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スバル、自動車アセスメントで「ファイブスター大賞」受賞の「クロストレック/インプレッサ」に与えた総合安全性能を開発陣が紐解くテックツアー開催

2024年6月18日 開催

株式会社SUBARU 商品事業本部 プロジェクトゼネラルマネージャー 只木克郎氏と2023年度の自動車アセスメントで「ファイブスター大賞」を獲得した「クロストレック」

 スバルは6月18日、「安心と愉しさ」を持つクルマ造りに向けた活動について紹介するオンライン説明会「SUBARUの事故低減に向けた取り組み~総合安全性能の進化~」を開催した。

 今回のオンラインテックツアーでは、5月28日に国土交通省とNASVA(自動車事故対策機構)が発表した2023年度の自動車アセスメントにおいて、“2023年度に日本で一番安全なクルマ”に贈られる「ファイブスター大賞」を獲得した「クロストレック/インプレッサ」に与えられた各種安全技術や自動車アセスメントでの評価ポイントなどを解説。さらにスバルが「2030年死亡交通事故ゼロ」という目標に向けて進めているさまざまな取り組みについて紹介された。

クロストレック/インプレッサ JNCAPファイブスター大賞受賞について

株式会社SUBARU 商品事業本部 プロジェクトゼネラルマネージャー 只木克郎氏

 最初のプレゼンテーションでは、HEV(ハイブリッドカー)を含むスバルのICE(内燃機関)系車種の開発統括を担当するSUBARU 商品事業本部 プロジェクトゼネラルマネージャー 只木克郎氏が、スバルの安全に対する考え方とクロストレック/インプレッサの紹介を実施した。

 まず、只木PGMはスバルの歴史と安全に向けた取り組みについて説明。航空機メーカーである「中島飛行機」として創業したスバルのクルマには、万が一の墜落が命に関わる航空機開発で培われた、あらゆる非常事態を想定して設計するというDNAが受け継がれており、基本構造から危険な状況に陥らないようにするための工夫や対策が施されている。

 車両開発でも人を中心とした設計が行なわれ、走行安全にもつながる「水平対向エンジン」や「シンメトリカルAWD」、「アイサイト」に代表される先進安全技術の開発に安全思想として受け継がれており、現在のスバルでは「安心と愉しさ」を提供価値に位置付け、ユーザーに加えて各ステークホルダー、従業員に至るまで笑顔を作る会社を目指していると語られた。

スバルのDNAとして受け継がれる安全思想

 2023年度の自動車アセスメントで最高評価となるファイブスター大賞を受賞したクロストレックとインプレッサは、予防安全で88.50/89点、衝突安全で97.03/100点、事故自動緊急通報装置で8/8点を獲得し、総合評価は193.53/197点となり、それぞれで満点近い評価を得ている。これについて只木PGMは「皆さまの笑顔を作るべく、安全性能においては自車だけでなく、衝突した相手の被害も抑えるという開発思想が総合的に評価いただけた結果と受け止めており、大変光栄に思っております」と感想を述べた。

 さらにクロストレックとインプレッサは米国 IIHS(道路安全保険協会)が実施した安全性評価でも、さらに厳しくなった2023年からの評価で2024年モデルのインプレッサが「トップセイフティピックプラス」、同クロストレックが「トップセイフティピック」の評価を獲得。また、IIHSによる最新の前面衝突予防性能試験で2024年モデルの「フォレスター」が対象となった10車種中で唯一最高評価の「Good」を獲得するなど、海外でも高く評価されていると説明した。

2023年度自動車アセスメントの評価結果
自動車アセスメントのトロフィーと記念メダル

 また、只木PGMはクロストレックとインプレッサの商品概要についても解説。それぞれ個性の異なるモデルとして、ユーザーのライフスタイルに合わせて選んでもらえるようラインアップしている車種だが、家族や友人と外出していろいろなアクティビティを楽しみ、新しい体験をしてもらいたいという願いを共通の提供価値として設定しているという。

 クロストレックでは「休日が待ち遠しくなる、アウトドアアクティビティの“相棒”」をコンセプトに設定して、「冒険心をかき立てる外観と機能性」「目的地までの運転が愉しくなる走行性能と安全性」を車両の個性として際立たせている。

クロストレックとインプレッサで共通する提供価値は「FUN(楽しさ)」
クロストレックの商品コンセプト

 インプレッサは「行動的なライフスタイルへといざなうユーティリティ・スポーティカー」が商品コンセプトとなり、クロストレックとは一線を画するスポーティな外観デザインを与え、実用性と安全性に磨きをかけてベーシックなファントゥドライブを体感できるモデルに仕立てあげている。

 それぞれの商品コンセプト実現のため、新型車開発では「デザイン」「走り」「安全」「ユーティリティ」という4の要素に注力。今回のテックツアーでは安全面について、次のパートで技術解説すると述べてプレゼンテーションを終えた。

インプレッサの商品コンセプト
「デザイン」「走り」「安全」「ユーティリティ」の4点に注力して進化させている

SUBARUの総合安全性能と2030年死亡交通事故ゼロに向けた取り組み

技術解説のプレゼンテーションを担当した3人。左から株式会社SUBARU 技術本部 車両安全開発部 衝突安全第二課 課長 中瀬哲也氏、同ADAS開発部 担当部長 金子法正氏、同車両安全開発部 部長 荒井英樹氏

 只木PGMからバトンを渡されて始まった続いてのプレゼンテーションでは、最初にSUBARU 技術本部 車両安全開発部 部長 荒井英樹氏からスバルで取り組んでいる総合安全性能について説明された。

 スバルでは、視界のよさやパッケージングをターゲットとした「0次安全」、ブレーキや危険回避性能による「走行安全」、アイサイトなどを活用する「予防安全」、万が一の衝突時をカバーする「衝突安全」という4点に加え、近年では緊急事故通報などを行なう「つながる安全」と領域分けを行ない、各領域で技術強化を進めて総合安全性能を磨き上げている。

株式会社SUBARU 技術本部 車両安全開発部 部長 荒井英樹氏
5つの領域ごとに取り組みを行ない、総合安全性能を磨き上げている

 この総合安全性能の向上により、2030年に向けて「死亡交通事故ゼロ」という目標を実現するため取り組んでおり、すでに全体の94%をカバーする技術構築を視野に入れて開発を進めているところで、実用化にこぎ着けた技術から順次新型車に導入して市場投入している。

 また、死亡交通事故で残る6%については、「トレーラー車のような大型車2台に挟まれる」「ドラッグや飲酒に起因する暴走」「高速道路を横断する歩行者との事故」といった自車単体では対応が困難な問題となっており、被視認性を高めたテールランプの開発やドライバーに対する警報などに加え、政府機関に働きかけて取り締まりの強化、インフラの整備といったお願いも並行して進め、目標達成を愚直に目指しているという。

交通事故の発生要因ごとに分けた技術開発により、全体の94%カバーする技術構築を視野に入れて取り組みを進めている

 クロストレックとインプレッサに投入した具体的な技術としては、まず、0次安全の領域について解説。

 基本となるドライバーからの視界では、ピラー類による死角を極力減らしていくことに注力。交差点での右左折時に歩行者などの存在が死角で隠れないようなピラー形状、後方から追い抜いていく車両を見つけやすいウィンドウ形状などを追求し、停止状態の車両による静的確認だけでなく、実際の走行状況におけるチェックも細かく行ない、ドライバーが視認して安心できる内容を重視しているという。

ピラー類による死角を極力減らし、ドライバーが視認して安心できるようにしている

 また、夜間や降雨時などの視認性向上に向けた技術として、クロストレックとインプレッサでは「ADB」(アレイ式アダプティブドライビングビーム)と「LEDコーナーリングランプ」を採用。

 ヘッドライトを進化させる技術であるADBは、従来型のロータリーシェード式では遮光する範囲が広く、歩行者などの視認性を低下させてしまうケースもあったが、LEDの使い分けによって照射範囲を12分割することが可能。対向車のドライバーをまぶしさで眩惑しないようにしつつ、対向車後の通過後に道路に出た歩行者などの視認性を確保して事故防止に寄与する。

 LEDコーナーリングランプは、夜間走行中の右左折時に、曲がった先にいる歩行者や自転車などを照らし出すことで発見を容易にする装備として追加されている。

「ADB」(アレイ式アダプティブドライビングビーム)と「LEDコーナーリングランプ」を新採用して夜間走行時などの視認性を向上

「広角単眼カメラ」の新設で衝突回避シーンをさらに拡大

株式会社SUBARU 技術本部 ADAS開発部 担当部長 金子法正氏

 予防安全の技術解説は、SUBARU 技術本部 ADAS開発部 担当部長 金子法正氏が担当。クロストレックとインプレッサでは、スバルのADAS(先進運転支援システム)の代名詞となっているアイサイトを標準装備して、従来のステレオカメラとコーナーレーダー、ソナー類といった各種センサーに加え、フロントウィンドウに「広角単眼カメラ」を新設。衝突回避シーンのさらなる拡大を図っている。

「より幅広いシーンでドライバーの安全運転をサポートし、快適で安心なドライブを提供したい」という願いを実現するために追加された広角単眼カメラでは、対歩行者の事故統計で全体の38%が交差点を横断中の歩行者と右左折中に接触する事故になっている点に着目。また、対自転車の事故では全体の55%が双方直進での出会い頭で事故が発生しており、これらのシーンが対歩行者、対自転車の交通事故で多くの割合を占めており、この対策を行なうことで対歩行者、対自転車の交通事故を大きく減らすことができると分かる。

運転支援システム「アイサイト」に、クロストレックとインプレッサでは「広角単眼カメラ」を新設した
対歩行者、対自転車の交通事故発生シーン

 さらに詳しく事故要因を精査したところ、これらの事故が2つの事象が複合して発生していると分析された。まず、「交差点ではドライバーが行なうべきタスクが認知、判断、操作と多岐にわたる」ことが挙げられ、直進時の事故と右折時の事故で発生要因を比較すると、右折時の方がドライバーによる安全確認が足りないことで事故が起きる割合が高くなっており、これは交差点の走行時にタスクが増え、ドライバーの処理すべき情報が増え、重なっていくと追いきれなっていき、確認ミスや判断の遅れが事故につながっていく。

 2つめは、「ドライバーは自分で思っている以上に視野の中心部分しか見ていない」という点。人間の視野は200度程度とされているが、実際に認識できる有効視野は約20度、注視できる中心視はさらに狭く、広くても2度程度で、人間の目には死角が多いと金子担当部長は指摘。これらの考察から、事故原因を「交差点などで処理しきれなくなったタスクを限られた視野で認識することができなくなり、見落とすことで事故に至る」と結論付けた。

 この分析から、もともとの物理的な死角を含めてさらに広い範囲を車両が見守るようにして、事故を回避や被害軽減のために広角単眼カメラの追加を行なったと説明している。

「交差点内では複雑なタスクを同時に処理する必要がある」「人間の視野は思っている以上に狭い」という2点が交差点での大きな事故要因
広角単眼カメラによるアイサイトの作動状況を動画でも紹介。こちらは「左折時に手前側からの横断者を検知して自動ブレーキが作動するシーン」
「右折時に手前側からの横断者を検知して自動ブレーキが作動するシーン」
「直進時に駐車車両の側面から走り出してきた自転車を検知して自動ブレーキが作動するシーン」

自動車アセスメントのオフセット衝突試験を行なった車両で解説

株式会社SUBARU 技術本部 車両安全開発部 衝突安全第二課 課長 中瀬哲也氏

 事故が起きてしまったときの衝突安全については、SUBARU 技術本部 車両安全開発部 衝突安全第二課 課長 中瀬哲也氏から解説が行なわれた。

 最後の砦として乗員を守り、さらに衝突相手も守ることを目指して開発されているスバルの衝突安全性能では、まず乗員の生存空間を確保するため、エンジンルーム後方のバルクヘッドを境として、前方を「クラッシュゾーン」、後方を「キャビンゾーン」にエリア分け。高強度材の効果的な配置により、質量増を極力抑えることで危険回避などの走行安全に対する影響を極小に低減しつつ、フレーム類による確実なエネルギー吸収を実現。

 さらにSGP(スバルグローバルプラットフォーム)の採用によって衝突エネルギーを効率的に吸収する構想に加え、バンパービームの拡幅やサブフレームを活用するマルチロードパス構造により、衝突した相手車両をしっかりと受け止めて加害性低減を図っている。

 自動車アセスメントで実際に行なわれたオフセット衝突試験の映像も紹介され、衝突試験の内容についても解説された。

衝突安全で採用されている各種技術
自動車アセスメントで実際に行なわれたオフセット衝突試験の映像
自動車安全性能2023試験映像:スバル クロストレック(4分13秒)

 自動車アセスメントのオフセット衝突で実際に試験を行なった車両による解説では、エンジンルームのクラッシュゾーンが前方から徐々に変形して衝突エネルギーを吸収していること、車両前方から続くサブフレームがコンピューター解析どおりくの字に折れ曲がっていることなどを紹介。

 オフセット衝突でアルミハニカムとぶつかった衝撃でバンパービームの後方にあるクラッシュボックスが潰れ、メインフレームに衝撃を伝えていることが示され、さらに後方のキャビンゾーン近くではフレームを山折り型に変形させることで、前席乗員の足下にあるトーボードの変形を極力抑えるようにしていることがこだわりのポイントだと解説された。

 このような構造によってキャビンゾーンをしっかりと保護。試験車両でも問題なくドアの開閉が可能であることを示し、衝突後に乗員が車外に脱出したり、車外から救出しやすいようにしてるという。

自動車アセスメントのオフセット衝突で実際に試験を行なった車両
衝突試験後の変形具合などが解説された
オフセット衝突後でもドアが普通に開き、乗員の脱出や車外からの救出が可能だと示された

 歩行者との衝突時の備えについては荒井部長が解説。2016年10月に発売された5代目インプレッサから採用がスタートした「歩行者保護エアバッグ」は採用車種を拡大し、現時点で7車種で標準装備。ボンネット後方からT字型に展開するエアバッグが歩行者の頭部や上半身を受け止め、障害指標が高いAピラー付け根部分から歩行者を保護する仕組みとなっている。

「歩行者保護エアバッグ」は7車種で標準装備
歩行者保護エアバッグのテスト風景

 車両安全性能の新しい概念であるつながる安全として、クロストレックとインプレッサでは、2代目「レヴォーグ」から初採用されたコネクテッド機能「SUBARU STARLINK」に対応。エアバッグが展開するような衝突事故の発生時に自動的にコールセンターに接続する「先進事故自動通報」、急な体調不良や煽り運転などを受けたときに自発的にコールセンターを呼び出せる「SUBARU SOSコール」、車両故障などが起きたときに相談できる「SUBARU iコール」などのサービスが用意され、トラブル発生時や緊急時に安心を高め、命を救う技術となっている。

 このほかにもスバルは、次世代アイサイトのさらなる進化に向け、半導体メーカーのAMDとの協業を4月に発表。SoCの最適化などによって認識処理性能を高め、2030年の死亡交通事故ゼロを実現していくと語られた。

コールセンターと接続することで安心・安全を高めるコネクテッド機能「SUBARU STARLINK」
AMDとの協業によって次世代アイサイトをさらに進化させていく

自動車部門と航空宇宙カンパニーがコラボレーション

株式会社SUBARU 航空宇宙カンパニー 防衛航空技術部 丹羽史彰氏

 また、安全に対する取り組みの一環として、SUBARU 航空宇宙カンパニー 防衛航空技術部 丹羽史彰氏からも解説が行なわれた。

 前出のようにスバルの安全思想は航空機開発のDNAを受け継いでいるものだが、現在では逆に乗用車開発で培われた安全に関する知見が部門を越え、航空機開発に応用されていることが事例として紹介された。

 航空宇宙カンパニーでは航空機の安全性を向上させるため、障害物の検知と回避を行なうシステムや、飛行中に航空機に落ちる雷を回避する研究にこれまでも取り組んできた。こうした技術開発のなかで、自動車部門と航空宇宙カンパニーがコラボレーションして、乗用車開発で生み出されてきた乗員保護、衝突安全性能のノウハウが活用されるようになっており、ダミー人形を使った障害値の計測や評価、ハイスピードカメラ撮影による衝突解析といった技術を航空機開発にも活用。乗員に対する安全性向上の取り組みが進められているとアピールした。

航空機開発から受け継いだ安全思想のDNAが、現在の航空機開発に活用されるようになっている
プレゼンテーションの最後には、6月22日に放映されるNHKの「新プロジェクトX」でスバルの「交通事故ゼロに向けた取り組み」が取り上げられることも紹介された

自車後方の検出ではカメラにこだわらず、どんなセンサーを使うかフラットな立場から検討したい

参加者からの質問に回答する金子担当部長

 質疑応答では、画角が異なるステレオカメラと広角単眼カメラをどのように使い分けしてるのかについて質問され、ADAS開発部の金子担当部長が回答。

 ステレオカメラと広角単眼カメラで得られた映像はそれぞれ画像処理が行なわれ、画像自体はフュージョンなどを行なっていないとのこと。対象物との距離を正確に検出できるステレオカメラ、より広いエリアの物体を把握できる広角単眼カメラとそれぞれに長所があり、それぞれで判定した結果についてはフュージョンさせて自動ブレーキの作動が必要かの判定を行なっている。両方のカメラで認識できる領域の物体については、検出内容の信頼度に応じて総合的に判断しているという。

 また、3つのカメラについては車両前方を担当しており、さらなる安全性の向上に向けて自車後方についての検出も重要になってくると考えているが、物体の検出に利用するセンサーにはあまりこだわらず、レーダーやソナーなども含めてどんなセンサーを使うかフラットな立場から調べて採用を検討していきたいと今後について語った。