試乗記
ボルボ「XC60」は大幅改良でどう進化した? 熟成したタフさと質実剛健さと骨太感を公道で味わう
2025年7月30日 06:00
マイナーチェンジを果たしたボルボXC60の「Ultra B5 AWD」に試乗した。
2代目となるXC60が登場したのは、いまから8年以上前の2017年だ。しかしそれは、いまなお「世界で一番売れているボルボ」である。2024年にボルボは過去最高の販売(76万3589台)を記録したが、XC60の台数はその約30%にあたる23万853台を占めている。ちなみに日本で一番売れているのはXC40(3982台)で、XC60はそれに次いで2362台となっている。
XC60がこうしたロングセラーかつ一番人気のモデルとなった背景には、まずスケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー(SPA)をベースとした伸びやかなデザインと、その走行性能の高さが挙げられるだろう。
そしてこれを毎年なんらかの形で、細かくアップデートしてきた努力が実を結んだのだと思われる。その中でも大きな改良としては、2020年発売のMY21モデルでマイルドハイブリッドを導入した。そしてディーゼルエンジン廃止の英断を経て、全車の電動化が完了した。
さらに2021年発売のMY22モデルでは、PHEVモデルのパワートレーンを変更して電動化を強化しながら、初めてのデザイン変更も行なった。
こうした積み重ねと、独ジャーマンスリーに比べて少し買いやすい価格帯、そしてまったく異なる独自のキャラクターを確立し、利益率が大きなミドルサイズSUVを最も売れるクルマに押し上げた手腕はさすがだ。
ちなみにかつて同じフォードグループにあったマツダが、ラージ商品群で同じくプレミアムブランドへの躍進を狙っているのはご存じの通りである。
そんなXC60 MY26モデルの変更点は、大きく分けて2つ。その内外装が再びアップデートを受けたほか、直列4気筒2.0リッターターボエンジンも改良された。
外観ではまずボルボのフロントマスクを飾るグリルが、XC90と同じ最新のデザインとなった。中央にはカメラを仕込んだ大きなアイアンマーク。そしてまわりを囲うグリルのルーバーは、左右から織物のように重ねられた格子柄となった。
「B5」シリーズはそのグリルをはじめ、ウインドモールやバンパーインサート、ルーフレールなどのカラーリングがクロームメッキ仕様に。対してPHEVの「T6」はブラックトリムとなり、前後のバンパー上がよりアグレッシヴになる。
またLEDテールライトは全車ベースがブラックに。ホイールも全てダイヤモンドカットデザインの新意匠となった。
インテリアはまずセンターコンソールのデザインが変わり、スマホを横置き充電できるようになった。ドリフトウッドパネルを配したシャッターの下には、「2+1」と呼ばれる2.5本分のドリンクホルダーが装備された。
ボルボがいち早く採用した縦型のセンターモニターは、従来の9インチから11.2インチへと大型化。これまでダッシュボードに収まっていたモニターは、枠を飛び出して大型タブレットを取り付けたような形となった。これならダッシュボードを作り直すコストを省けるうえに、マルチタスクも見やすい。少しだけ後付け感はあるけれど、従来比で解像度が21%向上したこともあってか、ゴテゴテとした印象は持たなかった。
画面はナビ以外にオーディオや電話、車両の各種機能やエアコンといった、普段必要な操作系が集約された。とはいえオーディオのボリュームやハザードなど、安全に関わる要素は物理ボタンで一番下に配置されている。
またEX30と同じクアルコムの「スナップドラゴン コクピット」を搭載し、Googleアシスタントをはじめとした各種機能の処理速度が劇的に速くなったという。
また今回試乗した「Ultra」グレードには、ナッパレザーシート(内蔵ファン付き)が標準だが、100%リサイクルポリエステルを使用したサステナブル素材のファブリックシートに変更できるのもボルボらしい。
パワートレーンは、前述したエンジンユニットがようやくミラーサイクル化され、吸気側ではVVT(Variable Valve Timing)とインテークマニフォールド、エンジン内部ではピストン、そして補機類ではオイルポンプも新型とした。
これによってFWDモデルのPlus B5は12.6km/Lから13.3km/Lへ、AWDモデルのUltra B5 AWDは12.2km/Lから12.8km/Lとなり、燃費が約5%改善された(全てWLTC値)。
ミラーサイクル化によって下がりがちになる出力に対してはVNT(Variable Nozzle Turbine)で対応。その最高出力は250PS/5400-5700rpmを維持しながら、最大トルクは360Nm/2000-4500rpmへと10Nm高トルク化している。
そしてトランスミッションには、これまで通りベルトドライブ式のISGモーター(10kW/40Nm)が組み合わされる。
実際XC60 Ultra B5 AWDを走らせてみると、そのパワー感にはまったく物足りなさを感じなかった。アクセルの踏み始めから出足が素早く軽やかで、すっきりと心地よい乗り味だ。48Vマイルドハイブリッドゆえにモーターのトルクをはっきり感じることはできないが、もしかしたらターボのブーストラグを絶妙にアシストしているのかもしれない。
街中では小さなアクセル開度でもスムーズに初速をつけて、時折アクセルを付け足しながら、そのほとんどを惰性で楽に走ることができる。8速ATの変速もこなれており、細かいシフトアップでもギクシャク感はない。
足まわりがシャキッとしているのも、爽やかな乗り味に貢献している。トラクションがかかった際の蹴り出しがよく、車体も無駄にピッチしないから、アクセルの追従性もよくなる。日常域でAWDのトラクション性能は、特別意識しない。ただただ素直に、そして思い通りに加速してくれる感じだ。
試乗会が開かれた静岡県三島市の街中は道幅が狭く、正直XC60の車体は少し大きい。それでもハンドルを切れば、切った通りに曲がるライントレース性のおかげで、慣れてしまえば1900mmの車幅に手こずることもなかった。
スカンジナビアンデザインの居心地のよい室内空間に対して乗り味はやや硬めだが、その朴訥な感じも実にボルボらしい。一見、おしゃれなだけのクルマに見えるXC60だが、その本質は厳しい冬を乗り越えるタフさや質実剛健さといった、骨太感である。
ただ後部座席だけは、マイナーチェンジしても相変わらずハーシュネスが高めだ。そのボディサイズゆえ膝まわり、ヘッドクリアランス共に居住性は良好。シートもしっかりとした重厚な造りなのだが、荒れた路面だと突き上げるし微妙に横揺れする。
試乗車はまっさらな新車だったこともあるし、ボルボはもっと荷物を満載して、北欧の荒れた路面を飛ばして走る想定をしているのかもしれない。
しかし日本のように速度域が低い地域では、乗り心地がフラットになる前に突き上げてしまうので、もう少しだけマルチリンクのブッシュやマウントのコンプライアンスを緩めに取ってくれたらとも思う。オプションでエアサスと「FOUR-C アクティブパフォーマンスシャシー(可変ダンパー)」を選ぶこともできるが、コンベンショナルなコイル+ダンパーの組み合わせでも、本当にもう少しだけでいいので優しい乗り味を与えてほしい。そういう意味で言うと、FWDモデルに採用される18インチタイヤも興味深い。
一方ワインディングでの走りは、驚くほどに上質かつ痛快だった。
タイヤに荷重がかかるほど乗り味はしなやかになり、ハンドルを切り込めば適度にロールを抑えて気持ちよくターンしてくれる。路面のうねりにも車体がぶれず、どんどんその骨太感が高まるのは、フロントにダブルウィッシュボーンを奢ったサスペンション剛性の高さゆえだろう。
スロットルに対するブーストのかかりもリニアで、コーナーミドルからアクセルを足していくと、グーッと曲がり込みながらトラクションをかけていく。
決してハンドリングコンシャスなSUVではないけれど、その挙動は素直かつダイナミック。そしてこの心地いい走りを味わってしまうと、後部座席の乗り心地の悪さも思わず許してしまいそうになる。これこそがタフな環境で、脈々と鍛え続けてきたボルボの走りだ。
スポーティという言葉をこねくり回さず、素直に仕上げるあたりは大人である。
ボルボは2024年にロードマップを修正して、2030年までに全販売台数の90~100%をEVまたはPHEVに、そして残りの0~10%を必要に応じてマイルドハイブリッドにすると発表した。言ってみれば今回試乗したXC60 Ultra B5 AWDはその10%に含まれる、メインストリームを外れたモデルだ。
しかし地道に磨き上げられたマイルドハイブリッドの出来栄えは、現役感たっぷりだ。つまりEVシフトに必要なインフラが整うまでは、まだまだ実質的なメインストリームのど真ん中にいる1台だと筆者は感じた。
























