試乗記

国内最終モデル「カマロ ファイナルエディション」試乗、大迫力のサウンドを奏でるV8モデルの魅力に迫る!

940万円(限定50台)

カマロの日本限定50台の最終モデル「ファイナルエディション」を試乗する機会を得た

ずっと身近にあったカマロ

 6代目カマロの生産終了を受けて、日本では50台限定となる「ファイナルエディション」が発売された。価格は940万円だ。

 1967年の誕生以来、カマロは半世紀以上にわたってファンを魅了しつづけてきたアメリカンスポーツカー。小学生のころからクルマには早熟だった筆者は、当時ガイシャなんてめったに見かけない田舎町で、近所にいた2代目カマロに乗っているお兄さんに憧れていたものだ。

ボディサイズは4785×1900×1345mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2180mm
ボディカラーは試乗した「ブラック」のほかに「サミットホワイト」がある

 上京したころにちょうどピークを迎えつつあったバブル期には、すっきりとしたデザインになった3代目カマロを毎日のように見かけた。奥山清行氏がデザインしたという4代目カマロは、円高で200万円台前半の激安価格になった時期もあり、知人が購入したのでよく乗せてもらった。当時20代だった筆者も本気で買おうと思ったこともあった。

 しばしのインターバルののち2009年に5代目カマロが登場したときには、筆者も他人事とは思えない気持ちでうれしく思っていた。アメリカでは復活を歓迎する大勢のファンはもちろん、映画「トランスフォーマー」の主人公の愛車として登場したこともあり大ヒットしたと聞いた。

力強いフロントデザインを採用。LEDヘッドランプは、シグネチャー/ターンシグナル、独創的な形状のデイタイムランニングライトを備える。ボンネットの中央には、エンジンルームから空気を放出し、冷却効果と空力性能向上に貢献するエアエクストラクターが配される
装着タイヤはグッドイヤーの「イーグルF1アシメトリック3」で、サイズはフロントが245/40ZR20、リアが275/35ZR20
カマロ伝統のデュアルエレメントのデザインを受け継いだテールランプ。トランク中央にあるブラックのボウタイ(シボレーのロゴマーク)が、よりスポーティで洗練された雰囲気を与えている
4つのアウトレットと電子制御バルブを備え、ドライバーモードセレクターのモードに合わせて排気バルブシステムをアクティブに自動開閉することで、エギゾーストノートを変化させる「デュアルモードパフォーマンスエキゾーストシステム」を搭載する
ファイナルエディションでは「センターストライプ」が標準となる

 2015年に登場し、日本には2017年に導入された6代目カマロの、よりマッシブになったスタイリングを個人的にとても気に入っていた。歴代初の4気筒エンジンがカマロに積まれ、かつては当たり前だったV8が特別なものになったことには「時代」を感じさせられた。

 件のファイナルエディションは、V8を搭載する「SS」をベースとしており、黒白2色のボディカラーに前後を貫くセンターストライプが配されるほか、RECAROパフォーマンスフロントバケットシートや、ステアリングとグローブボックスリッドの専用プレートと専用フロアマットが特別に装備される。

V型8気筒6.2リッターがたまらない

「LT1」と呼ぶ6.2リッターV8は、OHVや2バルブを踏襲しながらも、可変バルブタイミングや直噴とともに、低負荷時には4気筒の稼働となる気筒休止システムといった現代的な機構を採用しているのも特徴だ。

搭載する直列V型8気筒6.2リッターエンジンは、最高出力333kW(453PS)/5700rpm、最大トルク617Nm/4600prmを発生。10速AT(パドルシフト付き)が組み合わせられる
V8エンジンは低負荷時のシリンダー休止機構を備えていて、走行中にドライバーが感じないほど自然にV4とV8を切り替えて走行する。ただし、メーター内に「V4」と「V8」のランプがあるので目視で確認できる

 大排気量の自然吸気V8エンジンというのは、いまや非常に貴重なものになってきたが、このクルマはまさにそこに絶大な価値がある。まずはとにかく音がいい。エンジンをかけた瞬間から迫力満点で、走っている間はずっとなつかしくも現代的に洗練されたV8サウンドを楽しめるのがたまらない。

 おとなしく流して2500rpmあたりで10段に刻まれたATがとシフトアップしていくときの重厚なサウンドも味わい深く、踏み込んで4000rpmあたりからトップエンドにかけては快音を放ちながら高回転型のスポーツユニットのようによく回る一面も見せる。設計当時はまだスピーカーを使って人間の耳に入る音をいじるようなことをしていないので、サウンドはすべて生音だ。

インテリア
ステアリングの6時の位置に専用プレートがあしらわれている
シフトまわり
助手席前のグローブボックスリッドにも「FINAL EDITION」の専用ロゴプレートが付く
BOSEプレミアム9スピーカーオーディオシステムや、シボレーインフォテインメントシステム8インチカラータッチスクリーンディスプレイなども標準装備
イルミネーティングシルプレートを装備していて、文字が白く光る

 パフォーマンスも、自然吸気ならではの素直な出力特性と吹け上がりが持ちよい。排気量が6.2リッターもあり、最高出力が450PSを超え、最大トルクが600Nmを超えているのだから、その実力は想像に難くない。

 無駄にアクセルを踏むと後ろ指を指される世の中になったが、この音と加速を味わいたくて、何度かアクセルを深く踏み込んでしまったことをお許しを。とにかくやっぱりカマロにはV8がよく似合う。

 ドライモードの選択でエンジン特性やATの変速の制御がそのとおり変わるが、公道向けのツーリングモードでも十分にこのクルマの世界観を堪能できて、アクセルオフ時にはバックファイアの音をたてる。禁断のローンチモードは、使う場所が限定されるので今回はガマン。

前席はファイナルエディション専用のRECARO パフォーマンスフロントバケットシートが配される
後席も大人2人がしっかり座れるほかコンソールの中央には置き充電も備える
トランクは奥行きがかなり深い
後席を倒せば長物も積める
持ち前の豪快な走りに洗練さがプラスされている

 V8の醍醐味が味わえるだけでも大満足なところ、カマロは足まわりの仕上がりもなかなかのものだ。ひとつ前の5代目カマロに初めて乗ったときだって、4代目カマロよりも格段に現代的に進化していて感心したものだが、ファイナルエディションが設定された6代目カマロは、持ち前の豪快な走りに洗練さをプラスしたことで、よりスポーティ度も増している。

足まわりの仕上がりはなかなかのもの

 5世代カマロに対してフレーム剛性を28%強化しながら、最大約90kgの軽量化を実現するとともに、21%軽量化したサスペンションによりバネ下重量を軽減したと伝えられており、そのあたりが効いているに違いない。

次期型の情報は……?

 カマロに思い入れのある人にとって、次期型に関する情報がまったくないのは寂しい限りに違いない。カマロがこのタイミングで生産終了を迎えた背景にあるのは、もちろん販売の事情は小さくないわけだが、実のところ、どうやらアメリカでの販売が思ったより伸びなかったようだ。

V8の迫力あるサウンドは、気持ちいいことこのうえない

 しかも、筆者にとっては魅力的に見えたデザインが、往年のファンには少々やりすぎで不評だったらしき話も聞いた。次期カマロをいかにして魅力的なクルマにするか、おそらくいまごろGMの関係者たちも思いをめぐさせていることと思うが、大いに期待して待ちたいと思う。

 そしていつの日か復活するときにも、絶対にV8をなくすことのないよう願いたい。こんなご時世なのでかなり不安になっていたのだが、先日GMが1300億円を投じてV8を増産する旨が報じられて、ちょっとホッとしている。やっぱりみんなどうこういってもV8が好きなんだよね。それは人間の本能的な部分に直結していると思う。あとは、日本もアメ車ファンにとって不利な排気量で税金が不当に高くなる旧来の税制が見直されるよう願うばかりだ。

走りもルックスもアメリカンテイストたっぷりな1台です
岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛