試乗記

KiaのEV「PV5」で箱根を走る! カーゴとパッセンジャーの両モデルに乗った印象は?

Kia「PV5 パッセンジャー」

 日本で唯一の普通サイズ商用BEVがKia「PV5」だ。韓国を中心に欧州でも注目される理由は、本格的なBEV商用車として初めて何から何まで新規に開発されたことにある。特にモジュール化されたプラットフォームは斬新でサイズの許容度が大きく、拡大の余地が大きい。

 エンジンの搭載をまったく想定しておらず、BEVのメリットを存分に引き出した大型商用EVは、まさに目から鱗だった。

 バッテリを中心にしてプラットフォームを開発することで剛性確保と低床化が可能となり、カーゴでは荷物の積み下ろしがしやすく、パッセンジャーは後席への抜群の乗降性をもたらした。

 PV5 カーゴのキャビンは新世代EVらしくクリーンでシンプル。ディスプレイもセンターとドライバー前に行儀よく搭載される。文字が小さいなどの華やかさはないが商用車として走行可能航続距離の表示が大きいなど工夫が凝らされている。

 前席は高い位置にあるものの、ガソリン車のようにグリップを使ってよじ登るような不自然な姿勢ではなく、無理なく乗り込める。直前視界はフロントウィンドウ下端の位置が意外と上に見えるので限られているように感じるが、高速道路などでの見えすぎる疲労は軽減される。さらに斜め前方はAピラーの巧みな角度、そしてサイドウィンドウの下端がかなり低く落とされており死角が少ない。

 室内全体が明るく快適な空間が作られている。カーゴの後部視界は運転席直後に隔壁があってルームミラーもウィンドウもないためカメラに頼らざるを得ないが、バックカメラを利用したルームミラーも近いうちに導入されるという。

PV5 カーゴ(スタンダード)。ボディサイズは4695×1895×1925mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2995mm。バッテリサイズは71.2kWhのロングレンジと51.5kWhのスタンダードの2種類が設定されており、WLTCモードの一充電走行距離はロングレンジが528km、スタンダードが379km
16インチスチールホイールにはネクセン「N blue S」(215/65R16)を装着する
カーゴは全車2人乗り仕様となる
カーゴの荷室容量は4420L。観音開き式バックドアは90度で保持でき、ロックを解除すると最大180度まで開放可能。最大積載量はロングレンジで550kg、スタンダードで650kg
カーゴ内の側面にAC100Vコンセントが配置される
LEDカーゴランプを標準採用
PV5 パッセンジャー(ロングレンジ プラス)。ボディサイズとホイールベースはカーゴと同等。バッテリサイズはカーゴと同じ71.2kWhのロングレンジと51.5kWhのスタンダードで、グレードはロングレンジのプラス、スタンダードのプラス、スタンダードのベーシックの3種類となる
ロングレンジ、ベーシックともにプラスは16インチアルミホイールを装着。タイヤはカーゴと同じネクセン「N blue S」(215/65R16)
ボンネット内
パッセンジャー(ロングレンジ プラス)のインパネ。インテリアカラーは写真のディープネイビー×テラコッタブラウンのほか、ディープネイビー(モノトーン)、ディープネイビー×ライトヒューマングレイも設定
ステアリングは2本スポークタイプ。左スポークには運転支援機能などのスイッチ類を、右スポークにはオーディオ関連のスイッチを配置
コラムタイプのシフトノブ。スタート/ストップスイッチもここに集約される
インストルメントクラスター(メーター)は7.0インチ液晶を採用
ステアリングにDRIVE MODEスイッチを配置。ドライブモードはECO、NORMAL、SNOWの3種類
インパネセンターの12.9インチ液晶ディスプレイでは、バッテリの充電状況や車両の設定などさまざまな操作が可能
全車サラウンドビューモニターが標準装備となる
ディスプレイの下には車両のドア開閉用スイッチやUSBポート、ワイヤレス充電(パッセンジャー ロングレンジ プラスのみ)などを配置
パッセンジャーのフロントシート
パッセンジャーのリアシート
フットレストやUSBポート(フロントシート背面)を採用し、リアシートの快適性を高めている
パッセンジャーのラゲッジ。カーゴほどではないもののかなり広い。荷室容量は最大1330L

PV5 パッセンジャーとカーゴの両モデルに試乗

PV5 パッセンジャーとカーゴの両モデルに試乗

 最初の驚きは乗り心地の想定以上の素晴らしさ。荒れた舗装路面では路面からの突き上げを覚悟したが、滑らかに凹凸を吸収する。乗用車顔負けの乗り心地なのだ。しかもEV特有の静音性で、なめるように走る。

 タイヤは韓国NEXENの専用タイヤ、N blue S(215/65R16)でパターンノイズもよく抑えられているばかりでなく、路面からのアタリも商用バンとは思えないほどソフトで、日本製SUVの比ではない。低重心のバッテリレイアウトをうまく活かしたサスペンションデザインなど商用車の新しい境地を開いている。

 ただし、積載時にはサスペンションがソフトすぎないかとか、最低地上高が低すぎないかなど、ちょっと気になった。

 2つめの驚きはEVならではのトルクの大きさで、急な登坂を何の苦もなく加速していくことだ。エンジン車だとギヤを落としたり、エンジン回転を上げたりと騒がしいが、Kiaは平坦な道のごとく力強く走る。さらにタイトコーナーでの安定性が商用車とは思えない。ミニバンを超えてハンドリングは下手な乗用車よりよほどいい。

PV5 カーゴの商用車の新しい境地を体感

 3つめの驚きは取りまわし。ホイールベース3000mmのロングホイールベースなので取りまわしに苦戦するかと思いきや、専用プラットフォームでFFながらハンドルの切れ角が大きい。このサイズで最小回転半径5.5mはかなり小さいし、サラウンドビューモニターで周囲の状況はよくつかめる。

 ドライビングでは回生ブレーキが4段階で使え、エンジンブレーキ代わりに左パドルで減速でき、滑らかな減速と同時に回生が取れる。右パドルにAUTOモードもあり、こちらはドライバーが操作しなくても適度に回生を効かせることができる。

 このほかに走行状況に合わせてドライブモードも「NORMAL」「ECO」「SNOW」から選択でき、バッテリ残量によってNORMALとECOを使い分けられる。また、滑りやすい雪上のような路面ではSNOWを選択する。駆動は電気ならではの緻密な制御で、ガソリン車よりドライブモードの効果は大きい。

EVだからこそ緻密な制御が光る

 PV5 カーゴの次は5人乗りのPV5 パッセンジャーで雨の箱根路に乗り出した。カーゴで経験した荒れた路面のバネ上の動きはさらに柔らかく、大きなシートで上下動の収束に優れる。柔らかくてもピッチングを増長させるような柔らかさではなく、荒れた路面をなめるように走るミニバンは快適だ。

 基本的なパワートレーンや車体に変わりはないが、パッセンジャーらしくキャビンの加飾はもう少し華やかになり、落ち着いた雰囲気になる。

 またサイドウィンドウのグラスエリアの大きさは群を抜いている。開閉可能な窓はバンのようなスライド式の小窓。開口部は小さいが換気ぐらいは可能だ。試乗車は電動スライドドアでフロアが低いので乗降性はミニバンの中でベストだと思う。

 前席のサイドウィンドウの下端はかなり下にあり、外からも乗員の上半身が見えるほどオープンだが、後席は明るいキャビンと遮蔽性も確保されている。広くて明るいキャビンはちょっとワクワクする。

 リアドアは上ヒンジで開くパワーゲートが上級グレードでは標準となる。

PV5 パッセンジャーも乗り味は快適

 バッテリ容量はPV5 カーゴ/パッセンジャーとも用途によって2種類から選べ、都市部の決まったルートで走っている場合は小さい方の51.5kWhバッテリ、長距離移動の場合は71.2kWhバッテリが選択できる。

 価格はカーゴのスタンダードモデルで619万円だが、国の補助金が160万~190万円ほどつく。一方のパッセンジャーは販売実績がなく、スタンダードの679万円に対して26万円の補助金にとどまるが、ほかのモデルだとフォルクスワーゲンのID. Buzzが思い当たるぐらい。PV5はホテルの送迎用車両などの用途も考えられ、面白い存在になるかもしれない。

試乗会の会場には各キャンピングカーメーカーのキャンピングカー仕様車両が展示されていた。ホワイトハウスは2名分のスカイルーフベッドになる電動ポップアップルーフを架装
LACモービルはパッセンジャーをベースとした「LAC EV CAMPER」を展示。テーブルやマットレス、冷蔵庫用シガーソケットなどを搭載し、そのまま車中泊ができるような仕様となっている。PV5はエアコンを後付けしなくても済むということで、手軽に快適なキャンピングカー生活が始められるとのこと
パッセンジャーをベースにしたダイレクトカーズの「DC EV LIFE」。ベッドマットやダウンライトなどに加え、サイド家具にIHコンロとモニターを標準搭載する。価格は869万円
トイファクトリーはEVならではの手軽さで車中泊ができるよう、まずは分割構造のフロアマットを採用したベッドキットからラインアップ。そのほか、専用サイドボードやカップテーブルなども用意。価格はベッドキット単体では33万円~34万1000円、家具などのコンプリートパッケージでは55万1430円~56万1330円(ベッドキットの素材によって価格が異なる)
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛