ニュース
フォルクスワーゲンは「なぜ生成AIであるChatGPTを車両に実装したのか?」を開発責任者ハインリッヒ氏に聞いてみた
2024年1月19日 11:56
技術見本市「CES2024」では、自動車関連においてもさまざまな発表が行なわれた。ホンダのバッテリEV(電気自動車)や、ソニー・ホンダモビリティのアフィーラプロトタイプなどは日本でも大きな話題を呼んだ。だが、率直に言って、グローバルに大きな話題を呼んでいた発表は、実はこれではないかと思われるのが、CES会期前日に行なわれている。それがフォルクスワーゲンが行なった「生成AIであるChatGPTを車両に搭載する」というニュースだ。
フォルクスワーゲンがなぜ生成AIであるChatGPTを自動車に搭載しようと考えたのか、またどのように実装したのかを、フォルクスワーゲン・グループのエレクトロニクス開発責任者であるアクセル・ハインリッヒ氏に聞いてみた。
IT業界だけでなく一般社会でも注目の存在になった「ChatGPT」を車両に搭載
ChatGPTは、米国のOpenAIが開発したAIアシスタント。AIアシスタントと言うと、最近企業サポートサービスのWebサイトなどでよく見かける「人工知能が人間の代わりに何らかの応答をしてくれるサービス」という印象が強いと思う。それに対して、OpenAIが開発したChatGPTはもう少し複雑なことが可能になっている。具体的に言えば、人間と同じような言葉(ITの世界では自然言語と呼ぶ)を話し、人間の質問を理解する能力を持っている。
例えば、これまでコンピュータを利用して何かを調べる時には、「Car Watch 記事 ChatGPT」のようなキーワードを利用して、GoogleやBingなどの検索ツールを利用して検索するのが一般的な使い方だろう。しかし、ChatGPTでは、大規模言語モデル(LLM)という新しいAIのエンジン(AIの世界ではモデルと呼ぶ)を使っており、「Car Watchの記事で、ChatGPTに関する記事を検索して」と普通に他人に話しかけるようにしても、人間の言葉を理解して、WebサイトからCar Watchの該当記事を探してきて、画面に表示したり読み上げてくれる。
音声を利用したAIアシスタントは、AppleがiPhone向けに展開している「Siri」や、GoogleがAndroid向けに展開している「Googleアシスタント」、Amazonの「Alexa」などがよく知られているが、それらは言語応答がやや不自然だったりするのに対して、ChatGPTではより自然な応答が可能になっており、それが大規模言語モデルという新しいAIのモデルを採用している効果だ。
今回フォルクスワーゲン・グループが車両に実装すると明らかにしたのは、このChatGPTそのもの。フォルクスワーゲン・グループ エレクトロニクス開発責任者 アクセル・ハインリッヒ氏は、「ChatGPTの実装を決めたのは、シンプルに顧客がそれを求めているからだ。われわれ自動車メーカーは、ナビゲーションや道路のルートなどに関して深い知見を持っているが、それ以外に関してはインターネット上の集合知に勝てないし、何よりも情報は日々更新されている。顧客が自動車に乗っている時にもそうした情報をアップデートしたいと考えた時に最適な選択は何かと考えた結果ChatGPTを実装するのが答えだと考えた」と述べ、顧客のニーズを優先した結果であると説明した。
セレンスとマイクロソフトが協力し、クラウドで処理するAIだから半年という短期間で実装できた
ハインリッヒ氏は搭載までのスピードが早かったことについて、「1つは、すでに車両に実装されているハードウエアをそのまま活用し、車両のわずかなソフトウエアのアップグレードだけ済ませられたからだ。今回の実装で主に大きく手を入れているのはクラウド側であり、その開発をパートナーと協業して行なったため、半年という短い期間で実装できた」と述べ、開発に年単位の時間をかけるのがあたり前というこれまでの自動車産業にはないように短期間で開発が可能だったのは、すでに自動車に音声認識に応答が可能なハードウエアが存在しており、クラウドへアクセスするためのわずかなソフトウエアの変更で済んだこと、そしてクラウド側でもパートナーと協業して短期間で開発できたからと説明した。
現代のAIアシスタントは、車両のような“エッジ”と呼ばれるユーザーが触れている側には音声をクラウドと呼ばれるインターネット上にあるサーバーにアップロードし、返って来た答えを音声で再生するという仕組みで運用されている。今回は車両側にはほとんど手を入れず、クラウド側だけを大きく手を入れることにしたため、比較的短時間で実装できたと言う。
今回のChatGPTの実装以前に、フォルクスワーゲンの「ID.7」「ID.4」「ID.5」「ID.3」、新型「ティグアン」、新型「パサート」、新型「ゴルフ」などに搭載されている最新世代のIVI(車載情報システム)には、マイクなどが用意されており、それを利用して従来型のAIアシスタントの機能が用意されていた。そのハードウエアはそのまま生かし、車両側のわずかなソフトウエアの改良で対応することが可能だったと言う。このため、今回のChatGPTが対応可能な車両は前述の最新IVIを搭載したモデルということになる。
ハインリッヒ氏は、「クラウド側のソフトウエア開発に関しては、セレンスとマイクロソフトの2社と協業して開発したのだ」と説明したほか、「AIアシスタントの機能などはセレンスが開発し、クラウドのインフラなどはマイクロソフトに提供してもらっている」と述べ、両社と協業して開発を行なうことで、ChatGPTの短期間の実装が可能になったと説明した。
なお、ハインリッヒ氏によれば、今回開発したChatGPTの機能は、フォルクスワーゲンだけでなく、ポルシェやアウディといったフォルクスワーゲン・グループ傘下のブランドも活用可能だとのこと。
また、中長期的には、現在クラウドに接続して処理しているChatGPTの処理を、車両側で行なえるような開発をしていきたいとも述べた。というのも、ChatGPTの処理をクラウドで行なっている場合には、常に車両がインターネットに接続している状況でなければ使えない。言うまでもなく、自動車は常にインターネット接続可能なところばかりを走るわけではないので、「インターネットに接続されていない状況でも利用できるように、車両側でChatGPTの処理を行なうような開発も将来は目指していきたい」とハインリッヒ氏は説明していた。