インプレッション

アウディ「A4 アバント」(2016年フルモデルチェンジ)

軽量化と剛性アップが図られた新型A4 アバント

 アウディのデザインテーマは一貫して統一性がある。シルバー4リングスに象徴されるシングルフレームのフロントグリル、流れるような面構成など、どこから見てもアウディだと分かる。そのアウディのミッドサイズモデル「A4」にアバント、つまりステーションワゴンが追加された。すでにセダンは日本でも春先に登場したが、時を待たずして人気のステーションワゴンの登場だ。

 基本的にはセダンの新しいモジュールプラットフォームのステーションワゴンで、エンジンラインアップなどもそれに準じる。A4 アバントは前身の「80」時代から数えると実に220万台以上が販売された人気車種で、その実績は革新性と安心の融和からなる。

 最新のA4 アバントではCd値0.26という値を達成しながら、居住空間、実用性ともにバランスの取れたデザインを実現している。空力のもたらす燃費改善効果は大きい。それだけでなく走行安定性なども含めてレーシングカーだけの世界ではなく、我々が日常的に恩恵に浴しているのだ。

撮影車は「A4 アバント 2.0 TFSI クワトロ」(タンゴレッドメタリック)。ボディサイズは4735×1840×1455mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2825mm。車両重量は1680kg。価格は626万円
「A4 アバント 2.0 TFSI クワトロ」で標準装備される10スポークデザインの17インチアルミホイール(7.5J×17)。タイヤはミシュラン「プライマシー 3」(225/50 R17)

 燃費の改善には軽量化が重要になるが、新しいモジュールプラットフォームはそれを実現しているだけでなく、熱間成型鋼板を多用することで、軽量化と剛性アップに成功している。実は新型アバントは先代よりも若干のサイズアップが行なわれているが、それにもかかわらず、MAX120㎏もの軽量化はかなり気合の入ったものと言ってよいだろう。

 サイドから見たアバントはラゲッジ部分がかなり虐げられているように見えるが、実際の容量は意外とあり、5人乗り状態では505L、セカンドシートを倒すと1510Lにもなり、従来型よりもそれぞれ15L、80Lも大きくなっている。実際はDピラーの傾斜が強いので、かさばる荷物の収納はちょっとコツが必要かもしれないが、積み方次第というところか。ラゲッジルームで言えば、電動ラゲッジカバーが全モデルに標準装備となっている。

水平基調でまとめられたインテリアデザイン。デコラティブパネルはウォルナットブラウン、シートカラーはアトラスベージュ(ミラノレザー)。シートについても全面的に刷新され、構造材に高強度スチールやマグネシウムを使用して先代比で最大9kgの軽量化に成功している
ラゲッジスペースは5人乗りの状態で505L。後席のバックレストを畳むことで最大1510Lまで拡大することが可能

気持ちのよいパワーユニット

 ではその走りっぷりはと言えば、これがなかなか気持ちよい。4735×1840×1455mmのサイズは一般的な日本の道でも使いやすい。物理的にサイズが許容できないような場所ではともかく、クルマの挙動安定性とともにハンドルレスポンスも自然で、クルマとの一体感が高いため普段のドライブではサイズほど大きくは感じない。

 エンジンは直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボだが、クワトロモデルにはハイパワーエンジンが与えられており、252PS/370Nm+7速DSGが組み合わされる。一方のFF仕様は同じ2.0リッターターボながら190PS/320Nmとなり、ミラーサイクルを取り入れたアウディの言うところの「ライトサイジングエンジン」で燃費重視型だ。こちらも7速DSGと組み合わされる。ちなみにSトロニック(DSG)がFFのアバントにも組み合わされるようになったのは、新型からになる。後者のJC08燃費は18.4㎞/Lだから、1580kgのミッドクラスのワゴン燃費としてはかなり優れている(クワトロは15.5㎞/L)。

 試乗したのはクワトロモデル。ハイパフォーマンスだが、低速回転からトルクの付きがよいので粘り強い低速走行ができる。一方でターボの立ち上がりが急ではないために、気持ちよく街中を走れる。また、いったんアクセルを踏み込めば鋭い加速力を発揮し、高速道路の合流などで車速を乗せる際も躊躇なく行なえる。その後の車速のノリも爽快だ。回転の頭打ち感もなく、気持ちのよいパワーユニットに仕上がっている。

クワトロモデルが搭載する直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボエンジンは、最高出力185kW(252PS)/5000-6000rpm、最大トルク370Nm(37.7kgm)/1600-4500rpmを発生。JC08モード燃費は15.5km/L

 7速DSGも、初期のころのDSGに比べるとかなり洗練されており、変速ショックはわずかに感じる程度で、スムーズに次のギヤに引き渡される。トルコンATとは違ったアウディらしいメカニカルな感触だ。ちなみに軽くクリープしてくれるので坂道で慌てることもない。個人的にはCVTもトルコンATもそれぞれ美点があって、適材適所で使われると力を発揮すると信じるが、このSトロニックのスポーティなドライブフィールも魅力的だ。

 乗り心地はしなやかだ。ミシュラン「プライマシー 3」(225/50 R17)は剛性の高いタイヤだが、サスペンションとタイヤは細かいショックを含めて凹凸通過などの追従性が高く、素直な上下収束を見せてくれる。特にリアから入るショックは想像以上に吸収されており、なかなか快適だ。前後サスペンションは5リンクを採用しており、鍛造アルミアームなどでバネ下の軽量化につながっており、当然乗り心地への効果も高いはずだ。

 バーチャルコックピットは新世代のアウディのハイライトだ。多機能ディスプレイの使い勝手はさらに向上しており、ドライバーが慣れてくるとなかなか楽しく、短い試乗時間でもその一端を知ることができた。ドライバー前面のディスプレイをナビ画面にしても、車両情報はきちんと伝えられ、新しさを感じることができるだけでなく安全性にも発展するだろう。

 ドライブモードは「エフィシエンシー」「コンフォート」「オート」「ダイナミック」「INDIVIDUAL」とあり、サスペンションの硬さは変わらないがアクセルのゲインやステアリングのギヤレシオ、ACC使用時のレスポンスなどをそれぞれ変更することができる。汎用性があって面倒でないのはオートで、通常はこれ1つで間に合う。

12.3インチの高解像度液晶モニターを採用するバーチャルコックピット。写真は地図表示にしたところ
ドライブモードの切り替えスイッチ
12.3インチモニターでは2つの円形メーターが表示される。そのうちの1つにドライブモードの状態を表示することができる。ドライブモードは「エフィシエンシー」「コンフォート」「オート」「ダイナミック」「INDIVIDUAL」の5種類を設定
地図などが表示可能な高解像度の8.3インチカラーディスプレイ。AppleのCarPlayやAndroid Autoにも対応する「Audiスマートフォンインターフェイス」も搭載。こちらのディスプレイでもドライブモードの状態表示が可能

 注目のトラフィックジャムは渋滞でも前車に追従してくれ、しかも低速ではハンドル修正までしてくれるので利便性が高い。「ついウッカリ」をかなり防いでくれるだろう。ハンドル制御は65㎞/h以上では通常のレーンキープとして機能する。

 安全機能の概念はアウディでは「アウディ・プレセンス」とネーミングされているが、自動運転に向けて確実に進化しており、このA4 アバントでもその印象を強く感じられた。アウディは本気だ。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会長/12~13年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学