく止まるバイクだと感じた。障害物を避けるようなクイックモーションにもしっかり対応するし、高速道路での追い越しを意識した加速などもスムーズである。

 そして期待を胸にMT-03の試乗に入る。MT-25とまったく同じ車体でありながら、MT-25が36PSであるのに対し、MT-03は42PS。この差がどれぐらい出るかが楽しみだった。いや、スタート時の加速からして別物だった。スムーズな吹け上がりとクセのないトルク感は同じなのだが、やはり加速感が違う。スタート時もそうだがコーナーを立ち上がってからの加速、直線での全力加速、どれもMT-03は頼もしい。とくに高回転域での加速感は、MT-25とは別物と言っていいだろう。排気量にして約70cc、出力にして約6PS。わずかな違いではあるが、その違いから生じる余裕には大きな差があるように感じた。

 コーナリングに関してはMT-03とMT-25で大きな違いは感じられなかった。前後共にシングルディスクブレーキな訳だが、クセもなくよく効いてくれる。このため安心してコーナーに入っていけるし、多少無理をしても車体が軽いのでカバーするのは容易だ。パワーの出方がスムーズなので立ち上がりから加速するのも楽しい。もっとも操縦の自由度が高いためか「このライン!」と狙いを定めてコーナーに入っていても、毎回決まるという訳にはいかない。まあ、その役割はYZF-R3/R25が担っているのだろう。

中高年にこそ乗ってほしいバイク

 MT-03とMT-25。とにかくこの2モデルには「走って楽しいバイク」という表現がピッタリだ。とくに普段パワフルなバイク、リッターバイクに乗っている人なら同じように感じると思う。なにせエンジンをガンガン回せるし、余裕をもってコーナーに突っ込んで行けるのだから。私自身、あまり褒められた話ではないが、試乗をしている間に「運転がうまくなったんじゃないか?」と勘違いするほどだ。

 若い人にはスタイリッシュなデザインがアピールするだろうし、中高年には運転のしやすさ、軽さ、走る楽しさなどが大いにアピールすると思う。そして私自身が中高年であることも踏まえて、ぜひ中高年ライダーにお薦めしたいバイクだ。買う買わないは別として、とにかく一度試乗してみて欲しい。

 今現在、リッターバイクに乗っていて降りるつもりはないというなら、セカンドバイクとしてMT-03/MT-25はベストチョイスだと思う。もちろんYZFシリーズという手もある訳だが、メインが街乗りというならMTシリーズに軍配が上がるだろう。リターンライダーとして再びバイクに乗りたいというなら、MT-03/MT-25の運転しやすさと快適さ、楽しさが大きな魅力となる。

 最後に個人的な意見を言わせてもらうと、私としてはMT-03をお薦めしたい。MT-25に上乗せされたパワーは、スペック以上の楽しさを提供してくれるからだ。ちなみに両者の価格を比較するとその差は3万円である。やはりもっとも大きな違いは、車検があるかないかだろう。MT-03を買ったなら初回は3年後、それ以降は2年ごとに車検を通さなくてはならない。MT-25にはそれがない。まあ、このあたりは自分の財布と相談して折り合いをつけて欲しい。ただ、ただ言えることは「MT-25も楽しいけど、MT-03はもっと楽しいよ」ということ。それに尽きる。

試乗会ではY'S GEARの展示もあった
Y'S GEARのカスタムパーツを装着したデモ車、MT-25
お薦めはアシストグリップを取り外した部分をカバーするシングルシートカウルと……
スタイリッシュなスリップオンマフラー(こちらはMT-25がベースなのだが、ヒールガードがMT-03と異なりホール付きになっていることにも注目)

高橋敏也

デザイナー、コピーライターを経て、パソコン関連のライターとして独立。SF小説なども上梓している。ライター歴は20年を超えるが、最近10年は真面目なレビュー記事というより、パソコンを面白おかしく改造する記事などを書いている。若い頃はオートバイをこよなく愛していたが、体力の衰えと共にクルマへの興味を持つ。このため自動車免許を取得したのは1998年。現在、クルマはトヨタのハチロク、オートバイはカワサキのNinja 1000とZ1300を所有、都内を縦横無尽に走っている。インプレスジャパン、DOS/V POWER REPORT誌に「高橋敏也の改造バカ一台」を連載中。ほかにImpress Watchでインターネット動画「パーツパラダイス」を配信中。

Photo:高橋 学