試乗記

アルピナのフィナーレを飾る「B4 GT」、試乗全ステージで「アルピナ・マジック」を感じさせる深化

「BMW ALPINA B4 GT」に試乗

内外装の随所にGTモデル専用カラーの「オロ・テクニコ」

 2025年に自社開発の車両生産を終え、BMWグループの一員となることが報じられたアルピナのフィナーレを飾るべく登場したのが、「B3 GT」と「B4 GT」だ。位置付けとしては「B3」と「B4」のマイナーチェンジ版となるが、内容はそれにとどまらないものであることを、あらかじめ伝えておこう。

 フロント両端にカナードとスプリッターを設け、新しいデザインのリアディフューザーをまとい、各部にブラックのアクセントを配するなど、よりスポーティになったB4 GTには、鮮烈な「イモラ・レッド」と専用カラーの「オロ・テクニコ」の20インチ鍛造ホイールがよく似合う。タイヤはフロント255/35ZR20、リア285/30ZR20サイズのアルピナ専用開発のピレリ P ZERO(ALP)が組み合わされる。

 スポーティかつ極めて上質な車内空間もアルピナらしく、こちらもGTモデル専用カラーの「オロ・テクニコ」が各部にあしらわれている。アルピナというと飴色のインテリアパネルを想起するが、このクルマにはカーボンが多用され、レッドのハイライトが印象的なオプションのヴァーネスカ・レザーシートが装着されていた。

今回試乗したのは2024年6月にニコル・レーシング・ジャパンが予約開始した「BMW ALPINA B4 GT」(1710万円)。ボディサイズは4800×1850×1440mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2855mm
エクステリアではフロント両端に小さなカナードとスプリッターを設けることで存在感を強調したほか、ロゴ入りのフロントスポイラーと新デザインのリアディフューザーを組み合わせることでエアロダイナミクスバランスを向上。また、ブラック(ハイグロス仕上げ)のリアディフューザーとエキゾーストパイプもブラックにすることで統一感が図られた。フロントエンドは内部構造を一新した新型「BMW 4シリーズ」のヘッドライトによって先進的な印象が付与されたほか、オプションの“アダプティブLEDヘッドライト”も選択可能で、リアには立体的なライト・グラフィックを備えた新しいBMWライト・デザインを採用
足下は「BMW ALPINA B4」と同じくオリジナルの20インチ鍛造ホイールを標準装備。GT専用カラーの「オロ・テクニコ」を採用し、リムには専用のGTレタリングがあしらわれているほか、繊細なスポークはダイヤモンドカットが施され、ロック可能なホイール・ハブ・カバーに向かってスポークの立体感を強調した。タイヤはアルピナ専用開発のピレリ「P ZERO(ALP)」でサイズはフロント255/35ZR20、リア285/30ZR20
インテリアではステアリングのステッチ、アルミニウム製パドルシフト、フロアマットとラゲッジマットのステッチなどにGTモデルの専用カラー「オロ・テクニコ」を採用。ドアシルトリムやスポーツステアリングホイールには「GT」ロゴがあしらわれたほか、センターコンソールには個別のシリアルナンバーが記載された製造番号プレートが取り付けられる
走行モードの設定画面
シートには「オロ・テクニコ」カラーでGTの刺繍が入る

 3.0リッター直6ビ・ターボ・エンジンは、もともと独自のエンジンマッピングをさらに見直し、「B4」の34PS増となる最高出力389kW(529PS)、最大トルク730Nmを発生。「B4」比で0-100km/h加速が0.2秒、0-200km/h加速が1.0秒も短縮されて、それぞれ3.5秒と11.9秒となり、巡行最高速は4km/h速い305km/hに達している。

直列6気筒3.0リッタービ・ターボ・エンジンは最高出力389kW(529PS)/6250-6500rpm、最大トルク730Nm(74.4kgfm)/2500-4500rpmを発生。独自のエンジンマッピングをさらに見直したことで、0-100km/h加速は3.5秒、巡行最高速は305km/hを誇る

 駆動系には独自の制御を加えた8速スポーツAT、可変式全輪駆動システム、電子制御式リアLSDなどを組み合わせている。エンジンルームを覗くと、いかにも剛性が高まりそうな「ドーム・バルクヘッド・レインフォースメント・ストラット」が目を引く。

速さの内に秘めた繊細さ

いざ、B4 GTに試乗

 一般道、ワインディング、高速道路といろいろなシチュエーションを走ってみたが、すべてにおいてより深化した「アルピナ・マジック」を感じさせてくれた。まずはエンジンの味付けの巧みさだ。アクセルを踏んで車速がスルスルと上がっていくときの感覚が、極めてリニアで車速のコントロールがしやすく、かつパワフルだ。

 エンジンが空気を吸い込んで出すところまで何の抵抗もなく、過給により複雑なやり取りをしていることを感じさせないほど自然で、それでいてどの回転域でも踏み増せばリニアな感覚を維持したまま、ターボらしい上乗せされたパワフルな加速を味わうことができる。まさしく全域パワーバンドだ。

どの試乗ステージでも「アルピナ・マジック」を感じさせてくれた

 アクセル開度にして1%あるかどうかぐらいの、ほんの少し右足の親指の力を強めただけでも、本当にそのとおりのプラスアルファの加速を感じ取れるように味付けされている。速さの内に秘めた繊細さと洗練された味わいは、アルピナなればこそなしえるものに違いない。

 絶対的なパフォーマンスもかなりのもので、中~高回転域にかけてのスムーズかつ痛快な吹け上がりには、BMWの標準系のN型ではなくM系のS型エンジンをベースとしており、B4比で34PSも向上したことも効いているに違いない。迫力がありながらも上品な“絶品”の直6サウンドを楽しませてくれる。

どこにもカドがなく正確に応答する

足まわりもエンジンと同じ世界観を見せてくれるB4 GT

 エンジンがそうなら足まわりも同じ世界観が表現されていた。サスペンションもステアリングもどこにも抵抗がなく、扁平タイヤを履きながらも突き上げや硬さも気にならず、コンフォートプラスモードを選択するとフランス車のような路面をなめるかのごとき乗り味となる。アルピナもこのクルマでそれを表現したかったのだろうか。独特のしなやかさには、やみつきになってしまいそうな妙味がある。

 ハンドリングも同様で、ステアリング操作に対しても動きにどこにもカドがなく、切ったとおりに応えてくれる。大きな舵角でももちろんだが、東名高速道路の大井松田~御殿場IC間のように高速コーナリングが続くところでは、少しだけステアリングを握る手に力を込めるようなミリ単位での転舵にもそのとおり正確に反応し、アソビや応答遅れがなく、ごくわずかに切った分だけヨーと横Gが出て、そのとおりに曲がることを伝えてくる。

 もはや感覚としては、ステアリングを「切る」というよりも「念じる」に近い。行きたい方向をイメージすれば自然とそうなるような操作をしていて、気づいたら行きたい方向に進んでくれているかのようだ。

 ドライブモードを選択すると、コンフォート系とスポーツ系ではっきり変わるが、変わるのは「時間」だけで、クルマの挙動自体はあまり変わらない。コンフォート系でもロールは抑えられており、スポーツ系モードにしても快適で動きにカドがなく過敏さもない。

わずかに切った分だけヨーと横Gが出て、そのとおりに曲がることが可能。気づいたら行きたい方向に進んでくれているという印象だ

 足まわりも硬くなるのではなく、ストローク感を残したまま引き締まるので乗り心地が硬いとは感じない。アクセルワークに対しても同様で、瞬発力は増しても飛び出し感はない。「過」という言葉がどこにもなく、あらゆる運転操作に対してそのとおり極めて正確に応答し、クルマの動きがすべて手に取るように掴める。

 その上で、別の機会に試乗したB3 GTも同様にすばらしかったが、B4 GTはさらにスポーティなテイストが高められているようで、いくぶんアジリティが高い印象を受ける。それぞれにふさわしく作り分けているようで、微妙な差ではあるがボディ形状だけではない違いがある。前身のB4に対しても、コンフォート性とスポーツ性の両面がともに増大しているように感じられた。「オーディオでいうとダイナミックレンジが拡大したような感じ」とニコルの森亨マーケティングダイレクターも表現していたとおりだ。

 こうした味わい深いクルマを作ろうとしても、なかなかできないであろうところを、こうして本当に実現できてしまう技術力にもあらためて恐れ入る思い。アルピナが自社開発を行なわなくなっても、どうかこのエッセンスが受け継がれていくよう願うばかりだ。

 なお、試乗した時点ではB4 GTおよびB3 GTのほか、いくつかの最終章のアルピナ車がわずかではあるがまだオーダー可能とのことだった。お心ある方は本当のラストチャンスをどうか逃すことのないように。

わずかではあるがまだオーダー可能とのこと。ラストチャンスをお見逃しなく……
岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:宮門秀行