試乗記

メルセデス・ベンツのPHEV「メルセデスAMG E 53 HYBRID 4MATIC+」、圧倒的なハイパフォーマンスと快適性を両立

新型EクラスのPHEVモデル「メルセデスAMG E 53 HYBRID 4MATIC+」に試乗

Eクラスのトップエンド

 2024年初に日本に上陸した6世代目EクラスのメルセデスAMGによるトップパフォーマンスモデルが同年末に加わった。Eクラスには「E 63」はなく「E 53」が最上位に位置し、3.0リッター直6ターボエンジンに高出力モーターと大容量リチウムイオンバッテリを組み合わせたPHEVとなる。システム出力は430kW(585PS)を誇り、約100kmのEV走行を可能としている。

 メルセデスAMGのモデルらしく、通常のEクラスよりもワイド化され、拡大された開口部に縦ルーバーを備えたアグレッシブなフロントフェイスは迫力満点だ。試乗したステーションワゴンの伸びやかでボリューミーなサイドビューでは、印象的なデザインの10ツインスポークの20インチAMGアルミホイールも目を引く。

 リアはルーフエンドにスポイラーリップ、ボトムにディフューザーフィンを備え、そのかたわらで左右2本ずつラウンド形のエグゾーストエンドが覗く。テールゲートにはAMG パフォーマンスハイブリッドを示す赤く縁どられたエンブレムが配されている。

今回試乗したのは2024年12月に発売された「メルセデスAMG E 53 HYBRID 4MATIC+」(1726万円)。ボディサイズは4970×1900×1490mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2960mm。ボディカラーはグラファイトグレー(メタリック)
E 53のフロントデザインは通常のEクラスと比べ20mmワイドなプロポーションとし、E 53専用デザインのAウィングが際立つ大開口のフロントエプロンや、AMG伝統の縦ルーバーには先進的なイルミネーテッドラジエターグリルを採用するなど、アグレッシブな表情を形成
足下は10ツインスポークデザインの20インチ AMG アルミホイールにミシュラン「パイロットスポーツ 4 S」をセット
リアエンドにはAMGのパフォーマンスハイブリッドを示す赤く縁どられた「E 53」エンブレムをはじめ、ボディ同色のAMG スポイラーリップ、ディフューザーフィンが特徴的なリアエプロン、片側2本ずつのラウンド形のエグゾーストエンドが与えられる

 シルバーのアクセントやオプションのAMGカーボンパッケージによる加飾が印象的で、シートやステアリングなど目に入る箇所の多くに専用アイテムが与えられたインテリアは、最先端のデジタル技術とクオリティ、スポーティさが巧みに調和していて特別感に満ちている。

E 53のインテリアではインフォテインメントシステムにルーティン機能やサードパーティ製アプリに対応した第3世代のMBUXを採用。14.4インチのメディアディスプレイと12.3インチのコックピットディスプレイにはAMG専用メニューやコンテンツが用意され、走行に必要な各種データをグラフィカルに表示できる。エネルギーフローやEV航続距離、充電状況などといったプラグインハイブリッド専用のメニューも用意される。さらに撮影車では有償オプションの「デジタルインテリアパッケージ」(40万4000円)を装着し、インテリアトリムはブラックピアノラッカーインテリアトリムとなり、助手席用ディスプレイを備えたMBUX スーパースクリーンや3Dコックピットディスプレイが装着される
ナッパレザーを用いたAMG専用デザインのスポーツシートは安定したドライビングポジションをキープする設計。前席のバックレストにAMGロゴの刺繍が、ヘッドレストにはAMGクレストがエンボス加工される

 駆動用バッテリの搭載によりトランクのフロアがややかさ上げされていてアンダーボックスはないが、これだけ広ければ使い勝手としては十分だ。

ラゲッジ容量は460Lで、最大1675Lまで拡大できる

M256M+PHEVの二面性

メルセデスAMGが仕上げたPHEVの実力やいかに

 いまやEクラスといえども4気筒を超えるエンジンを積むモデルは限られる。さらにはメルセデスAMGといえども、いわゆる「One Man, One Engine.」の哲学により手作業で組み立てられるエンジンが搭載される車種は限られる。

「M256」の進化版となる3.0リッター直6ターボ「M256M」型エンジンは、本拠地であるアファルターバッハのAMGファクトリーではなくメルセデスの工場でライン生産されるもので、強力な6気筒エンジンに電気の力をプラスするとともに、サウンドやビジュアルの巧みな演出により、メルセデスAMGの最新モデルらしい世界観が表現されている。

 エンジンはブースト圧を1.5barまで高め、最大で330kW(449PS)/560Nmのパワーとトルクを引き出している。これに同120kW(163PS)/480Nmを発揮する強力なモーターを組み合わせ、システムトータルで同430kW(585PS)/750Nm(RACE START時は450kW[612PS])を実現したというから、物足りないわけがない。荒々しくも調律されたスムーズな吹け上がりに、あらためて直列6気筒のありがたみを感じる。

直列6気筒3.0リッターターボ「M256M」型エンジンは最高出力330kW(449PS)/5800-6100rpm、最大トルク560Nm/2200-5000rpmを発生。これにトランスミッションに統合された120kW(163PS)/480Nmを発生する永久磁石同期モーターを組み合わせ、システムトータルで430kW(585PS)/750Nmを実現。さらにRACE START時はシステム最高出力が450kW(612PS)まで引き上げられる。WLTCモード燃費は11.2km/L

 エンジン自体ももちろん相当にパワフルながら、まさにエンブレムのとおりターボ的にモーターを駆使して、力強くブーストし発進からの俊敏な加速をアシストしている。

 6500rpmからレッドゾーンとなるタコメーターの左側にパワーとチャージ、下にバッテリ残量と航続距離と、PHEVとしての情報も分かりやすく表示される。「トラックレース」と「スーパースポーツ」という奥行き感のある表示も先進的かつ迫力があっていい。

 体感する加速のどこまでがモーターでどこからがエンジンなのかは判別できないが、パワーメーターを見ていると低速域だけでなく車速が高まっても緩加速でモーターが適宜アシストして効率を高めたり、一気に踏み込むとドンと上がったりと、モーターがどのように使われているかがよく分かる。

圧倒的なパフォーマンスを発揮

 メルセデスAMGらしくステアリングホイールの右側のダイヤルでもドライブモードを選択可能で、エレクトリックモードも設定されている。左側ではメルセデスAMGならではのきめ細かいセットアップが可能となる。スポーツプラスを選ぶと「AMG」と聞いてイメージする、いかにもな派手なサウンドと加速が楽しめるのもこのクルマの醍醐味に違いない。それでいて試乗したワゴンで97km(セダンは101km)もEV走行できるのだから恐れ入る。

ハイパフォーマンスで快適

一般道と自動車専用道を主に試乗したので本領を発揮するには至らなかったものの、その片鱗を感じることはできた

 足まわりも凝っている。前後可変トルク配分の「AMG 4MATIC+」をはじめ、電子制御の「AMG RIDE CONTROLサスペンション」やリアアクスルステアリングが標準装備され、さらにオプションで電子制御AMGリミテッド・スリップ・デフやAMGダイナミックエンジンマウントを装着することもできる。

 走ったのは大磯周辺の一般道と自動車専用道なので本領を発揮させるまでにはいたらないが、はるか彼方に限界があり、それがどんな世界なのかをイメージすることはできた。

 加速もそうならハンドリングも極めて俊敏かつ正確で、2.4tを超える車両重量のネガをあまり感じることもない。ステアリングを切ったときの切れ味鋭い回頭性や、ダブルレーンチェンジ時の揺り戻しの小ささには、完成度の高い後輪操舵も効いているに違いない。

 スポーツ系のドライブモードを選択するとダンパーが引き締まり、ステアリングの手応えも増して、AMGらしい凄味のある走りを味わえながらも、乗り心地が不快な硬さにならないあたりも絶妙だ。

 ナッパレザーのAMG専用デザインのスポーツシートは、本格的なスポーツ走行でも安定したドライビングポジションをキープできる設計となっているものの、普通に乗るには身体を締め付ける感覚もなく、リラックスして快適に乗れるのもいい。

 ワゴンとして考えられるすべてを投入し、圧倒的なハイパフォーマンスと巧みな演出と快適性を見事に両立した、世界最高峰のステーションワゴンであった。

E 53は圧倒的なハイパフォーマンスと快適性を見事に両立
岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛