試乗記

フォルクスワーゲンのPHEV「パサート eHybrid」、“DCC Pro”で極めて質の高い走りを実現

新型パサートに試乗

ひとクラス上のクルマに

 日本ではフォルクスワーゲンというと「ゴルフ」が主役というイメージが強いが、実は「パサート」のほうが微妙に歴史は長く(ともに50年以上)、ワールドワイドではパサートのほうがメジャーと認識されているところも少なくない。累計販売台数がゴルフの約3700万台に対し、パサートも3450万台以上に達していると聞けば、納得いただけることだろう。

 1973年の誕生以来、これにて通算で9世代目となるパサートは、欧州市場のトレンドによりワゴンのみとなった。それゆえ車名にも「ヴァリアント」と付かない。

 従来のMQBの進化版であるMQB evoアーキテクチャを土台としており、ひとクラス上のセグメントに相当する4.9m級のゆとりあるボディサイズとなった。これにより車内空間がおどろくほど広々としていて、とくに50mm延長されたホイールベースにより後席の居住性が向上したことが座るとすぐに分かる。センタートンネルが太くて高いものの、膝前はかなりの広さだ。

今回試乗したのは2024年11月に販売を開始した9世代目となる新型「パサート」。新型パサートはワゴンボディ専用モデルとなり、従来の「MQB」アーキテクチャの進化版である「MQB evo」アーキテクチャを採用。撮影車はPHEVモデルの「eHybrid R-Line」(679万4000円)でボディサイズは4915×1850×1500mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2840mm。車両重量は1830kg
エクステリアはR-Line専用のものとなり、19インチホイールを標準装備。eHybridではアダプティブシャシーコントロール”DCC Pro”も標準で装備

 荷室も相当な広さで、最大で1920Lというのは日本で買えるステーションワゴンとして最大級の容量だ。床下にはバッテリが搭載されるが、後端には収納スペースがある。リアシートの真ん中が抜けてスキーのような長尺物にも対応できるようになっている。

 心なしか「アルテオン」を思い起こさせるような、ちょっとアグレッシブなスタイリングもなかなか存在感がある。試乗したのは専用エクステリアをまとい、専用シートや19インチアルミホイールを装着した「R-Line」だ。

 インテリアの質感も高く、純正インフォテイメントシステム”Discover Pro Max”の15インチという大きなタッチディスプレイにも時代を感じる。ドアを開けると傘が忍ばされているのにもおどろいた。

インテリアではデジタルメータークラスター”Digital Cockpit Pro”を全グレードに標準装備するほか、R-Lineでは15インチの大型タッチディスプレイを備えた純正インフォテイメントシステム”Discover Pro Max”やヘッドアップディスプレイを標準装備。R-Line専用のファブリックシートが標準装備となるが、撮影車はレザーシートパッケージ(29万7000円)をセット

おだやかで上質なeHybrid

ワゴン専用として生まれ変わった新型パサートに乗った

 パワートレーンは、1.5リッター eTSIマイルドハイブリッドシステム(FWD)と、2.0リッター TDIクリーンディーゼル+4MOTIONと、今回試乗したプラグインハイブリッドの「eHybrid」という3種類のラインアップとなる。

 eHybridはeTSIをベースにPHEV向けに細かなチューニングが施されており、大容量のリチウムイオンバッテリによりEV航続距離が従来よりも大幅に伸長し、WLTCモードで142kmもの距離を実現したのもポイントだ。これにより日々の街乗りでは排出ガスを発生しないEVとして、遠出はハイブリッド車として使うことができる。

 Eモードとハイブリッドが選べ、Eモードではバッテリがある限り延々とEV走行できる。ドライブモードは「エコ」「コンフォート」「スポーツ」「カスタム」の4通りが選べるようになっている。スポーツモードではバッテリの充電レベルも保持されるようになり、カスタムモードでは「ドライビングダイナミクス」「ステアリング」「ドライブ」「車外走行音」「ACC」「オートライトシステム」「エアコン」と走り以外の項目も含めて好みにアレンジできる。

 eHybridはシステムで150kWの最高出力と350Nmの最大トルクを発生するが、速さよりも電動ならではのリニアでシームレスな走りが印象的で、性能の高さを競っているハイパフォーマンス系PHEVとは違って、おだやかで上質な仕上がりだ。

eHybridが搭載する直列4気筒DOHC 1.5リッターターボエンジンは最高出力110kW(150PS)/5000-6000rpm、最大トルク250Nm(25.5kgfm)/1500-4000rpmを発生。これに85kW/2500-4000rpm、330Nm/0-2250rpmのモーターを組み合わせ、WLTCモード燃費は18.0km/Lとした

 エンジンがかかっても、少しだけどこか遠くにあるかのような印象で、ノイズも振動も気にならない。再始動もスムーズだ。音質的にも耳障りにならないよう対処されている。

 フォルクスワーゲンの内燃エンジン車は、アクセルオフ時にもあまりエンジンブレーキをかけずできるだけ惰走させて効率を高めている傾向が見受けられるが、それがいいときもあればそうでないときもあり、個人的にはアクセルオフで多少は減速してくれた方がリズム掴みやすくて好み。eHybridなら好みの回生の強さを任意で選べるところもいい。

 ブレーキは回生しているとは思えないほど違和感がなく、ブレーキフィールにもしっかりと剛性感があるところもいい。そこがいまひとつなフォルクスワーゲン車も見受けられるが、それらとはジェネレーションの違いを感じる。

“DCC Pro”が妙味

カヤバの技術が用いられた“DCC Pro”

 足まわりではアダプティブシャシーコントロール“DCC”が、”DCC Pro”に進化したのが大きい。“DCC”も定評があったが、“DCC Pro”はさらに上まわっている。

 これには日本のカヤバの技術が用いられていて、機構的には2バルブ独立制御式を採用しているのが特徴で、内部構造は伸び側/縮み側が独立したオイル回路となっており、それぞれ個別に減衰力を最適にコントロールできるのがポイントだ。

 これにより従来は不可能だった複雑な制御を実現し、本来は相反するダイナミックな走行と快適な乗り心地をかつてない高いレベルで両立した。スポーツモードではフォルクスワーゲンらしい軽快なハンドリングを、コンフォートモードでは快適なフラットライドと、新次元の快適性を実現した旨をアピールしているとおり、たしかにかつて味わったことのないドライブフィールが印象的だった。

 しなやかでよく動き、“DCC Pro”は14段階で減衰力をきめこまかく調整が可能で、最弱にするとさらに路面への当たりがマイルドになる。単に柔らかいという意味ではなく、非常に柔軟性に優れるという印象だ。最強にしてもガチガチになるわけでもなければ、乗り心地の快適性を損なうことなく、ひきしまった感覚となる。状況に合わせて最適な乗り味を提供してくれる。

状況に合わせて最適な乗り味を提供する新型パサート

 もともとフォルクスワーゲンはこういう足まわりを作るのが上手いと感じていたが、“DCC Pro”はさらに高い次元に達している。

 さらに”DCC Pro”は、XDS(電子制御ディファレンシャルロック)を協調制御する“Vehicle Dynamics Manager”と組み合わされ、走行状況に応じて4輪独立で可変制御するよう進化した。もともと正確なステアリングレスポンスにより磨きがかかったのには、これも効いているそうだ。

 車格が上がったかのように見えた新生パサートは、走りのほうもそれにふさわしく、むしろそれ以上に洗練されていた。短時間のドライブではあったが、eHybridや“DCC Pro”も加わって実現した極めて質の高い走りにはなかなかおどろかされた。

新型パサートは極めて質の高い走りを見せてくれた
岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛