インプレッション

スバル「フォレスター」(2015年改良モデル公道試乗)

 SUVは世界的に伸長しているが、近年絶好調なスバル(富士重工業)には「フォレスター」がある。現行モデルの4代目フォレスターは2012年の11月にフルモデルチェンジされて、よりSUVらしさを増して登場した。

 スバル車は毎年「イヤーモデル」として改良が加えられ続け、製品としての完成度が上がっていくと同時にスバルユーザーの信頼にもつながっているが、今回の大幅改良では内外装の変更だけでなく、大胆な走りの質感のアップ、スバルの独創性を安全面で強く訴求するアイサイトのver.3への進化、さらに斜め後方視界をカバーする「アドバンスドセイフティパッケージ」、ハイビームの照射範囲を自ら判断する機能を持つ「アダプティブドライビングビーム」などを採用し、予防安全の死角を少なくしている。

 エクステリアはフロントマスクの変更によってちょっと豪華になり、リアエンドもテールランプなど細部の変更を行なって、フロント側に合せて華やかになっている。インテリアも質感が向上して、従来モデルよりもバリューが増している。アルミホイールもモデルチェンジしてより空力性能を重視したデザインとなっているが、従来モデルの力強さからはおとなしいデザインになった。個人的には少々物足りなさを感じるが、その代わりにLEDヘッドライトは眼光が鋭くなり、シャープな印象に変化した。

撥水ファブリックシートや撥水カーゴフロアボードなどの専用装備でユーティリティ性を高めた「X-BREAK」。ボディサイズは4610×1795×1735mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2640mm。試乗車は「アドバンスドセイフティパッケージ」「ハーマンカードンサウンドシステム&SDナビゲーション」「パワーリアゲート」などのオプション品を装着し、価格は車両価格の275万4000円にオプションの51万8400円を加算して327万2400円。ボディカラーは「クオーツブルー・パール」

 インテリアは特に晴れがましさはないが、スバルらしい機能性を感じさせるデザインに終始する。ハイライトは従来モデルから継承され、ダッシュボード上で燃費やAWDの作動状態などを表示するマルチファンクションディスプレイと、カラー液晶になったメーター内のマルチインフォメーションディスプレイだろう。カラー表示になったことで、より明確に情報を把握できるようになった。クルマが便利になるほど、ドライバーがクルマの状態を視認しやすくなるのは重要だ。

2015年の大幅改良で、内装では助手席前方にシルバーフレーム&ハイグロスブラックのコンビネーションパネルを採用。さらにインパネのセンターピラーやドアグリップなどに触感のソフトな表皮を巻いて質感を高めている

 さて、では実際に乗ってみよう。アイサイトなどの安全に関する運転支援システムは簡単には試すことができないが、走りの質感アップは走り出してすぐに分かる。試乗車のグレードは自然吸気の2.0リッター水平対向エンジンを搭載した「X-BREAK」。タイヤは225/60 R17のSUV系タイヤを履く。

 まず、キャビンのサイズ感がよい。全幅は1795㎜と1.8mを切っており、フォレスターの戦うマーケットでは小さい方に属するが、キャビンにいると決して狭い感じはせず、かつ大きさを持て余すこともないジャストサイズ感が好ましい。

 シートは横方向がタップリしており、上下のストロークもしっかりとれている。そのため、磨きをかけられたシャシーと相まって乗り心地は上質になった。しなやかなタイヤの援護があるとはいえ、地道に温め続けた成果が出ている。段差乗り越しやギャップ通過時の乗り下げでどちらにもサスペンションの追従性がよく、前述のシートと相まってフラットな乗り心地を実現した。

撥水ファブリックとサイドの合成皮革を組み合わせた専用シート。X-BREAKではシートやステアリング、シフトセレクターなどのステッチがオレンジになっている
大幅改良では17インチ(写真)、18インチともにアルミホイールのデザインを一新。17インチホイールは燃費向上も意識した空力性能に優れたデザイン、18インチはSUVの力強さと切れのあるスポーティ感を融合させたデザインを採用する。17インチのタイヤサイズは225/60 R17

 シャシーでは、具体的にはフロントのクロスメンバーの剛性向上、ショックアブソーバーの減衰力の見直し、コイルスプリングのバネ定数の見直し、ブッシュの変更などが奏功しており、期待以上の仕上がりとなっている。この乗り心地はスバルラインアップの中でトップクラスだ。

 さらに静粛性もアップしている。遮音材やガラスの板厚アップ、ドアシールの二重化などで外部の音をかなりカットしているため、ゴー音が減少した。パターンノイズの小さいタイヤもこれに貢献している。SUVでは前席と後席で静粛性に差があるケースもあるが、このクルマに関してはそれほど差はなく、前後席での会話にも支障はない。

 では、乗り心地がよくなった分、ハンドリングは鈍くなっているのかと言えば逆だ。しなやかなサスペンションはむしろドライバーに優しく素直なキビキビ感を抱かせる。リアショックアブソーバーのレバー比の変更やステアリングギヤ比の変更(15.5:1から14.0:1)で、ステアリングを切った時にしっとりとした安定性がある。もちろん「レガシィ」や「インプレッサ」のようによりシャープな感触ではないが、SUVとしては十分すぎるほどのハンドリングだ。

 相乗効果としてステアリングの座りがよくなり、直進性にも磨きがかかって気づかれないようなドライバーの疲労が軽くなっているように感じる。

 X-BREAKは自然吸気の2.0リッターエンジンを搭載するが、フリクションの低減や燃費改善、CVTの「リニアトロニック」との適合向上などにより、JC08モード燃費では16.0km/Lとなり、エコカー減税で従来より1クラス上の減税が適応されようになった。

 動力性能は148PS/196Nm。AWDモデルで1510㎏というSUVにしては軽量な車両重量に対し、馬力荷重は10㎏/PS台でそれほどよい値ではないが、意外とよく走る。少なくともフラットな路面では結構俊敏。急な登坂でも妥当な粘り強さを持っていた。ターボのようなガツンとした加速力はないが、自然に加速していく感じは使いやすく、過不足はない。

自然吸気の水平対向4気筒DOHC 2.0リッター「FB20」エンジンは最高出力109kW(148PS)/6200rpm、最大トルク196Nm(20.0kgm)/4200rpmを発生。JC08モード燃費が16.0km/Lに引き上げられ、エコカー減税で自動車取得税40%軽減、自動車重量税25%軽減となる

 リニアトロニックとの相性もよく、アクセルの動きに対しての加速感が好ましい。アクセルを大きく開けたときはエンジン回転が先行する“CVT感”が強くなることに変わりはないが、CVT自体の違和感はそれほど強くなく、エンジンとのマッチングがいい。

 また、利便性の高い装備としては、パワーリアゲートやワンタッチで後席バックレストが前方に倒れる機構など、細かいところにまで気が配られているのも嬉しい。冒頭のアイサイトなどの安全性向上で、ますます魅力的になったフォレスター。正直、見直した。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会長/12~13年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:堤晋一