インプレッション
スバル「フォレスター」(2015年改良モデル公道試乗)
Text by 日下部保雄(2015/12/25 00:00)
SUVは世界的に伸長しているが、近年絶好調なスバル(富士重工業)には「フォレスター」がある。現行モデルの4代目フォレスターは2012年の11月にフルモデルチェンジされて、よりSUVらしさを増して登場した。
スバル車は毎年「イヤーモデル」として改良が加えられ続け、製品としての完成度が上がっていくと同時にスバルユーザーの信頼にもつながっているが、今回の大幅改良では内外装の変更だけでなく、大胆な走りの質感のアップ、スバルの独創性を安全面で強く訴求するアイサイトのver.3への進化、さらに斜め後方視界をカバーする「アドバンスドセイフティパッケージ」、ハイビームの照射範囲を自ら判断する機能を持つ「アダプティブドライビングビーム」などを採用し、予防安全の死角を少なくしている。
エクステリアはフロントマスクの変更によってちょっと豪華になり、リアエンドもテールランプなど細部の変更を行なって、フロント側に合せて華やかになっている。インテリアも質感が向上して、従来モデルよりもバリューが増している。アルミホイールもモデルチェンジしてより空力性能を重視したデザインとなっているが、従来モデルの力強さからはおとなしいデザインになった。個人的には少々物足りなさを感じるが、その代わりにLEDヘッドライトは眼光が鋭くなり、シャープな印象に変化した。
インテリアは特に晴れがましさはないが、スバルらしい機能性を感じさせるデザインに終始する。ハイライトは従来モデルから継承され、ダッシュボード上で燃費やAWDの作動状態などを表示するマルチファンクションディスプレイと、カラー液晶になったメーター内のマルチインフォメーションディスプレイだろう。カラー表示になったことで、より明確に情報を把握できるようになった。クルマが便利になるほど、ドライバーがクルマの状態を視認しやすくなるのは重要だ。
さて、では実際に乗ってみよう。アイサイトなどの安全に関する運転支援システムは簡単には試すことができないが、走りの質感アップは走り出してすぐに分かる。試乗車のグレードは自然吸気の2.0リッター水平対向エンジンを搭載した「X-BREAK」。タイヤは225/60 R17のSUV系タイヤを履く。
まず、キャビンのサイズ感がよい。全幅は1795㎜と1.8mを切っており、フォレスターの戦うマーケットでは小さい方に属するが、キャビンにいると決して狭い感じはせず、かつ大きさを持て余すこともないジャストサイズ感が好ましい。
シートは横方向がタップリしており、上下のストロークもしっかりとれている。そのため、磨きをかけられたシャシーと相まって乗り心地は上質になった。しなやかなタイヤの援護があるとはいえ、地道に温め続けた成果が出ている。段差乗り越しやギャップ通過時の乗り下げでどちらにもサスペンションの追従性がよく、前述のシートと相まってフラットな乗り心地を実現した。
シャシーでは、具体的にはフロントのクロスメンバーの剛性向上、ショックアブソーバーの減衰力の見直し、コイルスプリングのバネ定数の見直し、ブッシュの変更などが奏功しており、期待以上の仕上がりとなっている。この乗り心地はスバルラインアップの中でトップクラスだ。
さらに静粛性もアップしている。遮音材やガラスの板厚アップ、ドアシールの二重化などで外部の音をかなりカットしているため、ゴー音が減少した。パターンノイズの小さいタイヤもこれに貢献している。SUVでは前席と後席で静粛性に差があるケースもあるが、このクルマに関してはそれほど差はなく、前後席での会話にも支障はない。
では、乗り心地がよくなった分、ハンドリングは鈍くなっているのかと言えば逆だ。しなやかなサスペンションはむしろドライバーに優しく素直なキビキビ感を抱かせる。リアショックアブソーバーのレバー比の変更やステアリングギヤ比の変更(15.5:1から14.0:1)で、ステアリングを切った時にしっとりとした安定性がある。もちろん「レガシィ」や「インプレッサ」のようによりシャープな感触ではないが、SUVとしては十分すぎるほどのハンドリングだ。
相乗効果としてステアリングの座りがよくなり、直進性にも磨きがかかって気づかれないようなドライバーの疲労が軽くなっているように感じる。
X-BREAKは自然吸気の2.0リッターエンジンを搭載するが、フリクションの低減や燃費改善、CVTの「リニアトロニック」との適合向上などにより、JC08モード燃費では16.0km/Lとなり、エコカー減税で従来より1クラス上の減税が適応されようになった。
動力性能は148PS/196Nm。AWDモデルで1510㎏というSUVにしては軽量な車両重量に対し、馬力荷重は10㎏/PS台でそれほどよい値ではないが、意外とよく走る。少なくともフラットな路面では結構俊敏。急な登坂でも妥当な粘り強さを持っていた。ターボのようなガツンとした加速力はないが、自然に加速していく感じは使いやすく、過不足はない。
リニアトロニックとの相性もよく、アクセルの動きに対しての加速感が好ましい。アクセルを大きく開けたときはエンジン回転が先行する“CVT感”が強くなることに変わりはないが、CVT自体の違和感はそれほど強くなく、エンジンとのマッチングがいい。
また、利便性の高い装備としては、パワーリアゲートやワンタッチで後席バックレストが前方に倒れる機構など、細かいところにまで気が配られているのも嬉しい。冒頭のアイサイトなどの安全性向上で、ますます魅力的になったフォレスター。正直、見直した。