試乗記

ストロングハイブリッドのスバル「クロストレック」は青森・酸ヶ湯の雪道をどう走る?

雪道を走るクロストレック S:HEV

「クロストレック S:HEV」「レヴォーグ レイバック」を雪道で走らせる

 スバルの試乗会が、青森県青森市で開催された。その目的はもちろん、リアルワールドでのウインタードライブだ。

 今回試乗したのは2台の4WDモデルで、主役はストロングハイブリッド搭載が話題を呼んでいる「クロストレック」。もう1台は、一般公道試乗が先延ばしとなっていた「レヴォーグ レイバック」が用意された。

 ちなみに筆者は先んじてクロストレックで往復約2000kmのロングドライブを敢行しているが、このときは「1タンクでどこまで行けるか?」をテーマに西を目指した。だから新しくなったハイブリッドシステムとシンメトリカルAWDの組み合わせで雪道を走るのは初めてであり、大きな期待を持って試乗に臨んだ。

 宿泊地のホテルをベースに青森市街を走り、国道103号線から八甲田山のふもとにある「酸ヶ湯温泉」へ。Car Watchチームはその往路をレイバックで走り、復路でクロストレック S:HEVに乗り換えたが、ここでは後者のインプレッションを中心にお伝えしていきたい。

クロストレック Premium S:HEV EX(405万3500円)。ボディサイズは4480×1800×1575mm(全長×全幅×全高、ルーフレール装着車は全高が+5mm)、ホイールベースは2670mm
2024年12月のストロングハイブリッドモデルの販売台数は1297台で、そのうちの92%がアイサイトX搭載車だったとのこと。クロストレック全体の販売比率はストロングハイブリッドが64%を占めるという
ストロングハイブリッド用にチューニングされた北米譲りの水平対向4気筒2.5リッターエンジン「FB25」を搭載。最高出力118kW(160PS)/5600rpm、最大トルク209Nm(21.3kgfm)/4000-4400rpmを発生する。加えて、4.3Ahのバッテリを搭載し、最高出力88kW(119.6PS)、最大トルク270Nm(27.5kgfm)を発生する「MC2」モーターを駆動するe-BOXER(ストロングハイブリッド)システムを採用。WLTCモード燃費は18.9km/L
クロストレック Premium S:HEV EXのインパネ。“EX”グレードは「新世代アイサイト」に「高度運転支援システム」を搭載したスバル最先端の安全テクノロジー「アイサイトX」を標準装備する最上級モデルとなり、「12.3インチフル液晶メーター(パワーメーター付)」「11.6インチセンターインフォメーションディスプレイ&インフォテインメントシステム」が標準装備される
本革巻ステアリングホイール(シルバーステッチ/ブレイズガンメタリック加飾)のステアリングコラム右脇、キーレスアクセス&プッシュスタートのスイッチ横に「EV MODE」スイッチと、メーカーオプション装備の「ACCコンセント」スイッチを配置
シート表皮はストロングハイブリッド専用のファブリック(シルバーステッチ)で、明るく落ち着いた印象のグレーカラーとなる
雪道を走るための装備、スタッドレスタイヤは横浜ゴム「iceGUARD 7」(225/55R18)を装着。ラゲッジには万が一の際の雪道脱出グッズや長靴、三角停止板が入ったボックスを載せ、そのほかにスーツケースも2つ収納できる広さがある
青森・酸ヶ湯でストロングハイブリッドのクロストレックに乗った

クロストレック S:HEVは雪道も平気?

 クロストレック S:HEVを雪道で走らせてまず感じたのは、その乗り心地がとても心地よいことだった。荒れた路面でも足まわりがしなやかに路面からの入力や、スタッドレスタイヤの重さをバネ下で吸収する様は、味付けの違いもあるけれどレイバック以上だ。しかしそれは過度に上質さを狙ったテイストではなく、実直な中にも優しさがあるスバルらしい乗り味。そしてこのテイストが厳しい環境では、安心感へとつながる。

 始動直後にEVモードを押し忘れたせいかエンジンはいきなり“ブーン”と起動したが、雪道だとむしろロードノイズの方が大きいくらいだ。そして気付くと、いつの間にかエンジンが止まってEV走行していたりする。自然吸気の2.5水平対向4気筒はそもそもが静かだし、かすかに聞こえるメカニカルノイズはむしろ心地よいくらいだから、ここはあまりハイブリッドの制御に耳をそばだてず、普通に走らせた方がいい。

 ちなみに街中は行き届いた除雪のおかげでほとんど道路には雪がなかった。対して山間部の脇道は残雪が凍りつき、昼にはこれが溶け出す厳しい路面状況となっていた。

アスファルトが見える部分と雪の残る部分が混在する路面状況をクロストレック S:HEVで走る

 こうした状況でまずありがたいのは、スバル車としての運転しやすさだ。レイバックと同じ200mmの最低地上高、これがもたらす見晴らしのよさ。側方にかけてはAピラーを挟んだ三角窓の視界のよさが加わり、雪道での緊張感を和らげてくれる。

 しなやかな足まわりはカーブでも路面を捉え、手の平にはタイヤのグリップ感が自然に伝わってくる。操舵に対するロールも穏やかで、不安なくハンドルを切って行ける。これこそが、縦置きトランスアクスルを新設してまで守り抜いたシンメトリカルAWDの、シャシーバランスのよさだろう。

 そしてストロングハイブリッドとなっても残した、プロペラシャフト式4WDの走りも頼もしい。その4輪駆動システム「アクティブトルクスプリットAWD」は通常60:40の駆動配分を基本としながらも、状況に応じて駆動力を最適に4輪へと配分する。

 今回の試乗ではタイヤが大っぴらにスリップするような場面はなかったが、アイスバーンをはらんだ路面でも淡々と駆動力をかけながら、ごくごく普通にカーブを曲がれたことこそが最大の恩恵だったと言えるだろう。

雪壁に囲まれた道を走るクロストレック S:HEV

 ちなみにレイバックも同様にステアリング舵角やヨーレートに応じたトルクスプリットを行なっているが、最新機種となるクロストレックの制御はその補正がさらに細かいのだという。具体的にはターンインでフロントのトルクを操作状況に応じ必要なだけ減らし、曲がりやすさをアシスト。ターンミドル以降でトルクを戻して、カーブでの挙動を安定させていく。

 さらにクロストレック S:HEVは多板クラッチを開放することでFF制御を追加し燃費的にも高効率化を図っているが、乗り味としては特別意識しなかった。低ミュー路を走らせても直進性はきちんと保たれていたし、アクセルのON/OFFに対して挙動がナーバスになることはなかった。

 雪上試乗で唯一残念なのは、回生ブレーキの弱さだ。特に長い下り坂だと、パドル操作をしても減速Gがあまり立ち上がらない。バッテリ容量が小さいため過充電ができないとのことだが、その電力をジェネレーターに回してエンジンブレーキを利かせるなど方法はあるようだし、ともあれここは、なんとか制御してほしいところだ。

 ちなみにフットブレーキは回生ブレーキとの協調もうまく行なっているようで、タッチもいいしスプリット路面でもコントロールしやすかった。足まわりやパワートレーン同様、優しいテイストだ。個人的にはクルマ全体がもうほんの少し骨太な印象でもいいと思うのだけれど、スバルの開発陣は根が優しいのだろう。だからこそ毎日使えるクルマになるとも言える。

雪道を走るクロストレック S:HEV

 すっかり雪がなくなった街中では、ストロングハイブリッドの特性がさらに分かりやすく伝わってきた。モーターアシストの効いたなめらかな出足で初速をつけて、空走時の転がりのよさを使えば、現代のトレンドに即した走りが可能だ。ときおりアクセルを踏み足すだけでほとんどが事足りる。

 ちなみに今回は34kmしか走らなかったが、ワインディング路を挟みながらも燃費はメーター読みで19.1km/Lをマーク。ピーク時には20.4km/Lと、カタログ燃費を上まわる走りを見せた。

 総じてクロストレック S:HEVは、初手からかなりハイレベルな仕上がりで登場したと感じた。スバルは俗にA型、B型……と改良を重ねるごとによくなると言われているが、そもそもクロストレックとしては熟成が進んでいる。トランスアクスルまわりで振動や音が出るという話も聞こえてきたが、試乗車はとても静かだった。そしてこうした部分も、スバルなら地道に改良を重ねてゆくだろう。

 ライバルを見渡せばカローラクロスよりちょっとばかり高めで、ZR-Vよりも小さい。色気も足りないがそれは質実剛健なスバルの個性だし(ボディカラーはもっと明るいものを用意してほしいが)、CセグメントのコンパクトSUVとしてはかなり充実した内容だ。日本人は「お買い得」だったり「コスパがいい」という言葉にめっぽう弱いがそうではなくて、このクロストレック S:HEVというクルマは価格に対して適正なパフォーマンスを持っている。

クロストレック S:HEVは質実剛健なスバルの個性を反映しているかのよう

同じ環境でレヴォーグ レイバックを走らせる

 対してレイバックは、もう少しラグジュアリーな方向性にキャラクターを振り直した方がよいと感じた。当初の目的はスポーティに過ぎるレヴォーグを敬遠するユーザー(特に奥さんが、赤い内装や走り屋テイストを嫌がるらしい)をもらさずカバーするためのグレードとしてラインアップされ、高められた車高とともにSUVテイストを付け加え、これがみごとに受け入れられた。いまやレヴォーグシリーズの販売構成比はレイバックが49%を占めるという。

レヴォーグ レイバック Limited EX(399万3000円)。ボディサイズは4770×1820×1570mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2670mm。最高出力130kW(177PS)/5200-5600rpm、最大トルク300Nm(30.6kgfm)/1600-3600rpmを発生する水平対向4気筒DOHC 1.8リッター直噴ターボ“DIT”エンジン「CB18」を搭載。トランスミッションにはリニアトロニック(CVT)を組み合わせる。WLTCモード燃費は13.6km/L

 しかしいざ雪上で走らせてみると、前述した通り足まわりが少しだけ硬い。開発陣いわくレヴォーグのSUV仕様だから、ハンドリングはシャキッとさせたとのことだった。そこには高めた車高を支える意味合いもあったとは思うが、アウトバックが3月に日本市場から撤退してしまういま、スバルのフラグシップポジションを担うのはその見た目の大人っぽさから考えても、レイバックだと思うのだ。

 アウトバックと同じ1.8水平対向4気筒ターボ(177PS/300Nm)は常用域で静粛性が高く、70~80kg軽くてひとまわり小さなボディをスマートに加速させてくれる。都会派SUVを謳いながらもその実アウトドア性能も非常に高く(スバル車全体に言えることだが)、いまひとつアーバンイメージを表現しきれていない感もある。

 だとすればここはひとつ足まわりに限らずパワートレーンの制御や、シートのクッションなど全体的にゆったりとしたテイストを持たせ、レヴォーグとは対極のキャラクターを作り上げたらどうだろうか。そしたら私、クラクラするなぁ。ずばり転換のチャンスがあるとしたら、ストロングハイブリッドを搭載するときだろう。

 また当初の目的であるレヴォーグのよさを大人っぽく表現したモデルが欲しいなら、このデザインのまま車高を下げてしまえばいい。そうしたら立体駐車場にも入るし。

 マーケティングとはそんな簡単に進まないものだとは承知しているが、少なくともあと少しだけ、しっとり大人っぽく。そうすれば本当の“Laid back”になれると思うのだ。

雪道を走るレヴォーグ レイバック
山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身。A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。日本カーオブザイヤー選考委員。自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してレースレポートやイベント活動も行なう。

Photo:高橋 学