試乗記

ホンダ「アコード」新グレード「e:HEV Honda SENSING 360+」に乗った! 量販モデル初のハンズオフ機能を体験

2025年5月30日 発売
599万9400円
新たに追加されたアコードの「e:HEV Honda SENSING 360+」に乗る機会を得た

 2024年3月に日本で発売を開始したアコードが早くも進化した。初期モデルとの主な違いは運転支援システムで、「Honda SENSING 360」が「Honda SENSING 360+」になった。たった「+」一文字ではあるが、今度のシステムは自動車専用道路において70km/h以上の速度が出ている場合はハンズオフ(手放し)が可能となっている。

 そもそも初期モデルの「Honda SENSING 360」も、フロントセンサーカメラやフロントエンブレムと前後コーナーには合計5台のミリ波レーダーを配置。近接を捉えるために6台のソナーセンサーを備えるなど、かなり奢られたシステムだった。

アコードに追加設定された新グレード「e:HEV Honda SENSING 360+」試乗車のボディカラーはプラチナホワイト・パール
ボディサイズは4975×1860×1450mm(全長×全幅×全高)で変更なし、ホイールベースも2830mmのまま
18インチの専用アルミホイールを採用。カラーはベルリナブラック+ダーク切削クリア
新たにブラックのドアミラーとなった
ルーフのシャークアンテナ(マルチGNSSアンテナ)は、内部構造が変更され少しだけ幅が大きくなっている。ただし全高は変わらず。また、ボディカラーがホワイト、グレー、ブラックはボディ同色、レッド、ブルーはブラックとなる
Honda SENSING 360+になり、フロントカメラは従来の約90°の検知範囲を約100°へと拡大。またフロントコーナーレーダーの追加、コーナーレーダーの検知範囲を拡大したこと、地図ECU+高精度地図情報などの追加により360°センシングを実現している

 今度の「+」ではフロントセンサーカメラを変更したほか、ドライバーモニタリングカメラ、地図ECU+高精度地図、ステアリングインジケーターなどを追加。ルーフに備えられるアンテナは中身も形も変更している。このアンテナは従来ラジオや地デジのアンテナが入っていたが、それらをリアガラスへと移設。

 新型ではGNSS(Global Navigation Satelite System)アンテナを入れ、やや大きくなっている。細かなところではあるが、このアンテナの拡大はホンダ社内基準をクリアするための試験も必要だったと聞いた。それは寒冷地におけるリアガラスの視界の確保で、何分以内にリアガラスに張り付いた氷を溶かさなければNGとされるのだとか。

 リアガラスに対する空気の当たり方が変わってしまうことから、その試験をやり直し形状を吟味したというからさすがだ。かくしてハンズオフ機能付高度車線内運転支援機能を達成したのである。

インテリアはルーフライニングやピラーもブラックで統一
ホワイトレザーを採用し高級感のある専用ホワイト内装を新たに設定
アクティブノイズコントロールを進化させ車室内の静粛性も向上している

 また、従来から備わる制御コントローラーでノイズと逆位相となる打ち消し信号を生成し、オーディオスピーカーから音として出力して音の干渉を利用して不快なノイズを低減する「アクティブノイズコントロール」もさらに進化させている。

 具体的には、これまでは天井に設けた前後2つのマイクでノイズ情報を収集していたが、今回は新たに「3軸振動センサー」を前後左右に計4個設置。振動センサーはタイヤ振動を適切に検出するために4輪の各ホイールハウス周辺のボディ骨格に設置していて、室内音とタイヤ振動から打ち消すべき低周波ロードノイズを高精度に検出できるようになり、広範囲の周波数域で静粛性を向上させたという。特に荒れた路面で発生する圧迫感を伴うロードノイズの低減に効果があるそうだ。

ステアリングはデザインに変更はないが、ハンズオフ中であることを視覚的に分かりやすくするため、左右のスイッチの内側に水色のライトインジゲーターが実装されている
国内向けホンダ車として初めてGoogleを搭載。新たに追加した地図ECU(コンピュータ)+高精度地図情報にGoogleがプラスされたことでトンネル内でも途切れずにハンズオフを使えたり、高速道路の出口誘導まできめ細やかな案内を可能としている
ナビ画面の下にある黒い帯状の部分にドライバーモニタリングカメラが内蔵されていて、ドライバーの状況を監視している

 今回はそんな新たなるアコードを新東名高速自動車道で主に試乗した。とはいえ、高速に入ってシステムを起動させてしまえばあとはクルマにお任せ。感心したのは人の感覚にかなり寄り添ったというか、機械任せでは怖いようなシーンが一切見られなかったこと。

 大型トラックの脇を走るようなシーンでは、車線のど真ん中を維持し続けるのではなく、車線内でトラックとの距離を少し空けてくれたりする。

新東名高速自動車道で試乗
大型トラックが隣にくると、あくまで自車の走行車線の範囲内だが、気持ちスペースを大きくしてくれる

 また、コーナリング中には多少イン側を走ることで、アウト側のガードレールまでの距離が近くて怖い、なんてこともない。

 さらに、工事区間に突入すると運転支援をやめてステアリングを持つように促してくるところも絶妙。

メーター内のグリーンがブルーになったら「ハンズオフ機能」がスタートした合図。視覚的に分かるのでありがたい

 試乗中は3車線の一番左側を走っていたのだが、一番右側の車線だけが規制されているシーンではハンズオフを可能としていた。隣の車線まで工事区間が広がってきた時、はじめてハンズオフを解除となった制御に感心する。

 ちなみに高速道路において人を検知した場合、その後およそ3分間はハンズオフを入れないようになっているのだとか。工事作業員やパイロン規制をしっかりとクルマが認知していることが感じられるところが安心だ。

フロントセンサーカメラや制御ソフトウェアが進化することで、より正確なライントレース機能やハンズオフ機能が充実していく
前方に自車より遅い速度のトラックを検知、ウィンカーを出せばゆるやかに追い越しを始めてくれる。追い越した後も戻るウィンカーを出せばスムーズに元の車線へ戻る

 また、特に好感触だったのはトンネル区間においてハンズオフが途切れることなく、そのままキープして走り続けたことだ。今回試乗した区間にはいくつものトンネルが続いていたのだが、そのいずれでもハンズオフし続けていた。

 衛星が途切れるような状況でも周囲をきちんと把握し、高精度地図との連携によって車線をキープし続けて走るロバスト性の高さがとても実用的だと感じた。これは自動運転レベル3を市販車で初めて達成したレジェンドの「Honda SENSING Elite」における知見があってこそ。そこで得た100万kmにわたるデータが元になっているそうだ。

トンネル区間でもハンズオフが途切れるないのがとてもありがたい

 ホンダは2050年に全世界において、ホンダの2輪・4輪が関与する交通事故死者ゼロを目指しているというが、それもきっと夢じゃない。ここまで使えるハンズオフが、ベースモデルのたった40万円アップで搭載可能という現実も、今後の広がりに大いに期待を持てる。

 もちろん、そもそもシステムを奢っていたアコードだったから、その程度の金額アップで済んだという話もあるが、いずれにしてもより多くのクルマに展開される日を期待していたい。

「e:HEV Honda SENSING 360+」がより多くのクルマに展開される日を期待したい
橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一