試乗記
ヒョンデのコンパクトEV「インスター」に試乗 日本市場を見すえた5ナンバーサイズだからこその“よさ”を体感
2025年5月5日 09:00
これまでのEVとはちょっと違うかも?
EV(電気自動車)と聞くと、自分が所有するにはハードルの高いクルマだと思う人も多いかもしれない。私自身も、実際に触ってみて「いいクルマだな」と感じるモデルには何度も出会っているものの、実際に所有するイメージを持てるEVは多くはなかった。それは、サイズ感や航続距離、そして車両価格などが、自分自身のライフスタイルにぴったり合うものが少なかったのだろうと思う。ところが今回、ヒョンデのINSTER(インスター)をじっくり見た時に「これなら自分もオーナーになれるかも!」と感じたのだ。
まずインスターを見て、素直に感じたのは「小さい!」「かわいい!」ということ。パッと見ると軽自動車かなと思うくらいのサイズ感で、日本の規格としては5ナンバーのコンパクトなサイズに収まっている。フロントにもリアにも特徴的なドットのライトが配置されていて、さらにヘッドライトは印象的な丸型。ただかわいらしいだけではなく、フロントのアンダーガードやルーフレール、タイヤまわりを強調するようなブラックのパネルなどはSUVのようなタフさも感じられて、特に若い世代にとっては響くデザインになっていると感じた。
そして、インスターは、5ナンバーサイズながらフル充電時の航続距離はWLTCモードで458km(Voyage/Lounge)。私は、普段スポーツカーのシビック タイプRに乗っているが、ワンタンクでの航続距離は500km前後。普段自分が乗っているクルマとそこまで変わらない感覚で日々使えるところは安心できる。コンパクトなEVはどうしてもバッテリ容量が小さくなるため、普通は航続距離が短くなってしまいがちだが、インスターはこのサイズでなんと400km超え。たとえば、フル充電で都内から名古屋くらいまでは行ける計算になるし、ちょっとしたロングドライブなら電池残量を気にせず気軽にドライブできそうなところもうれしいポイントだ。
また、リアシートは前後にスライドできるだけでなく、リクライニングの調整幅も広いので、後席でも余裕をもって座ることができる。実は、インスターは、あえて4人乗りに割り切ったという。5人乗りにして、後席を3名用のシートにすると、それぞれのシートが狭くなってしまうし、6:4の可倒式シートにすると座る際のバランスもわるくなる。後席もきちんと余裕をもってシートに座れるようにと4人乗りにしたのだそうだ。
シートアレンジもよく考えられていて、助手席のシートバックは完全にペタンと前方に倒すことができ、背面はなんとテーブルにもなる。さらに、後席を倒せば長物を積むことも可能だ。
インテリアのカラーリングは、ブラックが用意されており、グレードがVoyage以上ならボディカラーによってはベージュを選ぶこともできる。インテリアは樹脂パーツが多めではあるものの、丸みを帯びたダッシュボードやドアに付いているおもちゃのようなネジのパネルなど、遊び心が盛り込まれていて、樹脂パーツにありがちな安っぽさはほぼ感じられなかった。
ただ、バッテリにスペースを割いてしまったこともあってか、荷室は狭め。リアシートを倒さない場合はほんの小さな荷物やバッグを置くスペースしかない。しかし、荷室フロアのボードを開くと、下にも収納できるスペースがあるため、こちらを使うのも手だ。ただ、スーツケースのような大きなものを積むなら、後席シートは倒す必要がある。
違和感なく自然に乗りこなせるEV
早速電源をONにして、試乗してみることに。ヒョンデのシフトセレクターはハンドルの右下にあり、それをぐるりと回す仕様だ。これは慣れるまで少し時間がかかるが、それ以外に操作するためのボタンなどは視覚的にも分かりやすく、日本車から乗り換えても自然に扱えそうだと感じた。
アクセルペダルを踏み込むと、インスターはスーッと軽やかな加速感で走り出した。フロントに搭載されたモーターは、115PS/147Nm(Voyage/Lounge)を発生し、今世に出ているコンパクトカーと同等のパワーがあるため、軽自動車よりかなりトルクに余裕が感じられる。個人的な体感としては、コンパクトカーよりもスタートからの加速感は軽やかで、すでに速度が乗っているような高速道路でもそこからすぐに加速できるし、坂道などもスイスイ登っていく印象だった。サイズが小さく小まわりもよくきくので、細い道路の街中なども不安なく進んでいける。ただ、石畳のような道や、路面の段差などではコツコツとした振動が伝わってきて、乗り心地は少し硬め。ホイールベースが短いこともあり、荒れた路面ではひょこひょことした挙動も感じることがあった。
そして、「とても便利だな」と思ったのが、ウインカーを出した際に、死角となっている場所がカメラによってはっきりとメーター内に映し出されること。これを見れば、人や自転車の巻き込みがないかどうかも瞬時に確認できる。
個人的には、EVはスタートから驚くほどの加速をするというイメージだったが、インスターはモーターでもごく自然に加速するので、内燃機関のモデルから乗り換えてもあまり違和感がないと思う。実は、インスターは、日本向けに事細かに専用チューニングを行なってきたという。急激に発進せずに、じわっと加速するのも日本人がその方が安心だと感じるからだそう。また、日本の路面や、日本人の運転傾向にあわせて、パワーステアリングの設定や足まわりのチューニングを行なっている。カップホルダーを四角形にしているのは、日本人が紙パックでドリンクを飲むということをきちんと調べたからだそうだ。
また、運転支援機能も想像以上に充実していた。ヒョンデのモデルとしては初めてペダルの踏み間違い防止機能が付いており、前後の障害物を検知し、アクセルが誤って強く踏まれたとシステムが判断すると、加速しないよう抑制する。国産のモデルであれば一般的な機能になりつつあるが、実は輸入車ではまだまだ少ない装備だ。これを見ても日本のユーザーをしっかり考えているのだろうなという印象だった。
最近では、高速道路でACCを使用する人も増えていると思うが、インスターではさらにその機能を使いやすく、より安心感を抱けるようになっている。インスターのナビゲーションベーススマートクルーズコントロール(NSCC)は、ただ単に前車に追従するだけではなく、急に加速して距離を詰めようとしたり、近づいたら急にブレーキをかけたりという、ドライバーが不安に感じるような急激な操作をせず、よりうまい人が操作しているかのような制御になっている。さらにナビゲーションと連動して、カーブではスピードをゆるめて進入してくれるので、カーブのある高速道路でもヒヤッとせずに安心してクルーズコントロールを使えるのが特徴だ。
さらに、レーンキープのアシストが作動している際、コーナリング中にクルマが外側へ行ってしまいがちなところを、早めにステアリングを切ってクルマを内側に向けることで、よりドライバーが安心を感じられるようなセッティングにしているそうだ。
そのほかにも、これまでアイオニック 5などで充電ケーブルのキャップが固定されていなかったため、風でキャップがあおられてボディに傷がつく事例があったという。そんなユーザーの声を反映してキャップ置きを付けたりと、これまでのヒョンデのEVでの経験がインスターのあらゆるところに反映されていると感じた。
日本のインフラを見ると、EVでどこへでも気兼ねなく行けるというわけではないかもしれないが、家に充電ができる環境があり、そこから充電満タンで不安ない距離を走れるEVなら、これまでのクルマの代替やセカンドカーとして十分に楽しめると思う。そのなかでもインスターは、日本の道路事情に合っているサイズ感で、航続距離もWLTCモードで458km(Casualは申請中)。なおかつ車両価格は、ベースグレードのCasualは284万9000円、Voyageは335万5000円、もっともハイエンドのLoungeでも357万5000円と、EVのなかでも手に入りやすい価格だ。これまでEVに対してネックになっていた部分を払拭し、扱いやすいサイズ感と親しみやすさを手に入れたインスター。自分がまずEVを購入するなら、インスターのようなモデルに違いないと感じた試乗だった。