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来日したフォルクスワーゲン イメルダ・ラベー取締役にブランド戦略について聞く GTIは、ゴルフは今後どうなる?

3月に世界初公開された新型バッテリEV「ID.2all」コンセプトとイメルダ・ラベー氏

 2023年は日本へのフォルクスワーゲン正規輸入を開始して70年目を迎える記念の年だ。前年となる2022年のフォルクスワーゲンブランドにおける販売状況は、半導体不足などにより大幅な生産制限がかかったため大きな影響を受けながらも、ブランドの世界販売台数は456万台を記録。中でもBEV(バッテリ電気自動車)は対前年比で23.6%増となる33万台を記録するなど、攻勢をかけている電動化戦略がはまっている格好だ。

 他方、日本市場では内燃機関モデルとBEVの2本柱で戦略を立てており、2022年に導入したBEVの「ID.4」とともに引き続き「ゴルフ GTI」や「ゴルフR」といったパフォーマンス車、そして柱となる「T-Roc」や「ポロ」を提供していくことがアナウンスされている。

 そうした中でドイツからフォルクスワーゲン ブランド営業・マーケティング・アフターセールス担当取締役のイメルダ・ラベー氏が来日。フォルクスワーゲンは近年「ふたたび愛されるブランドになる」という“Love Brand”を提唱しており、ラベー氏は2022年7月に取締役として就任して以来、トップマネージメントの一員として“Love Brand”をモットーにフォルクスワーゲン ブランドの新たな方向付けに積極的に関わってきた人物。

 そのラベー氏に“Love Brand”やパワートレーン戦略などについてグループインタビューで聞くことができたので、その模様をお伝えする。

 なお、ラベー氏からはICE(内燃機関)、BEV問わずGTIというコンセプト自体が今後も継続していくこと、2024年末にゴルフの次のエディション(フルモデルチェンジかマイナーチェンジかは不明)が発表されることなど、注目すべき発言があったことを先に報告したい。

GTIは今後も続く

アジア諸国の視察で来日したイメルダ・ラベー氏とのグループインタビューが行なわれた

――2023年に入ったあたりからフォルクスワーゲンブランド全体で「Love」というメッセージを積極的に発信されているように見受けられます。愛されるブランドとしての立ち位置をもう1度取り戻したい、という意味だと思いますが、いまフォルクスワーゲンブランドが消費者にどのように受け取られていると認識されているのか、また今後どのようなアクションによって愛されるブランドを取り戻していくのか。そのあたりの考えをお聞かせください。

イメルダ・ラベー氏:まず最初にLove Brandの考え方ですが、これは長い間、お客さまから見たフォルクスワーゲンのイメージをそのまま反映したものでもあります。今の時代はテクノロジーが非常に発達し、デジタル化が進んではいますが、お客さまがクルマを人生の伴侶として考えているという見方は変わっていません。クルマに名前を付けたりとか、毎日の課題を解決する大事な伴侶とクルマを見ていらっしゃいます。

 フォルクスワーゲンブランドの1番いいところは、その歴史の中でゴルフやワーゲンバスといったアイコニックなモデルがあり、お客さまの機能に対するニーズだけではなくてライフスタイルに対するニーズにもお応えしてきたという歴史があります。例えば、先ほど挙げたようなアイコニックなモデルですと、もっと自由になりたいとか、今までとは違う生活をしてみたいといったお客さまのニーズに応えてまいりました。今導入しているID.ファミリーにつきましても、他の人とは違うニーズにお答えする電気自動車という位置付けです。

 私たちには素晴らしい過去の財産がありますので、それとこれからの未来を完璧な形で融合するということがやはり大事だと思うのですが、それを具体的にどう落とし込むかということについては非常に具体的なアプローチを取っておりまして、やはり日々におけるクルマの使いやすさ、つまり機能面ということです。実際に私たちもお客さまに調査などをした結果、実際にこれだけデジタル化が進んでいるにもかかわらず、お客さまは直感的に使える機能を求めていらっしゃることがよく分かりました。

 ダイヤルを例に挙げますと直感的に操作できる、シンプルに操作できる、こういったことがやはりお客さまのニーズだろうということが分かりましたので、Love Brandの中では特にこの部分にフォーカスしております。既存の商品についてはその部分をさらに加速させておりますし、今後出てくる新商品についても積極的に取り入れています。

 例えば「ID.2all」(2023年3月発表)という新しいモデルがございますが、このモデルには今私が申し上げた考え方というのが非常によく現れています。お客さまからご覧いただいた時にいかにもフォルクスワーゲンらしいデザインというのが非常に大事なのです。クラシックなデザイン要素を取り入れて、見たらすぐにフォルクスワーゲンだと分かっていただけるというのがまず大事な要素ということ。あと、ユーザーエクスペリエンスの部分、例えば車内の温度調節ですとか音楽のボリューム調整、そういったものはやはり直感的に使えるというのが大事だと考えています。

ID.2allのボディサイズは4050×1812×1530mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2600mm。166kW(226PS)を発生する駆動モーターを前輪に搭載し、航続可能距離は約450km(WLTP)。目標価格は2万5000ユーロ未満としている

 これまでステアリングにスライダーを使っていたものをHMI(Human Machine Interface)にするなど、とにかくデジタル化の時代であっても簡単に操作できるものが必要だと考えています。ほかにもユーザーエクスペリエンスにフォーカスしている部分もあるのですが、このように日常生活における使いやすさというのをデザインの中にも取り入れることで、Love Brandになることを目指しています。

――フォルクスワーゲンは今お話にあったように非常にユーザーといい関係を結んできた稀なブランドだと思います。これからBEVになっていったときにどのようにデジタル技術を使いながら新しい関係、お互いを思いやる関係を構築していけるとお考えでしょうか。ハプティクス(触覚提示技術)以上に期待できるものとは?

イメルダ・ラベー氏:私たちのビジョンは、先ほど言った2つの要素を融合することだと思っております。一方でハプティクスな要素も必要なので、これからもそれは継続してまいりますけども、それと同時にこのデジタル時代において、お客さまの日常生活の中でエンターテイメントとのインタラクションやブランドとのインタラクションをデジタルで行なうということもすごく大事な要素だと思うのです。この2つというのは、お互い排除するものではなくて、むしろ補完するものだと思っています。

 例えばデジタル化という面では、現在インカーCRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)ということに取り組んでいるのですが、クルマのデータを収集し、こちらからソリューション(課題解決)を提供する。例えば「もうすぐメンテナンスを受けるタイミングです」といった情報をお客さまにお知らせするためにディスプレイに表示して、お客さまがそこでインタラクト(交流)するといったようなこともLove Brandになる要素の大事な1つだと思っています。これはまさにライブでのクルマとのインターラクションということになりますよね。

 それからデジタル化の中で、Love Brandをどうやって進化させていくのかということですが、やはりお客さまのエンターテイメントに対するニーズがますます高まってきています。今、色々なアシスト機能がクルマに搭載されており、クルマの運転操作自体が容易になっていますから、自由度が増したお客さまはその空いた時間をエンターテインメントに使いたいというニーズをお持ちでいらっしゃいます。なので、私たちとしてもデジタル化のソリューションを色々提供するための投資というのを現在行なっております。

 また、電動化時代であってもやはりファン・トゥ・ドライブという部分はとても大事だと思っています。それは電動車でも内燃機関車でも一緒で、最近ポロ GTIのデビュー25周年記念モデルを発表しましたが、GTIのコンセプトは今後ゴルフでも継続してまいります。実は2024年にヴォルフスブルク(※フォルクスワーゲンの本社があるドイツの都市名)で「GTIミーティング」という大きなイベントを予定しておりまして、その発表には非常に大きな反響をいただきました。お客さまからは本当にすごい、フォルクスワーゲンは楽しいというお声をたくさんいただいておりますので、このGTIというコンセプト自体は今後も継続してまいります。それは内燃機関車であっても電動車であっても、両方強調してまいりたいと思っています。GTIは今後も続きます。

 では(GTIの)電動化をどうするのかということについて、ちょっとまだ時期尚早なので詳しくはお話できないのですが、なかなかいいアイデアがございまして、今後もそのコンセプト自体は継続してまいります。それからRモデルについても非常に重要なモデルでして、ブランド自体をよりエモーショナルなものにするために、非常に重要な役割を担ったモデルだと思っています。

2024年にヴォルフスブルクで「GTIミーティング」と呼ばれる大規模イベントを予定

――ICEとBEVの比率について、ヨーロッパや中国と比べて日本のBEVの割合は少ないかと思います。その日本市場をどう見ているのかを教えてください。

イメルダ・ラベー氏:日本市場はある程度承知しておりまして、実は日本と同じような状況のマーケットが他にもいくつかございます。フォルクスワーゲンはピープルズ・カー・ブランドなので、どの市場においてもお客さまがお望みのものを提供することが使命だと思っております。電動化へのトランスフォーメーションというのは、やはりそのマーケットによってペースが異なります。日本はまだ3%~4%と聞いておりますけども、一方でノルウェーあたりですとほとんどICEモデルは売ってないような状況です。ですのでそのペースはマーケティングによって違うというのは十分認識しております。

 私どもの戦略というのは、先ほど申し上げたとおり1つはICEモデル、もう1つは電動化へのトランスフォメーションということで、この2つのバランスを取りながら進めてまいります。やはりLoveブランドになるためにはICEモデルにエネルギーを注ぐと同時に、電動化も進めてまいりたいと思っております。

2024年末にゴルフの次のエディションが発表

「フォルクスワーゲンといえばゴルフ、ゴルフといえばフォルクスワーゲン」とし、今後もゴルフが継続することがアナウンスされた

――先ほどフォルクスワーゲンにとって「ゴルフは非常に重要なモデル」ということを言われましたが、ゴルフの行方が非常に気になっています。ICEと電動化の狭間にあって今後ゴルフはどうなるのか。完全に電動化されてもゴルフは残るのか、それともゴルフはもう終わってしまうのか。それを教えてください。

イメルダ・ラベー氏:はい、ゴルフは残ります。フォルクスワーゲンといえばゴルフ、ゴルフといえばフォルクスワーゲンなので、これからも残ります。ただ、他にもアイコン的な製品がございまして、今日本では特にSUVへのニーズがかなり高まっているということで、ティグアンも非常に存在感のあるモデルに成長してくれました。

 そのアイコン的な製品はそのままキープしつつ、電動化したポートフォリオにうまく落とし込むというのが私たちの戦略なのです。その最たる例がID.Buzzだと思うのですが、ブランドポジショニング上、アイコン的な製品と呼ぶ以上はやはりブランドのヘリテージをきちんと反映し、なおかつその未来のバリューに答えられる、そういったものでなければいけないという厳しく明確な基準を設けております。ID.Buzzはご覧いただいているとおり、まさにそれができていると思うのですが、そう考えると電動化したゴルフというのは本当にゴルフのアイデンティティを完全に反映したもの、そういったコンセプトができ上がるまでは発表いたしません。

 ID.2allを見ていただいたと思いますけども、同じように電動化したゴルフにつきましても本当にゴルフらしいモデルでありながらモダンで、そういったものでなければならないということははっきりコミットしております。なので私たちが100%納得できるコンセプトができたら、その時に発表ということになろうかと思います。

 ただ、日本市場について1番大事なのは、2024年末にゴルフの次のエディションが発表になることだと思います。新しいエディションのゴルフ、それとGTIも新しくなりますので、そこをしっかり訴求することが大事なことだと思います。電動化のゴルフはその次の時代ということになります。

――電動化戦略のところで日本のニーズに合うものを出していきたいというお話でしたが、日本では電動化があまり進んでいないからICEモデルが中心となるのか、それとも日本独自のニーズがあるのか。そのあたりを教えてください。

イメルダ・ラベー氏:ICEモデルをアップデートするというのは世界中で行なうことでして、引き続きICEモデルについてもお客さまからニーズや関心があるということで、ICEモデルのアップデートは今後も継続してまいります。来年ゴルフが新しくなりますし、ティグアンもパサートもアップデートしてまいります。

 新しい製品をICEモデルで導入するということは引き続き重要なことだと位置付けておりますし、それと同時により製品をエモーショナルにするための例えばRラインやGTIも導入してまいります。これは戦略の一環でして、それを日本にも適用するということです。今後もゴルフの新しいエディションを日本で出してまいります。

 それと同時に、積極的に電動化へのトランスフォーメーションも行なってまいりますので、2つ同時並行ということになります。マーケットによってトランスフォーメーションの進捗が異なりますので、それに合わせることになるのですが、日本の場合は当面はどちらかというとICE寄りということになります。

 ただ、2022年に導入したID.4は本当にすごくいいモデルです。非常に完璧な電動化モデルであると同時に、フォルクスワーゲンらしいブランドをよく体現したモデルで、特にアーリアダクターの皆さま、電動化を進めていらっしゃる方にご評価いただいています。

既存モデルとともにID.シリーズも高い評価を受けているという

――BEVでGTIが期待できるのはよく分かりました。そうじゃないモデルでフォルクスワーゲンが作るBEVの価値と言いますか、どういうものを持ってLoveという感情をカスタマーとプロダクトの間に生成できるとお考えでしょうか。多くの方は運転するのが好きですし、もちろんエンターテインメントも大事なのですが、もう少し本質的なものがあるんじゃないかなと。

イメルダ・ラベー氏:はい。電気自動車に乗っていただくと、本当に動力が良くて加速がいいというのはご存じのとおりですが、電気自動車の技術自体がファン・トゥ・ドライブの土台を備えたものだと思うのです。非常に加速がよく、しっかり地面を踏む感じがあるのですごくいいと思います。GTIのフィーリングというのも電動化でも絶対再現できると思っておりまして、あとはビジュアルの要素も非常に大事なので、デザインバリューですね。これはやっぱりフォルクスワーゲンらしいデザインバリューを取り入れるということも大事な要素だと思います。

 そしてID.2allのデザインは非常にお客さまからの反響が大きかったのですが、本当にモーショナルなパワーが伝わるデザインだよねと評価をいただいています。インテリアにもエモーショナルなデザイン要素をふんだんに取り入れており、例えば過去のアイコニックなモデルの要素を取り入れ、ブレーキペダルやダイヤルの部分など本当にフォルクスワーゲンらしくでき上がっておりまして、そこは色々な方面から非常に高い評価をいただいております。

 なので電動化しても乗って楽しいエモーショナルな部分というのは再現できると思っておりますし、電気自動車のパッケージ全体がすでに申し上げたような理由からエモーショナルものだと思っております。

ID.2allのインテリア

――オンライン販売に舵を切っているブランドもありますが、販売についての考え方についてお聞かせください。

イメルダ・ラベー氏:私たちはオムニチャンネルというエクスペリエンスをお客さまに提供しなければならないと考えています。つまりお客さまの買い方を選べるようにする、どこで情報を取るかお客さまが選べるようにするというのが私たちの考え方です。お客さまの中には全部インターネットで情報収集したいという方もいれば、情報はインターネットで取るけども、納車だけはディーラーで行ないたいお客さまもいれば、すべてディーラーのセールススタッフにおまかせする方もいらっしゃいますので、それぞれ違ったお客さまのニーズに応えることは必要だと考えています。

 ただ、今後ディーラーがなくなる世界というのは、これは絶対にあり得ないと思っています。オムニチャネル制度の中でもディーラーは欠かせない要素の1つなので、お客さまがオンラインでオーダーしてもディーラーは欠かせない要素だと考えています。ではオンラインで買えないのかと言うとそうではなくて、それはマーケットによってお客さまのニーズも異なりますので、それぞれのニーズにお答えすることが必要だと考えています。今後ディーラーを排除するということはございません。それは私たちの販売戦略です。

 1つ確実に言えるのは、ディーラーというのは私たちにとって非常に価値の高く、また非常に貢献度の高いネットワークでございますので、今後、ディーラーネットワークを介することなく直接販売するということはございません。ディーラーというのは非常に重要な私たちの顔で、特に日本市場ではお客さまのロイヤリティが非常に高く、セールススタッフとの個人的な繋がりが非常に重要視されていますので、そういった意味でもディーラーに対して私たちは今後もコミットしてまいります。