試乗記
アルピナのフィナーレを飾る「B4 GT」、試乗全ステージで「アルピナ・マジック」を感じさせる深化
2025年5月3日 09:00
内外装の随所にGTモデル専用カラーの「オロ・テクニコ」
2025年に自社開発の車両生産を終え、BMWグループの一員となることが報じられたアルピナのフィナーレを飾るべく登場したのが、「B3 GT」と「B4 GT」だ。位置付けとしては「B3」と「B4」のマイナーチェンジ版となるが、内容はそれにとどまらないものであることを、あらかじめ伝えておこう。
フロント両端にカナードとスプリッターを設け、新しいデザインのリアディフューザーをまとい、各部にブラックのアクセントを配するなど、よりスポーティになったB4 GTには、鮮烈な「イモラ・レッド」と専用カラーの「オロ・テクニコ」の20インチ鍛造ホイールがよく似合う。タイヤはフロント255/35ZR20、リア285/30ZR20サイズのアルピナ専用開発のピレリ P ZERO(ALP)が組み合わされる。
スポーティかつ極めて上質な車内空間もアルピナらしく、こちらもGTモデル専用カラーの「オロ・テクニコ」が各部にあしらわれている。アルピナというと飴色のインテリアパネルを想起するが、このクルマにはカーボンが多用され、レッドのハイライトが印象的なオプションのヴァーネスカ・レザーシートが装着されていた。
3.0リッター直6ビ・ターボ・エンジンは、もともと独自のエンジンマッピングをさらに見直し、「B4」の34PS増となる最高出力389kW(529PS)、最大トルク730Nmを発生。「B4」比で0-100km/h加速が0.2秒、0-200km/h加速が1.0秒も短縮されて、それぞれ3.5秒と11.9秒となり、巡行最高速は4km/h速い305km/hに達している。
駆動系には独自の制御を加えた8速スポーツAT、可変式全輪駆動システム、電子制御式リアLSDなどを組み合わせている。エンジンルームを覗くと、いかにも剛性が高まりそうな「ドーム・バルクヘッド・レインフォースメント・ストラット」が目を引く。
速さの内に秘めた繊細さ
一般道、ワインディング、高速道路といろいろなシチュエーションを走ってみたが、すべてにおいてより深化した「アルピナ・マジック」を感じさせてくれた。まずはエンジンの味付けの巧みさだ。アクセルを踏んで車速がスルスルと上がっていくときの感覚が、極めてリニアで車速のコントロールがしやすく、かつパワフルだ。
エンジンが空気を吸い込んで出すところまで何の抵抗もなく、過給により複雑なやり取りをしていることを感じさせないほど自然で、それでいてどの回転域でも踏み増せばリニアな感覚を維持したまま、ターボらしい上乗せされたパワフルな加速を味わうことができる。まさしく全域パワーバンドだ。
アクセル開度にして1%あるかどうかぐらいの、ほんの少し右足の親指の力を強めただけでも、本当にそのとおりのプラスアルファの加速を感じ取れるように味付けされている。速さの内に秘めた繊細さと洗練された味わいは、アルピナなればこそなしえるものに違いない。
絶対的なパフォーマンスもかなりのもので、中~高回転域にかけてのスムーズかつ痛快な吹け上がりには、BMWの標準系のN型ではなくM系のS型エンジンをベースとしており、B4比で34PSも向上したことも効いているに違いない。迫力がありながらも上品な“絶品”の直6サウンドを楽しませてくれる。
どこにもカドがなく正確に応答する
エンジンがそうなら足まわりも同じ世界観が表現されていた。サスペンションもステアリングもどこにも抵抗がなく、扁平タイヤを履きながらも突き上げや硬さも気にならず、コンフォートプラスモードを選択するとフランス車のような路面をなめるかのごとき乗り味となる。アルピナもこのクルマでそれを表現したかったのだろうか。独特のしなやかさには、やみつきになってしまいそうな妙味がある。
ハンドリングも同様で、ステアリング操作に対しても動きにどこにもカドがなく、切ったとおりに応えてくれる。大きな舵角でももちろんだが、東名高速道路の大井松田~御殿場IC間のように高速コーナリングが続くところでは、少しだけステアリングを握る手に力を込めるようなミリ単位での転舵にもそのとおり正確に反応し、アソビや応答遅れがなく、ごくわずかに切った分だけヨーと横Gが出て、そのとおりに曲がることを伝えてくる。
もはや感覚としては、ステアリングを「切る」というよりも「念じる」に近い。行きたい方向をイメージすれば自然とそうなるような操作をしていて、気づいたら行きたい方向に進んでくれているかのようだ。
ドライブモードを選択すると、コンフォート系とスポーツ系ではっきり変わるが、変わるのは「時間」だけで、クルマの挙動自体はあまり変わらない。コンフォート系でもロールは抑えられており、スポーツ系モードにしても快適で動きにカドがなく過敏さもない。
足まわりも硬くなるのではなく、ストローク感を残したまま引き締まるので乗り心地が硬いとは感じない。アクセルワークに対しても同様で、瞬発力は増しても飛び出し感はない。「過」という言葉がどこにもなく、あらゆる運転操作に対してそのとおり極めて正確に応答し、クルマの動きがすべて手に取るように掴める。
その上で、別の機会に試乗したB3 GTも同様にすばらしかったが、B4 GTはさらにスポーティなテイストが高められているようで、いくぶんアジリティが高い印象を受ける。それぞれにふさわしく作り分けているようで、微妙な差ではあるがボディ形状だけではない違いがある。前身のB4に対しても、コンフォート性とスポーツ性の両面がともに増大しているように感じられた。「オーディオでいうとダイナミックレンジが拡大したような感じ」とニコルの森亨マーケティングダイレクターも表現していたとおりだ。
こうした味わい深いクルマを作ろうとしても、なかなかできないであろうところを、こうして本当に実現できてしまう技術力にもあらためて恐れ入る思い。アルピナが自社開発を行なわなくなっても、どうかこのエッセンスが受け継がれていくよう願うばかりだ。
なお、試乗した時点ではB4 GTおよびB3 GTのほか、いくつかの最終章のアルピナ車がわずかではあるがまだオーダー可能とのことだった。お心ある方は本当のラストチャンスをどうか逃すことのないように。