試乗記

ポルシェ新型「カイエン」の頂点「カイエン ターボ エレクトリック」試乗 ピュアEVになっても不変的なターボの価値とは

第4世代となる新型カイエンに試乗する機会を得た

「エレクトリック」「ガソリン」「E-Hybrid」を展開するカイエン

 2002年にデビューを果たし、スポーツSUVのアイコンとしてポルシェ復興の立役者となった「カイエン」。その第4世代となる「カイエン エレクトリック」が、ポルシェ エクスペリエンスセンター東京(PEC)でお披露目された。

 そしてこのテストドライブで筆者は、フラグシップモデルとなる「カイエン ターボ エレクトリック」を試乗した。その印象を完結に述べれば、ただただ圧巻。あきれんばかりの万能感と、それを基盤としたプレステージ性について、ここからはじっくり述べていきたいと思う。

 ポルシェといえば、先んじて「マカン」がピュアEV専用モデルの名乗りを上げた。対して今回カイエンは、マルチパワートレーン形式を明言。その理由はざっくり言えば市場が未だにガソリンモデル、もしくはこれをベースとしたプラグインハイブリッドモデルを望んでいるからだ。

 ということでカイエンは現状、ピュアEVとなる「エレクトリック」シリーズと、3.0リッターV6/4.0リッターV8を搭載する「ガソリン」シリーズ、そして「E-Hybrid」シリーズ(プラグインハイブリッド)という3つのパワートレーンでグレードを展開している。さらにボディはSUV/クーペの2種類を用意し、トータルで20種類近いバリエーション展開となっている。

 ピュアEVのポルシェとしては、タイカンおよびマカンに続く3番目のモデルとなる「カイエン エレクトリック」。試乗した「カイエン ターボ エレクトリック」は、そのもっともプレミアムなモデルだ。ポルシェは歴代「ターボ」の名を冠するモデルがハイエンドであり、全ての内燃機関モデルがターボ化されても、そして今回のように電動化されてもその呼び方に変わりはない。

 そのプラットフォームは、フォルクスワーゲングループが共有する「PPE」(プレミアム・プラットフォーム・エレクトリック)だ。ポルシェではマカン(タイカンはGTカー用のJ1プラットフォーム)、そしてアウディではA6/Q6 e-tronといった、中型以上のプレミアムモデルに用いられるプラットフォームがその基盤となっている。

今回試乗したのは新型カイエンの最上位グレード「カイエン ターボ エレクトリック」(2101万円)。ボディサイズは4990×1980×1675mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3025mm
新型カイエンでは両面冷却による最適な熱管理が行なわれる新開発の113kWh高電圧バッテリが搭載され、「カイエン ターボ エレクトリック」の航続距離(WLTC)は629km。ローンチコントロール時のオーバーブースト出力は850kW(1156PS)、ローンチコントロール 時の最大トルクは1500Nmを発生し、0-100km/h加速は2.5秒を誇る
タイヤはピレリ「P ZERO ELECT」を採用
新型カイエンではフロントエアロフラップ、リアスポイラー、リアアクティブエアロブレード(ターボモデル専用)の3点で構成されるアクティブエアロパーツが特徴。エアロブレードは35km/h以下で収納、55km/h以上で自動展開し、空気抵抗を低減させて最高速の向上と車両安定性を担保する。空気抵抗係数は0.25を実現

 駆動方式は2モーター式4WDだ。フロントには小型で高効率な、そしてリアには大容量の永久磁石同期モーター(PSM)を組み合わせるそのシステム最高出力は、通常時でも630kW(857PS)を発揮。そしてステアリングの「プッシュ・トゥ・パス」ボタンを押せば、10秒間のスクランブルで130kW(176PS)のパワーが上乗せされ、760kW(1033PS)と1000PSの大台を超える。さらにローンチコントロール時のオーバーブーストでは、850kW(1156PS)/1500Nmものパワー&トルクを得ることができるという。

 こうした出力をただ発揮するだけでなく、安定して継続させようと考えるのもポルシェならではで、そのためにリアのモーターは油冷式となった。具体的にはリアのモーター冷却を、通常の間接水冷式から油冷式に変更。ステーターやローターの内部へ直接オイルを流し込むことで、その温度上昇を抑えようとしている。

 3mを優に超えるホイールベースに敷き詰められた駆動用バッテリは、113kWhと大容量。対して航続距離が629kmと思ったより短いのは、パフォーマンス重視のスポーツモデルだからだろう。ちなみに標準モデル「カイエン エレクトリック」でも、その航続距離は636kmとほぼ変わらない。

「カイエン ターボ エレクトリック」のインテリア。センターコンソールに有機ELパネルを用いたフローディスプレイを採用
「カイエン ターボ エレクトリック」のクレストカラーはターボナイト
OLEDテクノロジーを採用した14.25インチのフルデジタルメーターパネル。オプションで14.9インチの助手席側ディスプレイも用意
前席
後席
ラゲッジスぺースの容量は781~1588Lとし、さらに90Lのフロントラゲッジコンパートメントも用意する

感服するポルシェの技術力

オーバー1000PSの世界を体験

 ということでまずはオーバー1000PSの走りを体験するべく、ダイナミックエリアでの加速体験だ。

 “素”の状態(つまりは857PS)でのゼロ発進加速は、まずその瞬発力に圧倒された。ただ初速の立ち上がりさえやり過ごしてしまえば、速さには慣れることができた。

 圧巻は「ローンチ」モードだ。両足で踏んだペダルを、ブレーキだけ離す。一瞬タイヤが路面をかきむしる音がしたかと思うと、瞬時に鳴り止み加速が始まる。“うっ”と胸がひきつるその加速は、数字に直すと0-100km/hを2.5秒で走り切る異常さで、スタートダッシュを決めたあとも、加速Gが長く続く。

 車内に響くエレクトリック・スポーツサウンドと相まって、その加速は“ワープ”だ。4.6リッターV8に2モーターを組み合わせた「918スパイダー」(2.6秒)の公式記録を0.1秒上まわる速さだといえば、なんとなく想像が付いてもらえるだろうか? ちなみに4.2リッターV8ツインターボを搭載する「カイエンターボGT」は3.3秒だ。

 だが、それにも増して感心したのは制動力と制動姿勢だ。オプションとなる22インチタイヤの内側に収められたブレーキシステムは、フロントが10ピストン(!)+420mmセラミックディスク(PCCB:オプション)の組み合わせ。これは「911ターボS」にも搭載される、ポルシェ最大のサイズだ。ちなみにリアはきちんと4ピストンキャリパーを装備した上で、パーキングブレーキも別備えしている。ディスク径はPCCBだと410mmとなる。

 万全の備えとなるブレーキシステムは、加速度の付いた2645kgのボディを瞬時に減速させるわけだが、そのブレーキングには過激さのかけらもなく、ピッチングが見事に抑え込まれているから姿勢が乱れない。おそらくそこには電子制御サスペンションだけでなく、回生ブレーキの影響も大きく働いているはずだ。最大で600kWを回生するというモーターは、前後のブレーキバランスまで制御しているのだろう。恐ろしく安定した姿勢でそのスピードを封じ込めてしまった。

「ローンチ」モードでスタートダッシュ。0-100km/h加速2.5秒の実力は半端じゃない

 トラックコースでの走りも恐ろしくエグかった。いや、恐ろしく滑らかなことがショッキングだったという表現の方が正しい。手の平にはフロントタイヤが路面を捉える感触がしっかりと伝わり、それでいてその操舵フィールはしっとりと懐深い。これぞ“ターボ”の味わい。

 感心したのはコンフォートモードの姿勢制御だ。ハードなブレーキングでノーズのダイブが抑えられるだけでなく、コーナリングでもロールがとても少ない。それでいてGの移り変わりを体で感じ取れるから、自分でクルマを走らせている感覚がきちんとある。筆者はノーマルのカイエン エレクトリックを試すことはできなかったが、インストラクターいわくその差はハッキリと体感できるほどだという。

 アクセルを力強く、しかしゼロ発進加速時よりは緩やかに踏み込んでいくと、今度はポルシェ・エレクトリック・サウンドをじっくり味わうことができた。パワーゲージの盛り上がりとシンクロして湧き上がる疑似エンジンサウンドが、最終的に駆動系と電子音をミックスしたような音色へと変化していくそのサウンドフローは抜群にエモーショナル。確かに作り込まれたサウンドではあるのだが、路面から伝わるバイブレーションや加速感とシンクロすることで、ちゃんと気持ちを昂ぶらせてくれる。そしてブレーキングと共にそのサウンドが収束すると、まるでジェットコースターを乗り終えたかのような、ホッとした気持ちになる。

トラックコースで感心したのはコンフォートモードの姿勢制御

 先導車付きの走りでは、そのポテンシャルの一端すら見えなかったというのが正直な感想だ。リアステアを軸とした回頭性の良さは天井知らずであり、スポーツモードに転じても車重に対するロールの破綻はまったくない。マカンも同じPPEプラットフォームを使っているが、シャシー制御の格の違いにはちょっとおどろかされるものがある。

 ということでその本領を知るべく試乗後に、インストラクターがドライブするホットラップを体験したが、その走りは本当に見事だった。さすがに重心が高い分だけ911のような限界の高さはなかったが、走り自体には破綻がない。旋回中のスキールサウンドは一定で、コーナリングGは高く保たれたまま。グリップアウトして盛大に滑り出すようなそぶりもなく3連続ターンやカルーセル、そしてコークスクリューを折り返し、怒涛の加速でヨーを打ち消し立ち上がった。ちなみに最終コーナーのアプローチは165km/hオーバーと、911ターボSに匹敵していた。

 感服するのはその速さをただ制御で管理するだけではなく、ドライビングプレジャーにまで昇華しきれているポルシェの技術力だ。そして普段はその暴君ぶりを忘れてしまうほど、たおやかに走れるポテンシャルを備えていることである。この万能感こそ「ターボ」が持つ最大の魅力であり、それはピュアEVになっても変わらなかった。気にするべきことがあるとしたら、それは常にタイヤのコンディションをベストに保つことだけだろう。

ポルシェの技術力にただただ感服する試乗となった
山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身。A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。日本カーオブザイヤー選考委員。自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してレースレポートやイベント活動も行なう。