試乗記

スバルの新型「フォレスター」を一般道で乗り回す! オンロードもオフロードも走りきる性能を体感

新型フォレスター

ストロングハイブリッドモデルをリアルワールドで試乗

 袖ケ浦フォレストレースウェイでプロトタイプに試乗し、その出来栄えに大きな手応えを得た新型「フォレスター」。その市販モデルは4月に販売を開始し、7月27日までの時点で2万台超の受注を達成したという。

 そして今回この市販モデルに、筆者もようやく一般公道で試乗することができた。しかも後半ではそのタフネスぶりを確認するために、オフロード試乗までもが用意された。

 試乗会が開催されたのは、千葉県安房郡鋸南町の海岸沿い。文字通りに「鋸山」を南に据えた、実にのどかなロケーションだ。前日までは豪雨だったという空は目が痛くなるほど青く、フォレスターの門出を祝うような日和だった。

サーキットでプロトタイプに試乗した新型フォレスターを、ようやく一般道で試乗できる日が来た

 一般公道での試乗は、「X-BREAK S:HEV EX」から走らせた。今回の試乗はロングドライブではないため、まずクローズドコースで感じた乗り味が、リアルワールドでどこまで再現されているのかに注目してみた。

 2.5リッター自然吸気の水平対向4気筒に、2モーター内蔵式トランスアクスルを組み合わせたストロングハイブリッド。ついEVボタンを押し忘れてスタートさせるとエンジンはかかってしまったが、そのアイドリングが至って静かなのはプロトタイプと同じだった。そしてつま先に少しだけ力を入れると、4.7m弱のボディがラグなく“スッー”と動き出した。

新型フォレスター X-BREAK S:HEV EX。価格は447万7000円。ボディサイズは4655×1830×1730mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2670mm。最低地上高は220mmを確保する。X-BREAK S:HEV EXの車両重量は1740~1770kg
ダークメタリック塗装の18インチアルミホイールを装着。オールシーズンタイヤのファルケン「ZIEX ZE001A A/S」を組み合わせる
e-BOXERのエンブレムをリアハッチに装着
新型フォレスター X-BREAK S:HEV EXのインパネ
シート表皮は撥水性ポリウレタン/合成皮革(ブラック/グレー)。X-BREAKのイメージカラーでもあるグリーンのステッチが施される
ストロングハイブリッドモデルは、最高出力118kW(160PS)/5600rpm、最大トルク209Nm(21.3kgfm)/4000-4400rpmを発生する水平対向4気筒DOHC 2.5リッター直噴エンジンと、最大出力88kW(119.6PS)、最大トルク270Nm(27.5kgfm)を発生するモーターを組み合わせるハイブリッドパワートレーンを搭載

 街中を走らせた印象は、ひとこと“イージーライド”だ。

 おさらいをすれば新型になっても、フロントガラスの面積は変わらない。むしろワイパーを隠す処理によって若干下側が狭くなっているくらいだが、こうした視界のノイズ処理やオフセットしたサイドミラー、そしてSUVならではの高い着座位置によって、ミドルサイズのボディでもいたって運転しやすい。

 そしてここに追従性のよいアクセルと、軽すぎもせず重たくもないステアリングを連携させれば、海岸線沿いの狭い道も割とスムーズに走れる。アクセル追従性は良好で、アクセルオフでもスムーズにタイヤが転がる。力持ちだけれど優しい出力特性だ。

新型フォレスター X-BREAK S:HEV EX

 ストロークたっぷりな足まわりがもたらす乗り心地も、いい感じだ。ただ柔らかいだけじゃなく縮み方にコシがあるから、ブレーキのタッチもよくなるしコントロール性もいい。

 サーキットでは分からなかった部分としては、割とロードノイズが目立った。音質は低めで音量自体も抑えられているのだが、パワーユニットが静かな分だけ、道が悪いと音と振動がわずかながらも入ってくる。タイヤは標準仕様の225/55R18サイズだったが、全車標準のオールシーズンタイヤが少し影響しているのかもしれない。だからS:HEVのキャラクターを考えるともう少しプレミアムな夏タイヤを履かせてもよいのでは? と最初は思った。

新型フォレスター X-BREAK S:HEV EX

 後部座席はゆとりがあり、膝を組んでもなお余る広さ。ただまだ足まわりがこなれてない印象で、ロードノイズと併せて不整地における若干の横揺れを感じた。ダンパーはきっちりダンピングできているから、ブッシュやマウント類のなじみが出たころにロングドライブをしてみたい。

 ハンドリングも、乗り心地と同じく“ゆったり系”だ。新型フォレスターはSPG(スバル・グローバル・プラットフォーム)のリアまわりを新世代の環状構造にアップデートした。これによってボディのねじり剛性も高められたのだから、もう少しリニアな操舵応答性を持たせても尖った操作性にはならないのでは? と思ったが、この穏やかさはフォレスターの伝統だともとれる。

 ちなみに短い試乗ではあったが、その燃費は街中を29.2km走って12.3km/Lだった。

新型フォレスター X-BREAK S:HEV EX

直噴ターボモデルのまとまりあるよさ

 もう少し、若々しい操作性を。そんな期待に応えてくれたのは、次に試乗した「SPORT EX」だ。

 そのパワートレーンは1.8リッターの水平対向4気筒をターボ化したピュアガソリン仕様の1.8DIT(ダイレクト・インジェクション・ターボ)。「X-BREAK S:HEV EX」と比べて100kg、一番豪華な「Premium S:HEV」と比べれば110kg軽い車体を177PS/300Nmの出力で走らせるキビキビとした走りがその魅力であり、燃費もカタログ値では13.5km/Lを維持した。

新型フォレスター SPORT EX。価格は404万8000円。ボディサイズなどの基本スペックはX-BREAK S:HEV EXと同じで、車両重量は1915~1935kg
ブロンズ塗装の18インチアルミホイールを装着。オールシーズンタイヤのファルケン「ZIEX ZE001A A/S」を組み合わせる
新型フォレスター SPORT EXのインパネ
シート表皮はウルトラスエード/合成皮革(ブラック/グレー)。エクステリアのアクセントカラーと合わせたブラウンのステッチが施される
直噴ターボモデルは最高出力130kW(177PS)/5200-5600rpm、最大トルク300Nm(30.6kgfm)/1600-3600rpmを発生する水平対向4気筒DOHC 1.8リッター直噴ターボ“DIT”エンジンを搭載する。トランスミッションはリニアトロニックCVT

 始動直後こそゴロゴロとしていたエンジンも、温まれば静かに回る。ターボのレスポンスは素早く、少ないアクセル開度でもクルマが自然に前に出る。出足の滑らかさにこだわるならストロングハイブリッドだが、街中の柔軟性でターボに見劣りするところはない。

 また、高速巡航でも、踏み込めば“クォッ!”と心地よいサウンドを少しだけ響かせて、グーッとパワーを上げていくフィーリングが心地よかった。絶対的な加速力と瞬発力はストロングハイブリッドが一枚上手だけれど、そこにこだわる時代じゃない。CVTのレスポンスもこなれているし、あいかわらず燃費以外は「これで十分!」と言えるパワーユニットだ。

新型フォレスター SPORT EX

「スポーツ」という名が付くだけあって、足まわりは少し硬めだ。とはいえベーシックモデルの役目も背負う立ち位置だから、その乗り心地が極端に悪くなるということはない。

 スポーツに装着される「超飽和特性ダンパー」は、ピストンスピードが遅いとき(ロースピード領域)に高い減衰力を発揮して、車体をしっかり支えながらゆっくりストロークしていく。そして路面の突起やマンホールを乗り越えたとき(ハイスピード領域)には減衰力を逃がして、突き上げを防いでくれる。

 総じて乗り味はシャキッと若々しくなり、つまり上質になりすぎないから、ロードノイズまでもが気にならなくなった。

新型フォレスター SPORT EX

 ただ、もし重箱の隅をつつかせてもらえるならば、その操舵フィールはS:HEVと同じで若干切り始めの手応えが薄いと感じた。スバル車は総じて初期ステアフィールが優しい味付けだが、重心の高いミドルサイズのSUVボディになるとやや曖昧さが目立ってしまうのだろうか? だとしたら電動パワステの操舵フィールや4WDの制御で、これを補えないものか?

 アイサイトとの関係で初期操舵を過敏にしたくないという考えもあるのでは? という意見もあってなるほどとは思ったが、ステアフィールに芯が出れば、フォレスターに限らずスバル車はさらに大きくレベルを上げると思う。

新型フォレスター SPORT EX

元採石場の天然オフロードコースでPremium S:HEV EXに試乗

 最後はオフロードコースで、S:HEVと先代e-BOXER(マイルドハイブリッド)を乗り比べることができた。

 興味深かったのは旧型モデルが、予想以上にいい走りを見せたことだ。そのサスペンションは新型同様たっぷりとしたストローク量があり、前日に掘り起こされたわだちも難なく乗り越えた。大きな石の上に着地してもバンプタッチしないから、ガツン! とこない。最大で後輪にトルクを50%配分するアクティブトルクスプリットAWDの制御も実にマイルドで、強くトラクションをかけても挙動は安定している。そこにまったりとした穏やかなハンドリングが加わることで、余裕を持って悪路を走破できる。ご存じ先代フォレスターにはロータリー式の「X-MODE」が付いているが、ハイスピードダートではノーマルモードで全てが事足りてしまった。そしてこの包容力の高さを体験したら、多くのユーザーが「乗り換えなくていいじゃん」と言うのではないか? と感じた。

 しかし乗り比べれば、やっぱり新型は進化している。

新型フォレスター Premium S:HEV EX

 まずその出足や、低ミュー路における微細なアクセルコントロールにおいて、モーター主体の駆動は一段とリニアだ。そして全開領域においては、スピードレンジが断然高い。

 驚いたのはこうした領域でも、明確に舵が利くこと。だから新型だと路面を見ながら、安全なラインを選ぶことができる。カギとなるのは19インチタイヤの性能だが、ボディ剛性がきちんと引き上げられているから、足まわりがそれを使いこなせているのだと思う。

 だからゆっくり走らせた場合などは、旧型ボディの方が適度にしなって乗りやすいと感じるドライバーもいることだろう。しかし能力的に言えば、やっぱり新型だ。

新型フォレスター Premium S:HEV EX

 4WDシステムは基本的に新型も同じであり、ピーキーなところは何ひとつない。電動制御の多板クラッチを使っていち早く後輪にトラクションがかけられるようになってはいるはずだが、アクセルを大きく踏み込んでも突然後輪が滑り出すこともないし、ブレーキングからターンインにかけての姿勢も、弱アンダーステアにまとめられている。

 正直これだけ走りが安定しているともっとパワーやトルクが欲しくなるけれど、スタンダードモデルであればこれで十分。もしSTIバージョンのようなモデルが出せるようなら、中途半端にお茶をにごさず、ぜひWRX S4に採用した可変ダンパーや、センターデフ式であるVTD-AWDを採用してほしい。

新型フォレスター Premium S:HEV EX

 オンロードを走ってその穏やかさに文句を付けた筆者だったが、これだけの悪路を走破しきれるボディのタフネスぶりと、しかしそのすごさをひけらかさないスバルのアンダーステイトメントっぷりには惚れ直した。なるほど全車オールシーズンタイヤを装着させたくなる気持ちも、ここでようやく理解することができた。

 優しいけれど、力持ち。果たして新型フォレスターは、スバルらしさあふれるミドルSUVに仕上がっていたというのがその第一印象だ。特にストロングハイブリッドは、レガシィ アウトバックなきいま、現状のフラグシップを任されるにふさわしい包容力とタフさを兼ね備えていた。その上でより若々しさや実直な乗り味が欲しいなら1.8DITを搭載するスポーツは本当におすすめで、これが単にイニシャルコストを抑えるためのベーシックモデルではないと強く言える。

 まだ納車までの時間を首を長くして待っている方々も多いと思うが、期待していい。

新型フォレスター Premium S:HEV EX

【お詫びと訂正】記事初出時、ステアリングラック取り付け位置を誤って表記しておりました。お詫びして訂正いたします。

山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身。A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。日本カーオブザイヤー選考委員。自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してレースレポートやイベント活動も行なう。

Photo:安田 剛