試乗記
ポルシェ最強の公道モデル「911 GT3 RS」を堪能 サーキット1周で虜になる乗り味とは?
2024年5月23日 08:15
低く構えた車高に、アルマイトカラーの派手な大径ホイール。巨大なフロントバンパーは至るところに冷却孔が開いていて、リアにはスワンネックステーのウイングが高くそびえている。
実に、エグい!
そのあまりの異形に、最初は筆者も大いに“引いた”。
しかし幸運にも、今回の撮影とは別日にサーキットを走らせる機会を得たことで、筆者はそれがいかに陳腐な感想なのかを思い知らされた。
ポルシェ911 GT3 RS、やっぱりコイツは最高の“レン・シュポルト=レーシング・スポーツ”だった。
ポルシェ「911 GT3」をベースに、その性能をさらに研ぎ澄ませた「RS」。
リアに搭載されるエンジンは先代GT3から投入された現行世代の4.0直噴ユニットをドライサンプ化した自然吸気の水平対向6気筒で、その最高出力は525PS/8500rpm、最大トルクは465Nm/6300rpmにまで向上した。
現行GT3(515PS/8400rpm)に対しての上がり幅はわずかに10PSアップだが、超高性能な自然吸気ユニットでこの数値は決してバカにできない。これを実現したのは主にカムプロフィールの変更とのことで、確かに最高出力の発生回転数も100rpmだが向上している。
さらにはスロットルの吸気抵抗低減処置や、オイルの偏り防止策としてブロックまでが新規になっていることを考えると、ポルシェがいたずらなパワーアップよりも大幅に向上した旋回性能に対して対策していることが理解できる。ちなみに先代911 GT3 RSの最高出力は520PS/8250rpmだ。
ということで新型911 GT3 RSのハイライトは、大幅な空力性能の向上だ。
ターボ用のワイドボディに取り付けられたフロントのカーボン製スポイラーは、その全幅をさらに25mm張り出させている。
フロントのラゲッジルームはラジエター冷却用のファンに占拠され、バンパーから吸い込んだ空気をボンネットから排出することでダウンフォースをも高めている。
フロントフェンダー上部にはタイヤの乱流を排出するダクトが追加され、それでも足りないとばかりにその後端は大胆にカットされている(リアも共通)。よって少し走っただけでも、ハイグリップタイヤがまき散らした小石が、バージボードのステーに溜まることになる。
フラットボトムのフロント側には整流板が配置され、入り込んだ空気を側方と中央に分岐。中央のフローは巨大なリアディフューザーで拡散され、フロアのダウンフォースが整えられる。
こうした空力性能は、遙かに素人の理解を超えているけれど、見た目に楽しめるものもある。その巨大なリアウイングは、なんと車内から可変できるのだ。フロントに内蔵されたフラップとこのウイングが閉じることでダウンフォースを高め、開くことでストレートスピードを伸ばしてくれる。F1でも使われる「DRS(ドラック・リダクション・システム)」が、とうとうツーリングカーにも採用された格好だ。
その空力性能はもはや、レーシングカーの領域。むしろ可変デバイスを禁止するFIA-GT3マシンよりも性能は高いかもしれない。
そんな新型911 GT3 RSだから、一般公道ではとてもその性能を精査することなどできない。同じく車内から調整可能な2WAYダンパーを思い切りハードに振ってハイダウンフォース仕様にしたとき、突き上げていた乗り味が明らかにマイルドになって、「これがダウンフォースの威力か!」と喜ぶのがやっとだった。
だがしかし、筆者は幸運にもこれをサーキットで走らせる機会を得た。富士スピードウェイをストレート1本走らせただけのアトラクションだったが、たったそれだけでも911 GT3 RSの虜になるには十分だった。
まず感激させられたのは、ステアインフォメーションの豊かさだ。遂にタイプ992からダブルウィッシュボーンとなったフロントサスは、その操舵に正確性を上乗せした。公道では戸惑うばかりだった、鋭い手応え。これがサーキットでは高い荷重を受け止めきって、格段にマイルドな操作フィールを実現してくれていた。
時速285km/hで860kgというダウンフォースのすごさは、正直分からなかった。確かにハイスピードなAコーナーの飛び込みから100Rにかけてのロングコーナーで、その挙動は安定しているのだが、決して圧倒的な安定感という印象ではない。
ヘアピンコーナーのターンインではフロント荷重を残し過ぎればリアがスーッと流れるし、第3セクターの低速セクションでも同様にブレーキングやステア量次第でオーバーステアが顔を出す。
ただしそれは教科書通りの挙動で、ドライバーは「これを使って曲げて行けばいいんだな!」と直感的に理解できる。だから集中するほどにドライビングが自ずと研ぎ澄まされて、アドレナリンが湧き出てくる。やや後輪操舵がクルマを曲げ過ぎてしまっている感じもしたが、もっとブレーキングポイントを詰めて行けばそれもバランスするのかもしれない。
ハイスピードコーナーで圧倒的なダウンフォースを感じなかったことには、さまざまな要因があると思う。たとえば広報車両は一般公道走行用に車高を高めているだろうし、その前後バランスも富士スピードウェイ用に煮詰めてはいない。また9段階調整が可能なダンパーは、真ん中の5段目で固定していたから、伸び側をもっと強めればフロアの流速を安定させられたかもしれない。
期待のDRSは、周回数の関係で残念ながらその効果が明確には分からなかった。ストレートを立ち上がってDRSをオンにしても、肝心なオフとの比較ができなかったのだ。
シャシーは525PSのパワーを上まわっており、ストレートでの恐怖感はない。ただただ9000rpmまで回るエンジンの快感を味わって、パドルを叩いていくだけだ。
ブレーキングポイントでは再びDRSをオフにしてダウンフォースを高めたが、マージンを大きく取ったせいか車体がグッと押しつけられるような感じはしなかった。とはいえ巨大なリアウイングの効果だろう、ブレーキング時の姿勢はとても安定していた。
果たして新型911 GT3 RSは、歴代最高のレンシュポルトに仕上がった。これを乗りこなすにはレーシングテクニックとセッティングに対する知識が必要なのは確かだが、だからといってそれをまだ理解できていないジェントルマンドライバーに対して門戸を開いていないかというと、そうではないところがその完成度の高さを物語っていると思う。つまり志しがあれば、きっとそのポテンシャルに近づいて行ける懐の深さが、新型911 GT3 RSにはある。
そのプライスは、なんと3378万円。オプション装備を付ければ4000万円近くまで跳ね上がるが、そのでき映えを考えると決して高いとは思わない。確かにわれわれ一般庶民との乖離は大きく、「自分には関係ない」に思えてしまうが、そんなことには一切遠慮せず、純粋にその性能を磨き上げるからこそポルシェはポルシェなのだ。
911GT3 RSは、いちクルマ好きが素直に憧れてよいスポーツカーだ。