試乗記

ポルシェの新型「911ターボS(992.2)」、歴代最高にして最強のパフォーマンスをサーキットで試す

新型「911ターボS(992.2)」

最大のトピックは「T-ハイブリッド」の採用

 ポルシェ911のラインアップにおいて、「ターボ」は常にフラグシップとして特別な意味を持ち続けてきた。その歴史は、1974年に発表された930型の911ターボから始まった。モータースポーツで培った過給機技術を、市販車で初めてロードカーに採用した「930ターボ」は自動車界に大きな衝撃を与えた。

 以来、半世紀以上にわたり、空冷から水冷への移行、4WD化、そして電子制御技術の導入など、時代ごとにポルシェの最先端テクノロジーをいち早く具現化してきたのが、911ターボの系譜である。そして、電動化という新たな技術を得て、1つの究極形へと進化したのが最新の992.2世代の「911ターボS」だ。

 992.2世代の911ターボSにおける最大のトピックは、ポルシェの独自のハイブリッド技術である「T-ハイブリッド」の採用である。3.6リッター水平対向6気筒エンジンと組み合わされるツインターボには、排気ガスが十分でない状況でも小型の電動モーターがシャフトを回し、コンプレッサーを強制的に駆動させることで、圧縮した空気を即座にエンジンに送り込むことができる「eターボ」を搭載している。

 8速PDK(ポルシェ・ドッペルクップルング)には電動モーターが組み込まれており、モーターのみでの駆動はしないものの、発進時からエンジンを強力にサポートする。これらによって、911ターボSはシステム最高出力711PS、最大トルク800Nmというおどろくべきパワーを手に入れた。0-100km/h加速はわずか2.5秒であり、これはポルシェの市販ロードカー史上最速である。

今回試乗したのは「オートモビルカウンシル2026」でジャパンプレミアとなった、911シリーズのトップモデルに位置付けられる新型「911ターボS(992.2)」(3635万円)。ボディサイズは4555×1900×1305mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2450mm。0-100km/h加速は先代モデルから0.2秒短縮して2.5秒、0-200km/h加速は0.5秒短縮して8.4秒を達成。最高速は322km/h
ツインターボパワートレーンであるT-ハイブリッド技術を採用し、システム最高出力は523kW(711PS)、最大トルクは800Nm。911 カレラ GTSのT-ハイブリッドでは電動エグゾーストガスターボチャージャー(eターボ)が1基搭載されるが、新型911ターボSでは2基に変更。このタービンとコンプレッサーは最上位モデルの要件を満たすように特別に設計されたものとなり、2基のeターボは性能の大幅な向上に貢献するだけでなく、パワートレーンの応答性も向上するという
新型911 ターボ Sでは新しいエアロダイナミクスコンセプトによって冷却と効率が最適化され、車両前部に垂直に配置されたクーリングエアフラップとアクティブフロントディフューザーを備える
新型911ターボSからクレストのカラーはターボナイトに
911 ターボ Sに使用されるピレリ「P ZERO R」は、優れたウェット性能を維持しながらドライ条件のハンドリングが大幅に改善されたといい、リアには先代モデルに比べて10mmワイドな325/30ZR21タイヤを、フロントは先代と同じ255/35ZR20タイヤをセット。標準装備のポルシェセラミックコンポジットブレーキ(PCCB)システムには新しいブレーキパッドが装備され、これによりブレーキ性能とペダルフィールを同時に向上させることに成功。リアアクスルのブレーキディスク径は390mmから410mmに拡大し、フロントには直径420mmのディスクを採用した
リアまわりでは伸縮と傾斜が可能なリアウイング、チタン製のリアサイレンサーとテールパイプトリムを備えた新しい標準スポーツエグゾーストシステムなどが目を引く。なお、911ターボSの空気抵抗係数はすべてのアクティブエアロダイナミクスエレメントがもっとも効率的な位置において、先代モデルよりも10%低減されるという

 これだけのポテンシャルがあるなら、「日常的に乗りこなすのは難しいのでは」と思われるかもしれないが、911ターボSはストリートでも十分に楽しめるモデルだ。コクピットに乗り込めば、完全デジタル化された12.6インチのメーターパネルや最新のインターフェースがドライバーを迎え、それらを直感的に操作できる感覚は残されている。走行モードをノーマルにしていれば、高性能スポーツカーの乗り心地を想像する範疇では、十分に快適だ。もちろんスポーツカーらしく引き締められた足まわりではあるが、路面の凹凸の振動を一発で収束してくれるため、不快感は少なく、むしろ高速道路でのグランドツーリングに向いているとも言える。

 加えて、試乗車はピュアスポーツカー然としているというよりは、高級感の方が先に立つ。レザーやスウェード素材がふんだんに使われており、18way電動調整アダプティブスポーツシートプラスも標準装備されており、最適で快適なシートポジションもとれる。性能だけでなく、価格帯も911トップレベルであるターボSは、その価格に見合った高級感もきちんと備えている。

インテリアではドアパネル、ステアリングホイール、ダッシュボード、センターコンソールまわり、デコレーティブステッチ、スポーツクロノストップウォッチ、メーターパネルなどにターボナイトのアクセントが与えられ、今回初めてネオジムトリムを備えたカーボン構造のトリムストリップと、ブラックの裏地が付いたパーフォレーテッドマイクロファイバーヘッドライナーが専用インテリアの一部に採用された
メモリー機能付18wayアダプティブスポーツシートプラスやヘッドレストの"turbo S"レタリングが標準装備される。標準で2シーターモデルとして提供され、要望に応じて追加料金なしでリアシートシステムを設定できる

その実力をサーキットで試す

911ターボSを持ち込んだのは「十勝スピードウェイ」

 しかし、911ターボSの真のポテンシャルを確かめるには、やはり一般道では限界がある。今回は、北海道にある「十勝スピードウェイ」に911ターボSを持ち込んだ。

 プッシュ式のスタートボタンを押すと、猛獣のような唸り声とともにパワーユニットが目覚める。コースインし、アクセルペダルを少し奥へと踏み込むと、こちらが準備する間もなく凶暴とも言える圧倒的な加速を始めた。従来のターボに見られた、排気が溜まるのを一瞬待つターボラグはほぼ気にならない。eターボが電気的に過給圧を跳ね上げているのだろう、背中を強打されるような強烈なGとともに、デジタルメーターの速度表示は一瞬で跳ね上がっていき、背筋が寒くなるような末恐ろしささえ感じる。まだ遠慮して踏み込んでいるにも関わらず、ストレートエンドでは270km/h近い速度に達していた。

 しかし、コーナーをクリアしていくごとに、恐る恐る走っていた自分が戦闘モードに入っていく感覚を覚えた。超高速域からブレーキペダルを踏み込むと、これだけ圧倒的な速度が出ている金属の塊がピタリと大人しくなるのだ。911ターボSには、優れた制動力と耐フェード性を持つPCCB(ポルシェ・セラミック・コンポジット・ブレーキ)が標準装備されており、リアのブレーキディスク径が拡大され、新しいブレーキパッドも採用されているという。単純に制動力が高いだけではなく、非常にコントローラブルなのもポルシェらしい。安心してブレーキを踏めることで、恐怖心が闘争心へと変貌を遂げる。

 そして、ターボSの真骨頂はこの卓越した加減速の先にあるコーナリングで発揮される。強力なブレーキで的確に速度を落とし、ステアリングを切り込んでいく。

その加速力には背筋が寒くなるような末恐ろしささえ感じる

 フロントに重量物の少ない911のレイアウトや後輪操舵の恩恵もあって、ノーズがおどろくほど鋭く向きを変えてくれる。クリッピングポイントを通過するときには、PDCC(アクティブロール制御)の効果もあるのか、きれいに車両姿勢が整っており、すでに次の加速に向けてアクセルを踏み込んでいける体勢になっている。そこからの立ち上がりは圧巻だ。電動ツインターボで増幅された莫大なパワーは、緻密に制御された4WDシステムによって四輪に伝わり、ガッチリとサーキットの路面を捉える。パワーを持て余してトラクションがルーズに抜けるようなことは露ほどもなく、すさまじい速度でコーナーを脱出できる。

 この完璧な挙動を陰で支えているのは、新開発の8速PDKのおかげでもある。自分で体感することは難しいが、アクセルを踏み込んでからエンジンがトルクを発生するまでにPDKに組み込まれたモーターが作動し(最大188Nm)、初速からアシストしてくれる。さらに、自分自身のマニュアル操作では到底追いつかないような電光石火のシフトチェンジを自動で行なってくれるので、ドライバーはペダルワークとステアリングコントロールだけに100%意識を集中することができる。

 何周もラップを重ねていくうちに、タイヤは徐々に垂れてきたが、ブレーキ性能の低下を感じることはなかった。たまにリアが滑りそうな挙動を見せても、電子制御をオンにしていたので、すぐさま体勢を立て直し、また加速体勢に入ってくれる。いくら走ってもまだまだ底知れぬポテンシャルを感じ、「私の実力ではマシンの限界はまだまだ引き出せそうにもない」と、良い意味で打ちのめされた。

 圧倒的なブレーキと車両のコントロール性能、絶大なトラクション、そして電動化されたパワートレーンの爆発力。それらすべてが妥協なく、極めて高い次元でバランスされている。「こんなモンスターのようなマシンを、自在にサーキットで操ることができて、日常使いできるクオリティで仕立てられているのはポルシェしかないだろう」と、改めて感じ入った濃密なサーキット試乗だった。

すべてが妥協なく、極めて高い次元でバランスしていた

 エミッション規制への対応や効率化のために、多くのスポーツカーが牙を抜かれ、あるいは過度な重装備に苦しむ現代において、ポルシェが提示した「T-ハイブリッド」という回答は、純粋に「ターボをより速く、より刺激的にするための電動化」であった。環境性能を満たしながら、歴代最高にして最強のパフォーマンスを更新してみせたのだ。

 また、「911はターボこそ最強」と信じるファンにとって、満足のできる快適な高級装備がついていたり、ストリートでも十分コンフォートである点も好印象だった。それらを装備してなお、サーキットで見せる圧倒的なコントロール性能と絶対的な速さ。この二面性をこれほど高い次元でブレンドしたハイパースポーツは、他にないと言えるだろう。ポルシェ911ターボSは、新しい電動化の時代を迎えてもなお、911の頂点に君臨する至極の一品だった。

伊藤梓

クルマ好きが高じて、2014年にグラフィックデザイナーから自動車雑誌カーグラフィックの編集者へと転身。より幅広くクルマの魅力を伝えるため、2018年に独立してフリーランスに。現在は、自動車ライターのほか、イラストレーターとしても活動中。ラジオパーソナリティを務めた経験を活かし、自動車関連の動画やイベントなどにも出演している。若い世代やクルマに興味がない方にも魅力を伝えられるような発信を心がけている。

Photo:堤晋一