試乗記

ヒョンデのコンパクトEV「インスター」で東京→大阪ロングドライブ ちょい足し充電で走れば意外なほどに快適だった

2025年4月10日 発売
Casual:284万9000円
Voyage:335万5000円
Lounge:357万5000円
ヒョンデ「インスター」で東京→大阪ロングドライブをしてみた

 ヒョンデのインスターに乗って大阪までロングドライブをすることになった。扱いやすい5ナンバーサイズで、ボディサイズは3830×1610×1615mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2580mm。日本の道路事情に合ったところがインスターのよさ。

 シティコミューターとしてピッタリでしょっていうのがアピールポイントだったはず。けれど、なぜにロングドライブなのか? それはインスターが長距離運転も楽勝にこなせる一充電走行距離458km(WLTC)を誇るから(49kWhバッテリ搭載モデル)。150kWの急速充電器なら10%→80%まで30分で充電できるということも自慢の1つらしい。

試乗車はインスターのLoungeグレード。ボディカラーはシエナオレンジメタリック
ボディサイズは3830×1610×1615mm。ホイールベースは2580mm。最小回転半径は5.3m。車両重量は1400kg

 横浜で手渡されたインスターの最上級グレードLoungeは、もちろん49kWhバッテリを搭載している上位グレード。だがしかし、バッテリ残量を見ればいきなり半分を割っており、なかなか挑発的な試乗会である(汗)。ならば仕方なしと大阪方面には目もくれず、いきなり首都高速の大黒パーキングエリアで充電とお昼ご飯休憩。果たして本日の目的地となる滋賀草津には何時に到着することやら……。

バッテリ残量が半分弱だったのと、ちょうどランチタイムだったので大黒パーキングでいきなり急速充電。別媒体が使用しているインスターも隣で充電していた
10%までは減っていなかったので、30分ほど充電したらしっかり88%まで回復していた
ちなみに普通充電も急速充電も100%まで充電できる設定にしてあるが、急速充電の場合100%に近くなるとバッテリを保護するため自動的に充電速度が遅くなる
普通充電、急速充電のポートはフロントに備えている
ランチは「THE大黒チャーシュー麺」1300円なり

 クルマもドライバーも腹を満たし13時半ごろにいよいよ本格的に出発! まずは東名高速道路までゆっくりスタートした。インスターは日本市場に向けてセッティングを改めてやり直し、日本の使い方にマッチしたものにしようと努力を重ねたらしいが、たしかにアクセルは敏感になることなく扱いやすく仕上がっている。

 足まわりにはしなやかさがあり、首都高速の継ぎ目が続くような路面であってもうまく吸収し続けていることが感じられる。パワーステアリングも本国仕様よりは軽めにしたとのことで、肩肘張らずにパーキングスピードから高速道路まで扱えるところが嬉しい。

 狩場ジャンクションを抜けて保土ヶ谷バイパスを北上、ようやく東名高速に入れた。エコドライブを意識して記録した平均電費は9.6km/kWh。計算すれば一充電走行距離458kmを上まわり、470kmを記録することが可能だ。

特徴的なフルLEDヘッドライト(プロジェクションタイプ)
ウィンカーはヒョンデの特徴の1つであるピクセル(四角)デザイン
ホイールもピクセルデザインで、Loungeは17インチアルミホイールを装着。タイヤはクムホ「エクス HS52 EV」サイズは前後205/45R17
リアドアにはかわいいアイコンがあしらわれている
LEDのリアコンビネーションランプもピクセルデザインを採用
リアのウィンカーやバックランプは下方に収めている

 ただ、バッテリ残量を気にしながらチンタラと走って問題なく使えたところで現実離れしている。いつも通りに走ってどうか? それをやってみるべきではと考え、再び海老名パーキングエリアで充電を開始。コチラはお腹一杯だというのにデザートを仕方なく、あくまで仕方なく頂戴する。

 23分間の休憩&充電でバッテリ残量は94%まで復活。走行可能距離も393kmと出ているから、おおむねあとは無充電で行けるか? ちなみにナビを本日の宿に設定しているとそこまでの距離は奇しくも393kmと出た。エコランすれば無充電は夢じゃない。

Loungeは駆動用に49kWhのリチウムイオンバッテリを搭載し、最高出力85kW(115PS)/5600-13000rpm、最大トルク147Nm/0-5400rpmを発生するEM08モーターをフロントに搭載する
フロントグリルの下には温度管理用の開閉式ダクトが設けられている
水平基調のダッシュボードで視界も広い
ノーマルとスノーモードの画面
スポーツモードの画面
エコモードの画面
ウィンカーを出すと出した方のメーターがカメラ映像に切り替わり、後方から接近する車両がいないかなど確認できる
パドルシフトで回生ブレーキの効きの強さを変更でき、5段階の最も強いモードにするとワンペダルで停止までできる「i-PEDAL」モードになる。メーターの右側で確認できるようになっている

 だが、スポーツモードにブチ込み、本線への合流で全開加速をさせてみた。するとなかなか爽快な加速を展開。バカッ速な感じではないのも事実だが、現実的に使うには十分すぎる感覚を生み出していた。その後は新東名高速の120km/h制限区間もきちんと制限一杯まで使いながら巡行した。

 途中からは電費も気にせずACC(オートクルーズ機能)を使い、ステアリングアシストも起動して走ってみる。すると車線のセンターをビシッとなぞりながら、快適に順行してくれるから有難い。ステアリングには手を添えているだけで十分なのも嬉しい。

前席にはヒーター(Casualは除く)だけでなく、ベンチレーション(Loungeのみ)も搭載する
後席はリクライニング機構を備え乗り心地もよかった
エアコンやシートヒーターなどのスイッチは物理ボタンで分かりやすい配置
スマホ用の置き充電も完備している
USBポートはType-CとType-A、さらにシガーソケットも備える
後席にはドリンクホルダーがないが、オプションでドリンクホルダーつきのテーブルが用意されている。未使用時は折り畳める(写真は別の車両)

 試乗当日はちょっと暑かったので、シートのベンチレーション(クーリングファン)を起動させ、エアコンを効かせて走れば何の苦痛もない。気分転換にサンルーフを開け、眠気を吹っ飛ばすことだって可能だ。つまりは、コンパクトカーななりをしているが、ちっとも我慢することがない乗り味なのだ。

 足りないのはカップルディスタンスくらいか? 男性編集者との移動だったので、横並びは何だからと後席にも移動してみたが、乗り心地もよく、リクライニングも可能なことからウトウトと眠りについてしまうことも。求めるならアームレストやドリンクホルダーが欲しかったかなという気もするが、トレイであればオプションの準備もあるようだし、これからに期待したいところだ。

4人乗りのインスターの後席は5:5の可倒式。トランク積載量はVDA値で280L
トノカバーも完備するほか、ラゲッジスペースは2段式となっている
さらに下の段には三角表示板やパンク修理キットも備える
サンルーフはチルトアップ式を採用

 さて、そんな感じで走れば当然電気は足りなくなり、結果としてゴールまでもう一度充電が必要なことが見えてきた。だが、腹は満たしすぎでこれ以上の食事は無理ってことで、お手洗い休憩の10分ほどの時間で2回充電してみた。1回は61%→84%へ。もう1回は10%→31%へという具合である。

必ずしも30分充電する必要はない。トイレ休憩などの際に立ち寄ったところで5分でも10分でも急速充電器が空いているなら活用すればいいことが分かった

 30分をフルに充電するのではなく、クルマを止めている時間にちょっと足しな感じで充電するだけで、ストレスなくゴールとなる滋賀大津には20時に辿り着けた。結果、平均電費は7.4km/kWh、バッテリ残量は10%までダウンしていたが、やりたい放題の使い方でこれは立派ではないだろうか?

バカッ速ではないが現実的に使うには十分すぎる性能だ

 そして何より、どこの充電器でもエラーが出ることなくしっかりと充電できたところはさすがだ。輸入車の場合、いくらCHAdeMOに対応していてもエラーで充電できないなんていうクルマはいくつか経験したことがある。

 導入直後の車両ではありがちなことだが、インスターにはそれがなかった。最後に行った宿泊先の普通充電を一晩つないでおいたが、翌朝はしっかりと100%でスタートすることが可能になっており、最終目的地となる大阪までまたやりたい放題の走りができた。

宿泊先の普通充電で翌朝には100%まで充電できていた。なお、宿によって充電設備の予約の可不可が異なるので、事前に確認することをオススメする
コンパクトながらしっかりとした機能と装備を備え、日本の道路事情にもマッチしている1台だった

 これは日本の道に合わせるためにセッティングをやり直すなど、きちんとテストを繰り返してから登場させたという経緯があるからこそなのだろう。どこかのCMじゃないけれど、これもアリかもと思えたのはいうまでもない。

段差もうまく吸収してくれるしなやかな足まわりも好印象だった

【お詫びと訂正】記事初出時、電費の単位に誤りがありました。お詫びして訂正させていただきます。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:編集部