試乗記

アルピーヌ「A110」シリーズイッキ乗り 販売終了がアナウンスされた至極のミッドシップを味わう

「A110」「A110 GTS」「A110 R 70」の3モデルに試乗

最終のA110の3モデルを一気に乗り比べ

 アルピーヌ「A110」の生産終了発表を受け、長野県の車山高原においてA110として最後となる報道試乗会が開催された。用意されたのは、それぞれ個性の異なる3モデルのA110だ。

 4月にラインアップの改編があったばかりで、ベーシックな「A110」はカタログモデルから限定車のみという扱いとなり、それもすでに完売していて、購入できるのは今回設定された限定車が日本で購入できる最後の素のA110ということになる。

「GTS」は、従来はグランツーリスモ的な性格の「GT」とサーキット向けのスポーティな「S」という別け方がされていたのを、それぞれのいいトコ取りをして1つのグレードにしたという成り立ちとなる。

「S」のシャシースポールが装着されていながら、コクピットには「GT」に標準のリクライニング機能付きのシートが与えられているほか、装着可能なオプションの幅がグッと広がったのもポイントで、たとえば「S」に設定されていたエアロキットやバケットシートに変更することもできたり、後述する「R 70」に付く大型で幅広のディフューザーも選択できたりする。より好みに応じてクルマを仕立てることができるようになったのも「GTS」の特徴だ。

「R 70」は内容的にはこれまでの「R」と変わらず、アルピーヌの70周年を記念して、世界770台の限定車が日本にも導入されたものだ。日本では限定車という扱いではなく、通常通りの受注受付となるが、国ごとの生産枠の上限があるので、その枠の中でとなる。

「A110」のボディサイズは4205×1800×1250mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2420mm。直列4気筒DOHC 1.8リッター直噴ターボエンジンは最高出力185kW(252PS)/6000rpm、最大トルク320Nm(32.6kgfm)/2000rpmを発生。トランスミッションは7速ATを組み合わせる。タイヤサイズはフロント205/40R18、リア235/40R18。なお、現行A110の生産が2026年6月に終了することが発表され、日本では2026年3月末で受注を終了することが決定。ただし生産枠が終わった時点で受注を終了するとのこと
「A110 GTS」は「A110 S」の高いスポーツ性能と「A110 GT」の快適性を併せ持つモデル。ボディサイズは4205×1800×1250mm(全長×全幅×全高)。エンジンの最高出力は221kW(300PS)/6300rpm、最大トルクは340Nm(34.6kgfm)/2400rpmを発生。タイヤサイズはフロント215/40R18、リア245/40R18
「A110 R 70」は徹底的な軽量化による運動性能の向上を目指し、フロントボンネット、 ルーフ、リアフード、リアスポイラー、さらに18インチホイールも軽量なカーボンを採用。エアインテーク付きフロントボンネット、大型ディフューザー、サイドスカート、スワンネックタイプのリアスポイラーなども搭載する。車両重量は1090kgともともと軽量なA110からさらなる軽量化を実現した。ボディサイズは4255×1800×1240mm(全長×全幅×全高)。エンジンの最高出力は221kW(300PS)/6300rpm、最大トルクは340Nm(34.6kgfm)/2400rpmを発生する。タイヤサイズはフロント215/40R18、リア245/40R18

 場所は、まるでスイスの高原のような風光明媚な車山高原で、そんな「A110」「A110GTS」「A110 R 70」という3モデルを一気に乗り比べることができたというのも貴重な機会だ。

 そもそも「A110」の登場時には、こうしたワインディングを走って楽しめるクルマとして開発されたという経緯がある。アルピーヌにとってエンジン車として最後になるA110の原点に立ち返り、A110とはこういうクルマだということをあらためて思い出してもらえればという思いから、車山高原のようなステージを選び、あえて素のA110も用意してくれたのだという。

こんなに楽しいクルマだっけ!?

A110シリーズを車山高原で乗った

 その素の「A110」にひさびさに乗って感じたのは、ちょっとしたなつかしさとともに、こんなに楽しいクルマだったっけ!? とあらためて感じたというのが率直な第一印象だ。もちろん以前もその楽しさは十分に味わったはずだが。

 まさしく意のまま。すべてが手に取るように感じ取れ、走って曲がって止まれる。速さだって十分だ。しなやかに路面を捉える足まわりのおかげで、安心して攻めていける。シートもいい。

素のA110も意のままに走れる

「GTS」は見た目は控えめながら乗ると素の「A110」とはだいぶ違う。以前は「S」のスポーツシャシーは公道で乗るには硬いと思っていたものだが、ときおり荒れた路面に出くわしても車山高原のようなワインディングを走ると、俊敏な回頭性が際立つハンドリングが実に心地よい。

A110 GTSは俊敏な回頭性が際立つハンドリングが特徴

 出力向上したエンジンも、いかにも高性能なクルマを操っているというフィーリングを伝えてくる。タイヤの違いもあってトラクションも素の「A110」より高い。強力なパワーとトラクションのバランスも絶妙で、挙動が不意に乱れることもなければ、安定しすぎていてつまらないこともない。これまた、こんなに楽しいクルマだったっけ? とあらためて感じた。マイクロファイバーのダッシュボードやドアパネルの仕様もなかなか好みだ。

A110 GTS

街乗りできるレーシングカー

A110 R 70

 続いて「R 70」に乗ると、やっぱり別世界だ。アルカンターラを駆使したコクピットは、4点式のハーネスやドアの開閉をストラップで行なったり、リアウィンドウの部分がカーボンで覆われているあたりもレーシーそのものの中に上品さも感じさせる。

 ドライブフィールもスパルタンそのもの。アジャスタブルレーシングダンパーやセミスリックタイヤを備えた足まわりは、「GTS」よりもさらにスポーティで、路面の状況を走っているかをビシバシ伝えてくる。この硬さと引き換えに、この上ないダイレクト感と一体感のある操縦性を実現している。

 パワフルなエンジンのパフォーマンスを、オプションのマフラーによる迫力あるエキゾーストサウンドがより盛り立ててくれる。軽さも効いてか、ブーストもより瞬時に立ち上がる。スポーツモードにすると、アクセルオフ時にパラパラという音の演出もより派手な感じがする。

 ブレーキもダイレクトそのもので踏んだとおりに反応し、キャパシティにも余裕があるのでハイスピードでも安心して踏める。

 足まわりは衝撃が伝わってきても不思議とそれが不快じゃない。ただのガチガチではなく、少しでも速く走れるよう路面にタイヤを押し付けるためと、荷重移動を早めて俊敏性を高めるためにこうしてあるのだろうが、硬い中にも硬いだけじゃない感覚もあるのは、カーボンホイールならではの独特の減衰が効いているのかもしれない。今回のコンディションだとその効果はあまり体感できなかったのだが、これだけ派手なエアロパーツが付いているのだから、しかるべき場所に持ち込めば、そのエアロダイナミクスの効果も相当なものに違いない。

 乗り心地は硬くても動きにナーバスなところはなく、公道でも乗れる本格的ピュアスポーツ、いわば毎日街乗りできるレーシングカーだ。

A110 R 70は毎日街乗りできるレーシングカー

 3モデルを乗り比べて、それぞれ与えられたキャラクターにふさわしいドライビングの世界が最大化されていることがよく分かった。その中でも共通していたのは、“意のまま”の操縦感覚だ。まもなく生産終了となってしまうのは本当に残念でならないが、A110がスポーツカーの歴史に1つの名を刻んだ名作であることをあらためて身に染みて感じた次第である。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一