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スバル、テックツアー第3弾「SUBARUの事故低減に向けた取り組み(走行安全編)」 開発コースで「クロストレック」などに与えられた走行性能を体感

2023年2月19日 開催

「SUBARU テックツアー」でスバル研究実験センター内の商品性評価路を走る「クロストレック」

 スバルは2月19日、栃木県佐野市にあるスバル研究実験センターで自社の取り組みなどについて解説する「SUBARU テックツアー」の2022年度第3弾「SUBARUの事故低減に向けた取り組み(走行安全編)」を開催した。

 スバルでは「安心と愉しさ」を合い言葉として長年に渡って車両の安全技術を進化させており、2020年1月に実施された「SUBARU 技術ミーティング」では「2030年までに死亡交通事故ゼロを目指す」というロードマップを表明して取り組みを加速させている。

 クルマの安全性を「0次安全」「走行安全」「予防安全」「衝突安全」「つながる安全」という5種類に分け、それぞれの分野別に安全性向上に向けた開発を実施しており、今回のSUBARU テックツアーでは「走りを極めれば安全になる」というスバルが長年培ってきた基本理念をベースとする走行安全について紹介。新たなスバル車の開発と新技術の評価などを行なっているスバル研究実験センターの一部を紹介しつつ、ここから生み出された「クロストレック」「ソルテラ」「WRX STI」などの技術について解説した。

スバル研究実験センターの概要を説明する株式会社SUBARU 技術本部 技術開発部 技術管理部 担当部長 兼 SKC管理課長 兼 スバル研究実験センター長 本井雅人氏
1989年9月に開設されたスバル研究実験センターは、東京ドーム38個分に相当する178haの敷地に各種評価路、研究開発施設を配置。約300人の開発担当者が常駐し、東京や群馬の技術本部から開発者が足を運んでテストなどを行なっている
敷地内にある主な評価路や施設

「雪上走行における予見性を高めること」が今後の目標

株式会社SUBARU 技術本部 技術開発部 担当部長 小暮勝氏

 試乗に先立って行なわれたプレゼンテーションでは、SUBARU 技術本部 技術開発部 担当部長 小暮勝氏が登壇。

 小暮氏は走行性能はスバルにとって安全性を高める点で重要な要素であり、「あらゆる環境下で誰もがコントロールしやすく、意のままに操れること」を目指して車両開発を実施。これを実現するため「人中心の車両開発」を行なっているという。ユーザーに運転しやすく疲れにくいと感じてもらうため、これまで進めてきた車両の構造や走行中に起きる現象に加え、現在は新たに人体構造の解析にも着手。運転しやすさ、疲れにくさのメカニズム分析によって乗り心地を進化させており、走行安全の進化によって死亡交通事故ゼロの達成を目指していくとした。

 また、今後の車両開発についても触れ、スバル車のユーザーには降雪地帯で生活し、年間の3分の1、4分の1といった期間に積雪路面を走る機会がある人も多いと説明。その中には免許を取得してから期間が短い若者や、体力が低下し始めた高齢者まで幅広く含まれ、そんなユーザーが安心して雪上を走るためにどのような性能が必要になるかスバルは追い求め続けているという。この実現に向けて現在取り組んでいる具体例の1つが「雪上走行における予見性を高めること」だと語り、常に変化していく路面と車両の状態をドライバーが直感的に把握できるよう、車両側での造り込みを進めていると語った。

スバルでは「0次安全」「走行安全」「予防安全」「衝突安全」「つながる安全」の5つに分けて開発を実施。今回のテックツアーでは動的性能や危険回避性能を磨く走行安全にフォーカスしている
誰でも思いどおりにコントロールできるクルマ造りが安全につながるという基本思想
パワートレーンとシャシー性能を磨き上げてコントロール性を進化。今回の試乗では「ソルテラ」でパワートレーン技術を、クロストレックでシャシー技術をそれぞれ紹介している
スバルの基幹技術である「シンメトリカルAWD」は約半世紀にわたって培われてきた技術だが、ソルテラの「前後独立モーター駆動式AWD」はこの知見をBEV(バッテリ電気自動車)向けに発展させた新たなコア技術となる
開発から評価まで一貫して手がけるエンジニアの人財が「人中心の車両開発」を支えている
今後の車両開発の一端として、雪上走行時の予見性向上に取り組んでいるという

商品性評価路でクロストレックの「医学的アプローチ」を体感

市街地の路面や走行シーンを再現した商品性評価路を走るクロストレック

 2022年12月に正式発表されたクロストレックでは、誰もがコントロールしやすい車両の“動的質感”を追求するため、新たに「医学的アプローチによる快適な乗り味」の実現に取り組んだという。

 一般的な市街地の路面や走行シーンを再現している商品性評価路でクロストレックの運転を始めてすぐに違いを感じたのは、骨盤の仙骨を支えているという新型シートによる下半身の安定性。車両が動き始めるまでは比較試乗した従来モデルの「XV」のシートと座り心地に大きな差は感じないが、車両が動き始めるとゆっくりと直進している段階から体をしっかりと支えてくれている心地よさがあり、左右に荷重が発生するコーナリング中は座面の凹みにすっぽりとおしりが包み込まれているかのようなホールド性を感じた。

 実際には医学的アプローチで身体保持性能の改善を行なっているのは背もたれの下側ということで、試乗後に触ってみても運転中に体感したような凹凸は座面には存在せず、不思議な気分になった。この構造は運転席に加えて助手席でも採用されているという。

大きくまわりこむようなコーナーからステアリングを切り返して横Gが連続して発生するようなシーンまで、クロストレックの純正シートはしっかりと体を支えてくれてステアリング操作に集中しやすい

 また、マンホールを3か所に設置して路面に凹凸や継ぎ目などを用意した直線区間では、同乗するスタッフから70km/hまで加速するよう指示された。クロストレックでは段差を通過したときの振動や音を確認しながらそれほど印象にも残らず通り過ぎたが、XVに乗り替えて同じように走るとわずかに緊張感が高まることが印象に残った。ふり返って見るとクロストレックの方が直進性が高く、ステアリングの修正舵なども不要だったことが影響していそうだ。

 このほか、従来型のXVでは駆動方式が4WDのみだったが、クロストレックでは前輪駆動のFF車も設定。乗り比べると車両重量で50kg軽量なFF車はコーナー進入時に鼻先の軽さを感じ、よりイメージどおりのラインを走れる印象だった。スバル車ということでユーザーの注目も4WD車に集まる傾向にあるとのことだが、注文前に乗り比べてFF車を選ぶ人も少なくないという。

70km/hまで加速しながら通過する直線区間。同じようにまっすぐ走るだけでクロストレック(左)とXV(右)の違いを体感できることに驚かされた
コンパクトなクロスオーバーSUVであるクロストレックはシンメトリカルAWDの卓越した走破性が大きな商品特性だが、舗装路で比較すると50kg軽いFF仕様にも高い魅力を感じた

登坂路でソルテラの「前後独立モーター駆動式AWD」を体感

最大斜度30%の砂利道をBEVのソルテラがゆっくりと静かに上っていく

 登坂路では、ソルテラで初採用されたBEV向けの4WDシステム「前後独立モーター駆動式AWD」と、これに合わせて最適化された4輪制御システム「X-MODE」の威力を体感した。

 試乗では未舗装の砂利道で多数の凹凸があり、左右のタイヤで路面のグリップ力が異なる場面もある急勾配の上りコースと、先の見えない最大斜度43%の舗装路を下りていくコースの2種類が設定され、それぞれX-MODEを「DEEP SNOW・MUD」モードに切り替えて走行した。

 試乗と言っても運転中にやることは、登坂にさしかかったところで一時停止して、センターコンソールに配置されたX-MODEのボタンとトグルスイッチを使ってモード切替を行なったら、あとはブレーキから足を離して設定速度で微速前進する車両に修正舵を与えていくだけ。あとはソルテラが駆動力を最適制御して、上りも下りも危なげなく走り切ってくれる。

試乗コースの登坂路
上りコースとして使われた砂利道では、同乗したスタッフから頂上でUターンするスペースの都合からできるだけ左側を走るよう指示された。左側の前後輪は雑草の生えた部分を通過することになり、駆動力制御の難易度が高まるシチュエーションとなっていた
最大斜度43%という下りコースは接近すると路面がまったく見えない状況になるため、遠く離れた場所に立っているスタッフに誘導されて進んでいくことになる

 あまりにもスムーズでステアリングを握っていると凄さを実感しにくいが、撮影するため車外から見ていると、路面の凹凸で車体をゆらゆらと動かしながら、タイヤが空転することなく角度の急な砂利道を上っていくシーンは圧巻。まるでタイヤから路面に伝える駆動力ではなく、ウインチを巻き上げて前進しているかのような雰囲気だった。これは駆動力を緻密に制御し続けることが可能なモータを使ったBEVならではの4輪制御になるという。

 下り坂もコースを下見するときに助手席に座って通過したときには、シートベルトで吊り下げられているような状態になるほどの急角度で、これほど条件がわるい場面を自分で運転する機会はあまりないのかもしれない。しかし、逆に言えばX-MODEの操作さえ覚えておけば、ソルテラに乗っている人はこんなシチュエーションでも慣れを必要とせず走り切ることが可能だと考えると、万が一の備えになる頼もしい相棒になってくれそうだ。

坂の手前でX-MODEのモード切り替えをしたら、あとはブレーキから足を離すだけでソルテラは砂利道をスルスルと上がっていく。ときおり意地悪くステアリングを急操作する参加者もいたが、タイヤが空転するような挙動は最後まで見られなかった
下り坂は舗装された路面をまっすぐ下っていくだけだが、急勾配すぎてスタート位置からは地面がほとんど視界に入らず、走行開始直後は落下するような感覚もあってかなりスリリング。また、直前から雨が降り始めて舗装路でも滑りやすい状況になっていたが、ソルテラはなにごともないように安定して坂を下りていった
SUBARU テックツアーで行なわれたスバル・ソルテラによる砂利道登坂(28秒)
SUBARU テックツアーで行なわれたスバル・ソルテラによる急勾配の下り(19秒)
ソルテラの試乗中にはスタッフによるモーグル走行デモも行なわれた
タイヤが宙に浮くような状況ではさすがに空転するシーンもあったが、ジワジワと進んで着実に障害をクリアしていった

高速周回路でWRX STIの安定性とSDAインストラクターの運転技術を体感

高速周回路の直線区間を走り抜けていく「WRX STI」

 高速周回路では、開発・評価者を育成するスバル独自の取り組み「SDA(SUBARU Driving Academy)」のライセンス制度で最上位の「SDAインストラクター」に認定されたスバルの開発者が運転するWRX STIに同乗試乗した。

 1周4.3km、バンク角43度というオーバル形状の周回コースを使った同乗試乗では、バンク走行、高速レーンチェンジ、240km/h走行からの急制動などを体験し、WRX STIが持つ高いポテンシャルを実感。車両はクローズコースでの高速走行に向けて速度リミッターが解除され、万が一の事故発生時に乗員保護性能を高めるロールケージを追加した以外は市販モデルとまったく変わらない状態とのことだったが、どんな場面でも不安を感じさせない安定した走りを披露。現在は残念ながら生産終了となっているが、このクルマが通常のラインアップモデルとして量産されていたことにあらためて驚かされた。

 とくに200km/h走行中に大きくレーンチェンジする場面では4輪のしっかりした接地感が伝わってきて、コース内の路面がサーキットのようにグリップ力を高められているのではないかと考えてドライバーに質問したが、高速走行でも問題が起きないよう平滑さには着目しているものの、グリップ力については公道と同じレベルに設定されているとの回答だった。それだけタイヤと足まわりによるメカニカルグリップ、空力特性によるスタビライジングが確保された結果になるのだろう。

SUBARU テックツアーで高速周回路を走行するWRX STIのインカー動画(5分10秒)
直線区間で240km/hまで加速したあと、急制動で60km/hほどまで一気に減速。路面がフラットなこともあるが、安定して滑らかに減速していくことも印象的だった
SUBARU 技術本部 車両環境開発部 環境性能開発第二課 課長 中野勉氏

 また、この試乗でWRX STIのステアリングを握った中野勉氏はSUBARU 技術開発本部に所属し、日ごろは「レヴォーグ」などに搭載されているCB18型エンジンの制御開発などを手がけているエンジニアで、スーパー耐久シリーズの参戦車両でもカーボンニュートラル燃料を使用するエンジン開発に携わっているという人物。

 自分たちが生み出している製品が極限状態でどのような挙動を示すかを理解して、どうやって進化させていけばよりよいクルマになるかしっかり分析している中野氏のようなスタッフが開発現場にいることが、安定して高い評価を得ている昨今のスバル車の背景にあると感じられた。

 スバルでは従来からテストドライバーという役職を置かず、車両評価をエンジニアが行なう社内体制を採っており、「ドライバーの評価能力以上のクルマは作れない」との考えから運転スキルと評価能力を高めることを目的として2015年9月にSDAを設立。現在ではテストコースを走行するすべてのスタッフが基本的にSDAのライセンスを取得しており、単純に速くクルマを走らせることにとどまらず、正確な車両操作、的確な分析や評価が行なえるスキルを磨いているという。

SDAは2022年度の活動として、スーパー耐久シリーズのST-Qクラスに「Team SDA Engineering」としてワークス参戦。カーボンニュートラル燃料仕様に変更した「BRZ」で全7戦を戦った