試乗記

ジープ「ラングラー」の「アンリミテッド スポーツ」に試乗 復活したエントリーグレードは装備充実、走りも良好!

ジープ「ラングラー」

日本で売れまくっている

 都内に住んでいて、外出すれば見かけない日はない。それもそのはず、ラングラーは日本で売れまくっていて、現行のJL型になってこれまでの日本における累計販売台数は、2024年5月の時点で実に2万5000台に達している。

 JAIA(日本自動車輸入組合)による新車販売台数は、2020年に5756台、2021年には6930台もの台数を販売し、ミドルクラスの輸入SUVで首位となった。2022年は3814台、2023年は4078台と少々落ちて2位、3位となったとはいえ、売れていることには違いない。

 ご参考まで、2023年の世界での販売台数がもっとも多いのは本国のアメリカで、2番目がカナダとお膝元が続き、世界最大の自動車市場である中国が3番目に多い。そのわずか300台あまりの差で日本が4番目となっている。

 また、日本では購入者の平均年齢が43歳と他のSUVに比べると若いことや、Z世代が購入したいクルマのSUV部門で輸入車の1位に選出されたというから、当面は売れ続けそうな勢いだ。

 そんなラングラーが、2018年の日本導入から6年ぶりにマイナーチェンジした。ポイントとしては、デザインの変更、装備の充実、エントリーグレードの「アンリミテッド スポーツ」の復活とそのほかのグレードの値下げが挙げられる。

 いつのまにかラングラーもずいぶん値上がりしたように感じていたところだが、アンリミテッド スポーツの価格は799万円と、かろうじて800万円を切った。そのほかのグレードも、アンリミテッド サハラが従来比で31万円安い839万円、アンリミテッド ルビコンが同16万円安い889万円となった。

今回試乗したのはエントリーグレードのラングラー アンリミテッド スポーツ。価格は799万円
ボディサイズは4870×1895×1845mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3010mm。最小回転半径は6.2m
アンリミテッド スポーツはJL型の日本導入時にはラインアップされていたものの、一時ラインアップから姿を消していたグレード。今回、エントリーモデルとして再導入された

「スポーツ」はどんなクルマ?

 フロントフェイスにはブラックテクスチャーの7スロットグリルが新たに採用されたので、ひと目で新旧の区別がつく。このボディカラーだとそれほど目立たないが、顔面を真っ黒にするのは、このところ他社のニューモデルでもちらほら見受けられるとおり、新たなトレンドになっているようだ。

 また、従来フロントフェンダーにあったマストアンテナが取り去られ、そこに「Trail Ratedバッヂ」が装着されており、アンテナはフロントウインドシールドに埋め込まれた。そのウインドシールドについても、これまではオプション設定だった、薄型ながら強度に優れ傷がつきにくい「コーニングゴリラガラス」が新たに全車に標準装備されたのも歓迎だ。

 試乗したのは、くだんのアンリミテッド スポーツだ。以前に設定されていたときももっとも販売比率が高かったことから、今回も売れ筋になることが予想される。ほかの2グレードに対して、いじることを想定してあえて内外装が素のままとされている。

 外観では、たとえばサイドステップの部分には好みで選べるよう何も付けられていない。既存グレードもホイールのデザインが変更されたが、アンリミテッド スポーツはグレーアクセント入りの17インチアルミホイールにオールテレーンタイヤが組み合わされる。

ジープの顔となる7スロットルグリルは縦の幅を狭めた新しいデザインへと変更。よりスタイリッシュな印象としつつも、キープコンセプトを保っている
全グレードでマストアンテナは廃止され、アンテナはフロントウインドシールドに統合。アンテナがあった場所には、ジープ社内の厳しい性能テストにクリアしたオフロード性能に優れたモデルにのみ与えられる「Trail Ratedバッヂ」を装着する
強度の高いコーニングゴリラガラスを全車標準装備
ウィリスのシルエットがセンターキャップに入ったグレーアクセント入りの17インチアルミホイールに、試乗車はオールテレーンタイヤのネクセン「ROADIAN ATX」を組み合わせていた
リアゲートは上部のガラス面だけを開くこともできる
リアゲートの内側には車両のスペックが記載される

 車内には、レザーや合皮のパワーシートではなく手動調整のファブリックシートが装備される。インパネはほかのグレードではレザーが貼られる部位にファブリックが貼られている。アンリミテッド スポーツが以前設定されていたときには樹脂だったので、ファブリックが貼られたことで印象がずいぶん変わっている。それ以外の主要な装備はほぼ同等ながら、シフトノブやバニティミラー、リアセンターアームレスト、シートバックポケットなどが微妙に差別化されている。

 インパネの中央には、全車標準装備となる第5世代の「Uconnect5システム」を搭載した新12.3インチタッチスクリーンが配置されている。短時間ながら試乗時に試したところでは、従来のものよりも大幅に進化していて使いやすそうな印象を受けた。また、ラングラーとして初めて前後にサイドカーテンエアバッグが全標準装備されたのも大きな進化点だ。

 一般的なSUVよりもはるかに高いところに目線があるのはラングラーならではで、この車体形状のおかげで意外と見切り性がいい。簡単に外せて開放感のあるドライブを楽しめる「フリーダムトップ」があるのもうれしい。

ラングラー アンリミテッド スポーツのインパネ
シート表皮はファブリック
ステアリングにはアクティブクルーズコントロールのスイッチなどを配置
シフト横には副変速機を配置
画面サイズが拡大して12.3インチとなったタッチスクリーンディスプレイ
メーター中央の表示は切り替え可能
アンリミテッド スポーツはインパネパネルなど車内のパネルにファブリックを採用
簡単にルーフを外せる「フリーダムトップ」が採用されているのもラングラーの魅力。その気になれば車載工具を使ってドアも外せる
ルーフを外してもサウンドバーは残る
リアシートを倒した状態の広々としたラゲッジ
サブウーハー付きアルパイン製プレミアムスピーカーを標準装備

乗り味が明らかに変わった

 走りに関する変更は一切伝えられていないが、乗ると明らかに違う。乗り心地が格段によくなっていて、動きも自然であることに驚いた。アンリミテッド スポーツは17インチのオールテレーンタイヤを履くが、これがなかなかいい仕事をしているようだ。

 サイドウォールまでブロックが回り込んだラングラーによく似合うラギッドなトレッドデザインをしていながら、舗装路でもノイズが小さく、しなやかさもあり、直進性が十分に確保されている。そして、ステアリングの中立付近に曖昧な感覚がなく、切り始めからちゃんと手応えがあって応答遅れなく曲がる。

 路面の継ぎ目を通過したときにも、従来ならもっと車内まで衝撃が響いていたであろうところがガツガツと来ることもなく、バタつきも小さめだ。おそらくアンリミテッド スポーツ専用のシートも路面からの入力を効果的に吸収してくれている。

 つい先日も日本車のピックアップでラダーフレームでもここまで快適にできることに驚いたばかりだが、ラングラーもそれに通じるものを感じた。まだ2000kmあまりしか走ってない新しい個体であることを考慮しても、この進化は小さくない。

 直列4気筒2.0リッター直噴ターボのエンジンフィールも、当初よりもずいぶん洗練されたように感じた。オフロードではなおのこと重要な初期のアクセルレスポンスがリニアで、ほんのわずかに踏んだときでもそのとおり繊細なコントロールに応えてくれるおかげで、とても扱いやすい。そこからの吹け上がりがスムーズで、音や振動もよく抑えられている。最高出力が270PS、最大トルクが400Nmもあるので、性能的にも十分だ。力強くなめらかな走りでクルマが軽くなったように感じられた。

最高出力200kW(272PS)/5250rpm、最大トルク400Nm(40.8kgfm)/3000rpmを発生する直列4気筒DOHC 2.0リッターターボエンジンを搭載。トランスミッションは8速AT

 見た目は魅力的でも乗るにはいろいろガマンをしいられる面もなくなかったラングラーだが、どんどんそれが改善されている。おそらく今後の売れ筋になるであろうアンリミテッド スポーツの復活を歓迎するとともに、その走りのよさも大いに感心したことをお伝えしておきたい。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛