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【インタビュー】ポルシェAG 911開発責任者のフランク・モーザー氏に聞く 911 GT3はターボ化? 電動718はどうなる?

2026年9月12日 開催
グローバルイベント「Sportscar Together Day」に向けて来日した、ポルシェAG フランク・モーザー氏が報道陣のインタビューに応じた

開発責任者が選ぶ理想の911とは?

 ポルシェジャパンは9月12日、グローバルイベント「Sportscar Together Day」をポルシェ・エクスペリエンスセンター東京(PEC東京)で開催。このイベントのために来日した、911および718モデルラインの開発責任者で担当副社長であるポルシェAG フランク・モーザー氏が報道陣のインタビューに応じた。

 世界中のポルシェ・エクスペリエンスセンターが連動して開かれたグローバルイベント「Sportscar Together Day」。世界中のポルシェ・コミュニティが集い、それぞれの地域ならではのプログラムを通じてドライビングの歓びを分かち合うグローバルイベントとなっており、オープンから5周年を迎えたPEC東京には1102名のポルシェファンが来場した。

 会場では歴代ポルシェの展示からドライビング体験をはじめ、ポルシェジャパン設立30周年記念モデル「911 GT3アルティザンエディション」やフル電動モデルとして第4世代に生まれ変わった新型「カイエン・エレクトリック」などについて紹介するトークセッションも行なわれ、モーザー氏は「The Sports Car Then and Next」と銘打たれたステージイベントで音楽プロデューサー/モータージャーナリストの松任谷正隆氏とともに登壇。

 モーザー氏は、2022年にフランク-シュテフェン・ヴァリザー氏(現ベントレー会長兼CEO)の後を継いで911および718モデルラインの責任者を務める人物。1996年からポルシェに勤務し、開発部門に16年間在籍したあと2013年にツッフェンハウゼンにある工場で品質責任者に、2014年からはポルシェ全体の品質管理を統括する立場にある。優れたリーダーシップを備えるとともにチームワークも重んじ、品質とデザインに対する鋭い洞察力を持つ人物として高く評価されているという。

911および718モデルラインの責任者を務めるフランク・モーザー氏

 モーザー氏はトークセッションで911の開発責任を担うことは次世代を形づくることと、長年培われた固有のDNAを可能な限り維持することの両立を意味するといい、「911に必要なのは急進的な革命ではなく、小さな段階的変更を積み重ねる進化であり、その両立は容易ではない」とその難しさについて語った。

 また、トークセッションでは911 GT3で一度MTが廃止された後に復活した経緯を踏まえ、今後のMT需要について質問が出た。モーザー氏は「MTは911にとって重要であり、維持したい」と回答したが、PDK内部にeモーターを置くT-HybridではMTを実装できないため、MTを継続するには非ハイブリッドである911モデルを残す必要があるという。911カレラTおよびGT3などを例に挙げ、自然吸気・MT・ピュアなコンセプトの組み合わせが自身にとって理想の911だと述べた上で、「これが最後のMT仕様の911ではない」と表明した。対象モデルや発表時期は示されていないものの、今後も911のMT仕様がラインアップされることが明かされたのは、911ファンにとって朗報といえるだろう。

911 GT3 RS
911カレラT

 以下、報道陣とのインタビューの内容を紹介する。

GT3は将来的にターボ化される?

「新しい911を作るということは未来とこれまでポルシェが培ってきた911ならではのDNAをつなぐという非常に重要な仕事」とフランク・モーザー氏

──911モデルラインの責任者として、911はポルシェにとってどのような意味を持っているのか。そしてモーザーさんにとって911の魅力的な点はどこか。

フランク・モーザー氏:911の責任者として本当に光栄に思っております。新しい911を作るということは未来とこれまでポルシェが培ってきた911ならではのDNAをつなぐという非常に重要な仕事でありますので、私にとって大きなチャレンジであることは間違いないです。

──ポルシェには911 ターボSというハイブリッド電動ツインターボのトップモデルがあり、一方でGT3というモデルがある。この2つの魅力の違い、あるいは同じ点があればお聞かせください。

フランク・モーザー氏:911.2ではハイブリッド(ポルシェではT-ハイブリッドと呼ぶ)のGTS、そしてトップエンドのターボSがあります。言ってみれば、ターボSはポルシェのパフォーマンスを体験していただくには卓越した一番のモデル。

 一方でGT3では自然吸気を守りたかった。法律の規制などでなかなか厳しくなってきていますが、GT3ではそれを実際にやることができました。

T-ハイブリッドを搭載するGTS
トップエンドのターボS

──欧州でユーロ7がはじまるとGT3の自然吸気エンジンは規制をクリアできないのでは、と言われています。いつまでこの自然吸気エンジンは作ることができるのでしょうか。

フランク・モーザー氏:GT3の開発、本当にそこが難しいところです。今のモデルに関しては自然吸気を採用いたしましたが、ご存じのとおり排ガス規制の関係で欧州では30%、北米では40%削減しなければいけなかったので、今回触媒コンバーターを4つ搭載したことによってそれをクリアしましたが、どうしてもパワーが下がってしまう。もちろんクルマの俊敏性を上げるためにPDK(Porsche Doppelkupplung:ポルシェ・ドッペルクップルング)も、MTもギヤレシオを8%向上させるなどしましたが、やはりユーロ7は自然吸気エンジンにとっては非常に厳しいものです。

 今回はこういった形で採用しましたが、おそらく2027年末までかなと現在は想定しておりまして、そのあとGT3をどうやって継続していくかということについては、なにか新しいアイデアを出さなければならないと思っています。排ガス規制だけでなく騒音規制も厳しくなっているので、この2つをクリアするというのがやはり非常に難しくはなっています。

──ということはGT3は将来的にターボだったりT-ハイブリッドだったりになる可能性もある?

フランク・モーザー氏:正直なところ、これからはターボチャージャーなのかなという気がしますけども、自然吸気エンジン自体が禁止されてるわけではなくて、どうしてもその排ガス規制の関係から、排ガスを減らすとなるとパワーが出せないという事情があるので、パワフルなエンジンが自然吸気だと作れないということになってしまうんです。そうすると1つの選択肢としては、やはりターボなのかなという気はします。GT3でT-ハイブリッドというのはちょっと分かりません。

──911のラインアップ構成において、現状でいうとGT3(510PS)よりもGTS(541PS)の方がスペック的に高いという構造になっています。従来であればGT3の方が速いという関係性にあったと思いますが、そのあたりのバランスについてお聞かせください。個人的には自然吸気エンジンは速くなくても気持ちよければいいと思っています。

フランク・モーザー氏:個人的な見解としては、それは単に加速や最高速だけの問題ではありません。GT3とGTSを区別する必要があります。例えば、GT3や私たちのすべてのGTモデルは、フロントアクスルがダブルウィッシュボーンになっています。これがGTモデルだけの特徴で、より正確なステアリングを可能にしています。曲がりくねった道での運転がそれを実感させてくれます。

 GTSはハイブリッド化により最もパワフルなクルマです。でも、GTSとGT3は別の観点で区別しなければなりません。個人的には単にパワーや最高速、0-100km/hタイムだけでなく、クルマのハンドリングこそが重要だと思います。そしてそこにはモータースポーツ部門の技術があり、それを常にGT3に移植しています。この点がGT3とGTSの大きな違いです。

モータースポーツ部門の技術が活かされているか否か、そこがGT3とGTSの違いになる

──日本の市場の重要性と、お客さまが何にフォーカスしていると思っているかをお聞かせください。

フランク・モーザー氏:まず「Sportscar Together Day」は世界各国で本日開催されているのですが、スポーツカーの開発責任者である私は日本に今回来る決断をしました。それは、日本市場がそれだけ大事だからです。特にGT3を含むGTシリーズを数多く販売していただいている重要な市場ですので、今回は他の国でもイベントが開催されていますが、私は日本に行くことを決めました。

ポルシェジャパン イモー・ブッシュマン社長:個人的にモーザーさんが日本に来てくれたことをすごく誇りに思っています。日本が本当にスポーツカーの市場であることをドイツに伝えるのをサポートしてくれるので、本当にありがたいです。

ポルシェジャパン株式会社 代表取締役社長のイモー・ブッシュマン氏

──911は60年以上続いているスポーツカーで、おそらくこの先も続いていくと思われるんですけれども、モーザーさんは911のDNAでこれだけは守らなければいけないと思っているポイントを教えていただけますか?

フランク・モーザー氏:ご指摘のとおり、911は60年以上の歴史を持つモデルで、アイコニックなクルマになっています。デザインと卓越したパフォーマンスを誇るクルマではありますが、それと同時に2ドアのスポーツカーでありながら日常の使い勝手の良さ、また社会的に広く受け入れられているところがこの911の特徴だと思っています。911はスポーツカーを定義したクルマだと思っていますけども、これだけ特徴があるので、その特徴を維持しつつ未来にこれを継承していくのが非常に難しいです。

──「Sportscar Together Day」には1000名以上の方がいらっしゃり、ほかの国でも同時に開催されているとのことですが、ここまで多くのユーザーを熱狂させるポルシェの魅力がどこにあるとお考えでしょうか。また、その魅力を生み出すためにクルマ作りの上でどういうことを心掛けているのでしょう。

ポルシェジャパン イモー・ブッシュマン社長:ポルシェは先ほどモーザーからも話がありましたとおり、社会に広く受け入れられているブランドであり、またパフォーマンスを定義する最前線にいるブランドだと思っています。

 日本は本当にスポーツカーの市場で、モータースポーツですとか高度なテクノロジーをすごくリスペクトする国だと思っています。そういった日本のニーズにお応えしたいと思っておりますので、こういったイベントを開催し、多くのポルシェオーナーさま、それからクルマ好きの方のコミュニティを作っていただきたいと思います。やはりこういうイベントは、クルマ好きの人たちをつなげるすごく大事な役割を担っていると思っています。

「Sportscar Together Day」には1000名以上の来場があった

──どのモデルに乗ってもポルシェらしさというのが感じられるのですが、クルマ作りにおいてどういったことがそれを意識させるのか、どのようなことを心掛けてクルマを作っているのか教えてください。

フランク・モーザー氏:典型的なポルシェとしての「DNA」を備えていることは極めて重要です。それは2ドアモデルに限った話ではなく、カイエンのようなモデルにも当てはまります。

 例えば、新型カイエンは正真正銘のポルシェと言える1台です。実際に運転してみると、大型車でありながらそれほどの大きさは感じさせません。挙動は正確で扱いやすく、実際の重量よりも軽快な印象を与えます。それこそが、私たちがクルマを開発する際のアプローチなのです。どのモデルにおいても、私たちは同じ考え方や哲学を共有しています。その上で、GTやGTSといったモデルの特性を際立たせるために、細部にわたる作り込みを行ない、それぞれの個性を描き分けているのです。

 そして、そうした開発を支えているのは研究開発センターのチームです。彼らは本当にすばらしい才能の持ち主たちですよ。

第4世代となる新型カイエンはフル電動モデルとしてラインアップされる

──モーザーさんが日本にいらしたのは初めてでしょうか? また日本のスポーツカーファン、ポルシェファンにどのような印象をお持ちですか?

フランク・モーザー氏:日本の、特に2ドア・スポーツカーに対するお客さまの情熱には本当におどろかされます。今回で2度目の来日となりますが、昨日は最高の形で1日が始まりました。朝到着して、そのまますばらしいサーキットへ向かいました。「THE MAGARIGAWA CLUB」ですね。そこで911のイベント(911オーナーを対象とした特別イベント「Porsche 911 Gathering at THE MAGARIGAWA CLUB」が9月11日に実施された)が行なわれていて、「次はどんなクルマが登場するんだろう?」とワクワクしました。本当にすばらしい体験でした。到着した時の第一印象がまさにそれでした。お客さまが愛車と共に集まり、クルマへの情熱を注いでいる姿を目の当たりにして、本当に感動しました。

 あいにく天気はあまり良くありませんでしたが、お客さまの情熱やブランドへの愛、そして日本のコミュニティのすばらしさを感じることができました。ヘリテージカーやクラシックカーの姿も見られましたし。993や964、996、あるいはGモデルといったクルマもあって、日本のこうした状況は本当にすばらしいと思います。ここに来られて本当にうれしいです。今回が最後ではありませんよ。お約束します。

THE MAGARIGAWA CLUB

──718についてですが、次期モデルは電動化されるというお話だと思うのですが、直近ではICEも追加されるような報道もあったりします。公にお答えできる範囲で方針などをお聞かせください。

フランク・モーザー氏:まずは電動の718についてお話ししましょう。このクルマはその本質をしっかりと受け継ぐものになるとお約束します。

 単なる「もう1つの電気自動車」ではありません。これは私たちにとって初の電動2ドアスポーツカーなのです。このクルマを真に特別なものにするために、私たちは多くの努力を重ねてきました。特に軽量化を図り、可能な限り俊敏な走りを実現することに注力しています。

 デザインやスタイリングについてもすばらしい仕上がりになっていると思います。ですから、電動718は正真正銘の2ドアスポーツカー、まさに「本物の718」となるはずです。現在は完成に向けて開発を進めている段階です。今後の展開についてはまた追ってお話しすることになりますが、現時点ではそのモデルの開発に全力で取り組んでいます。

──モーザーさんが好きな911はどのモデルになるでしょう? また911を新車で買おうと思った方におすすめしたい現行モデルはどれになりますか?

フランク・モーザー氏:個人的には993に特別な思い入れがあるのでこの1台を選びたいと思います。私がポルシェに入社したのが1996年だったのですが、そのときに社用車として最初に乗ったのが993 GTS(2輪駆動)のホワイトカラーでした。なのでこのモデルに対してはすごく思い入れがあります。

 また、現行モデルも含めた911の中で、私のお気に入りのモデルについてお話ししましょう。よくお客さまや友人から「911を買うならどれがおすすめ?」と聞かれるのですが、私がおすすめするのは……通常、2つのモデルを挙げます。1つ目は「911 GTS」です。これは本当にすばらしいパッケージングのクルマだからです。パフォーマンスやスペックはもちろん、走りの挙動やサウンドに至るまで、すべてが優れています。GTSは911として完璧なパッケージと言えるでしょう。

 2つ目のおすすめは、より「ピュア」なモデルを求めるならマニュアルトランスミッションを搭載した「911カレラT」です。6速MTを味わいたいならカレラTを選ぶべきです。これこそが純粋な911、つまり「純粋なドライビングの楽しさ」を体現するモデルですから。私のおすすめはこの2つです。