試乗記
“究極のゴルフGTI”「エディション50」試乗 50周年記念モデルの日本導入を希望!
2026年2月19日 07:00
ニュル北で「ゴルフR 20Years」を上まわる速さ
コンパクトなボディに高性能エンジンを積んで、アウトバーンで格上のセダンやスポーツカーたちをものともせずに疾走する。ヨーロッパでまだ自動車文化が若々しかった1976年代にデビューを飾り、“ホットハッチ”というジャンルを切り開いたゴルフGTIが、今年で遂に50周年を迎えた。
そしてこの記念すべき節目を祝うモデルとしてフォルクスワーゲンは、このたび限定車となる「エディション50」(エディション・フィフティ)を発売。われわれメディアに向けては、スペインはバルセロナ郊外で国際試乗会を開催した。
そんなゴルフGTI エディション50(以下エディション50)でまず断っておかねばならないのは、残念ながらこのモデルの日本導入が未定なことだ。どうやら「クラブスポーツ」や50周年記念モデルの計画は何かしらあるようだが、ひとまず今回のロッドでは、割り当て分が確保されていないとのことだった。
にもかかわらずフォルクスワーゲンが日本メディア用に試乗枠を用意してくれたのは、まずゴルフGTIの50周年を一緒に祝おう、というのが1つ。そして純粋に、エディション50の性能を体験させたかったのだと思う。
エディション50における最大のチャームポイントは、やはり速さだ。それを裏付ける数字としては、2025年4月にフォルクスワーゲンの開発ドライバーであり、レーシングドライバーでもあるベンジャミン・ロイヒター氏がニュルブルクリンク北コースで刻んだ「7分46秒13」というタイムが挙げられる。
ちなみにこれは「ゴルフR 20Years」を約1.25秒上まわる速さであり、エディション50はフラグシップモデルをも追い越して、フォルクスワーゲン最速の1台となった。しかもゴルフRは計測開始地点と終了地点が異なる旧計測(20.6km)だったが、エディション50はフルコース(20.832km)でのタイムだ。
俯瞰すれば現在ニュル最速のFWDモデルはわれらがホンダ「シビック タイプR」(7分44秒881)だが、その差は約1.25秒。そしてこのわずかな差にこそ、エディション50の魅力が隠されていると筆者は感じた。
まずエディション50で興味深いのは、その速さを稼ぎ出す方法だ。
エンジンにはフォルクスワーゲンで最もパワフルな直列4気筒ターボ「EA888 evo4」を搭載しているが、その出力はゴルフRの333PS/5600-6500rpmに対して、325PS/5500rpmに留められているのだ。たったの8PSだがフォルクスワーゲンがその出力を抑えた理由は、エディション50がFWDだからだろう。駆動系への負担軽減もあるだろうが、トルクステアを抑えてハンドリングレスポンスを向上させ、トラクションを確保するのがその狙いだと思う。
ちなみに最大トルクはゴルフRが420Nm/2100-5500rpm、エディション50が420Nm/2000ー5400rpmと、ほぼ変わらない。しかしこれを高回転まで回し続けたとき、FWDでは325PSが上限だと判断したと予想する。
つまりこのエディション50が“ゴルフR越え”を果たした要となるのは、シャシーワークだ。まずその足まわりは強化したスプリングに合わせて、標準装備となるDCC(電子制御ダンパー)の減衰力がマッチングされた。ちなみにその車高はスタンダードなゴルフGTIと比べて15mm、「パフォーマンス・パッケージ」装着車では20mm下げられている。
そしてフロント・ロワアームのボディ側ブッシュ2か所と、リア・ダンパートップのコンプライアンスを高めた。さらにリアのコントロールリンクを両側で支持するために、わざわざハブキャリアを作り替えている。
タイヤには、235/35R19サイズのブリヂストン「ポテンザ レース」を専用開発した。これは従来のタイヤよりも1本あたり10%、約1.2kgも軽いセミスリックタイヤだ。なおかつ「パフォーマンスパッケージ」を選べば19インチホイールは鍛造製となり、約13kgバネ下重量を軽減。さらにアクラポビッチ製のチタンマフラーで12kg、合計約25kgも軽量化が可能になる。
そう聞くとさぞかしハード・コアな乗り味を想像するだろうが、エディション50は抜群に乗り心地がいい。そしてこれこそが、ゴルフGTIというハイパフォーマンスハッチのもう1つの魅力だと筆者は感じた。
当日はホテルからサーキットまでの往復を100km弱走ったが、街中の荒れた路面はもちろん、高速道路のジョイントでも突き上げがほとんどない。見知らぬ街で時に渋滞に揉まれながら右往左往したけれど、まったくもってストレスフリーに目的地までたどり着くことができた。
ライバルであるシビック タイプRも現行モデルは可変ダンパーを採用して普段使いの乗り心地を高めてきたが、エディション50の快適性は一枚も二枚も上手だ。おそらく普通のGTIよりも乗り心地がよいと思う。その秘訣は、スプリング&ダンパーを硬め過ぎることなく、アーム側で剛性を高めたからだろう。
1つ難があるとすれば、ハイパフォーマンスパッケージはフロントのネガティブキャンバーが2度も付いているため、高速道路で気を抜くと進路が逸れてしまいがちになることくらいだ。しかしそれすらも操舵補正が注意を促してくれる。
ちなみに標準仕様のネガティブキャンバーは、フロントが1.33度だが、クラブスポーツ(0.75度)と比べてもよりネガティブだ。リアキャンバーが全車-1.75度であるのは、これがフォルクスワーゲンの考える最適解だからだろう。
その走りは歴代ゴルフGTIで一番の楽しさ
お待ちかねのサーキットでは、その性能を存分に味わうことができた。
当日はレーシングドライバーが運転するゴルフR ヴァリアントに先導され、初めての「パルクモーター・カステリョリ」を走った。前半が中・高速エディション、立体交差を超えて後半はテクニカルセクションが続く、全長4.14kmのコースだ。
走りの違いは予想通りで、コーナーの立ち上がりでは4WDのゴルフR ヴァリアントがエディション50を引き離した。ストレートでの伸びもパワーと空力性能に優れるヴァリアントがやや有利だったが、エディション50はブレーキングでその差を詰める。そしてコーナリングで追いつく。
ターンインにおけるノーズの入りやすさは、市販FWDモデルとしては極上の部類だ。しなやかな足まわりはタイヤのグリップを穏やかに引き出し、縁石をスムーズに乗り越える。ハンドルを切ればネガティブキャンバーの効果で、おもしろいくらいに曲がっていく。
軽やかな身のこなしは、まるでFWDのロードスターだ。セミスリックタイヤを履いて、よくここまで足まわりの柔軟性が出せると思う。ブレーキングを詰めていくとリア荷重が減って若干不安定になるが、その荷重移動を利用すれば、弱オーバーステアできれいにターンできるようになる。
今回このシャシーをまとめ上げたドライビングダイナミクス部門長のラース・フレミング氏は、たとえ同じタイヤを履かせたとしても、ゴルフRよりエディション50の方が速いだろうと述べていた。つまりそれだけエディション50のボディ剛性と軽さが、旋回性能に効いているというわけだ。
ターンを終え、クリップに向けてアクセルを踏み込むと、LSDがトラクションを逃がさずかけてくれる。7速DSGを介したEA888 evo4ユニットの吹け上がりは鋭く、レブに当てないように気をつけながらパドルを弾いていくのが実に気持ちいい。その走りは、間違いなく歴代ゴルフGTIで一番の楽しさだ。
試乗を終えるとゴルフR ヴァリアントから降りてきたドライバーが、サムアップしながら「このクルマ速いよね!」と、満面の笑みで話しかけてきた。筆者も「コーナーがいいよね!」と応えて、クルマ好き同士の他愛もない会話で盛り上がった。
恐らくもう少しだけパワーと、スプリングやスタビライザーの剛性を上げれば、ゴルフGTI エディション50はニュル最速FWDの座を射止めることができただろう。しかし敢えてそれを選ばないのが「GTI」というクルマなのだと筆者は共感した。普段も快適な常用性能を持ち、いざ走らせればその懐の深さでわれわれアマチュアドライバーを楽しませてくれる。エディション50は正に究極のゴルフGTIだ。
それだけに、エディション50の日本導入が未定なのはとても残念だ。ちなみにその価格はドイツ本国でも標準仕様で約980万円~というから、日本に導入されたら1000万円は超えてしまうだろう。こればかりは日本円の弱さと物価の高騰を恨むしかないが、それでも世界で6番目にゴルフRを売り上げる日本に、いくらかの割り当てはあってもよいと思う。
「これが最後のガソリンGTIなのか?」の問いに開発メンバーは「まだ分からないよ」と答えたけれど、何らかの形で電動化の手が加えられるとしたら、このエディション50は価値あるモデルになる。しかしそれ以上に、本当にゴルフGTIを愛する日本のユーザーに、このすばらしさを味わってほしいと思うのだ。
















