試乗記

日本初のミニバンPHEV、EV走行距離73kmのトヨタ「アルファードPHEV」「ヴェルファイアPHEV」を都内でテストドライブ

日本初のミニバンPHEVとして登場したトヨタ「アルファードPHEV」「ヴェルファイアPHEV」。写真はヴェルファイアPHEV

日本初のミニバンPHEV、「アルファードPHEV」「ヴェルファイアPHEV」

 今や高級車の代名詞になった「アルファード」「ヴェルファイア」にPHEV(プラグインハイブリッド)が加わったのは1月末。ガソリン/ハイブリッドモデルも2025年に入って小変更が施されている。

 日本のミニバンとしてPHEVは初めてだ。カーボンニュートラルのタイムテーブルに乗ったPHEV登場だが、大きな副産物としてプレミアムミニバンの質をさらに向上させていた。

Lクラスミニバンのトヨタ「アルファードPHEV」。PHEV化され、306PSのシステム出力と低重心、そして静粛性を手に入れた

 搭載するバッテリはリチウムイオンの18.1kWh。EVでの航続距離は73kmと長く、スタートしてからしばらくはEV走行が可能となる。そしてこのEV走行がアルファード/ヴェルファイアに別次元の上質さをもたらしたている。

 バスやミニバンは電気が適しているのでないかと思っていたが、ある程度裏付けがとれた格好だ。

 車重はHEV(ハイブリッド)に対して160kgほど重い2470kg、増加分のほとんどを占めるバッテリは床下に収まることで低重心となり、HEV比で重心位置が34mmも下がっている。それに伴いバッテリまわりの補強もあってアンダーボディの剛性はかなり上がっている。

堂々とした体躯を誇るアルファードPHEV。ボディサイズは4995×1850×1945(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3000mm
E-Fourシステムを搭載し、システム出力は306PS。走行バッテリは18.1kWhで、EV走行距離は73km

 パワートレーンは2.5リッターTHS II(トヨタハイブリッドシステム 2)をベースとしたプラグインハイブリッドシステム。E-Fourシステムも組み合わされており、システム最高出力は225kW(306PS)と300PS超えになるPHEVユニットだ。

 グレード設定はアルファード/ヴェルファイアとも6人乗りExecutive Loungeのみとなる。ファーストクラスを標榜した豪華なセカンドシートが独立したショーファードリブンを想定したモデルだが、個人ユーザーにも好まれている。

 トヨタのPHEVのラインアップは豊富。つまり経験も深くPHEVを手の内に収めている感じだ。

PHEVではアンダーカバーの面積を拡大してダウンフォースを向上。高速道路などでは効果を発揮するだろう
リアサスペンションはダブルウィッシュボーン。E-Fourシステムも搭載され、リアの駆動も適宜行なう

アルファードPHEV、ヴェルファイアPHEV、個性豊かな2台の走り

PHEVのコクピット。12.3インチの液晶メーターパネルを採用
メーターパネルはカスタマイズ可能。左にEVモード系のインジケータが見える
セレクトレバーまわり。右下列にHVモード、EVモード選択スイッチ、AUTO EV/HV選択スイッチが並ぶ

 早速アルファードPHEV、ヴェルファイアPHEVの2台のPHEVと、現行ヴェルファイアHEVの比較試乗を行なった。PHEVの装着タイヤはDUNLOP SP SPORT MAXX 060でサイズは225/55 R19。ゴージャスな外観と室内は言わずもがなだが、走り初めてアレと思ったのはドアミラーとAピラーから発する風切り音。これまでのアルファードでは経験していなかったノイズ。

 PHEV化により、これまでエンジン音でマスキングされていたものが顔を出したのだ。また同様にセカンドシートで気になるのはリアホイールアーチから聞こえるロードノイズだった。遮音により静かだと思っていたエンジンが、実は振動とノイズをいかに出していたが分かる。

 感じられたこれらのノイズは、PHEVの快適な室内をじゃまするほどのことではないが、静かだからこそ気になるもので贅沢なノイズだ。

 他のPHEVの例にもれず、アルファード/ヴェルファイアPHEVはその気になれば速い。システム出力306PSは伊達ではないのだ。EV特有の滑らかな加速だけでなく、レスポンスのよい追い越し加速も俊敏。モーターのレスポンスは機敏で、いつの間にか速度が乗っている感じだ。

 また、高速道路のように加速が長く続く個所はEVからハイブリッドに切り替わるが、エンジン始動のタイミングが絶妙。しかもエンジン回転の低い所から始まっているのでハイブリッド特有のノイズがほとんど気にならない。動的質感を上げている。これにはダッシュパネルやドアの遮音材と要所にウレタンを封入していることも大きく、余分な微振動を消す効果もある。

 乗り心地は、アルファードとヴェルファイアでかなり違いがある。大雑把に言えばアルファードはソフトな味付け、ヴェルファイアは少しスポーティに振っている。

 アルファードは、路面の凹凸のタイヤとのあたりが柔らかく、バネ上はそれほど動かず好ましい。その代わりリアシート側の収束が弱めで縦揺れが残り、パッセンジャーの好みがわかれそうだ。

 一方にヴェルファイアは、ドライバーシートでは路面からのショックが強めでアルファードより大きい。とは言ってもHVと同等ぐらいだろうか。そしてセカンドシートは上下動の収束が速く、びしっとした乗り心地になる。人によってはヴェルファイアの収束性が好まれるかもしれない。

 いずれもショックアブソーバーの減衰力数値は僅かな差ということだった。ガス圧の違いと、ヴェルファイアのフロント部にのみ入っているフロントパフォーマンスブレースが効いているのかしれない。

フロントまわりにフロントパフォーマンスブレースを装備するのがヴェルファイア。アルファードよりも走りに振った骨格を持つ
ヴェルファイアPHEV。右側面に、急速・普通充電用のリッドを持つ
右側面の充電リッドを開けたところ
左側面は給油リッド。無鉛レギュラーガソリンを使用

 フロントパフォーマンスブレースはヴェルファイアのステアリング応答性に効果があり、切り始めの動きが速くキビキビ感がある。ホイールベース3000mmのLクラスミニバンだけにスポーティと言っても後席重視のミニバンの許容範囲に収まっており、余分な揺れは削がれているところが素晴らしい。

 両車とも操舵力はミニバンには丁度よい重さ、スッキリとしている。また、PHEVの低重心は効果的にミニバンとしての質感を向上させている。ロールが小さく安定した姿勢でコーナーを旋回する。ライントレース性は際立って向上し切り返しでもボディの動きは少ない。

 さらにピッチングも小さいので、乗員の揺れはどの席も小さくなっている。この点でPHEVはミニバンに新境地をもたらした。

PHEVに標準装備となったスムーズストップ

 ブレーキにも触れておこう。一定の踏力で穏やかにブレーキペダルに足を乗せていると小さいノーズダイブで減速し、しかも停止距離が短い。これは普段のブレーキでも体感できることで、狙いどおりの位置で止められる。

 HEVやPHEVは回生ブレーキを併用することもあり、一定リズムで減速させるのが意外と難しい。アルファード/ヴェルファイアPHEVのスムーズストップでは後輪のブレーキも積極的に使い、これらの難しさを解消している。このシステムはほかの車種でも応用してほしいと切に思った。

PHEVとE-Fourが並ぶリアエンブレム

トヨタ車体が手がける特装車「Specious Lounge」

マットなペイントプロテクションフィルムを装備するアルファード Specious Lounge

 アルファード/ヴェルファイアの生産を担当するのはトヨタ車体。そのトヨタ車体が作る特装車がある。アルファード Specious Loungeだ。セカンドシートを420mmも後ろに移動させ、4人乗りとしたショーファーカーで、PHEVだけでなくHEVにも設定される。

4座シートのSpecious Lounge
後列シート。足下も広々
こんな感じでリラックスもできる。靴や鞄を入れておけるボックスも装備
前席とはカーテンで仕切る形。ソフトな仕切りでもあり、それなりに遮断もされる
冷蔵庫も装備する
ラゲッジに背広などをかけておけるハンガーも用意。評判のよい装備とのことだ

 カラーはマッド感のある特殊なもの(クリア仕様もある)だが、ペイントプロテクションフィルムと呼ばれるラッピングが施されている。トヨタ車体の専門チームが販売店まで赴いて貼り付け、また剥がしても跡が残らない特殊な素材とか。まったく塗装にしか見えないところが凄く、特別感があった。

 ラゲージには洋服掛けを持ち、ドライバーとの間には冷蔵庫を備える。カーテンで四隅を囲うこともでき、停車中のオンライン会議なども想定しているという。400台限定だが早くも半数以上が予約されているというから凄い。標準車から400万高く、PHEVで1480万円、HEVで1272万円(北海道、沖縄地区のぞく)。すべて持ち込み登録車になる。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛