試乗記

ボルボの最上級バッテリEVセダン新型「ES90」試乗 ついに上陸したクロスオーバーの走りとは?

ボルボのフラグシップBEVセダン新型「ES90」に試乗する機会を得た

 昨今の世界情勢から「2030年までに100%BEV(バッテリ電気自動車)化」という目標を修正しつつも、すでに日本国内での販売はフル電動化を果たし、2040年までにネット・ゼロ(温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすること)を目指すボルボ。

 そのラインアップにおいて、フラグシップモデルを務める「ES90」と「EX90」が、本国発売からおよそ2年を経て、ようやく日本にも導入された。

試乗車は最上位グレードの「Ultra Twin Motor Performance」で価格は1229万円。空力性能を追求したラインを採用したクロスオーバータイプだ
ボディサイズは5000×1940×1545mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3100mm、車両重量は2835kg、最小回転半径は5.9m

 ボディ形状として見ると、EX90は時流に乗ったSUVで、ES90はオーセンティックなセダンタイプ。そして今回は、後者のハイパフォーマンスモデルである「ES90 ウルトラ ツイン・モーター パフォーマンス」に試乗した。

 ここであえて“セダンタイプ”と表現したのは、このES90が実質クロスオーバーのBEVだからだ。

これまで100個ちかいチップで制御していたが、新たに「Hugin Core(フギンコア)コンピューター」を採用。すべてのチップを1つに集約して統合制御を行なう。1秒間に最大254兆回の演算が可能なNVIDIA DRIVE Orinを採用し、将来にわたりソフトウェアで車両の機能を改善・進化できるSDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)の基盤となっている

 5mにもなるボディの後部は、ハッチを備えたファストバック構造。そして全高は1545mmと、トヨタの「クラウン クロスオーバー」よりも高いのである。ちなみに最低地上高は177mm。

 先代のフラグシップセダンである「S90」と比べると、全長は30mmほど長い。しかしながらホイールベースもS90比で+160mm長い3100mmとしたことで、ニークリアランスはS90の81mmに対してES90は106mmにまで拡がり、後席の空間がより快適になった。

フル・アクティブ・ハイビーム(LEDヘッドライト)、LEDデイタイム・ランニング・ライト、LEDポジションライトを備える
テールランプはEX30やEX90と同じく「C」型のLEDタイプ

 プラットフォームは内燃機関エンジンとBEVで共用されたSPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャ)の改良版である「SPA2」だ。ボルボは今後BEVに専用プラットフォーム「SPA3」を使うが、ES90とEX90は開発期間が先行していたためSPAの改良版となった。これによってバッテリの搭載位置も若干高くなるため、セダンタイプながらもES90の全高が高くなったと思われる。

装着タイヤは専用開発したピレリの「PゼロE」で、サイズはフロントが255/40R22、リアが285/35R22。ホイールは5-Yスポークデザインで、サイズはフロントが22インチ×8.5J、リアが22インチ×9.5J、カラーは ダイヤモンドカット/ブラック

 ES90の駆動方式はRWDとAWDの2種類で、今回試乗したのは後者。

 フロントには299PS/390Nmを発揮する非同期式モーター、リアには381PS/480Nmの永久磁石同期式モーターを搭載して、680PS/870Nmのシステム出力を発揮する。車重は2560kgもあるが、同グレードのEX90よりは150kg軽いこともあり、0-100km/h加速は4.0秒と俊足だ。

ミニマルなインテリアで広々としたキャビンを採用。控えめな照明から大胆な照明まで、無駄を削ぎ落としながら、豊かさを追求する人のための1台に仕上げている
14.5インチの自立型センターディスプレイを搭載。地図、メディア、アプリへの簡単なアクセスのほか、タッチセンサーと赤外線フィルムを備えているため手袋を着用したままでも反応する
シフトレバーをコラム式にしたことで、センターコンソールに余裕ができ、収納スペースが増えている
ステアリング前にある9インチモニターは、速度やナビの基本情報など必要最低限の情報をすっきりと表示する「Calmビュー」、詳細な地図情報を表示する「Naviビュー」、周囲の車両、トラック、バイクを表示する「サラウンド」の3つの表示パターンがある
シートカラーは北欧の上質なインテリアに着想を得た、明るく爽やかなグレーとベージュのドーン。上位グレードUltraのシート地は、ファインナッパレザーが標準で、テイラード・ウール・ブレンドもオプションに設定されている
エレクトロクロミック機能付きパノラマ・ガラス・ルーフを装備(Plusグレードは通常のパノラマ・ガラス・ルーフ)

 またバッテリ容量は106kWhで、航続距離は720kmとなっている(WLTC値)。

 参考までにいうと、シングルモーターのRWDモデルは同じリアモーターを搭載しながら、バッテリ容量を92kWhに抑えることで、そのシステム出力を333PSに抑えている。

ラゲッジスペース容量は442Lで、後席を両方倒すと922Lの荷室スペースを確保できる
ラゲッジスペース下にも充電コードなどを収納できるスペースを用意
普段あまり使わないアイテムなどの収納に便利なフロント収納を装備

乗り味はフラグシップセダンを名乗るに相応しい落ち着きぶり

 試乗車は22インチにもなる大径タイヤを履いていたが、デュアルチャンバー式エアサスと可変ダンパーが、質感高くバネ下の動きをコントロールしていた。また大容量バッテリを床下に搭載しながらも、この足まわりと3mを越えるホイールベースのおかげで、ピッチングもさほど気にならない。

 ワインディングにも連れ出したが、同じくマナーは良かった。

デュアルチャンバー式エアサスと可変ダンパーのおかげか22インチのタイヤでもピッチングもさほど気にならない

 フロントにダブルウィッシュボーン、リアにマルチリンクを持つ足まわりは、ターンインでの応答性も従順で、カーブでは姿勢も安定している。重心もEX90より低く抑えられているので、その乗り心地にトーンが合っていた。

 ただし、そのパワーを解放するほどに、その良好なバランスは崩れる。

 SUVボディのEX90より挙動は落ち着いているが、ホイールの上下動を足まわりが抑え切れず、車体が揺さぶられる雰囲気が高まる。もしかしたらESP3プラットフォームなら、もう少し重心を下げられたのかもしれない。

あまりパワーを出すとバランスが崩れてしまう感じがあった

 22インチタイヤの性能に見合うコーナリングパフォーマンスが欲しいなら、もっとエアサスのチャンバー容量と減衰力は高めるべきだろう。そしてドイツ車であれば、これを徹底してきたはずだ。

 しかしそれがボルボらしいかといえば、筆者は違うと思う。

 端的にいえば、こんなに大きなタイヤと、強大なパワーはいらないのだ。それより日産のように、4輪のモーター制御で走りと安全性を磨いてほしかった。

Plusグレードの20インチタイヤのほうがバランスはいいかもしれない

 そうすればこのしなやかな足まわりでも、十分走りをバランスできるはずだ。見栄えや数値よりもインテリジェンスで、その商品価値として大きく打ち出すほうがボルボらしいと思う。

 後席のすこぶる高い快適性を考えても、ES90には穏やかな走りが相応しい。

 ためらわずに足の伸ばせるレッグスペース。22度~33度の可動域を持つ電動リクライニングで後席を倒してパノラマガラスを見上げれば、ちょっとしたサロンの雰囲気だ。これで後席にもマッサージ機能が付いていれば完璧である(シートヒーターは標準装備)。

後席はスペースも装備も快適そのもの

 今回高速巡航はできなかったが、街中からワインディングまでストレスなく走らせた電費は4.5km/kwhと、この車格としては予想以上だった。

 また当日は箱根ターンパイクの大観山パーキングエリアに設置された急速充電器「フラッシュ」で充電してみたが、その受け入れ電力は最大で250kWをマークした。そして約10分間でバッテリを52%から70%まで回復させたことを考えると、800Vシステムが安定して高い電力を維持したことが窺えた。

約10分間でバッテリを52%→70%まで回復。受け入れ電力は最大で250kWをマーク

 こうしたインフラが整ってくれれば、BEVライフはいよいよ現実的なものになる。

 価格的にもシングルモーターならアンダー1000万円から入手が可能で、最上級モデルである「ES90 Ultra Twin Motor Performance」でも1229万円と、セグメントを見わたしても競争力がある。またS90のPHEV(プラグインハイブリッド)である「リチャージ アルティメイト T8 AWD」との差額は140万円で、その内容の充実ぶりから旧オーナーの移行は、スムーズに進んでいるという。

少しずつBEVライフが現実的なもになっていると感じた1台だった
山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身。A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。日本カーオブザイヤー選考委員。自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してレースレポートやイベント活動も行なう。

Photo:中野英幸