インプレッション
アウディ「A4 アバント」(2016年フルモデルチェンジ)
Text by 日下部保雄(2016/5/16 00:00)
軽量化と剛性アップが図られた新型A4 アバント
アウディのデザインテーマは一貫して統一性がある。シルバー4リングスに象徴されるシングルフレームのフロントグリル、流れるような面構成など、どこから見てもアウディだと分かる。そのアウディのミッドサイズモデル「A4」にアバント、つまりステーションワゴンが追加された。すでにセダンは日本でも春先に登場したが、時を待たずして人気のステーションワゴンの登場だ。
基本的にはセダンの新しいモジュールプラットフォームのステーションワゴンで、エンジンラインアップなどもそれに準じる。A4 アバントは前身の「80」時代から数えると実に220万台以上が販売された人気車種で、その実績は革新性と安心の融和からなる。
最新のA4 アバントではCd値0.26という値を達成しながら、居住空間、実用性ともにバランスの取れたデザインを実現している。空力のもたらす燃費改善効果は大きい。それだけでなく走行安定性なども含めてレーシングカーだけの世界ではなく、我々が日常的に恩恵に浴しているのだ。
燃費の改善には軽量化が重要になるが、新しいモジュールプラットフォームはそれを実現しているだけでなく、熱間成型鋼板を多用することで、軽量化と剛性アップに成功している。実は新型アバントは先代よりも若干のサイズアップが行なわれているが、それにもかかわらず、MAX120㎏もの軽量化はかなり気合の入ったものと言ってよいだろう。
サイドから見たアバントはラゲッジ部分がかなり虐げられているように見えるが、実際の容量は意外とあり、5人乗り状態では505L、セカンドシートを倒すと1510Lにもなり、従来型よりもそれぞれ15L、80Lも大きくなっている。実際はDピラーの傾斜が強いので、かさばる荷物の収納はちょっとコツが必要かもしれないが、積み方次第というところか。ラゲッジルームで言えば、電動ラゲッジカバーが全モデルに標準装備となっている。
気持ちのよいパワーユニット
ではその走りっぷりはと言えば、これがなかなか気持ちよい。4735×1840×1455mmのサイズは一般的な日本の道でも使いやすい。物理的にサイズが許容できないような場所ではともかく、クルマの挙動安定性とともにハンドルレスポンスも自然で、クルマとの一体感が高いため普段のドライブではサイズほど大きくは感じない。
エンジンは直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボだが、クワトロモデルにはハイパワーエンジンが与えられており、252PS/370Nm+7速DSGが組み合わされる。一方のFF仕様は同じ2.0リッターターボながら190PS/320Nmとなり、ミラーサイクルを取り入れたアウディの言うところの「ライトサイジングエンジン」で燃費重視型だ。こちらも7速DSGと組み合わされる。ちなみにSトロニック(DSG)がFFのアバントにも組み合わされるようになったのは、新型からになる。後者のJC08燃費は18.4㎞/Lだから、1580kgのミッドクラスのワゴン燃費としてはかなり優れている(クワトロは15.5㎞/L)。
試乗したのはクワトロモデル。ハイパフォーマンスだが、低速回転からトルクの付きがよいので粘り強い低速走行ができる。一方でターボの立ち上がりが急ではないために、気持ちよく街中を走れる。また、いったんアクセルを踏み込めば鋭い加速力を発揮し、高速道路の合流などで車速を乗せる際も躊躇なく行なえる。その後の車速のノリも爽快だ。回転の頭打ち感もなく、気持ちのよいパワーユニットに仕上がっている。
7速DSGも、初期のころのDSGに比べるとかなり洗練されており、変速ショックはわずかに感じる程度で、スムーズに次のギヤに引き渡される。トルコンATとは違ったアウディらしいメカニカルな感触だ。ちなみに軽くクリープしてくれるので坂道で慌てることもない。個人的にはCVTもトルコンATもそれぞれ美点があって、適材適所で使われると力を発揮すると信じるが、このSトロニックのスポーティなドライブフィールも魅力的だ。
乗り心地はしなやかだ。ミシュラン「プライマシー 3」(225/50 R17)は剛性の高いタイヤだが、サスペンションとタイヤは細かいショックを含めて凹凸通過などの追従性が高く、素直な上下収束を見せてくれる。特にリアから入るショックは想像以上に吸収されており、なかなか快適だ。前後サスペンションは5リンクを採用しており、鍛造アルミアームなどでバネ下の軽量化につながっており、当然乗り心地への効果も高いはずだ。
バーチャルコックピットは新世代のアウディのハイライトだ。多機能ディスプレイの使い勝手はさらに向上しており、ドライバーが慣れてくるとなかなか楽しく、短い試乗時間でもその一端を知ることができた。ドライバー前面のディスプレイをナビ画面にしても、車両情報はきちんと伝えられ、新しさを感じることができるだけでなく安全性にも発展するだろう。
ドライブモードは「エフィシエンシー」「コンフォート」「オート」「ダイナミック」「INDIVIDUAL」とあり、サスペンションの硬さは変わらないがアクセルのゲインやステアリングのギヤレシオ、ACC使用時のレスポンスなどをそれぞれ変更することができる。汎用性があって面倒でないのはオートで、通常はこれ1つで間に合う。
注目のトラフィックジャムは渋滞でも前車に追従してくれ、しかも低速ではハンドル修正までしてくれるので利便性が高い。「ついウッカリ」をかなり防いでくれるだろう。ハンドル制御は65㎞/h以上では通常のレーンキープとして機能する。
安全機能の概念はアウディでは「アウディ・プレセンス」とネーミングされているが、自動運転に向けて確実に進化しており、このA4 アバントでもその印象を強く感じられた。アウディは本気だ。