インプレッション

アウディ「TT クーペ」「TTS クーペ」

カジュアルで親しみやすいスポーツカーが3代目となって登場

 アウディのスポーツモデルといえば、それぞれのグレードに設定されたRSモデルが頭に浮かぶが、スポーツカーとなると「R8」とここで紹介する「TT」だ。特にTTは+2の4人乗り(ロードスターを除く)という利便性からも、初代からエントリースポーツモデルとしての身の丈感があり、カジュアルで親しみやすいスポーツカーとして人気を集めた。

 そんなTTもついに3代目となっての登場だ。2006年にデビューした2代目は、まだどことなく初代の名残を感じさせる丸みを残したデザインだったが、3代目はシェイプの効いたスポーティで都会的な印象を受ける。デザイナーによると水平のラインを直線とし、シャープでキレのあるデザインに仕上げたとのこと。確かにショルダーラインは水平で平面だ。それでもアーチ状のルーフラインは初代から変わらず受け継がれ、Aピラーがフロントフェンダーに食い込むかのように接続する不自然さなどは、ひと目でTTと分かるフォルムの演出に一役買っている。

 また、前後のフェンダーもオーバーフェンダーのようにくっきりと張り出しているところが、やはりTTだ。そして、これまでグリルにあったアウディエンブレムが初めてボンネット上に移されている。この位置へのエンブレムは、アウディモデルの中でもR8とTTだけに与えられている。これによってフロントグリルのイメージも随分と変化し、グリルは六角形となり、より細めとなったLEDライトともコラボして近未来的なフロントフェイスを形成している。このLEDライト、TTSにはマトリクスLEDが標準装備となっていて、対向車など周囲の状況に合わせて自動的に照射域を変化させてくれるので、ドライバーはハイビームにセットして走ればよいという優れものだ。

パンサーブラックCEカラーの「TTS クーペ 2.0 TFSI クワトロ」。ボディーサイズは4190×1830×1370mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2505mm。車両重量は1410kg。トランスミッションは全車共通で「6速Sトロニック」を搭載。価格は768万円
TTS クーペのミラー部はシルバーに加飾されている
TTS クーペ専用となる10Vスポークデザインの18インチアルミホイール(タイヤサイズ:245/40 R18)
TTS クーペのマフラーエンドは左右4本出しのレイアウト
リアの左側にTTSのバッヂが備わる
撮影車のインテリアはスペシャルオプション設定の「ファインナッパレザーSロゴ・エクステンデッドレザーパッケージ」(18万円)を装備。インテリアカラーはエクスプレスレッド
フルデジタル多機能メーター「アウディバーチャルコックピット」は全モデルに採用。12.3インチデジタル液晶ディスプレイでは3D地形図のナビゲーションマップなどの表示が可能。TTSではセンターにタコメーターを映し出すモードも用意

 インテリアでは数々の新アイテムが採用されている。まずエアコンの送風口のセンターにエアコンのスイッチ類が配されていて、また、送風口も航空機のジェットエンジンのようなフィン形状で、送風口全体を回すことで送風方向を変えることができる優れものだ。デザインもまったく新しい新鮮なものだが、温度表示も含め直感的に操作できるのですぐに慣れることができた。

 そしてカーナビを含めた12.3インチのディスプレイが、ドライバー正面のメーターパネルに埋め込まれたことが新しい。「バーチャルコクピット」と名付けられたディスプレイは、左右にタコメーターとスピードメーターが分離した「クラシックビューモード」と、2つのメーターを小さくしてナビ画面を拡大した「プログレッシブビューモード」の2種類を、ステアリング手下のファンクションボタンを押すだけで切り替えることができる。また、TTSには「スポーツレイアウトビューモード」というセンターにタコメーターを大きく映し出すモードが設定されている。すべては直感的に操作ができるものであり、これらはメインメーターパネルに表示されるので、視線移動も少なくストレスを感じなかった。

 グレードはTT クーペとよりスポーティなTTS クーペ、そしてTT ロードスターがラインアップされる。TT クーペには2WD(FF)とクワトロ(4WD)の2種類がラインアップされ、あとはすべてクワトロモデルだ。

タンゴレッドメタリックカラーのTT クーペ 2.0 TFSI クワトロ。ボディーサイズは4180×1830×1380mm(全長×全幅×全高)、車両重量は1370kg。価格は589万円
TT クーペ、TT ロードスターにオプション設定されるアルミホイール「5アームスターデザインコントラストグレーパートリーポリッシュト(鍛造)」。タイヤサイズは245/35 R19
TTのロゴがエンボス加工されるフューエルキャップ
TT クーペのマフラーエンドは左右2本出しのレイアウト
撮影車のインテリアカラーはパロミノブラウン。オプションのレザーパッケージを装着
TTシリーズに全車標準装備される「デラックスオートマチックエアコンディショナー」。温度、風量、配分を電子制御するというもので、中央のダイヤルに表示部と操作部が集約されている
トランク容量はクーペモデルが305L。ロードスターは280L
アウディバーチャルコックピットの表示例

 エンジンはすべて直列4気筒DOHC 2.0リッターターボ。これまで直噴のみだったが、新たにポート噴射が加えられたデュアルインジェクションを採用。ロードスターおよびTTは230PS/370Nmを、TTSは286PS/380Nmを発生する。このパワー差はターボのブースト圧などの差と思われる。先代ではFFモデルは1.8リッターエンジンを搭載していたが、新型ではTTSとはパワーこそ異なるものの、同じ2.0リッターエンジンが搭載されることになったわけだ。

 デュアルインジェクションの2.0TFSIエンジンは380Nmの最大トルクを1800rpmから発生するので、市街地を抜ける際にもまったく不足を感じさせない。渋滞の中、極低速域で前車の速度に合わせたアクセレーションでもピックアップがよいので普通に走ることができる。高速道路では最新のレーンキープアシストを含めたアウディの安全装備で快適な遠出が可能だろう。

 トランスミッションはデュアルクラッチの6速Sトロニック。4WDシステムは第5世代に進化し、今モデルからドライブセレクトでチョイスしたモードに4WDの前後配分も調整されるようになった。

TTS クーペが搭載する直列4気筒DOHC 2.0リッターターボエンジンは、最高出力210kW(286PS)/5300-6200rpm、最大トルク380Nm(38.8kgm)/1800-5200rpmを発生。JC08モード燃費は14.9km/L。燃料タンク容量は55L
TT クーペが搭載する直列4気筒DOHC 2.0リッターターボエンジンは、最高出力169kW(230PS)/4500-6200rpm、最大トルク370Nm(37.7kgm)/1600-4300rpmを発生。JC08モード燃費は14.7km/L。燃料タンク容量は55L

硬めのサスペンションモードに好感度高し

 では走り出そう。グレードはTTS、一番ホットなモデルだ。ドラポジもしっかり好みに合わせることができる。最近のスポーツモデルはどのクルマも走行ノイズが抑えられているが、TTSもまったく例外ではない。静かなうえに振動もない。サスペンションはなかなか硬く路面のゴツゴツ感を伝えてくるが、ボディーの振動感がとても低くなっているので嫌味がない。TTSには減衰力可変ダンパーのマグネティックライドが装備されている。

 アウディモデル共通のドライブセレクトでは、エコ、コンフォート、オート、ダイナミック、そして自分で設定するカスタムの5種類から選択できる。モードを選ぶことで減衰力コントロールも変化するのだが、コンフォートにすることで上下動(バウンシング)も大きくなりソフトな乗り味に変化するが、ハーシュ(突き上げ感)などのフィーリングは大きく変わるものではなかった。むしろ個人的にはオートやダイナミックなどの上下動を抑えた硬めのサスペンションモードの方に好感が持てた。これは好みによるだろうが、ギャップなどを通過した後の上下動を短く、速く終息させる方がこのクルマには合っている。ただ、このマグネティックライドコントロールはTTやロードスターには16万円のオプションとなっている。

 ハンドリングはサスペンションがハードであることもあり、ステアリングを切り始めるとスッとノーズが向きを変える応答性の高いもの。80km/h以下での走行ではヨー方向が強めに出てアジリティを感じさせるハンドリングだが、それ以上の速度からは少しずつロールを感じさせるようになり、ヨーとロールがシンクロしたスタビリティのあるコーナリングが楽しめる。速度の上昇とともに操舵応答時にロールが増えることで路面に吸い付いたような感覚が増す。おそらく超高速ではダウンフォースを得たようなオン・ザ・レールのハンドリングが味わえるのだろう。ま、しかし、それはサーキットかアウトバーンにでも行かなくては体験できないはずだ。

 パドルシフトによってマニュアルセレクトでシフトチェンジをすると、6速Sトロニックの俊敏なギヤシフトがスポーツカーであることの楽しみを満喫させてくれる。特にエキゾーストノートがとてもレーシーなので、無駄なシフトが増えてあまりエコとはいえない走りになってしまう。

 気になる燃費だが、TTSがJC08モード燃費14.9km/Lとかなり優秀。TT ロードスターが14.4km/L。TT クーペがFFモデルを含めて14.7km/Lと、なぜか一番パワフルなTTSの燃費の方がよい。ただ、TTは1.8リッターだった先代モデルの14.2km/Lからパワフルになりながらも進化している。やはり、旧型に比べてねじり剛性を23%アップしながら17%軽量化したことが、ハンドリングとエコの両面にメリットをもたらしているのだろう。

 さてそのTT クーペの乗り味だが、こちらはマグネティックライドコントロールが装備されていないベースのサスペンション。そのフィーリングはTTSに比べると若干ソフトだが、それによってスポーティさがスポイルされるわけではない。個人的にはTTの方が間口も広く、ハーシュも若干緩いので広く受け入れられるのではないかと思う。パワー的にも不足はまったく感じないし、基本2人乗りであることを考慮すれば問題ない。

 新型TTはシャープなエクステリアのセンスはもちろんのこと、都会的なインテリアの進化が著しく、どんなシチュエーションでも乗っていることの楽しさを満喫できるだろう。

松田秀士

高知県出身・大阪育ち。INDY500やニュル24時間など海外レースの経験が豊富で、SUPER GTでは100戦以上の出場経験者に与えられるグレーテッドドライバー。現在59歳で現役プロレーサー最高齢。自身が提唱する「スローエイジング」によってドライビングとメカニズムへの分析能力は進化し続けている。この経験を生かしスポーツカーからEVまで幅広い知識を元に、ドライビングに至るまで分かりやすい文章表現を目指している。日本カーオブザイヤー/ワールドカーオブザイヤー選考委員。レースカードライバー。僧侶

http://www.matsuda-hideshi.com/

Photo:堤晋一