試乗記

フォルクスワーゲンの新型「ティグアン」、3代目はどう進化した? マイルドハイブリッドとディーゼルに先行試乗

ドイツ本国で発表された3代目となる新型「ティグアン」。その国際試乗会に参加した

ティグアンが3代目にフルモデルチェンジ

 2008年の登場以来、2世代を通じて760万台以上を販売し、フォルクスワーゲンのベストセラーカーに成長した「ティグアン」。ゴルフと共通とされるMQB(Modulare Quer Baukasten)プラットフォームを採用し、居住空間と荷室の実用性をバランス良く兼ね備えたパッケージングは日常からレジャーまで活躍してくれるモデルとして重宝されてきた。駆動方式はFFと4MOTIONを設定しており、都会にもアウトドアにも映えるキャラクターはSUVブームも追い風となって、じつに幅広い層に受け入れられてきた経緯がある。

 そんなティグアンが3代目にフルモデルチェンジしたということで、ひと足早くフランスのコート・ダ・ジュールで行なわれた国際試乗会にお邪魔させていただいた。春先の南フランスは路肩の木々を見上げると、黄色いミモザの花が咲き乱れている季節で、暖かな陽射しが降り注いでいる。幸いにもドライブするにはうってつけの気候に恵まれた。

 初代のティグアンはフルサイズのSUV「トゥアレグ」の弟的な立ち位置にラインアップされたコンパクトSUVとして登場。当初はバンパー下を切り上げたオフローダーらしい機能的なデザインも存在していたが、その後、商品改良を重ね、スタイリッシュに乗りこなせるデザインが主流になっていた。

 その点、フルモデルチェンジした3代目ティグアンはMQB evoプラットフォームを採用し、力強さと洗練性を併せ持つモダンなスタイリングに進化してみせている。フォルクスワーゲンの最新のエンブレムを中心に据え、左右のヘッドランプを水平基調の大きなグリルではなく、シンプルなバーで繋ぐ、新時代のデザインを象徴するものに変わっている。

 新型ティグアンは、上位クラスに採用されているLEDマトリクスヘッドライト「IQ.LIGHT」を装備した最初のMQBモデルで、知的な眼差しで最適な配光を行ない、夜間に安全な視界確保に貢献する。バンパー下のロワーグリルは大きく口を開けた形状になっていて、スタイリッシュな上位グレードとなる「Elegance」は3本のクロームのバーが水平に刻まれ、足下には18インチのアロイホイールを装着。ハイスペックでスポーティな仕様の「R-Line」はピアノブラックに塗装された大開口グリルが特徴。19インチのアロイホイールを装着し、迫力を感じさせる仕上がりになっている。

2023年9月に世界初公開された新型「ティグアン」。欧州では同年11月に先行販売を開始しており、「Tiguan」「Life」「Elegance」「R-Line」の4グレードを展開。新型ティグアンにはマイルドハイブリッドの「eTSI」、プラグインハイブリッドの「eHybrid」、ターボチャージャー付きガソリン仕様の「TSI」、ターボチャージャー付きディーゼル仕様の「TDI」と、出力違いを含め計8つのパワートレーンで構成される

 フロントフードは従来よりも高い位置になったことで力強さが増した印象だ。ボディサイズをみると、先代と比較して全幅とホイールベースは変わっていないが、全長と全高はわずかに大きくなっている。一方で、空力にこだわりをみせているのも今回のティグアンのトピックの1つ。バンパーの外側に配置されたエアカーテンはホイールハウスに風を導いて、ブレーキの冷却効果を高める効果も。ボディサイドのディテールはこれまでのパキッとしたプレスラインで見せる手法とは異なり、どこか有機的になじむ生命感を感じさせる力強いフォルムに変わり、一方でCピラーは前方に向けて傾斜させていて、保守とは対極にあるダイナミックさを際立たせた。

 SUVは背が高いぶん、前方投影面積が広く、空気の抵抗を受けやすい点で不利になりがちだが、新型ティグアンのCd値は従来の0.33から0.28に改善している。このあたりは航続距離の延伸や低燃費などへの効果に期待してしまうところ。全体として、ボディパネルは上級カテゴリーのクルマさながらに組み上げ精度が高く、光と影を味方につけて繊細なディテールに映し出すあたりは、SUVが人気のいま、マーケットリーダーとしてのプライドを掛けて進化させてきたデザイナーの意気込みが見え隠れする。

新型ティグアンのハイライトの1つとして、より高く、よりパワフルに見えるフロントエンドが挙げられ、グリルにはガラスで覆われた水平バータイプのLEDストリップ(オプション)が組み込まれた。空力性能も向上し、Cd値はこれまでの0.33から0.28に向上

 インテリアのしつらえにも驚かされた。車内に乗り込んで、最初に目に飛び込んでくるのが「MIB4」と呼ばれる第4世代のデジタルコクピットだ。12.9インチのモニターまたは15インチのディスプレイが用意されているというが、試乗したモデルには15インチでパソコン並みに大きいディスプレイがはめ込まれていて、いくつかの情報を同時に確認できたり、カーナビを大画面で表示できたりするうえに、高精細。ここ最近のフォルクスワーゲン車のタッチスクリーンは車両設定やエアコンの操作をする際の直感性に欠けていたが、新しい世代のタッチスクリーンはサクサク動くだけでなく、本国仕様には新開発のIDAボイスアシスタントが搭載されており、オンラインでデータベースにアクセスすることが可能。インフォテイメントは質問やリクエストを語りかけて車両の音声操作をすることもできるそうだ。

 と、つい最新的なデジタル系に目を奪われがちだが、内装は素材感や品質にこだわっている。上位モデルのレザーシートはフォルクスワーゲンの文法に則って姿勢の収まりがいい。運転席と助手席に10チャンバー圧力マッサージ機能を備えた仕様もあり、快適に過ごせる装備を充実させている。外気温に応じてシートヒーターとベンチレーションをオートで作動させるモードも用意された。

 ホイールベースは2680mmで先代から変わっていないが、身長162cmの筆者が後席に座ると、膝まわりには余裕があって、足が組めそうなほどのスペースが存在している。全長は数cm伸びただけなのに、荷室の積載容量は37Lも増加していて、後席に乗員が座った状態でリアシートの背もたれの高さまで積載した場合に652Lを確保できるそうだ。リアのサイドガラスに目をやると、タイガーとイグアナのイラストが描かれているのを発見した。Tiguan(Tiger×Iguana)の車名に由来していることを示す洒落が効いた演出に思わず笑みがこぼれた。

MIB4と呼ばれる第4世代のデジタルコクピットでは、15インチの大型インフォテインメントスクリーンを設定。運転席と助手席にマッサージ機能を備えた仕様も用意されるなど、快適性が向上している

マイルドハイブリッドとディーゼル、それぞれの特徴と魅力

 走りの進化についても気になるところ。3代目となるティグアンは世界に向けて8つのパワートレーンで構成されるクルマとされており、電動化においては、1.5リッターエンジン+48VのマイルドハイブリッドのeTSI、1.5リッター+プラグインハイブリッドのeHybrid、純内燃機関のモデルとしては、2.0リッターのTSI、2.0リッターのTDIとなり、その全てがDSGと組み合わされるという。

 今回の試乗会では「1.5 eTSI」と呼ばれる直列4気筒1.5リッターのガソリンターボエンジンにティグアン初となる48Vベルトスタータージェネレーターを組み合わせたマイルドハイブリッド車のFF仕様と、2.0リッターディーゼルターボエンジンに4MOTIONを組み合わせた2.0 TDIに試乗した。

 1.5 eTSIは「すべてのドライバーが自宅に充電設備を設置しているわけではない」として、誰もがすぐに手にすることができる電動化モデルとしてティグアンに初めて設定された48Vのマイルドハイブリッド車となる。出力違いで96kW仕様と110kW仕様が存在するが、今回は高出力仕様の110kW仕様に試乗。

 搭載されるエンジンは1.5 TSI evo2と呼ばれる最新世代のもので、走行中にエンジンを停止して惰性で走るコースティングも可能。100km走行あたりで最大0.5Lのガソリンを節約できるという。1.5 TSI evoと呼ばれた当初のエンジンと比較すると、250Nmのトルクを発生する1.5 TSI evo 2はアクティブシリンダーマネージメントがさらに強化されており、4気筒のうちの2気筒をできる限り頻繁に停止して走るほか、低/中負荷時、低/中速域で燃料供給を停止する設計。シリンダーのON/OFFの切り替えが改善されているほか、エンジンの作動がさらにスムーズになったという。

 マイルドハイブリッドシステムはオルタネーターとスターターの両方に活用されるもので、48Vのリチウムイオンバッテリに蓄えた電力で12Vの電装システムに電力を供給すると同時に、アイドリングストップや気筒休止後にエンジンを再始動させる際、ショックなど感じさせることなく、非常にスムーズなエンジン始動を促してくれる。小型の電気モーターは14kWの出力と56Nmのトルクを発生するので、発進加速時はモーターパワーで後押し。ガソリンの消費を抑えられる。

 最初にハンドルを握ったのは1.5 eTSI×7速DSG、R-Line仕様のFFで、225/40R20サイズのタイヤを装着したモデルだ。アイポイントの高さはSUVらしく、見晴らしの良さが得られるが、嫌な腰高感を与えることはない。基本的には扱いやすいサイズに留まっているといえるが、気になる点を挙げるとしたら、助手席サイドの車幅感覚を少し捉えづらいところだろうか。座高が低いドライバーの場合は運転席の座面を上げるなどして、フロントフードが見えるように調整した方がよさそうだ。

 先代からの進化を感じたのは静粛性の高さ。走行時のノイズが車室内に侵入しくいことに加えて、マイルドハイブリッドのモーターアシストがあることによって、軽い踏み込みで目標車速に到達するから、エンジンはあまり頑張らずにすむ印象を受ける。さらに洗練度が増したシャシー性能もあいまって、軽快な身のこなしとともに回頭性のいいスムーズなハンドリングを楽しませてくれた。

 上り坂に差し掛かって踏み込むと、エンジンは爽快なまでに回転を高めていく。ハイブリッド車というと、フィーリングよりも燃費効率重視でエンジンを設計する場合があるが、ティグアンに搭載された1.5 eTSI evo2は発進加速はモーターの力で補えるぶん、アクセルペダルを深く踏み込んだ時のエンジンの回転フィールを大切に磨き込んでいると感じる。電動化技術を活用して環境との共存を模索しながらも、「それでも、クルマは気持ちよく走らせたいよね」という作り手の思いが伝わってくるような気がした。

 試乗会場では直列4気筒2.0リッターのディーゼルターボエンジンを搭載した142kW仕様の「2.0 TDI R-Line」(4MOTION)に乗り換えて再び試乗を開始。この仕様はTDIのエンジンでは高出力バージョンであり、なおかつ20インチのタイヤを装着したR-Line。1.5 eTSIと比較するとディーゼルエンジンの音と振動は少しワイルドに主張しているように思える。2.0リッターのディーゼルエンジン+4輪駆動の機構を搭載したことによる重量増と駆動方式の違いもあって、カーブを通過する際はどっしりと構えて走る印象で、安定方向の動きをみせる。豊かな低速トルク、加速時にゆとりが得られる点はディーゼルエンジンならではの強みで、家族や友人を乗せ、荷物満載でレジャーに出掛けるような使い方をする場合にメリットを得られそうだ。

 試乗会場からコート・ダ・ジュール空港に戻る際、最後の1台として235/50R19サイズのタイヤを装着した「1.5 eTSI Elegance」に試乗した。20インチのR-Lineと比べると、タイヤのたわみを感じとりながら、ゆったりしたリズムで流せる心地良さを与えてくれるもので、ロール感としなやかさを生かした乗り味はクルマと対話しながら走る感覚がR-Lineと比べて濃厚だなと感じた。

 時間に余裕があったので、モナコに寄り道をしてアップダウンが激しい一般道を走行。踏み込むとエンジンが主張する場面も見られたが、SUVのキャラを踏まえるとそれはそれで頼もしくも思えるレベル。急勾配が続く道筋を辿り、突然、道路の幅員が狭くなったり、ブラインドカーブを通過した直後に右折レーンに入らなければならなかったりと、初めて走った土地でかなり翻弄されるドライブルートだったが、そうした臨機応変さが求められるシーンでティグアンの車体の動きの収まりの良さが顔を出してくれたことに、感心してしまった。

 そのあたりは、プラットフォームがMQB evoに代わったタイミングで搭載されたオプションの「DCC Pro」が効果を発揮してくれている。2代目ティグアンに搭載されていた「DCC」が「DCC Pro」になった進化点としては、電子制御式のアダプティブダンパーの機構が従来の1バルブ式から2バルブ式に変更されたことで、伸び側と縮み側の個別制御が可能になっている。さらに、ビークル ダイナミクス マネージャーが各々のショックアブソーバーの減衰力を走行環境に応じて賢く制御することで、ハンドリング特性はよりニュートラルで安定し、俊敏かつ正確性が増すのだという。

 2バルブ式のショックアブソーバーはマルチリンク式サスペンションを搭載する上級クラスの車種に採用されてきたもので、マクファーソンストラット式のサスペンションとの組み合わせは初となる。ティグアンがSUVで家族や荷物を載せて起伏のある道や悪路を走ることを想定すると、フラットライドな走りは快適な乗り心地や安心感、走る楽しさを両立させることに貢献してくれることだろう。

電子制御式のアダプティブダンパーの機構が従来の1バルブ式から2バルブ式に変更された

 フォルクスワーゲンのベストセラーSUVとして進化した3代目ティグアン。ひとクラス車格が上のクルマを思わせる内外装の上質なしつらえ、乗り味、電動化を受け入れた走りは洗練されたものに仕上がっている一方で、単に優等生で終わっていなかった。幅広い層を受け入れる定番のコンパクトSUVでありながら、細部までこだわりをもって手を凝らす。変わりゆく時代の中で、彼ららしいクルマ作りが行なわれてきたのだなと感じた。

 ティグアンはフォルクスワーゲンの世界販売を支える重要なモデル。今回の試乗会ではこのモデルにBEV(バッテリ電気自動車)をラインアップするという話は聞こえてこなかった。フォルクスワーゲンはID.シリーズの車種展開を充実させてBEV化を推進する一方で、今回のティグアンはBEV一辺倒ではすくい切れない現実的なユーザーのニーズを捉えるモデルとして、多くの層に受け入れられていくのだろう。コンパクトSUVが百花繚乱のいま、日本の道でフォルクスワーゲンが培ってきた良質なスタンダードの強みを感じてみたいと思った。

藤島知子

幼い頃からのクルマ好きが高じて、2002年より市販車やミドルフォーミュラカーのレースに参戦。2017年より競争女子選手権「KYOJO CUP」に参戦。スーパー耐久 富士24時間レースにホンダ シビックタイプRで参戦するなど、自身のドライブ体験を通じたレポートも行っている。現在はレース活動で得た経験や走り好きの目線、女性目線をもとに自動車メディアやファッション誌などに寄稿。テレビ神奈川の新車情報番組『クルマでいこう!』は出演16年目を迎え、お茶の間にクルマの楽しさを幅広い世代に向けて発信している。趣味は好奇心の赴くままに走る冒険ドライブ。日本自動車ジャーナリスト協会理事、2024-2025 日本力ー・オブ・ザ・イヤー選考委員