試乗記

ボルボの新型バッテリEV「EX60」に先行試乗 世界の乗用車の“ゲームチェンジャー”になり得る超問題作!?

新型バッテリEV「EX60」に先行試乗

ベストセラーモデル「XC60」級のBEV

 先日、日本で3列シートSUVの「EX90」、新たなフラグシップとなる「ES90」の2モデルを発表するなどBEV(バッテリ電気自動車)ラインアップを拡大しているボルボが、この1月に世界に向けて披露した「EX60」は、それらに続いて投入されるミッドサイズSUVである。要するに同ブランドのベストセラーモデル、「XC60」級のBEVだと言えば位置づけが想像しやすいだろう。

 しかしながら、その出来栄えは想像をはるかに超えたレベルにあると言っていい。スペインはバルセロナ近郊でひと足先に試乗したEX60は、ボルボ自身が喧伝しているとおり、このセグメントのBEVの、いや世界の乗用車の“ゲームチェンジャー”になり得る、超問題作だったのである。

 外観はとても特徴的だ。4803×1899×1635mm(全長×全幅×全高)というサイズのボディは、2970mmの長いホイールベースのおかげで前後オーバーハングが短く、フードもルーフも低くて、ステーションワゴンあるいはハッチバックのようにも見える。このフォルムはBEVということで空力を重視し、またフロアに大容量のバッテリを積むことから必然的に導かれたものであり、最初は違和感があったが、見慣れるにつれてカッコ良く思えてきた。

今回バルセロナ近郊で試乗したのは1月に世界初公開された新型電動ミッドサイズSUV「EX60」。パワートレーンは3種類用意され、117kWhのバッテリを搭載する「P12 AWD Electric」は最大810kmの航続距離を実現。95kWhのバッテリを搭載する「P10 AWD Electric」は最大660km、83kWhのバッテリを搭載する後輪駆動の「P6 Electric」は最大620kmの航続距離とアナウンスされている

 やはり最近のボルボらしくインテリアはシンプルな仕立て。スカンジナビアンデザインの最新型と言っていい。

 操作系の多くがインフォテインメントシステム内に統合されていて、スイッチ類は大幅に減らされている。ステアリングホイールやドアミラーの位置調整も、ステアリング上の1つのスイッチにまとめられていて、操作はやや煩雑ではあるが、一度設定してしまえばスッキリとした室内空間を堪能できるというわけだ。

室内はロングホイールベースとフラットフロアにより、とくに後席のレッグルームを大幅に拡大。大容量のラゲッジスペースに加え、身のまわりの小物を収納できる多彩なスマートな収納も備えて多用途性と実用性を向上させた。プレミアムなBowers&Wilkins製28スピーカーオーディオシステムなども備える
EX60はGoogleの新しいAIアシスタント「Gemini」を搭載した初のボルボ車となり、車両とGeminiが深く統合されていることから特定のコマンドを覚える必要なく、自然でパーソナライズされた会話を可能とした。また、ボルボ車史上最も応答性に優れたユーザー・エクスペリエンスを実現しており、シームレスで遅延のないインフォテインメントシステムにより、画面は素早く反応。地図は瞬時に読み込まれ、音声アシスタントは乗員の意図をより正確に理解するという

 しかしながらEX60で何より注目すべきは、そのハードウェア、そして走りっぷりである。プラットフォームは新開発の「SPA3」。EX90などが使うSPA2の進化型……と思いきや、実は完全に新たに設計されたものである。

 特徴は、まずセル・トゥ・ボディ構造。バッテリセルを車体に統合することで、ボディ剛性、スペース効率を向上させる。そして車体後半部に使われたメガキャスティング技術による大型鋳造パーツ。従来、百数十点に及んでいたパーツを一体成型することで軽量化、剛性アップなどさまざまな効果を生み出す。BEV専用設計により、車体構造の飛躍的な進化を可能にしたわけだ。

 こちらも目には見えない部分だが、最新のコア・コンピューティング・システムの採用も大きなトピックである。先進安全装備、エネルギーマネジメントからインフォテインメント、AI機能までをかつてない処理速度でこなし、SDVとして大きく進化。さらにOTAによる将来的なアップデートにも対応する。

半ば放心状態となるほどの出来栄え

日本導入が見込まれる中間グレードの「P10 AWD Electric」に試乗

 P6、P10、P12と現時点で3タイプがそろう中で主に試乗したのは、日本導入が見込まれる中間グレードの「P10 AWD Electric」。前後2モーターでスペックは最高出力510PS、航続距離660kmとなる。

 その走りで、思わず目を見開いたのが極上の快適性だ。試乗の舞台となったワイナリー周辺の山道は舗装が荒れていたのだが、EX60はしなやかなサスペンションでそれらを軽やかに受け止め、うねりや突き上げは堅牢なボディ剛性で難なくいなす、すばらしい乗り心地を堪能させてくれた。

 しかも単に乗り心地が良いというだけでなく、ステアリングの手応え、そして実際の応答性がきわめて正確で、クルマを思ったラインに導くのが実にたやすいのだ。まさにこれは、セル・トゥ・ボディやメガキャスティングによって圧倒的な剛性を得たボディという優れた土台に、各輪を個別に制御できる電子制御サスペンションの組み合わせのたまものだろう。

 走りはもちろんパワフル。しかしながら普段からそれをひけらかすようなものではなく、穏やかに走りたければ容易にそうすることができる。けれど、そんな時でも強大なパワーとトルクの実感、余裕のようなものは漂っていて、実際に追い越しなどの場面では、即座にそれを引き出すこともできる。

P10の最高出力は375kW(510PS)、最大トルクは710Nm

 静粛性にもうならされた。内燃エンジンをもたないBEVはそもそも絶対的な騒音レベルが低いのだが、EX60はそれに伴って目立つようになりがちな風切り音やロードノイズ、補機類の雑音の類がまったく耳に届かない。しかもカプセルで封じ込めたような人工的な無音ではなく、心地よい静けさなのだ。

 快適性と操縦性、いずれのレベルもきわめて高く、しかもそれらがきちんと並び立っているその走りは、これまで体験したことのない高みに達していたと評しても決してオーバーではない。正直、ボルボがここまで来たか……と、試乗後には半ば放心状態となるほどだった。

快適性と操縦性がきわめて高い次元でまとまっていた

 前述のセル・トゥ・ボディやメガキャスティングなど、BEV専用設計の新プラットフォームだからこそ採用できた革新技術が、クルマを大きく進化させることにつながった。これは間違いないだろう。さらに言えばEX60は、ボルボにとって本拠であるイエテボリで開発、生産される初のBEVということで、開発陣の気合いの入り方もやはり違ったものがあったようだ。

 とにかくおどろかされたEX60は、2026年終盤から2027年初頭辺りの日本導入を目指しているという。さらに車高を上げてエアサスペンションを採用し、アウトドアテイストを強めた「EX60クロスカントリー」もすでに発表済み。ここに来てBEVへのハードルも低くなってきている。ゼヒ多くの人に試してみてほしいニューモデルの登場である。

日本導入は2026年終盤から2027年初頭辺りを目指している
島下泰久

1972年神奈川県生まれ。
■2025-2026日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。国際派モータージャーナリストとして自動車雑誌への寄稿、ファッション誌での連載、webやラジオ、テレビ番組への出演など様々な舞台で活動する。2011年版より徳大寺有恒氏との共著として、そして2016年版からは単独でベストセラー「間違いだらけのクルマ選び」を執筆。また、2019年には新たにYouTubeチャンネル「RIDE NOW -Smart Mobility Review-」を立ち上げた。