インプレッション
ボルボ「XC90 T8 Twin Engine AWD Inscription(PHEV)」
Text by 日下部保雄(2016/5/6 00:00)
プラグインハイブリットのXC90が登場
XC90が好調だ。SUVに注目が集まっているとはいえ、ボルボにとってもある意味未知数のLサイズSUVがユーザーに深く受け入れられている。2.0リッター4気筒に3種類のパワーバリエーションを持つ構成は新開発のプラットフォームに自由度を与えた。ボルボの場合、安全思想の見地からFFながら6気筒エンジンも横置きに搭載しているためプラットフォームの制約があったが、近年4気筒に集約したためこの制約から解放された。もちろん多気筒エンジンは魅力的なパワーフィールを持っているが、新しい4気筒も新しいボルボに相応しいパワーソースに仕上がっている。
新しいプラットフォームの美点は、例えば小回り性にも現れており、短い4気筒専用に開発されているためハンドルの切れ角が大きくなり、何かといわれていた小回り性が大幅に改善された。もちろん新プラットフォームのメリットはそれだけではない。剛性や衝突安全性、乗り心地などの数々の利点があり、ハンドルを握っても後席に乗っても恩恵を感じることができる。
XC90をもう一度おさらいすると、4950mmの全長と1960mmの全幅、それに1775mmの全高を持つLサイズSUVで、ホイールベースも2985mmと長い。シートはすべて3列で7人乗りのみをラインアップする。重量はT5の2060㎏から今回紹介するT8の2320㎏まで幅広いが、競合と目されるSUVと比較して軽い部類である。
さて、T8はXC90のトップモデルで、言うまでもなくプラグインハイブリット(PHEV)。T6をベースにした直列4気筒2.0リッターのスーパーチャージャー&ターボで235kW/400Nmのトルクを発生するハイパフォーマンス仕様のガソリンエンジンと、34kW/160Nmのモーターで前輪を駆動し、リアには65kW/240Nmのモーターを搭載して後輪を駆動する。
T8はもちろんAWDだが、T5やT6のようにプロペラシャフトで前後輪をつなげていない。後輪は電気モーターのみで駆動するためだ。トヨタ自動車のハイブリットSUVに近いシステムだが、違うのは前輪は電気モーターだけで走らせることはできず、EV走行の場合は後輪駆動になる。
ユニークなボルボのPHEVだが、フロントのエンジンとアイシン製8速ATの間に組み込まれたジェネレーターは、エンジンのスターター用とリチウムイオンバッテリーの発電用に使われ、時としてパワーブースターとしての機能を発揮する。
リチウムイオンバッテリーはセンタートンネルに縦置きに配置されているのでトンネルが若干高くなっているが、キャビンスペースをほとんど浸食していないのが特徴だ。フロア高はT6などと変わらない。競合の欧州プレミアムSUVは、バッテリーをトランクなどに配置することが多いので3列目シートを置けないが、T8ではサードシートも通常通り配置されており、PHEVでありながら7人乗りであることを特徴とする。このバッテリーは別回路のクーラントで冷却され、温度を一定に保つことで性能の安定を図っている。
また、リアモーターを持っているのでリアのフロアはガソリンモデルよりも高いが、もともと後列に行くに従ってシート位置が高くなるシアター配列なので違和感はない。むしろトランクスペースは影響を受けていないので、床下にも収納スペースが確保されている。
PHEVのドライブモードは多様で、モーター走行を主体にしたPURE(この場合は後輪駆動になり、オプションのエアサスでは10mmダウン)、デフォルトのHybrid(エンジンとモーターを使うAWD。エアサスでは20mmダウン)、POWER(前後のエンジン、モーターをフル稼働、車高は20mmダウン)、AWD(トラクションの最大化を図る、エアサスはデフォルト)、Offroad(20km/h以下で作動、AWD、エアサスでは車高40mmアップ、デフロック機能)、Save(モーター走行に備えて電力を温存し、バッテリー容量の33%まで充電する)、Individual(個別にモード設定可能)とあり、場面に応じてセンターディスプレイから選択することができる。カッコ内には主な機能を上げたが、実はこの他にステアリングのゲインやブレーキ、センターディスプレイ、空調、アイドルストップ、エアサスではサスペンションの硬さなどをきめ細かに制御している。
キャビンはボルボの頂点らしくよく作り込んである。北欧家具のように簡潔でありながら優しく、品のよいのが身上だ。インテリアの至るところにその思想が練りこまれており、乗員を心優しくする。シフトノブには15人以上の職人の手を通じたオレフィスのクリスタルガラスが使われている。スカンジナビアンデザインの至高である。
2.3tあるのに軽々とした動き
XC90は大きなSUVだが、ドライバーシートに座るとそれほど大きく感じない。アイポイントの高さ、比較的スクエアなボディでボンネットも見やすく、前方斜め視界も開けているので圧迫感がないのだ。ただ左前方は大きなバックミラーで若干死角が残る。サイズの割に小回りが利く(と言っても6mだが)のもメリットだ。ボルボと言えば小回りは得意でないイメージがあったが、これで一気に払しょくされた。街中での取り回しは意外とよい。
通常はHybridモードを選択するが、車両重量が2.3tあるクルマとは思えほど軽々とした動きが特徴だ。強烈な加速力を持つわけではないが、アクセルを踏んだ瞬間の動きがスムーズでスッと発進する。この軽快なフットワークは走りの面でT8の一番の特徴だと思う。軽やかなスタートは前輪のスーパーチャージャーによる低回転からの力と、フィルイン機能と呼ばれるジェネレーターのアシスト、後輪の電気モーターによる素早いトルクの立ち上がりの相乗効果によるもので、T8の特徴の1つである。
乗り心地も上下動の少ないフラットなもの。ふわりとしたものではないので路面の凹凸は明快に分かるが、腰があって欧州車らしい好感の持てるものだ。大きなガツンとした入力に対してはショックをよく吸収してくれる。これには2985mmのロングホイールベースの恩恵と、リアマルチリンク+横置きカーボンリーフのバネの組み合わせがユニークなリアサスの効果もある。ちなみに横置きリーフのメリットは軽量化とスペースを稼げる点にある。
エンジンとATの間に位置するジェネレーターの働きは通常の加速の場合、レスポンス向上を目的として電気サポートする場合と、パワーモードでさらにモアパワーを要求した場合にブースト機能として働く場合の2つの顔を持っている。
このCISG(Crank-mounted Integrated Starter Generator)と呼ばれるジェネレーターは、エンジンがスターターとして機能する場合はリチウムバッテリーから電源を供給され、リチウムイオンや12Vバッテリーへの充電の際はエンジン駆動のオルタネーターとして機能する。XC90が軽々と動くのはこのシステムのおかげだ。
前述のようにハンドリングは落ち着きのあるもので、剛性の高いボディと出来のよいサスペンション、そして電動パワーステアリングのバランスがよく、巨体を巨体と感じさせない落ち着きのある一体感を見せる。
一方、ブレーキは回生ブレーキの特徴が出ており、もう少しフットコントロールができる方が使いやすいが、いわゆる“カックンブレーキ”にならず、制動力そのものも不満はなく、右足の動きに応じてカッチリと効いてくれる。ブレーキローターは重量増に応じてフロント、リアともにサイズアップされており、フロントでは366mm(T6比21mmアップ)、リア340mm(同20mmアップ)となっている。
ちなみにPUREモードではEV走行となるが、その際は125㎞/hまで出すことが可能だ。もちろんバッテリーの充電量はすぐになくなるが……。航続距離は最長で約35㎞となるので、近場の買い物程度ならEV走行だけで可能だ。
チャンスがあってサーキットから高速、市街地と走ることができたが、軽快なフットワークと取り回しのよさ、それに実用燃費はLサイズSUVの領域を超えて12~13㎞/Lを示していた。もちろん使用条件によるが、個人的には好燃費だった。
ボルボと言えば安全性能で世界トップを走るが、XC90でも歩行者やサイクリストを検知するオートブレーキ、舗装からオフロードに飛び出したときに前席乗員の下からの突き上げを緩和するランオフロード・プロテクションなどがXC90に加わった新しい安全装備だ。もちろんこの他のACCや衝突時ブレーキリリース機能、フルアクティブHiBeam、2列目中央のインテグレーテッドチャイルドクッションなども標準装備になる。
T8のプライスは1009万円から。T5の774万も充実した装備の割にはお得感があるが、T8のスペックと質感の高さ、そして7人乗りの優位性は他に代えがたい。