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スバル、新型「クロストレック」で日本向け初搭載の「広角単眼カメラ」も解説したテックツアー第2弾「SUBARUの事故低減に向けた取り組み(衝突安全編)」
2022年12月1日 11:00
- 2022年11月30日 開催
スバルは11月30日、自社の取り組みなどについて解説する「SUBARU テックツアー」の2022年度第2弾「SUBARUの事故低減に向けた取り組み(衝突安全編)」をオンライン開催した。
スバルでは「安心と愉しさ」を合い言葉として長年に渡って車両の安全技術を進化させており、2020年1月に実施された「SUBARU 技術ミーティング」では「2030年までに死亡交通事故ゼロを目指す」というロードマップを表明して取り組みを加速させている。
今回のオンラインイベントでは、最初にスバル 技術本部 執行役員 技術本部副本部長 兼 CTO室長の植島和樹氏が登壇。スバルが取り組んでいるクルマの安全・安心に向けた取り組みの概要とこれまでの実績などについて解説した。
植島氏は自身の経歴を紹介するなかで、2021年1月に新設されたCTO(最高技術責任者)室について説明。技術開発に求められる領域が多様化することを受けて設立されたCTO室は、スバルにおける中長期的な技術開発の方向性を定め、経営資源の最適配分を実施。社内にあるさまざまな部門を横断的に取りまとめ、もの作りにおける課題解決を図る部署となっており、技術開発から調達、製造といった関連部門からメンバーが集まって構成されている。
また、スバルが航空機メーカーを前身としていることで「操る人がミスを起こしにくく、万が一が起きたときでも人を守る」という人中心の設計を行なってきたこと、独自に磨き続けてきた総合安全の思想では、クルマの安全性を「0次安全」「走行安全」「予防安全」「衝突安全」「つながる安全」という5種類に分け、各分野の進化によって人の命を守ることに取り組んで死亡交通事故ゼロの実現を目指していることを紹介。
とくに2016年に発売した「インプレッサ」から導入を開始したSGP(スバルグローバルプラットフォーム)以降のモデルは、高剛性ボディと低重心化によって走りの楽しさを高めつつ、優れた危険回避性能、衝撃を効果的に吸収するボディ構造などで総合安全性能を飛躍的に向上させている。こうした取り組みにより、販売台数100万台あたりの割合として、米国における死亡事故、日本国内での死亡重傷事故が自動車メーカー平均値を下まわっているというデータを示した。
さらに米国のIIHS(道路安全保険協会)、日本のJNCAP、欧州のユーロNCAPといった公的機関の安全性能評価でスバル車が持つ安全性能が高く評価されていることを紹介。また、IIHSの評価に新たに加わった「シートベルトリマインダー」のチェックでは、対象となったスバルの2モデルだけが「Good」の評価を得ており、同じく8月に公開された極めてシビアな側突テストでも、ミッドサイズカテゴリーではスバルの「アウトバック」だけが「Good」評価となったことをアピール。2030年を目標としている死亡交通事故ゼロの取り組みがすでにさまざまな成果を挙げていることを説明した。
実際に起きた事故とシミュレーションの組み合わせで原因分析
植島氏に続いて、スバル 技術本部 車両安全開発部 部長 古川寿也氏が登壇。「2030年までに死亡交通事故ゼロを目指す」取り組みとして、実際に起きた交通事故の状況検証や医療データから見た死亡原因について分析を行なっていることを紹介した。
死亡交通事故ゼロを実現するための取り組みの一環として、実際に発生した事故の内容を調べるため、事故発生時の車速が高く、発生件数も多いことに加えて情報を入手しやすい米国で調査を実施。2017年~2019年の期間に年式の新しい直近5モデルイヤーのスバル車が関わった交通事故について全件を調査して、「事故の発生原因と死亡原因」を分析。分析結果から事故が発生する原因、死亡原因などを効果的に取り除ける機能がどんなものになるのかを割り出して、その機能を実現する具体的な対応手段を定め、実現に向けて開発を行なうといった手法を用いているという。
また、実際に起きた事故の情報を元に、シミュレーションで再現する取り組みも実施。シミュレーション内の事故で実際の事故と同じようなケガを負う結果になるか検証してシミュレーションの精度を高め、そこからどのような対策が効果的かも検証している。
死亡事故をゼロにするためにはさまざまな機能が必要になるが、事故調査で得られたデータから「0次安全/走行安全」といった未然防止に関連する機能は死亡事故の37%に有効、「予防安全」に関連する機能は死亡事故の57%に有効、「衝突安全+救助救命」に関連する機能は死亡事故の計62%に有効という結果が得られた。この検証を元にしてすでに実現された機能もあり、未実装の機能については対応手段の具体化を進め、製品に盛り込んで死亡交通事故ゼロを実現していくと古川氏は述べている。
衝突安全性能を高める具体的な技術についても古川氏は解説。新型クロスオーバーSUV「クロストレック」ではスバル自慢のSGPに加え、ホットスタンプなどの高強度部材を使用。シビアな衝突にも耐えるキャビンを実現して全方位の衝突に対応する。クロスオーバーSUVであるクロストレックには高い車高が与えられており、衝突時に相手側車両とのコンパティビリティとしてフロントバンパービーム下に衝突サブフレームを設定。相手側の車両に乗っている乗員の安全性にも配慮している。
また、「レヴォーグ」などに引き続いて「助手席シートクッションエアバッグ」を採用。前面衝突などの際に展開して座面前方を高め、ニーエアバッグと合わせて乗員の「サブマリン現象」を抑制。体重が掛かる下半身に衝撃を分散して上半身の移動を抑え、シートベルトによる拘束保護性能を高めることで、加齢によって肋骨などの強度が低下した人が胸部にケガをしないよう負担軽減する。
衝突安全性能を進化させる今後に向けた取り組みでは、前出の事故調査で「衝突を防ぎきれない事故」として分類された発生ケースのほぼすべてを衝突安全性能でカバーできるよう目標設定。この目標をクリアするためには重量の重い対象と高速で衝突した場合でも耐えられるよう、「大幅な車体の強化」「拘束装置の進化」がキーになるという。
また、交通事故が発生する状況は多種多様であり、具体的な対策を打ち出すためにはワーストケースを想定する必要があり、この割り出しに向けてさまざまなパラメーターでの衝突シミュレーションを数多く実施。状況ごとにどのような問題が発生するのか計測している。
これに加え、「アイサイト」などの予防安全技術をさらに高度化していっても、自転車の飛び出しに対応することはかなり困難だと考えていることを明かし、自動車同士の事故と同じく、歩行者やサイクリストなどとの衝突についても数多くのパラメーター設定でワーストケースについて確認。限定的なシチュエーションながら、サイクリストとの衝突時には現在の「歩行者保護エアバッグ」で対応しきれない場合があると判明しており、死亡交通事故ゼロの実現に向けた課題としている。
広角単眼カメラの視野はステレオカメラと比較して2倍程度
このほか直近の技術トピックとして、新型クロストレックで日本向け車両として初めて搭載することになった「広角単眼カメラ」について、スバル 技術本部 ADAS開発部 安藤祐介氏が解説を行なった。
これまでのスバル車では「新型ステレオカメラ」「前側方レーダー」などを組み合わせた新世代アイサイトを展開。新型クロストレックではこれに広角単眼カメラを追加して、新たに「自車が右左折している場合に手前側から歩行者が出てくる」「交差点の左右から自車より速い速度で自転車が進入する」といったシチュエーションでも「プリクラッシュブレーキ」による衝突被害軽減ブレーキを作動させることが可能になった。広角単眼カメラはステレオカメラと比較して2倍程度の範囲を認識可能とのことで、これについて安藤氏は「アイサイト史上最高の安全性能を実現しました」と述べている。
新たに衝突被害軽減ブレーキを作動対象となった2種類のシーンを日本国内の事故統計から見た場合、歩行者が対象となる状況は事故全体の19%以上、自転車が対象となる状況は事故全体の27%以上になると試算。それぞれ大きな割合を占めていることで高い事故抑制効果を発揮することをアピールした。
こうした事故が起きやすい理由として、安藤氏は大きく2つの要因があり、この複合によって起きているとの考察を披露。1つめは、運転中にクルマと歩行者、自転車が交錯しがちな交差点ではドライバーが行なうべきタスクが急増するという点。ドライバーが目で見た情報から状況を判断。これに応じた運転操作を行なう一連の流れで、右左折時の安全確認もこのタスクの1つになる。判断すべきタスクが増えていくとドライバーのタスク処理がオーバーフローして確認や判断に遅れが生じてしまう。2つめは、人間は自覚している以上に視野の中心しか見ていないということ。人間の視野は約200度ほどあるが、そのうち実際に見えていると認識できる有効視野は約20度、さらに注視できる中心視は大きくても2度程度であり、人間の目には死角が多いことが要因になっている。
これらの要因を勘案して、「マルチタスクを処理しきれずに死角に残ってしまったタスクを、限られた視野では気付くことが難しく、見落としになり事故に至りやすい」と結論づけている。
こうした問題解決に向けて、これまでのステレオカメラよりも広い視野をカバーできるセンサーが必要になったが、新たに対応するべきと考えた2つのシチュエーションでは、今回採用した広角単眼カメラのほかに前方LiDARも候補となった。しかし、カメラはほかの測距センサーと比較して細かい形状の判断に長けており、交差点のように多くの対象物が存在する状況で有利。さらにLiDARはコストが高く、ユーザーに対してアフォーダブルな価格で提供することが可能な広角単眼カメラの追加が決定された。
プレゼンテーションの締めくくりとして植島氏が再びカメラの前に立ち「2030年までに死亡交通事故ゼロを実現するためには、命を守ることができるシーンをさらに拡大していく必要があります。引き続き事故原因を分析し、それに必要な安全技術を明確化。ロードマップを策定して順次市場導入することで、地道に、着実に2030年の死亡交通事故ゼロに近づけてまいります。今後の具体的な取り組みについては、近い将来にご報告する機会を設けたいと考えております。ぜひご期待ください」とコメントしている。