試乗記

ポルシェ「パナメーラ」試乗 ベーシックなV6ターボもスポーツカー由来であることを主張

3世代目を迎えた「パナメーラ」に試乗

スポーティさが増したルックス

 ポルシェは2024年、全6モデルのうち4モデルを世代交代した。グローバル販売台数の31万718台という数字は前年の3%減となるが、日本では実に前年比16.1%増で過去最高となる9292台が新規登録された。その中から3世代目を迎えた「パナメーラ」に試乗した。変更点は多岐にわたり、いろいろポイントは多い。

 まずは、新しいエクステリアデザインが印象的だ。これまでの延長上でありながら、ワイド感をさらに強調するとともに、より丸みとシャープさの両方を際立たせたたようなスタイリングになった。

 アンダーボディにボリュームを与えた安定感のあるルックスの車体には、空力性能を高めるための処理や付加物がいたるところに見られる。ベースグレードでも左右計4本出しのデュアルマフラーが配されていて、エレガントさとともにスポーティさが大幅に増した印象を受ける。

今回試乗したのは日本では2023年11月より受注が開始された「パナメーラ」(1522万円)。4ドアスポーツカーのディメンションは5055×1935×1425mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2950mm
撮影車はオプション設定の高解像度HDマトリクスLEDライティングシステム、スポーツエキゾーストシステム/スポーツテールパイプ(ブラック)などを装備
こちらもオプションの21インチ 911 Turbo Designホイールを装着

 車内は一気に新しくなったデジタルコックピットが印象的だ。一新されていながらもポルシェ流のシンプルで端正なレイアウトにより、視認性に優れ操作しやすい点は変わらない。エアコンの吹き出しに一般的なルーバーをなくした斬新なデザインが採用されたのも興味深い。

パナメーラのインテリア。走行モードはノーマル、スポーツ、スポーツプラスを設定

画期的な新しいサスペンション

新型パナメーラに試乗

 パワートレーンについてはハイブリッド系の大幅な効率向上も新型パナメーラのポイントだが、今回試乗した素のグレードに搭載された2.9リッターのV6ターボエンジンも、ブースト圧、燃料噴射流量、点火時期などの変更によりパフォーマンスが最適化されている。

 最高出力は260kW(353PS)、最大トルクは500Nmと、従来モデルよりも出力が17kW(23PS)、トルクが50Nm向上しており、0-100km/h加速は5.1秒、最高速は272km/hに達するという。

V型6気筒2.9リッターツインターボエンジンは最高出力260kW(353PS)、最大トルク500Nmを発生

 足まわりには、新型パナメーラすべてのモデルに2バルブダンパーを備えたポルシェアクティブサスペンションマネジメント(PASM)を含むアダプティブ2チャンバーエアサスペンションが標準装備される。オプションで4WSを装着することもできる。

 電動油圧ポンプを備えた2バルブダンパーは、伸び側と圧縮側の減衰力を個別に積極的に増強し、走行状況や路面に瞬時に反応して1秒間に最大13回もの調整を行ない、路面の凹凸によるボディの動きを吸収するとともに、ダイナミックなドライビングをしても常にボディを水平に保ってくれる。

 この技術によりピッチやロールが抑えられ、路面からの衝撃を緩和するとともにダイナミックな走行時にも車体の安定性を確保し、乗降時には地上高を適宜、調整して乗り降りしやすくしてくれる。

 一般道をごく普通に走ってみると、これまでも十分と感じていた乗り心地がさらによくなっていることが分かる。最新のサスペンションシステムの恩恵にほかならない。操縦性にもクセがなくニュートラルステアで扱いやすい。

 それでいて素のパナメーラでもまぎれもなくポルシェらしく911に通じるものを感じる。それなりに重量感はあるが走りに一体感があり、911をはじめポルシェ車が共通して持つどこにもスキのない感覚を味わえる。

ポルシェモデルらしく、一体感のある走りを見せてくれる

 グループ内でプラットフォームを共有するベントレーやアウディも乗るたびにレベルの高さに感心させられるが、その中でもパナメーラは、一体感のある走りにおいて他モデルを凌駕している。

 タイヤが路面をしっかりと捉える感覚がステアリングを介して伝わってきて、切ったとおり正確に向きを変える。これほど大柄で重いクルマにもかかわらず、応答遅れを感じさせることなく、かといって過敏でもない。まさしく意のままに操れて、動きが手に取るように分かる。

スポーツカー由来のラグジュアリーセダン

V6エンジンは力強い加速が魅力

 2.9リッターV6ターボは、ベーシックモデルらしからぬほどパワフルで、常用域では扱いやすくて力強く、ミリ単位のアクセル操作にも正確についてくる。レッドゾーンの6800rpm超まで痛快に吹け上がる。ブレーキもキャパシティの高さはもちろん、同様に繊細なコントロールにもそのとおり応えてくれるのもポルシェらしい。

 走行モードは「ノーマル」のほか「スポーツモード」と「スポーツプラスモード」が選択でき、ノーマルでも十分スポーティなところ、スポーツモードにするとエンジンフィールもサウンドもハンドリングもより分かりやすくスポーティになる。

 エンジンレスポンスが高まり、シフトダウンではブリッピングするようになり、ステアリングはよりセンター付近がダイレクトになり回頭性が俊敏になる。

 スポーツモードとスポーツプラスモードでも明確な違いがあり、スポーツモードでも相当にスポーティなところ、スポーツプラスモードを選択するとサーキットを走りたくなるようなドライブフィールになる。さらに車高が下がり、よりアクセルレスポンスがダイレクトになり、アクセル操作でハンドリングをコントロールできるようになる。

 さらに「スポーツレスポンス」を作動させると20秒間にわたってさらに動力性能が引き上げられ、右足の動きとダイレクトにリンクしたかのような一体感が味わえる。

 ラグジュアリーな4ドアセダンでありながら、見た目も中身も由来がスポーツカーにあるという主張がヒシヒシと伝わってきた。スポーティさを訴求する高級セダンは世にいくつもあるが、パナメーラほど極めたクルマというのはなかなかない。

パナメーラからは見た目も中身も由来がスポーツカーにあるという主張がヒシヒシと伝わってきた
岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛