試乗記

ベントレー新型「コンチネンタルGTスピード」初試乗 進化したV8 4.0リッター+モーターが生み出す圧倒的なパワーを味わう

ベントレーの新型「コンチネンタルGTスピード」に試乗する機会を得た

 ベントレーを購入できるような超富裕層というのは、日本でも世界でも増えているそうだ。かたやこの仕事をしていてもベントレーに触れられる機会というのはそうそうないのだが、その貴重なチャンスが訪れた。場所はコーンズが運営する「THE MAGARIGAWA CLUB」だ。オーナー向けイベントのかたわらで、最新の「コンチネンタルGTスピード」をドライブできた。

 新型コンチネンタルGTスピードの最大のポイントは、ベントレー史上最高のアウトプットを実現した「ウルトラ パフォーマンス ハイブリッド」と呼ぶ新開発の電動パワートレーンだ。最高出力600PSを発生するV型8気筒4.0リッターガソリンエンジンに、最高出力190PSのモーターを組み合わせ、システム最高出力は782PS、最大トルクは1000Nmに達しており、エンジン単体で最高出力659PS、最大トルク900Nmだった従来トップエンドに位置していたW型12気筒モデルよりも大幅にパワフルになっている。

ベントレーの新型「コンチネンタルGTスピード」。価格は3930万3000円
ボディカラーは基本16色となるが、マリナーモデルではベントレーの過去の色を含めた101色から選択できるうえ、完全オリジナル色も指定できる
ボディサイズは4895×2187×1397mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2851mm、車両重量2459kg。トランク容量は260Lを確保。燃料タンク容量は80L

 ベントレーのハイブリッドモデルとしても、初出しとなったV型6気筒3.0リッターのシステムと比べて大幅な出力の向上はもちろん、EV走行距離が最大で50km程度だったところが81kmにまで伸びるなど、短期間で大きな進化をとげている。

「スピード」はベントレーにとってトップエンドに位置するパフォーマンスを重視した高級高性能版であり、これまで途中で追加されたところ、今回の第4世代では、その「スピード」から登場したことも特徴的だ。さらに今回のマリナーモデルには、スピードモデルを基に多くの贅沢なオプションとともに、クラフトマンシップによる独自の仕様が与えられている。

ヘッドライトは獲物に襲いかかろうとする虎の鋭い視線からインスピレーションを得て、楕円形のシングルランプと眉のように鋭いエッジの輪郭を組み合わせたほか、LEDマトリクスライトには独立した120個のLEDを装着するなど、先進の技術が使われている
22インチのマリナー製ホイールは、タングステングレーにポリッシュ仕上げのアクセントが施され、セルフレベリングホイールバッヂ(回転するセンターキャップ)を標準装備

「マリナー」というのは、ベントレーをカスタマイズするためのベントレー傘下の高級コーチビルダーで、歴史は古く、戦前からヨーロッパ有数のコーチビルダーとしてベントレーをはじめとするイギリスの高級車を扱っていた。しかし、紆余曲折を経て現在はベントレーの特別注文部門「ベントレーマリナー」として、顧客の好み通りにベントレーをカスタマイズさせるビスポークサービスを主に担っている。1980年代以降のベントレー2ドアモデルは、ほぼすべてがベントレーマリナー製を標準としている。

内装はメインとなるレザーカラー15色に加え、11種類のサブカラー、6種類のアクセントカラーが用意され、豊富なカラーバリエーションから選択できる。またマリナーではオーダーメイドのレザーカラーを選択でき、選択肢がさらに広がる
レザーカラーのほかにも、8種類のウッドパネル、ダークティント ダイヤモンド ブラッシュド アルミニウムやカーボンファイバーといったテクニカルフィニッシュ。加えて「インペリアルブルー」「グラビティグレー」「バーントオーク」「クリケットボール」といったパネルもオプションで用意している

 外見では、定番だった丸型ヘッドライトに眉毛のような横にクッキリと伸びるラインが加わり、見た目の印象が大きく変わった。大胆に変えたことには驚いたが、事前のリサーチでは好意的な声が多かったらしく、すんなり受け入れられるに違いない。このほかにも、バンパー、テールランプ、トランクリッド、テールパイプなどのデザインがリフレッシュされている。

ベントレーの新型「コンチネンタルGTCスピード」。価格は4312万円。GTのあとのCにはカブリオレの意味がある
コンチネンタルGTCのボディサイズは、4895×2187×1392mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2848mm、車両重量2636kg。トランク容量は134Lを確保。燃料タンク容量は80L
0-100km/h加速は3.4秒、最高速は285km/hに達する。また50km/h以下であれば走行中もルーフ開閉が可能
フロントのマトリックスグリルから、リアのスポーツ エグゾーストパイプまで、エクステリアはダークティント仕上げとなっている
テールランプにはスモーク効果のあるレンズを採用している

 インテリアの仕立ても素晴らしく、これまでにも増して魅力的になった。デザイン、カラーコーディネート、マテリアルのクオリティ感など、超えるものが思い浮かばないほどだ。柔らかくなめらかな手触りと極上の座り心地を提供してくれるシートに収まると、視界内にあるひとつひとつのものが印象深く、目が吸い寄せられる。各部のパーツをダーククロームで仕上げたダーククロームスペシフィケーションという仕様が設定されたのも新しい。

4人でゴージャスなオープンエアを体感できるコンチネンタルGTCスピード
コンチネンタルGTCスピードのコクピット
助手席前のパネルには「SPEED」のロゴが配されている

 また、今回は限られた時間のため、いろいろ試せていないが、インフォテイメント系も大きく進化し、機能が充実するとともに、より見やすく使いやすくなっているという。

THE MAGARIGAWA CLUBのコースで試乗を楽しむ

 THE MAGARIGAWA CLUBの極めてテクニカルでスリリングなコースを、最新・最強のベントレーを駆り、160km/hを上限にプロドライバーの先導で走行するという、貴重なチャンスだ。

0-100km/h加速は3.2秒、最高速は335km/hを誇る

 スタートボタンを押してもエンジンはかからず、最初の1周はデフォルトで設定されているベントレーモード(EVモード)で走る。最高速は140km/hまで、スロットル操作の75%まではEVモードに適用可能というだけあって、モーターだけでもけっこうな速さで、物足りなく感じることはない。

 コースのところどころは非常に高低差が大きいのだが、かなりきつい上り勾配でアクセルを踏み増してもエンジンはかからず、電気の力だけでEV状態のまま上っていけることに驚いた。中には、こんなところまで!? という箇所もあった。コースもすごければベントレーもすごい。

後輪のグリップを向上させることでトラクションと安定性を高め、より自信を持ってドライビングできる電子制御式リミテッド・スリップ・デファレンシャル(eLSD)を搭載している

 コースのストレートに戻り、走行モードを切り替えるダイヤルを左にまわしてスポーツモードにすると、エンジンがかかりアクセルレスポンスが激変する。奥ゆかしい重厚なV8サウンドもホレボレするほど素晴らしい。

 加速力も、さすがは782PSと1000Nmを発生するウルトラ パフォーマンス ハイブリッドというだけあって、伝えられているとおりスーパーカーのようなパフォーマンスと圧倒的なパワーを楽しむことができた。

最高出力782PS&最大トルク1000Nmのもたらすゴージャスな走りはもはやスーパーカー

 新しいデュアルバルブダンパーシステムと、デュアルチャンバーエアスプリングを備えた足まわりもまた素晴らしい。縁石に乗ってもなめるようにいなしながらも、きついコーナーでもロールせず、大柄なクルマでありながら、挙動が手につかめるのは姿勢の制御が完璧にできているからにほかならない。

 おかげで、ときおりブラインドコーナーに遭遇するTHE MAGARIGAWA CLUBのコースでも、何かあっても慌てることなく対処できそうな感覚があり、安心して攻めていけた。

 あっというまに終わってしまったが、疲れ知らずでいつまでも走れそうに感じられたほど、安定して快適な走りであった。その中でも最新・最強のベントレーをドライブして感じたのは、もともとはスポーツカーメーカーであるという矜持だ。

 これまでのモデルも極めて快適で、安定して走れたが、新しいベントレーはラグジュアリーな中にもスポーティなテイストの割合が増して、結果としてドライビングプレジャーが高まっているように感じられた。微妙に性格と質が変わってきているようだ。

 それでいて優れた電動車両としての側面も兼ね備え、優れたパフォーマンスを楽しめる一方で、都市部ではこれまでにも増して快適でスムーズに移動できるようになる。このうえなく先進的で洗練されたドライバーズカーになったコンチネンタルGTの登場を心から歓迎したい。

新型コンチネンタルGTスピードは先進的で洗練されたドライバーズカーだった
岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。