試乗記

プジョー「2008 GT BlueHDi」でまだ見ぬ土地へ 高原、温泉、パワースポットを巡る1泊2日のショートトリップ

プジョー「2008 GT BlueHDi」でドライブ旅

目指すは南信州

 なんか最近ツイてないとか、思い通りにいかないなぁと感じる時期というのが、たまにはあるものだ。そんなときはじっと耐えて好転を待つよりも、自分から風向きを変えに行ってしまおう。そう思い立たせてくれたのは、ひと目見て風になびく獅子の凛々しさを想起させ、走れば鬱屈した気分を追い払ってくれそうだと感じた、プジョー・2008 GT BlueHDiだった。キリリと未来を見据えるようなヘッドライトに、カギ爪のモチーフが存在を際立たせるフロントマスク。引き締まったコンパクトボディにみなぎるエナジーと躍動感。今にも飛び出さんばかりのポジティブな姿勢が、ドライブ旅にぴったりだとピンときた。

 目的地は、まだ見ぬ土地。信州に伝わる白蛇の物語にちなんだ巳年のパワースポットで、今年の下半期の運気をまるごとアップしたいともくろんだ。もちろんその前後で、ご当地グルメや旬のアクティビティ、温泉などなど夢は広がる。

プジョー「2008 GT BlueHDi」とともに南信州に向かった
プジョー「2008 GT BlueHDi」(427万3000円)。ボディサイズは4305×1770×1580mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2610mm。最小回転半径は5.4m。車両重量は1320kg
2023年から新しいプジョーデザインをまとった2008は、これまでのデザインを引き継ぎながらも、LEDを用いたスポーティな印象のフロント/リアデザインや、車体をより立体的に見せるグリル処理、プジョーを象徴するライオンのかぎ爪をイメージした3本のデイタイムライトなどを採用。17インチアロイホイールは新デザインの「KARAKOY」。組み合わせるタイヤはコンチネンタル「EcoContact 6 Q」(215/60R17)
最高出力96kW(130PS)/3750rpm、最大トルク300Nm/1750rpmを発生する直列4気筒DOHC 1.5リッターディーゼルターボエンジンを搭載。トランスミッションには8速ATを組み合わせる2WD(FF)モデル。WLTCモード燃費は20.8km/L。燃料タンク容量は41L

 出発の朝、東京の空は晴れていた。暑くなりそうな予感がする。とはいえ山の天気は乱高下するし、多めの着替えと雨具は必需品。ちょっと荷物が多くなったかと2008 GT BlueHDiのラゲッジに積み込めば、434Lの容量はまだまだ余裕たっぷりだ。フロアボードのアレンジもでき、いざとなれば6:4分割の後席を倒せば最大1467Lにも拡大する。見た目よりたくさん飲み込む使い勝手のよさがありがたい。

 運転席の目の前には、グラフィックが美しいアートのような「3D i-COCKPIT」が目を惹く。センターパネルの10インチタッチスクリーンは、自分のiPhoneをミラーリングしていつもの地図やアプリが使えるようになっている。エアコンなどは物理スイッチが残されており、サッとアクセスできるのも心強い。1.5リッターのディーゼルターボエンジン「BlueHDi」は、室内にいるとほとんどディーゼルと感じさせない、控えめだけど耳なじみのよい調べ。首都高を軽快にクリアして中央道へと進んでいく。

 独特のカタチをした小径ステアリングは、直進では水平が保ちやすく、カーブではほんの少し傾けるだけで思い通りの弧を描く。SUVの中ではルーフが1580mmと低めに抑えられているスタイリングは風にあおれることもなく、軽やかなのにしっかりと安定感があって安心だ。東京圏内からゆるやかに続くのぼり坂は、小仏トンネルを抜けたあたりからどんどん傾斜がきつくなってくる。それでも2008 GT BlueHDiはアクセルペダルに少し力を込める程度で、悠々と加速していくのが頼もしい。

新たなステッチデザインが施された2008 GT BlueHDiのインパネ。高解像度のパークアシストカメラや15Wのワイヤレススマートフォンチャージャーも備える
小径ステアリングと3Dデジタルヘッドアップインストルメントパネル(メーター)を採用する「3D i-Cockpit」を採用
シフトはトグル式。下部のドリンクホルダーの横にドライブモード切替スイッチを備える
10インチタッチスクリーンの「PEUGEOT i-Connect」はFM/AMラジオ、USB、Bluetoothに加え、Apple CarPlay/Android Autoが使える「PEUGEOT ミラースクリーン」に対応。ナビゲーション機能は搭載されていない。下部のトグルスイッチではエアコンの操作が可能。ピアノブラック加飾の部分はタッチパネルとなっていて、PEUGEOT i-Connectの操作のほか、シートヒーターなどの調整ができる
前席アルカンタラ/テップレザーを組み合わせたシートとなり、フロントはシートヒーターも標準装備
ラゲッジスペースは4人乗車時で434L(VDA方式)を確保
6:4分割可倒式のリアシートバックを倒せば最大1467Lまで拡大可能。さらに、ラゲッジのフロアボードは2段階に調整できる

ワインディングも爽快

 フロントガラスを彩る景色は、いつの間にかすっかり青と緑の共演となっていた。遠かったアルプスの山々が少しずつ大きくなってくる。今夜はあのすぐそばまで足をのばすつもりだ。その前の景気付けにと、岡谷ICで途中下車して大好物のうなぎをいただくことにした。天竜川をなぞるくねくねとした道は、細いわりに大型トラックがばんばんやってくる。それでも2008GT BlueHDiの全幅は1770mmと小さめだから、まったく気を遣わずヒヤヒヤしないのがありがたい。おかげでスムーズに到着し、いつもは大行列の人気店は少し待っただけで入ることができ、なんだか幸先がよいぞとうれしくなる。甘辛いタレとうなぎのハーモニーを噛みしめ、満腹の幸せに浸った。

 このあとはまたしばらく高速走行が続くが、せっかくなのでその前に高原の景色を眺めていくことにした。一説に「だいだらぼっち」という巨人がやってきて腰を下ろした伝説から命名されたという、高ボッチ高原へは獣道のようなハードな山道を通っていった。右へ左へ、ヘアピンカーブが連続して気が抜けないが、ここぞとばかりにドライブモードを「スポーツ」にする。2008GT BlueHDiのボディはまるで1つのカタマリとなって、ビシっとしつつしなやかな挙動でアスリートのようだ。4つのタイヤは素晴らしいコンビネーションで大地を蹴り、向きを変えてその挙動をサポート。こういうときにも小径ステアリングは俊敏な操作がしやすく、頂上についたころにはスポーツをひと試合終えたような爽快感で満たされていた。

高原の大自然の中を俊敏に走る“小さなライオン”

 2008GT BlueHDiを止め、しばし散策。本格的なシーズン到来前の高原で、地球をひとり占めしたような気分を楽しんだら、そろそろお宿に向けて再び走り出す。右に中央アルプス、左に南アルプスを見ながらやってきたのは、「日本一の星空」に認定されて一躍有名となった長野県阿智村にある、南信州最大の温泉郷・昼神温泉だ。こんもりとした山々に抱かれ、阿智川の清流がさやさやと目に優しく、初めて来たのに「おかえり」と迎えられたような、そこに降り立っただけでホッと優しい気持ちになれる場所だと感じた。駐車場に収まった2008GT BlueHDiも、心なしか穏やかな顔をしている。長旅を共にしたからか、すでに通じ合ってきた感覚にほっこりした。

 お部屋がこれまた、ザ・温泉旅館といった風情のある和室で、久しぶりの畳の感覚に懐かしさが込み上げる。大の字に寝転んで、なんにもせず夕食までのんびりと過ごした。こういう時間が足りていなかったのかもしれないと、今になって気づく。バラエティに富んだビュッフェの夕食では、ビールはやめておいた。やっぱりここまできたら、日本一の星空を見てみたい。

 あたりがすっかり闇に包まれた、19時30分。いそいそと2008GT BlueHDiに乗り込み、目指したのは15分ほどで到着する浪合パークだ。阿智村をはじめその近隣には星空が楽しめるスポットがたくさんあるが、今回はマイカーで行けて、星空ガイドさんからの詳しい解説が聞けると評判の「星空鑑賞会」を開催しているこちらを選んだ。実際の空を見ながら、季節や時間で変わる星空の楽しみ方をレクチャーしてくれるとあって、リピーターも多いというが、心配なのは……夕方からむくむくと空を覆いはじめた雲。昼間はあんなにいいお天気だったのに、浪合パークに到着しても月明かりがうっすらと差しているくらいで星の姿はまったく見えない。

“日本一の星空”という阿智村の浪合パークを訪ねた

 受付に行くと、星空ガイドさんも申し訳なさそうに「今日はちょっと星が見えるかどうか……」とおっしゃるが、最初は室内で映像を見ながらお話をしてくれるという。壁一面がスクリーンとなって、まるで宇宙に浮かんでいるような気分の映像はお話上手な星空ガイドさんのおかげもあって、とても楽しく勉強になった。はるか昔に授業で習ったような気がすることを、今あらためてちゃんと教えてもらって博識になったようで気分がいい。東京にいるとまったく肉眼では見えないが、そんな空にもこんなにたくさんの星と、それらの物語が降り注いでいるのかと感動してしまった。

天気がイマイチだったとしても、前面が大スクリーンとなったホールで、そのときの季節の星空について楽しいお話が聞ける

 その後、自然の中を少し歩いて、鑑賞スポットへ。やっぱり空は曇っていて月がほんのり見えているくらいだ。ガッカリ……と思っていたら、星空ガイドさんと夜空を見上げながらお話をしている間に、キラリと光る点が! なんと先ほど映像で解説してもらった「うしかい座」のアルクトゥールスだろうか、「おおぐま座」の北斗七星だろうか、星が姿を見せてくれたのである。これには星空ガイドさんもびっくり。星にまつわるいろんな物語を聞きながら、濃密な夜が過ぎていく。

星空ガイドさんの話を聞きながら、真っ暗な中で満点の星を観賞……とはいかなかったものの、雲の間からぽつり、ぽつりと星が見えた

 宿に戻ったのは22時過ぎ。漆黒の夜道となった帰路だが、2008GT BlueHDiのインテリジェントハイビームが見たいところを瞬時に照らし、対向車など周囲に迷惑がかからないよう調整してくれたのは本当に助かった。おかげで不安なく走ることができ、これなら普段でも夜のドライブが段違いにラクだろうなと実感した。そこから美肌の湯で知られる昼神温泉にゆっくりと浸かり、お待ちかねのビール。家事をしなくていい、娘の宿題を気にしなくてもいい、愛犬に抱っこをせがまれることもない、ただただ自分だけの時間がここにある。気がつけば、夢の中へと誘われる幸せな眠りについたのだった。

夜の山道には街頭がない。それでも、インテリジェントハイビームが明るく視界を確保してくれる。たまにすれ違う対向車が来ると、ハイビームを一部分だけサッとOFFにする動きがよく見えた

旅の目的地へ

 翌朝は早起きをして、もう15年以上続いているという朝市へ。スーパーマーケットではあまり見かけない野菜や地元のアカシアの花からとれた蜂蜜、手づくり小物からレザークラフトまで多彩な出店が並ぶ。やわらかな朝日を浴びながら、ぶらぶらと見てまわるだけでも楽しい。地元の人たちと会話をしつつ、丁寧な暮らしぶりまで垣間見えて心洗われたひととき。しっかりと家族へのお土産も選んで、ラゲッジに積み込む。

 そして朝食のあとは、宿からさくらんぼ狩りのプチツアーへと出かけた。緑の葉の隙間から、ルビー色に輝く艶やかな実が呼んでいる。小さな種いれのカップをもらい、30分一本勝負のはじまり。今回は山形美人や紅さやかなど4種類のさくらんぼを食べ比べることができ、初めてだった「香夏錦」の爽やかでみずみずしい甘さに感激。思わず関西から来たらしいほかの参加者とも「美味しいですね~」と意気投合してしまった。カップが種でいっぱいになると150個くらい食べたことになるらしいが、残念ながら私は6分目というところでギブアップ。来年またチャレンジしたいくらい、大満足のさくらんぼ狩り初体験だった。

今回の旅の目的地へ走る

 さてチェックアウトしたらいよいよ、昼神温泉に別れを告げて本命のパワースポット「信濃比叡広拯院」を目指す。神が宿る神坂峠、イザナミノミコトが天照大神をお産みになった際の胎盤を山に納めたことから胞衣山(現:恵那山)となったという、二大神域からのエネルギーが通り道となって信濃比叡へと流れ、境内の地中には清内路断層が通ることで磁場のよい、気の集まるところとなっているという、信濃比叡広拯院。守り神としてお迎えした白蛇は、開運、金運上昇、家運隆昌のご利益があるとされている。

信濃比叡広拯院に向かう山道だって“小さなライオン”にはお手の物
パワースポットでもある天台宗の寺院「信濃比叡広拯院」を訪ねた。比叡山延暦寺で最澄の時代から燃え続ける「不滅の法灯」が分灯されているほか、白蛇の伝説があったり、月替わりの御朱印がいただけたりする

 山門をくぐって一歩ずつ近づくにつれ、ズシーンと重かった肩のあたりがふわりと軽くなってていく気がして、本堂をはじめ白蛇さまやお地蔵さまなどに今回のご縁を感謝し、お参りするたびにスーッと心が晴れていく。旅行の道中安全を祈願する旅のだるま大師、伝教大師最澄ご尊像、お釈迦さまの足跡に自分の足をのせ、ご真言を唱える仏足石など、見どころがたくさん。本堂の天井にはさまざまな花の絵が飾られ、とても華やかで気分も和らぐ。全身が浄化されたようにスッキリとして、水に浸すとお告げが現れる水のおみくじを引いたら、「大吉」と浮かびあがった。

常香炉に線香を供え、本堂に灯る「不滅の法灯」の前でお参り。「星みくじ」も心惹かれたが、涼しげな「水みくじ」で運勢を占った
気持ちのよい空気が流れる本堂。天井にはさまざまな花が描かれている

 最後に、暮白の滝を望む滝見台から、願い事を書いたお皿を投げるという珍しい開運祈願が名物だと知り、念押しでチャレンジ。紫式部の源氏物語の舞台でもあるという園原のビジターセンターでお皿を購入し、願い事を書いた。滝見台から下をのぞくと思ったよりずっと高く、ちょっと足がすくんでしまったが、滝に向けてエイヤッと投下。数秒ほど宙に舞い、木々に吸い込まれたお皿を見届けて、この旅のミッションはコンプリートしたと悟った。あとはゆるゆると、家路につくことにする。

緑に囲まれた滝見台。春は桜、秋は紅葉が楽しめそう
皿投げ祈願は、願いの書いたお皿を滝見台から投げるというもの。やぐらから足下を見るとはるか下の方に他の人が投げたであろうお皿が小さく見える

 ドライブモードは「エコ」を選び、アクティブクルーズコントロールをONにして、往路とは打って変わって高速道路を穏やかに走る。ストップ&ゴー機能が付いているので、もし渋滞しても疲れやストレスはだいぶ軽減されるだろう。今回は国立府中ICを過ぎたあたりから少し渋滞していたが、おかげで旅の余韻に浸りながら、約700kmを走ったとは思えない元気さで家にたどり着くことができた。デザイン、インテリア、走りとすべてがポジティブな2008GT BlueHDiと一緒だったからこそ得られた、心地よい充足感のみが満ちた最高のドライブ旅。これで運気も急上昇となること間違いなしだと信じ、明日からも前を向いてがんばれそうだ。

2008GT BlueHDiは、星空と大地を感じる南信州旅の頼もしい足となった
まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、エコ&安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦。また、女性視点でクルマを楽しみ、クルマ社会を元気にする「クルマ業界女子部」を吉田由美さんと共同主宰。現在YouTube「クルマ業界女子部チャンネル」でさまざまなカーライフ情報を発信中。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968、ホンダ・CR-Z、メルセデス・ベンツVクラス、スズキ・ジムニーなど。現在はMINIクロスオーバー・クーパーSD。

Photo:安田 剛