試乗記

新型バッテリEV「MINI クーパーSE」初試乗 デジタルネイティブ世代をワクワクさせるコンパクトカーに

新型「MINI クーパーSE」に試乗

最新世代のラインアップを整理

 バルセロナ空港からほど近い、崖岸沿いにあるリゾートホテル「ME Sitges Terramar」をベースに、新型「MINI クーパーSE」のテストドライブが開催された。

 最新世代のMINIシリーズはそのラインアップが複雑なので整理しておくと、まずパワーユニットが内燃機関モデルとBEV(バッテリ電気自動車)の2本立てとなった。ボディタイプは現状3ドア、5ドア(ガソリン仕様のみ)、コンバーチブル、カントリーマン(旧クロスオーバー)、エースマン(BMW iX1とメカニズムを共用するBEV専用車)の5種類。エステート仕様のクラブマンは2月で生産が終了し、最新世代にはラインアップされない。

 ということでMINI クーパーSEだが、これは文字通り「クーパーSのBEV仕様」だ。ちなみにMINIの3ドアモデルは、今回から全て「クーパー」と呼ばれることとなった。さらに言うとそのプラットフォームは、ガソリン車とBEVで別仕立て。その生産は前者がイギリスのオクスフォード工場、後者が長城汽車との合弁会社「スポットライト・オートモーティブ」で行なわれる。

 3ドアの電動モデルとしてはまずベーシック仕様の「クーパーE」があり、その高出力仕様として「クーパーSE」がラインアップされる。出力は前者が136kW(184PS)/290Nmであるのに対し、後者は160kW(218PS)/330Nmを発揮。またバッテリ容量もクーパーEの40.8kWhからクーパーSEでは54.2kWhまで容量が拡大されており、航続距離も305kmから402kmまで延長されている(ともにWLTPモード)。ちなみにクーパーSEの充電時間は、欧州仕様の普通充電(7kW)で7.75時間。急速充電は90kWまで対応している。

今回試乗したのは新型BEV「MINI クーパーSE」。ボディサイズは3858×1756×1460mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2526mm。搭載するリチウムイオンバッテリ容量は54.2kWhで、モーター出力は60kW(218PS)/330Nm

BEVならではのショートオーバーハング&ロングホイルベースなMINIに

 MINI クーパーSEを走らせてまず心地いいと感じたのは、そのコンパクトなサイズ感だ。MINIはモデルチェンジのたびにサイズを少しずつ拡大してその揚げ足を取られてきたが、今度のクーパーSEは全長が3858mmと、先代のMINI クーパ-3ドアよりもむしろ少し小さくなったのだ。ちなみにトヨタ「ヤリス」(3940mm)と比べても、40mm以上もコンパクトだ。

 対して全幅は1756mmと少しだけワイドになっており、ホイールベースも2526mmと少しだけ長くなった。まさにBEVならではのショートオーバーハング&ロングホイルベースなミニに仕上がった。

 そしてこのBEVボディをさらに扱いやすくしてくれるのが、モーターのリニアリティだ。ご存じの通りモーターはトルクレスポンスがリニアだから直感的に加速ができ、慣れないランナバウトでの合流や離脱がとても楽だった。

 興味深いのは駆動方式で、MINIはBEVとなっても前輪駆動を採用した。フォルクスワーゲンのように、電費効率を求めて後輪駆動とはしなかった。一番の理由は荷室スペースの確保だと思うが、これなら既存のMINIからスイッチしても違和感なく運転できるだろう。ちなみにMINI カントリーマンSEと「エースマン」には、4WDもラインアップされる。

 対してそのフットワークはちょっと保守的だと感じた。MINIといえばイメージされるのは「ゴーカート ハンドリング」だ。しかしクーパーSEの足まわりは、極めてしなやかにセットされている。BEVならではの低重心さとフロア剛性の高さによって、足まわりを硬めずともレベルの高い走りができてしまうのだ。

 ワインディングでは曲がり込んだコーナーでも、かなりのレベルまで操舵が追従する。コーナリング中は微妙なアクセル操作に対してトルクが思い通りに追従するから、姿勢も安定させやすい。かつクリップからアクセルを踏み込んでいけば、横Gを縦Gへとスムーズに変換できてしまう。そこには実に玄人好みなドライビングプレジャーがある。一方で誰にでも分かりやすい、ゴーカート的なアジリティは失われた。

 実を言えば先代あたりからこうしたテイストは徐々に失われ、MINIのハンドリングと乗り心地は大きく洗練されてきている。もちろんこのBEVアーキテクチャをベースにサスペンション剛性を高めていけば、超ゴーカートなハンドリングは実現できるはず。しかしそれだと、ベーシックモデルとしては回頭性が鋭くなりすぎてしまうのかもしれない。

 とはいえせっかく素晴らしいボディバランスを得たのだから、スポーティなモードでは電子制御ダンパーや駆動の制御を先鋭化させて、普段は快適に走る2段構えを取ってもよかったと思う。もちろんそこにはコストが必要だし、そうしたホットなドライビングはジョン・クーパー・ワークスに取っておいてあるのかもしれない。

 ちなみに回生ブレーキはセンターコンソールのシフトで「B」を選ぶことで、いわゆるワンペダルドライブが可能だ。そしてこれも欲を言えば、パドルで段階制御できればなおよかった。

インフォテイメントとパワーユニットの制御はかなりアグレッシブ

 フットワーク面ではちょっと保守的なMINI クーパーSEだったが、インフォテイメントとパワーユニットの制御はかなりアグレッシブだ。クラシックMINIから受け継がれる丸型のセンターメーターは大型の有機EL製タイプとなった。「Hi MINI!」で起動するキャラクター「MINI・ドッグ」とはまだコミュニケーションをうまく取れなかったが、画面自体は発色も素晴らしく画面がとても見やすい。

 なおかつBMWですでに実用化されている「AR」機能もインストールされており、カメラが映し出す映像に誘導線を描いて、音声とともに行く先を案内してくれる。たまにその指示が分かりにくいときもあるけれど、基本的にはとても便利な機能であり、この先の洗練がますます楽しみだと感じた。

 リサイクル・テキスタイルでトリムされたダッシュボードはシンプルだが、とってもスタイリッシュ。速度やバッテリ状況を知らせる情報はセンターメーターに集約されるが、ヘッドアップディスプレイがあるから運転中の視線移動も最小限で済む。

 センターコンソールのエクスペリエンスと書かれたトグルスイッチを押すと、8種類のモードが選べる(音声やセンターパネルからも選択可能)。ドライブモードとしないのは、サウンドや光、メーターデザインだけが変更される場合もあるからだろう。

MINI クーパーSEのインテリア。先進性が感じられつつミニらしい仕上がりに

 ベーシックなモードは「コア」。アクセルを踏み込むと同時に電子サウンドが適度な音量で盛り上がり、加速度を耳からも意識させてくれる。最もスポーティなのは「Go Kart」モードで、これを選ぶと大型メータ-が一瞬でブラックのスポーティな仕様に変わる。明るいと分かりにくいがダッシュボード・プロジェクターもスポーツ仕様に変わる。

 動力性能的には、アクセルレスポンスが向上して電動パワステがちょっと重ために。かつ車両安定装置の制御もよりスポーティな制御となるようだが、オープンロードでその違いは分からなかった。そしてアクセルを踏んだときのサウンドが、一段と大きく派手になる。ハンドリングのキャラクターは変わらないけれど、視覚・聴覚でスポーティさを演出しているというわけだ。

 ユニークなのは「タイムレス」モードだ。これはクラシックMINIをオマージュしたモードで、動力性能的には「コア」と変わらないが、まずセンターメーターがベージュ色のレトロなグラフィックに変わるのがとてもかわいらしい。

 サウンドは低速時こそクラシックミニをイメージさせるメカニカルノイズを模しているようだったが、加速していくと未来的なサウンドになる。そもそもクラシックMINIはエンジンサウンドよりも駆動系のノイズが特徴的だから、昔を知らないとあまりニヤけられないかもしれない。また個人的にはキャブレターサウンドを再現した方がおもしろかったんじゃないかな? と思ったが、努力は認めよう。何はともあれ、デジタルにはこうした楽しみ方がある。

 そして「エフィシエント」モードでは、サウンドエフェクトがカットされて無音になる。通常はグリーン画面に鳥が羽ばたいているが、加速するとピンク色の画面でチーター(?)のグラフィックが滑らかに走り出すのは見ていても楽しかった。

 このほかにも「バランス」モードではリラックス空間を演出できたり、メーターに好きなグラフィックやショートカットをカスタム配置したりできる。静粛性が高く乗り心地もよいBEVだけに、音楽との親和性も高いだろう。

 総じて新型MINI クーパーSEは、デジタルネイティブ世代をワクワクさせるコンパクトカーに仕上がっていた。個人的にはもう少しスパイシーな走りをしてもよいと思えるけれど、ともあれ初めてのBEV MINIとして、その完成度はとても高い。

VRヘッドセットごしに仮想空間を見ながら走る!

「MINI Mixed Reality Experience」も体験

 なお、試乗会では「MINI Mixed Reality Experience」(ミニ ミックスド リアリティ・エクスペリエンス)も体験した。

 これはトランクに大きなゲーミング・コンピュータを搭載したミニを実際に運転しながら、仮想世界を走るとってもユニークなアトラクション。ドライバーはVRヘッドセットごしに仮想空間を見ながら走るのだが、アクセルやブレーキ、ステアリングといった操作系が映像の動きとリンクしているから、本当にVRワールドを走っているかのような気分になるのだ。

 たとえば仮想現実のコースはとても道幅が細く、両側が断崖だったり、途中で途切れていたりする。しかし実際はただの広場だから、ミスコースしても何も起こらないのだが、映像と動きがあまりにリアルだから、思わずブレーキを踏んだり、必死になってハンドルを切ってしまうのだ。

 現在でもさまざまな分野でVR技術はシミュレータとして活用されているが、実際のクルマを使って現実世界とリンクするAR(オーグメンテッド・リアリティ)技術は筆者も初体験だった。

 今後MINIはこの技術を自動運転の分野で活用すると発表しているが、具体的なアイデアはまだ述べられていない。少し考えただけでもかなり高度な安全講習や、実践的なドライビングトレーニングに役立ちそうだし、単純なアトラクションとしても人気が出ると思う。

山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身
A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。
編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してレースレポートや、イベント活動も行なう。