試乗記

スバル「クロストレック」に4WDのストロングハイブリッドモデル追加! どんなハイブリッドなのかさっそく試乗してきた

スバル「クロストレック」ストロングハイブリッドモデル

トヨタのハイブリッドシステム「THS」を“スバル流にアレンジ”

 ついに、いや「やっと」というべきか。スバル車に長らく待ち望まれていたストロングハイブリッドが、先陣を切って「クロストレック」に搭載される。そして今回は発売直前となるプロトタイプを、静岡県のスノーパーク「イエティ」に用意された特設コースで試乗することができた。

 ということでまず何よりスバル初となるストロングハイブリッドシステムだが、これは2.0 e-BOXERの強化型ではなく、協業関係にあるトヨタの「THS」(トヨタ・ハイブリッド・システム)を転用したものだ。

 とはいえスバルは、トヨタのシステムをまるっと拝借したわけではない。自社製のトランスアクスルを新設計することで、既存のエンジンやシャシーにフィットさせたのが今回の注目ポイントだ。

 ハイブリッドの形式は、THSにならった「シリーズ・パラレル」方式。エンジンとモーターの得意な領域を細かく使い分けるタイプだ。

 その柱となるエンジンには、北米用2.5リッター自然吸気の水平対向4気筒「FB25」型を投入。エンジン上部にPCU(パワーコントロールユニット)を搭載する関係から吸気系と補機類のレイアウトを刷新し、その際ポート形状やカム角を見直すことでミラーサイクル化を図って、ハイブリッド専用エンジンへと生まれ変わった(※プロトタイプ参考値118kW/209Nm)。

北米用の水平対向4気筒2.5リッター「FB25」型エンジンの上部にPCUを搭載。エンジンのみの最高出力は118kW(160PS)/5600rpm、最大トルクは209Nm(21.3kgfm)/4000-4400rpm。ストロングハイブリッド化することで、さらにモーターの最高出力88kW(119.6PS)、最大トルク270Nm(27.5kgfm)が加わる(数値はプロトタイプのスバル社内測定値)

 トランスミッションは従来の油圧式CVTから、THSの電気式動力分割機構へと変更された。そしてここに発電用モーターと駆動用モーターを2つ搭載し、ディファレンシャルを組み合わせた形が新開発のトランスアクスルということになる。

 グレード的には2.0 e-BOXERが継続販売され、ストロングハイブリッドはその上位機種となる形だ。

 今回のストロングハイブリッド化で興味深いのは、スバルが従来通りのフルタイム4WD方式を貫いたことだ。THSの4WDは通常モーターのみでリアタイヤを駆動するスタンバイ式だが、スバルはトランスアクスルに発電用と駆動用のモーター2つを搭載し、エンジンとモーターのパワーでプロペラシャフトを回している。

 ソルテラがモーター制御の4WDで確かな走りを披露していることから考えても、これはモーター式のスタンバイ4駆がプロペラシャフト式に劣るということではないだろう。むしろ制御の緻密さで言えば、圧倒的にモーターは有利なはずだ。

 それでもスバルが既存のプロペラシャフト式を踏襲したのは、トータルパフォーマンスの高さが理由だろう。

 ちなみに今回のストロングハイブリッド化に伴い、バッテリ容量はe-BOXERの0.6kWhから1.1kWhへ増えたが、そのパワーデリバリーだけではスバルが求める後輪の駆動力と走安性が得られず、エンジンからのトルクも必要だと考えたのだと思う。またこの方式なら、既存の車種にもストロングハイブリッドを展開しやすいはずだ。

 ちなみにバッテリ(とACインバータ)はトランクの下、燃料タンクの上に搭載された。当日は認可取得前の状況から具体的な数字こそ差し控えられたが、気になる燃費は現行e-BOXER(WLTC値で15.8km/L)の約2割増しで、スバル最良の数値になるという。

 また燃料タンクも約3割増しの63Lとなり、1タンクで東京のスバル本社から本州のそれぞれ南端・北端まで、1200km以上走れる計算とのこと。ちなみに燃料は、レギュラーガソリンだ! これを聞いて筆者も、ロングドライブへの意欲がグンと増した。

 そしてAC100V電源から、最大1500Wの出力で給電が可能となった。ガソリンを満タンにした状態であれば、400Wでおよそ5日以上の電力供給が可能とのことだ。

 気になるラゲッジも、配線等をなるべく平らに敷き詰める努力によって床下約2cmアップにとどめられた。フロアが上がったことでボディ後端の荷物止め部分は短くなったが、リアシートを倒した際のフラット具合も、2.0 e-BOXERと比べてほぼ遜色なかった。

ボディサイズは変わらず4480×1800×1575mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2670mm。最低地上高も200mmを確保している。車両重量は1660kgで、現行e-BOXERと比較すると50kgの増加
ストロングハイブリッド化により外観で異なる部分は専用18インチアルミホイールと、専用オーナメントのみ
ストロングハイブリッドモデルのインパネ。黒内装とすることで上質感を高めている
EVモードのスイッチやAC100Vアクセサリーコンセント(オプション)など、ストロングハイブリッド化による機能も搭載
アイサイトX搭載グレードを設定。アイサイトXの機能はレヴォーグと同等レベルとのこと
11.6インチセンターインフォメーションディスプレイの上部で悪路走破用の「 X-MODE」を切り替えられる
アイサイトX搭載モデルは12.3インチフル液晶メーターも装備
フロントシート
リアシート
高電圧バッテリを荷室床下スペースにレイアウトしながらも、バッテリケースをSGP(スバルグローバルプラットフォーム)に合わせた最適設計とすることで、床面上昇を最小限に抑えた

舗装路に加え、ドロドロのゲレンデを走る!

 テストドライブで用意されたステージは、全部で3種類。最初は舗装路で、発進加速を現行2.0 e-BOXERと比較した。

 インテリジェントモードもスポーツモードも、全開領域での特性は同じだから、アクセルはジワッと踏み込みながらのリマインド。久々に走らせたe-BOXERはトルクの追従性も自然で、相変わらずの扱いやすさだった。

現行型クロストレック e-BOXERモデル

 とはいえe-BOXERという名前の割に、特別モーターのトルクを意識できたり、エンジンレスの静粛性に感動できたりするわけではないのも従来通り。Sモードを入れると出足は確かによくなるが、全体としてはやっぱりマイルドハイブリッドの域を出ない感じだった。

 となるとストロングハイブリッドへの期待は、ますます高まる。そして開発陣は、まずマイルドハイブリッドにはない「EV」モードから走らせることをリコメンドした。

 インパネのスタートボタンを押してから、さらに「EV」ボタンを押す。スタンバイが完了してアクセルを踏むと、クロストレックはエンジンを掛けずに“スーッ”と走り出した。EVに乗り慣れてしまった自分にとって今その加速が特別かといえば答えはノーだが、やっぱり無音で走り出すクロストレックは新鮮だ。

クロストレック ストロングハイブリッドモデル

 ただし車速が30km/hを超えたり、SOC(電池残量)が少なくなったりすると、若干トヨタ車よりもEV状態が長い気はしたものの、エンジンはすぐに掛かる。また筆者の試乗時はエンジンの作動条件(低温や高温のときはバッテリを保護する)関係から、EVボタンを押してもアイドリング時からエンジンが掛かってしまうケースも見られた。これ以上の静粛性を望むなら、プラグインハイブリッド化でバッテリ容量を増やす必要があるだろう。

 肝心なモーター駆動の走りはというと、モーターパワーが10kW/188Nmから88kW/270Nmへ上がった影響は大きく、eーBOXERに比べて明らかにトルクが厚い。また途中からエンジンが掛かってもアクセルレスポンスは滑らかなままで、踏み込めばそのまま自然にトルクを盛り上げていってくれる。そして低速で走行する限りはこまめにエンジンを停止して、モーターのみで走る状況が織り交ぜられた。

 インテリジェントモードの出足はよりスムーズさを増し、まさに走りのインテリジェント度が上がった。またスポーツモードでは加速レスポンスがより強調される一方で、アクセルのON/OFFに対する制御も洗練されていて、ピッチングが起きにくく大変乗りやすかった。

 全開加速に強烈さはないが、エンジンとモーター双方からの高出力化はクロストレックの質感を明らかに上げている。今回の試乗路は加速区間も短く、その長所を出しにくかったが、高速道路の合流や追い越し加速では、より余裕をもった運転ができそうだ。

 セカンドステージは、舗装路とグラベルのミックス路面を走った。前半の登坂路面はかなりの急勾配だったが、モーターのピックアップはとても良好で、ハーフスロットルでもぐいぐい登る。FB25型はボア×ストロークが94×90mmとオーバースクエア型だが、低速トルクの不足を感じさせないどころか、力強ささえ感じた。

 ハンドリングも、負けず劣らずリニアだ。ストロングハイブリッド化に伴いフロントロワアームはブッシュ剛性が見直され、高いトルク変動でもトー変化が抑えられるようになったという。結果、狭くツイスティな舗装路でも、くせのない良好なライントレース性が得られていた。今回は低速時での追従性しか確認できなかったが、高荷重領域での安定性も期待ができそうだ。

 最後はゲレンデを使って、悪路走破性を確認した。折しも雨は激しさを増し、走るほどに路面が掘れてコンディションは悪化したが、ノーマルタイヤでもスタックすることなくこれを走り抜いた走破性の高さはスバルの狙い通りだ。

 スバルは今回その駆動デリバリーでプロペラシャフト式を踏襲したが、電動化に際して油圧式だった4WD機構を電子制御カップリング式とすることで、応答性と制動性をも高めている。結果としてパワフルなだけでなくスムーズなアクセルワークが可能となり、坂道こそあまりの泥濘具合で曲がり切れない場面はあったが、あとは特別な運転なしにゲレンデを走り抜くことができた。

 かつリアダンパーがリファインされたことも効果的だったのだろう、うねりが激しい場面でも実に乗り心地がよかった。具体的にはロッドを延長することでフリクション荷重を低減し、ダンパーのボトム側にチェックバルブスプリングを追加することで初期から減衰力を立ち上げてフラット感を向上させたのだという。

 これはストロングハイブリッド車だけでなく、今後のラインアップにも応用できる進化だ。

 今回はかなり特殊なシチュエーションでの試乗となったが、それにしてもストロングハイブリッドとなったクロストレックは、全方位的に性能を底上げしたという印象を持った。

 登場から2年足らずということで見た目は専用装備以外大きく変わらないものの、クロストレックの最上級グレードとしてかなり期待がもてる仕上がりだ。

 となると気になるのはその価格だが、スバルによればストロングハイブリッド化による価格の上昇は35万円。ここにクロストレックとしては初となるアイサイトXを付けると20万円が上乗せされ、フルコンボだと55万円高となる。

 2.0 e-BOXERがツーリングで301万4000円、リミテッドで323万4000円だから、これが400万円を切る価格で手に入るのであればかなりの朗報。

 ぬか喜びはできないが、これは大化けの予感がする。

【お詫びと訂正】記事初出時、一部表記に誤りがありました。お詫びして訂正させていただきます。

山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身
A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。
編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してレースレポートや、イベント活動も行なう。

Photo:高橋 学