試乗記

最新「ゴルフGTI」試乗、走りにこだわるならDCC&19インチホイールのセットパッケージがおすすめ

最新のゴルフGTIに試乗

ラリーでも活躍したGTI

 フォルクスワーゲンの最新「ゴルフ」(8.5世代)は1.5リッターに48Vマイルドハイブリッドを組み合わせるeTSI、2.0リッターディーゼルタ―ボのTDI、そしてスポーツサスペンションやスポーツシート、18インチタイヤを履くR-Lineがある。それ以上のエンジンも含めたパワートレーンを求めるユーザーにはGTIが用意され、さらなるハイパフォーマンスモデルとしては4MOTIONのRが控えているが、今回のマイナーチェンジにはまだ加わっていない。

 GTIはゴルフのスポーツモデルとして印象的な歴史を築いてきた。登場以来、フォルクスワーゲン使いが待っていたかのようにラリーで活躍した。ワークス、プライベートを問わずに多くのGTIが世界の舞台で走りまわったのだ。

 GTIと言えば強い印象が脳裏に焼き付いている。コ・ドライバーで参加した英国RACラリー(WRCの最終戦)にワークス参加したグループAのGTIが、わが2.0リッターターボのグループAスタリオンを抑えて1台前でフィニッシュした。いかに泥濘地の英国とは言え、FFのゴルフを操るケネス・エリクソンの「いっちゃった走り」と、それを許容するゴルフの懐の深さは強烈だった。ゴルフ恐るべし! それ以来GTIには畏敬の念を持っている。

 さて第8.5世代のGTIは他のゴルフ同様にエクステリア、インテリア、インフォテイメントなど同様にアップグレードされているが、GTI専用オプションとしてDCCパッケージが選べる。DCCはショックアブソーバーの減衰力を連続で最適制御するものだ。プラットフォームの異なる「パサート」で伸び圧独立制御ができる「DCC Pro(Dynamic Chassis Control Pro)」が採用されたが、GTIはDCCとなる。

今回の試乗車は新型「ゴルフGTI」(549万8000円)。ボディサイズは4295×1790×1465mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2620mm
エクステリアでは専用のハニカムフロントグリル、フロント&リアバンパー、リアスポイラーが与えられるとともに、LEDフォグランプ、クロームツインエキゾーストパイプなどが専用装備となる
撮影車はGTI専用の「DCCパッケージ」(23万1000円)を装着し、アダプティブシャシーコントロール“DCC”と19インチアルミホイール(タイヤは235/35R19サイズのブリヂストン「POTENZA S005」)が備わる

 GTI専用のハニカムグリルのバンパーとフロントグリルはGTIバッヂで引き締められ、伝統のチェック柄のスポーツシートに座り、赤いステッチの入ったステアリングホイールを握るとGTIのコクピットを実感する。

メーターまわりにGTIのロゴが入る
インテリアで印象的なGTI専用ファブリックシート

GTIらしく活気に溢れた加速

スポーツモデルのGTIにさっそく試乗

 試乗車はDCC装着車でインチアップされたタイヤはブリヂストン「POTENZA S005」(235/35R19)がセットオプションになっており、大径の19インチホイールからは赤いブレーキキャリパーが覗く。

 エンジンは2.0リッターの直噴ターボで基本的にはキャリーオーバー。195kW(265PS)/370Nmの出力だが、燃料のマッピングを変えたことで前期型より20PS出力が上がっている点が新しい。トランスミッションは他のゴルフ同様に7速DSGで、変速は実に滑らか。日常走行ではトルコンと差異はほとんどないが、発進時にはアクセルの踏み加減に少しだけ注意が必要になる程度だ。

GTIが搭載する直列4気筒DOHC 2.0リッターターボエンジンは最高出力195kW(265PS)/5250-6500rpm、最大トルク370Nm(37.7kgfm)/1600-4500rpmを発生

 加速はさすがにGTIらしく活気に溢れたもので、やや湿気のこもったエンジンサウンドとテンポよい変速で加速していく。しかも全域でトルクがあってどの回転でも粘り強い加速力だ。特に8.5世代のゴルフは回転の上昇が早く、トップエンドでも力に余裕がある。気持ちよいエンジンフィールは内燃機の醍醐味で走りの質感にも大きな影響を与える。GTIの質感は受け継がれている。

 ドライブモードはECO/COMFORT/SPORT/CUSTOMがあり、エンジンのピックアップや選択ギヤの違い、シフトポイントなどが変えられる。特にSPORTでは顕著に性格が変わり、パドル操作を積極的に行ないたくなるようなモードだ。

 モードごとの減衰力設定が巧みで、COMFORTではソフトだが柔らかすぎない節度ある乗り心地だ。しかもCOMFORTを選択してもGTIらしい乗り味に変わりはない。リアサスペンションはActiveグレードのトレーリングアームからスタビライザー付き4リンクの独立懸架で凹凸路の突起乗り越えもショックが少なく、これにDCCのCOMFORTを選ぶとフラットで超快適な乗り心地が得られる。望外なスポーツハッチバックの乗り心地だ。一方、SPORTでは力強いエンジンピックアップと締まった足まわりに豹変する。エキゾーストノートも変わり湿った音が野太い音色に変わる。

ドライブモードはECO/COMFORT/SPORT/CUSTOMを設定

 DCCの魅力はピッチング制御などフォルクスワーゲンが施すチューニングの妙だ。欲しい時に欲しい減衰力が得られるのはさすが欧州リーダーらしい。乗り心地だけでなく操縦性でも心地よいとはなにかと改めて分からせてもらえた。GTIのDCCパッケージはタイヤが18インチから19インチになるが、それに合わせたチューニングでもありおすすめのオプションだ。

 もう1つ、GTIならではの機能として電子制御式のフロントLSDが見逃せない。油圧制御で駆動輪のトルク配分を0-100%まで作動制限を行ない、滑りやすい路面やタイトコーナーでトラクションを確保できる。副次的な効果としてコーナリング中にトラクションコントロールの介入頻度を下げることでライントレース性や自然なドライブフィールが得られる。スポーツドライブだけでなく市街地でも降雪時に効果が高い。

DCCパッケージはおすすめのオプション

 ドライビングはGTIらしく楽しさに溢れている。レシオの速いステアリングギヤ比はドライバーの思いどおりにコーナリングラインを狙え、市街地でも操舵量が少なくて軽快だ。

 フットワークの良さはロールやピッチング制御に表れており、アクセルの入れ加減、ブレーキの踏み加減にクルマが自然に反応する。ドライバーとの一体感があるのがうれしい。

 後席には余裕のあるレッグルームとヘッドクリアランスがあり、ラゲッジルームは374L~1230L。Cセグメントハッチバックとして実用性を兼ね備えた快適なスポーツハッチはなかなか魅力的じゃないか。GTIの価格は549万8000円、おすすめのDCCパッケージは23万1000円。高額車だが、それに見合う価値は備えている。

GTIは市街地でも軽快に走ってくれた
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学