試乗記

フォルクスワーゲン史上最強のゴルフR「20周年記念モデル」試乗 集大成ともいえる乗り味とは?

ゴルフRの20周年記念モデルに試乗

 フォルクスワーゲンがBEV(バッテリ電気自動車)に舵を切って久しく、ID.シリーズを充実させる途上にある。日本には「ID.4」が導入されて、着々とBEVに向けて歩んでいる。

 とはいうものの、フォルクスワーゲンの屋台骨を支えるのはICE(内燃機関エンジンモデル)のゴルフであることに変わりはない。そして2023年はゴルフのパフォーマンスモデルの頂点に立つRが日本に導入されて20周年。これを記念してスペシャルエディションが発売された。電動化もさることながら「ICEもやることはやっているぞ」の意思表明だ。

ゴルフR20周年記念モデル。ボディサイズは4295×1790×1460mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2620mm、車両重量は1540Kg
価格は792万8000円で、試乗車のボディカラー「ラピスブルーメタリック」は有償で4万4000円高
タイヤはグッドイヤーの「イーグルF1スーパースポーツ」で、サイズは前後とも235/35R19
ブルーブレーキキャリパーと19インチのアルミホイールは専用品となる

 Rの歴代最強モデルは、さりげなく20周年記念車と分かるブルーのロゴが配されているが、それでなくとも4本出しのチタンマフラー、低い車高、大径19インチホイール、そのホイールからのぞくブルーのブレーキキャリパー、R専用の大型リアスポイラーですぐに最新のRモデルであると分かる。何よりもメタリックブルーが美しい。

刺激的なサウンドを奏でるAkrapovicチタン製デュアルエキゾーストパイプがおごられる
エクステリアを際立たせつつ、ダウンフォースを発生させ、走行安定性の向上に寄与する専用リアスポイラーを装備
Bピラーにはさりげなく20周年記念モデルの証「20」のエンブレムが配される
暗い場所では「20R」のロゴを足下に照射してオーナーを出迎えてくれる

 内装ではRロゴ入りナパレザーシート、カーボントリムが心をくすぐる。RECAROのフルバケットの緊張感もいいが、ナパレザーは柔らかく身体がスッポリと納まり心地よい。

 ドライビングポジションは低めで小径ステアリングホイールとの位置関係も上々。何のレクチャーがなくてもすぐに走りだせる。そんなところがゴルフのいいところだ。

 7速DCTはデュアルクラッチ特有のわずかに滑るような感触で、スタートした後はダイレクトな感触で加速していく。多少の変速ショックはRらしい機械的なところがあり好ましい。

パワートレーンは直列4気筒2.0リッターインタークーラー付きターボで、最高出力245kW(333PS)/5600-6500rpm、最大トルク420Nm/2100-5500rpmを発生。そこに7速DSG(ダイレクト・シフト・ギアボックス)が組み合わせられる

 エンジンは2.0リッター4気筒直噴ターボで通常のRと変わらないが10kW増の245kW(333PS)となり、カタログデータでの0-100km/h加速は4.6秒とコンマ1秒速くなっている。

 大切なのは10kW分の出力がエンジンフィールに効果を与えていることだ。ゴルフRのエンジンは市街地でも気持ちのいい剛性感の高さが魅力的だが、限定車ではさらに力強さと伸びがあり、いいエンジンに巡り合ったと思った。

 最大トルクも420Nmと変わらず、発生回転域もわずかに上の方に伸びているぐらいだが、そのわずかな違いがエンジン全体の鋭さになっている。

 アダプティブシャシーコントロールはセンターディスプレイから入る。オーナーならすぐに探せる階層にあり20周年限定モデル専用モードが設定される。従来の「コンフォート」「スポーツ」「レース」「カスタム」に加えて、「ドリフト」「スペシャル」モードが選択できる。スペシャルはニュルブルクリンクの走行を想定したモードで、他とは違ったストーリー性がある。

 さらにドリフトモードは、4WDシステムの前後左右の駆動力を変えてドリフトが自在のモードになるという。ラリーはもとより欧州でも盛んなドリフト競技を手軽に(?)楽しめる(?)はずだ。4WDのドリフトコントロールはなかなかおもしろいが、今回はドリフトのトライは遠慮する。

ゴルフR20周年記念モデルのインテリア
内装には特別に「リアルカーボンデコラティブパネル」が採用されている
レザーマルチファンクションステアリングホイールも専用品で、下部にはブルーのRエンブレムが配される
シートはブルーのRロゴを配した上質なナパレザーとカーボン調のテクスチャーがあしらわれる。運転席は電動調整&メモリー機能やベンチレーションなどを備える
リアシートもヘッドレストにブルーの挿し色が入る

 サスペンションは引き締められ、足下は専用のブラックホイールに19インチのグッドイヤー「イーグルF1スーパースポーツ」。サイズは235/35R19を履く。

 ハイトの低いタイヤから想像するよりも乗り心地は快適。下からの突き上げはあるが、ダイレクトな感触と違いサスペンションが路面の凹凸を吸収しながらストロークしている感じだ。コンフォートモードを選べば減衰力が弱まり、荒れた路面でもバネ上の動きはユラユラとしてまさにコンフォート。普段走るのはこのモードでもゴルフRのよさは楽しめるが、やはりもう少しシャキッとさせたいという気にさせるのがRの世界。

ワインディングロードで試乗してみた

 スポーツモードでは、バネ上の動きも締まり、クルマとの一体感は上がり気持ちがいい。ステアリングはプログレッシブギヤレシオを採用して、低速と高速では切れ角が変わる。

 パーキングではステアリング操舵量が少なくてもタイヤ角は大きく切れ、高速では逆に鈍くなるという具合だ。ドライバーには全く違和感がなく軽快な感触だけが残る。ゴルフRに限ったシステムではないが、シャープな特性を持ったゴルフRでは特にマッチングがよくなる印象だった。

ステアリングはプログレッシブギヤレシオを採用しているため、車速に応じて切れ角が変わるが違和感は全くない
特別に「ドリフト」「スペシャル」モードが追加されている

 さて、やっぱりスペシャルモードは試さないと……。これを選択すると急にエキゾーストノートが変わる。チタンの4本出しマフラーからは低いくぐもった音が響き、いかにもトルクのありそうな雰囲気に包まれる。特にエンジン振動の少ない独特の精密感がたまらない。

 アクセルのツキは鋭く、そのまま踏んでいると際限のない速度になりそうですぐにアクセルを戻したが、どこまで突き進んでいくんだろうという誘惑は心の片すみに残った。

ゴルフRの持つポテンシャルをいかんなく発揮してくれるスペシャルモード

 ゴルフRは4輪の駆動力を駆使した高い安定性と、ドライバーの意思どおりに曲がる正確な旋回力を併せ持つ。小さいロールと共にさりげなく曲がってしまうところは、奥の深いポテンシャルを感じさせるに十分で、それだけでもゴルフRをドライブする幸せを感じさせた。

 スペシャルモードは確かにゴルフRのポテンシャルを存分に引き出せそうなモードだ。もしサーキットで走る機会があれば、思う存分Rとの一体感を味わえそうだ。

ハイトの低いタイヤだが想像するよりも乗り心地は快適

 そしてホイールからのぞくブルーの大型キャリパー! ペダルに伝わるカチリとしたフィーリングは頼もしい。それはゴルフ全体に貫かれた剛性の高さ、同じく守られている安心感でもあり、市街地で踏力コントロールによる微調整が可能な理由でもある。

 ゴルフR20周年限定モデルはエンジンをパワーアップして4モーションのセッティングを変えただけでない。例えばバネ下の軽量化などの細部にこだわったまさに20年の集大成だった。時間がたつにつれてジワジワと深みのある世界に魅了されていく。

ゴルフR20周年記念モデルは、まさに20年の集大成のような1台だった
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:堤晋一