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ポルシェの最新ブランド体験施設「ポルシェ・エクスペリエンスセンター 東京」を見学してきた

2021年10月1日 開設

10月1日にオープンしたポルシェ・エクスペリエンスセンター 東京(千葉県木更津市伊豆島中ノ台1148-1)をモータージャーナリストの山田弘樹氏がレポート

なぜ木更津が選ばれた?

 ポルシェのパフォーマンスと世界観を体験できる「ポルシェ・エクスペリエンスセンター」が、遂に日本上陸。世界で9番目の施設として、ポルシェ・エクスペリエンスセンター 東京(以下、PEC東京)が千葉県木更津市にオープンした。千葉県なのに東京? という話はこの際抜きにしよう。なぜならポルシェジャパンがこの地をエクスペリエンスセンターに選んだのには、きちんとわけがあるからだ。

 それは、羽田・成田という2つの空港に近いこと。これはドイツ本国のみならずアジア圏の人々たちにとっても、このPEC東京がポルシェ・エクスペリエンスのハブになることを意味している。

PEC東京のエントランス

 そしてもう1つは、この地が豊かな自然環境を有していること。木更津はポルシェが目指す環境保全やサスティナビリティコンセプトを体現するに相応しい場所として選ばれたのである。

 そしてポルシェジャパンはこの施設を作り上げる段階で、自然への影響を最小限に抑えるコース造りを行なった。地盤の高低差はそのまま活かし、湿地などに育成する希少植物を保全し、再生水や太陽光といった再生可能エネルギーを利用しながら施行を進めたのだという。

 さらに地域とのつながりを求め、「木更津市オリジナル有機米 生産推進プロジェクト」に協力し、マラソンイベントである「木更津ブルーベリーRUN」(11月21日開催)にはコースを開放。

 そして災害発生時には地域支援のための人的支援、車両支援、物資支援を行なう協定を締結した。こうした積極的なアプローチに対して木更津市も、PEC東京の前を走る国道125号を「ポルシェ通り Porsche Strasse」と名付けて相思相愛ぶりを示した。

 そんなPEC東京を、ポルシェジャパンの代表取締役社長であるミヒャエル・キルシュ氏は実に的確な言葉で表現した。氏いわく、ここはディーラーでもサーキットでもなく「ポルシェを体験するセンター」だと述べたのであった。

10月1日に行なわれたオープニングセレモニーに出席したポルシェジャパン株式会社 CEO ミヒャエル・キルシュ氏。報道陣向けの囲み取材では、PEC東京がディーラーでもサーキットでもないポルシェを体験するセンターだと解説した

 ポルシェのCI(コーポレート・アイデンティティ)だけに縛られることなく、日本の伝統工芸品である江戸切子をモチーフにしたセンター内には、さまざまな体験施設が用意されている。

 1階にはポルシェ 906や919 ハイブリッドといった歴史的マシンが展示され、「956カフェ」で軽食を楽しむことが可能となっている。ここで走るポルシェたちのメンテナンス風景を見たり、ショップでポルシェグッズが購入できる。

 また2階に上がれば、コースを一望しながら「レストラン906」で食事をしたり、「シミュレーターラボ」でバーチャルレーシング体験をすることも。

 さらに興味深いのは、企業やクラブに向けて会議室を貸し出していることだ。ここでミーティングや懇親会を開いたり、さまざまなニーズに対応することが可能なのだという。

PEC東京の1階にはポルシェ 906などさまざまなモデルが並べられる
1階のオフィシャルアイテムショップではアパレルグッズやモデルカーなど、ポルシェのブランドアイテムを購入することが可能
最新のポルシェモデルを間近に見ながら軽食やスナックが食べられる956 カフェも1階に
白を基調としたクリーンなピットには工具だけでなく資材も取り揃えている
ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京を一望できるレストラン906は2階に。イベントのためのスペシャルメニューなどにも対応するという
2階にはミーティング、研修、イベントなど多目的に使えるミーティングルームを10部屋設定
世界有数のレーストラックでのドライビングを体験できるシュミレーターラボでは、プロのレーシングドライバーも使用するという最新シュミレーターが並ぶ

助手席でコースを体験

 とはいえ、そのハイライトはなんと言ってもドライビングエクスペリエンスだ。ただ取材当日は千葉県に台風が近づき、コースは超が付くほどのヘビーウェットに。残念ながら自分でコースを走ることは叶わなかった。それでもインストラクターが運転する「マカン」の助手席でコースを体験してきたので、その様子をお伝えしていこう。

 全てのアトラクションは、全長2.1kmの長さを持つコースの敷地内に配置されている。オフロードコースのみマカン/カイエンの選択になるが、ユーザーは自分が乗りたい現行モデルを選んでコースを試走。パーソナルドライビングコーチが隣に座り、最大90分の時間を活用しながら各モジュールを体験できる。そして時間が許せば、自分が気に入った(気になった)モジュールを繰り返し練習できるのだという。

 モジュールは全部で6つ。当日は「オフロードエリア」と「キックプレート」(散水したコンクリート路面を通過すると、キックプレートが左右に動いてクルマが強制的にスピン状態になり、これをコントロールする)がまだ未完成だったが、あとの4つは助手席体験できた(オフロードエリアは現在オープンしている)。

オフロードエリア

 舗装された広場にパイロンでスラロームを作った「ダイナミックエリア」は、ドライ路面でのローンチコントロール体験や、フルブレーキング体験ができる。普段は使わないこうした装置、ポルシェが誇るブレーキ性能を実際に試せるわけである。

ダイナミックエリア

「ローフリクションハンドリングトラック」はナローな幅のテクニカルコースを走るのだが、このコンクリート路面はかなり磨き上げられた低μ路になっている。そしてここをきれいに走らせるには、正に基本通りの操作が必要になる。また、それを失敗したときに「PSM」(ポルシェ・スタビリティ・マネージメントシステム)の効果を体感・体験することができる。助手席から見ている限り、かなり地味なアトラクションに見えたが、実はこれが最も奥深いメニューだろう。例えれば1年中、氷上トレーニングができてしまうというわけである。

ローフリクションハンドリングトラック

「ドリフトサークル」は、誰もが一番試したい場所ではないだろうか。これは文字通りドリフトコントロールが学べるアトラクションで、散水された低摩擦コンクリートの円周を走ることでアンダーステアやオーバーステア体験ができる。リアヘビーだとまことしやかに言われる911や、エントリーモデルといわれるボクスターの真の実力を確かめることができるだろう。

ドリフトサークル

 最後はいよいよ2.1kmのコース。あいにくの雨となってしまったが、コースインして思うのは風景も路面も非常に美しいということだ。それはメーカーのテストコースであったり、できたてのニュルブルクリンク(笑)を走っているようなイメージである。前半に連続する登りコーナーは、リズミカルなアクセルワークで駆け抜ける。これはなるほど、鈴鹿サーキットのS字をイメージしたのだという。

 そしてこれを抜けたヘアピンコーナーは、まさしくニュルの「カルーセル」コーナー。路面の状況まで忠実に模したというバンクは、マカンで走ると“トン・トン・トン・トン”とリズムよくタイヤを上下させ、初めてニュルを走ったときの記憶を思い起こさせた。唯一違うとすれば右コーナーになっていることだが、それはコースの設定が理由だろう。右ハンドルのポルシェを走らせるならドライバーが内側になるからちょうどよさそうだ。

全長約2.1kmのハンドリングトラックではニュルブルクリンク(ドイツ)のカルーセル、ラグナ・セカ(アメリカ)のコークスクリューといった、有名コーナーを再現したエリアも設定。PEC東京ではこれまでのPECが二次元トラックであることに対し、地形を活かした唯一の三次元(立体構造)トラックとなり、高低差のある3Dドライビングが体験できる

 ゆるやかな左コーナーから折り返して差しかかるのはそう、ラグナセカにある「コークスクリュー」である。右に曲がりながら坂道を下り、さらに左へと旋回するセクションは、カルーセルと同じくコーナーが逆に再現されていたが、登り切って一気に下る走りはとてもダイナミックである。そしてバックストレートから最終コーナーを曲がり終えると、エクスペリエンス・センターが見えてくる。

ピットには体験に使う最新のポルシェ車がずらりと並び、これを見ているだけでも楽しい

コースの100km/h制限の意味

 現在コースの速度はおよそ100km/hに制限されている。これだけを聞くとサーキット慣れしたユーザーはちょっと残念に思うかもしれないが、そこにはいくつかの利点があると筆者は感じた。

 まず1つはこうした速度で走らせることで、ポルシェのポテンシャルを伸び伸びと感じることができる。コースに出てみれば分かるが、そのコース幅は国際サーキットのような広さではない。エスケープゾーンもなく、両側をガードレールが囲んだコースは、視覚的にはタイトにすら感じるだろう。

 そしてもしこれを速度フリーで走らせたとしたら、きっと多くの人が100km/h+αで落ち着くのではないか。少なくともコースを攻略することだけでいっぱいいっぱいになってしまうだろう。

 それよりむしろ100km/h程度で走らせた方が、美しいコースや風景を眺めながら、ポルシェのよさをより多く感じ取れるはず。そもそもこの速度域でポルシェを試乗することすら、ディーラーではできない。だから自分が真剣にほしいと思っているポルシェがどんなキャラクターなのかを体感するには、これがかなり的を射たメニューであると思うのだ。そして全開性能や限界性能は、前述した各プログラムで体験すればよいのである。

 ちなみにこうしたプログラムはセンターにある現行モデルでのみ体験が可能。つまり自車で走ることはできないのだが、それもある意味正しい。なぜならわれわれユーザーは自車の状態を分かっていても、センター側はその管理状態を把握しておらず、安全を担保できないからだ。たとえばブレーキがフェードしてしまったり、オイルが漏れてしまったら危険、というわけである。

 さて駆け足で紹介したポルシェ・エクスペリエンスセンター 東京だったが、オーナーに限らずぜひ一度は訪れてみてほしい場所である。プログラムに参加せずとも食事にくるだけで十分楽しめるし、友達同士で落ち合ったり、クラブで集合場所に使うことだってできる。アウトレッドや観光のついで、それこそ袖ケ浦フォレストレースウェイで愛車を走らせた帰りに、ちょっと足を伸ばすのもありだろう。1つのランドマークとしてクルマ好きのみんなが、フランクに立ち寄れる場所になったらとても素敵だと思う。