試乗記

コルベット初の電動化モデル「E-Ray」初乗り GMの底力を感じる仕上がり

コルベット初の電動化モデル「E-Ray」をワインディングで味わう

電動化モデルであり高性能モデルでもある

 まだ路上でめったに見かけることはないのでなおのこと、久しぶりに対面したC8コルベットの姿は、やはりインパクト満点だ。歴代初のミッドシップ化と右ハンドルの設定にも驚いたが、今度はなんと初の電動化と全輪駆動ときた。その名も「E-Ray」だ。

 最近ではスーパースポーツに電動化の要素を取り入れるケースが増えているが、アメリカを代表するハイパフォーマンス・スポーツカーであるコルベットも、まさにその1台として加わったことになる。

ボディサイズは4680×2025×1225mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2725mm、車両重量は1810kg、駆動方式は4WD、価格は2350万円
ボディカラーは試乗車のリップタイドブルーメタリックをはじめ、アークティックホワイト、ブラック、シーウルフグレートライコート、レッドミストメタリックティンコートの全5色を設定

 502PSを発生する自然吸気(NA)のV型8気筒6.2リッターOHVエンジンでリアアクスルを駆動し、162PSのモーターがフロントアクスルを駆動するという仕組みで、システム最大出力は664PSにも達し、ゼロから時速60マイル(約96km/h)までわずか2.5秒という歴代コルベット最速の加速力を誇るというから、乗る前から胸を躍らせずにいられない。

 その一方で、センタートンネルに配された1.9kWhのリチウムイオンバッテリにより、約72km/hの車速を上限に、約4.8~6.4km(3~4マイル)の距離をモーターのみで走行できるのがE-Rayならではの特徴だ。

 バッテリの充電はエンジンが稼働した状態で26km/h以上での走行時や減速時にフロントのモーターを使って行なわれ、積極的に充電するチャージモードも選べる。

E-Ray専用デザインのパールニッケル鍛造ホイールに、日本では「ZERパフォーマンスパッケージ」が標準装備となりミシュランのパイロットスポーツ4Sが組み合わせられる。タイヤサイズはフロントが275/30ZR20、リアが345/25ZR21の前後異径サイズ。また、専用セッティングが施された「マグネティックセレクティブライドコントロール付きZERパフォーマンスサスペンション」も装備装備となる。ブレーキはブレンボ製パフォーマンスカーボンセラミックブレーキを搭載
荷室の容量はフロントとリアを合わせて355Lを確保。電動システムの小型化に成功し、荷室スペースを犠牲にすることなく電動化を実現している
ルーフのオープンは手動。外したルーフはトランクに格納できる構造になっている

 そんな電動化モデルであり、高性能モデルでもある「E-Ray」には、同時期に登場した高性能版の「ZO6」と同じくワイドボディを採用しており、各部のアクセントはボディ同色とされている。凝ったデザインの鍛造ホイールも目を引く。

 ハイクオリティなフルレザーインテリアとされたコクピットには、ホールド性と快適性を兼ね備えたGT2バケットシートや、スポーティなビジブルカーボンステアリングが標準装備される。

室内はフルレザーを採用。スポーティなビジブルカーボンステアリングは車速感応式
ホールド性と快適性を両立したGT2バケットシートを標準装備となる

ステルスモードとV8 OHV

 ツアー/ウェザー/スポーツ/レーストラック/マイモード/Zモード/ステルス/シャトルの8つの専用ドライブモードが用意されていて、連動してセンターディスプレイの表示が変わるのも面白い。

早朝や深夜、住宅街などで始動する際に騒音を出さないステルスモードを搭載している
ノーマルはすぐにエンジンが始動する
シャトルは26km/hしか出ない運搬用モード。バッテリが切れてもエンジンは始動しない
ステルスモードのメーター表示
通常のメーター表示

 ステルスモードに設定するには、イグニッションをONにする前に、シートベルトをしめて、モードセレクターで選択すればよい。

 これまでのように派手なブリッピングで目覚めるのも大好物だが、モーターのみで駆動する「ステルスモード」を選べば、われわれのように早朝から取材に出かけることの多い身にとって、住宅街を静かに出発できるというのは実に重宝する。

 しずしずと走り出し、車速の上限内でアクセルを強く踏み込むことなくせずにおとなしく走ればモーターのみでの走行が維持され、何かが条件から外れた場合には自動的にエンジンが始動する。

 センタースクリーンの「E-RayパフォーマンスApp」には、走行中のモーターとエンジンの動きなどのデータがリアルタイムで表示され、とくにモーターがどういうふうに働いているかを見るのが興味深かった。

センターディスプレイには「E-RayパフォーマンスApp」を搭載
走行中のモーターやエンジンの動きなど、いろいろなパフォーマンスデータをリアルタイムで表示してくれる

 モーターは充電時にはマイナス表示にもなる。下り勾配で回生したり、アクセルを踏むとかなり高めの車速域でも駆動力をアシストしていて、ごく普通に走っているときも、平坦路でアクセル一定のときを除いては常に何かやっている。いかにモーターがマルチに仕事をしているのかというのがよく分かる。

 モーターがアシストすることで、巡航時をはじめより多くの場面でアクティブ フューエル マネジメントにより4気筒モードになる領域が拡大しているそうだ。それはもちろん低燃費にも寄与する。

 むしろエンジンは、あえて存在感が薄められているかのように思えたほど。ところがひとたび踏み込むと、来た来た! アメリカンV8 OHV!

 とはいえ往年の趣きとは少々異質で、どちらかというと豪快というよりも、調律されたなめらかな吹け上がりには洗練された印象を受ける。

V型8気筒6.2リッターOHVエンジンは、最高出力369kW(502PS)/6450rpm、最大トルク637Nm/5150rpmを発生。モーターは最高出力119kW(162PS)/9000rpm、最大トルク165Nm/0-4000rpmを発生する。8速デュアルクラッチトランスミッションはパドルシフトおよびリモートスタート機能付き。さらに、電子制御LSD(eLSD)を搭載する

 コックピットの背後から轟くV8サウンドは、踏み増すと2000~3000~4000~5000rpmと回転域によって表情が変わっていくのも味わい深い。走り系のドライブモードを選ぶと、アクセルワークに対する反応が分かりやすく変わる。内燃機関のパワーと応答性に優れるモーター両者のメリットを高次元で融合することで、とてつもないパフォーマンスを扱いやすく引き出すことに成功している。

 E-Rayの場合は、V8エンジンを味わう時間が、より特別なひとときになっている印象で、大人しく走っているときの電動化によるインテリジェンスとの対比が、よりこのクルマを興味深いものにしている。

フットワークのよさにも感心

E-Rayはしなやかで快適な走りを両立している

 しばらく走っていて、乗り心地がよいことにも感心した。もともとC8コルベットはわるくなかったが、ときおり硬さを感じることもなくなかったところ、E-Rayはよりで快適になっている。

 地を這うような走り味でありながら、足まわりにはストローク感がある。しまっているのによく動いて、荒れた路面でもしなやかに入力をいなしながら接地性が損なわれることはなく、車体をばたつかることなくフラットに保つ。接地感が高いのに路面の影響は受けにくく、ハーシュネスはあるのに乗り心地はわるくない。いろいろな要素を併せ持った、いい意味でちょっと不思議な感じのする乗り味だ。

地を這うような走り味でありながら、足まわりにはストローク感がある

 ワインディングロードで本領を発揮させると、これまたC8はもともとよくできていたが、より意のままに操れるように感じられた。走りの精度感も増して、ステアリングの手応えや微舵から遅れのない応答性、タイヤの接地感など、すべてがレベルアップしている。

 車検証によると、車両重量は1810kgで、前軸重760kg、後軸重1050kgとなっていて、重量は増したものの前後バランスは改善しているのも効いているに違いない。フロントにも安定して荷重がかかり、リアのふんばりも効いて、行きたい方向に思ったとおりに行けてしまう。

 ワインディングロードのような状況では、E-Rayの恩恵というのはそれほど感じられないのかと思いきや、そんなこともない。電気出力の表示を見ると、やはり適宜アシストしている。コーナリング時のラインの修正をアクセルワークでやろうとしたときなどに、この微妙なレスポンスが効いてくるのだと思う。下り坂がしばらくあればもういつの間にか容量の小さいバッテリも充電されている。

ワインディングなどでも電気出力が適時サポートしてくれる

 おそらくドライブしていていろいろ感じた、接地性や乗り心地のよさや、意のままの操縦性などには、E-Rayなればこそ実現した緻密な駆動力の制御が効いているに違いない。

 ブレーキフィールには、回生がらみのややつっぱった印象はあるものの、コントロールしにくいことはない。先進運転支援機能もこうしたクルマとしては望外なほど充実している。

 絶対的なパフォーマンスはもちろんのこと、こうしたクルマでこんなにEV走行できるっていうことに驚き、快適性の高さにも感心するばかりだが、いろいろ新しい難しいことに挑戦して、いきなりこれほどまできっちり仕上げてくるあたりには、GMの底力を感じずにいられない。70年以上を誇るコルベットの歴史においても1つの節目となる、革新的で画期的なモデルに違いない。

アメリカンマッスルな迫力もあるが、時代に合わせて洗練された印象の仕上がりであった。なお、ホームページでは、2024/2025年「シボレー コルベット E-Rayの予約注文受付は終了いたしました」とアナウンスされている
岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学