【インプレッション・リポート】 フォルクスワーゲン「ポロ 1.2TSI コンフォートライン」 Text by 武田公実 |
2010年の欧州カー・オブ・ザ・イヤーおよびワールド・カー・オブ・ザ・イヤー受賞車、フォルクスワーゲン「ポロ」に、待望のターボ付きの直列4気筒1.2リッターSOHC直噴ユニット(1.2TSI)を搭載するモデルが、このたび日本市場でも用意されることになった。
■傑作フォルクスワーゲン ポロに“真打ち”登場
1.2TSI搭載モデルは、ドイツ本国をはじめとするEU圏内では昨年のジュネーブショーでの発表時からラインナップされていたのだが、モデルチェンジ当初は「1.4コンフォートライン」(自然吸気1.4リッターDOHC+7速DSG)のみとなっていた日本では、今回が初のお目見えとなる。
日本に導入されなかった理由は、当初1.2TSI搭載車が3ペダルのマニュアル変速機のみの組み合わせであったゆえのこと。2ペダル車(AT車)の需要が圧倒的に多い日本市場への導入車種としては、デュアルクラッチATである「DSG」との組み合わせが必須との判断がなされていたのだ。そしてこの4月、ゴルフに引き続きEUマーケット向けのポロにも1.2TSI+7速DSGバージョンが追加されたのに従って、ほぼタイムラグ無しで日本導入が図られたことになる。
今回追加されたグレードは、「TSIコンフォートライン」と、我々のテストドライブに供された「TSIハイライン」の2モデル。「TSIコンフォートライン」は、これでラインナップから消滅することになった従来型「1.4コンフォートライン」の後継モデルで、心臓部を1.4リッターNAエンジンから1.2リッターシングルチャージャーエンジンへと換装したもの。昨今のフォルクスワーゲンのトレンドに従って排気量ダウンを図ったが、直噴化とターボチャージャーの装着でパワーは85PSから105PSにアップ。その一方で10・15モード燃費は、日本導入の歴代フォルクスワーゲン車史上最高となる20km/Lを達成した。
一方、「TSIハイライン」は「TSIコンフォートライン」の上級グレードとして位置付けられ、アロイホイールやフォグランプ、内外装のクロームトリムなどが奢られるほか、パークディスタンス・コントロールやスポーツシートなどもスタンダードで装備される。
ボディサイズは3950×1680×1455mm(全長×全幅×全高)と、日本の5ナンバー規格にも完全に収まってしまうコンパクトさ。今時の輸入Bセグメントカーの中には3ナンバーサイズとなっているモデルも多いが、ポロは今なお日本の道路事情にピッタリなサイズを保持してくれているのだ。
しかも「シンプリシティ」をテーマに、彫刻的かつエッジの効いた魅力的なスタイリングも相まって、現代フォルクスワーゲンの自信が明確に伝わってくる。聞けば、現在のフォルクスワーゲンのデザイン部門を率いるワルター・デ・シルヴァ氏が100%関わった最初のモデルに当たるとのことなのだが、さもありなんと思わせるできなのである。
ワルター・デ・シルヴァ氏が100%関わったスタイリング |
■魅力いっぱいの1.2リッターTSIユニット
フォルクスワーゲンの1.2リッターTSIユニットと言えば思い出されるのが、わずか1カ月半ほど前に乗ったばかりのフォルクスワーゲン「ゴルフ TSIトレンドライン」。今回のポロ「TSIハイライン」のテストドライブは、その衝撃と感動も冷めやらぬ条件下でのものとなったのだが、果たしてゴルフ・トレンドライン(1270kg)よりも170kgも軽いポロとの組み合わせにより、1.2TSIの美点はさらに強調されることになった。
このエンジンはあくまで実用ユニットとして開発されたもので、低回転域から太いトルクを出し、そのまま高回転域までキッチリ回ってくれるタイプ。例えばアルファロメオの「マルチエア」や、同じフォルクスワーゲンでもゴルフGTI用2.0TSIのように、スポーティなフィールをことさら強調したものではない。
しかし、軽くてコンパクトなポロと組み合わせられると、俄然元気なエンジンに感じられるのだ。ノイズについても、Bセグメントの車としてはかなり静かなのだが、それでも聞こえてくる排気音は健康的な4気筒サウンド。ヨーロッパ製小型車独特の魅力をプンプンと匂わせてくる。
一方、このエンジンに組み合わされる7速DSGは、1.4コンフォートラインから継承されたドライクラッチ式。同じトランスミッションを持つゴルフ1.4TSIコンフォートラインでは、微速でのスタート時や坂道発進の際に、ごくわずかながらもたつき感やギクシャクを生ずることもあったのだが、そこはやはり世界のテクノロジーリーダーたるVWのこと、しっかりアップ・トゥ・デートを施されたようで、今回のポロTSIハイラインではそのような悪癖を見せることはほとんどなかった。
もちろん、DSG本来の持ち味である超速レスポンスやダイレクトなフィーリングは健在であり、軽快なエンジンと合わせてスピードの高低を問わず、ドライブするのが本当に楽しい車となっているのだ。
1.2リッターTSIユニット | 後方にある1.4 TSIに比べるとコンパクトさがわかる | 電動アクチュエータでウェイストゲートを電子制御するターボチャージャー |
ポロに搭載された1.2リッターTSIユニット | SOHCの細いヘッドカバーは、初代や2代目のゴルフを思い出させる | 7速DSG。マニュアルで変速も可能。スポーティさゆえにパドルシフトも欲しくなったが、オプションでも装着はできないという |
■ハンドリングも室内スペースも合格点
今回のドライブで最も感銘を受けたのは、ワインディングでの楽しさ。リアサスペンションはゴルフのマルチリンクとは異なり、このクラスでは標準的なトーションビーム式だが、そんな形式の違いなど問題にしないほどのでき映えを見せている。たとえ少々路面が荒れていても、ダンピングの効いた乗り心地を得ている一方、ソリッド感溢れる高剛性ボディとソフトにセッティングされたスプリングとの組み合わせで、コーナーでは大き目のロールを許しつつも、実に懐が深く、ナチュラルなハンドリングを示してくれるのだ。
同じ1.2TSIを搭載する「ゴルフ TSIトレンドライン」の時も同じ感想を得たが、いわゆるホットハッチとはまったく異なる知的なドライビングプレジャーは、現代のフォルクスワーゲン製実用モデルの大きな美点の1つと思われる。
山道でもナチュラルなハンドリング | 荒れた路面でも、ダンピングの効いた乗り心地は変わらない | 後輪にもディスクブレーキを装備する |
そして、秀逸なパッケージングも大きな魅力となる。Cセグメントに属する2BOXボディを持つとはいえ、確実に“プレミアムカー”と化したゴルフのような低めのポジションではなく、かつてのゴルフがそうであったように、前席のヒップポイントは明らかに高目にセットされており、少なくとも前後方向でナローな車幅を感じさせることはない。
また、後席のスペースもボディサイズを考えれば充分なもの。このリアシートはダブルフォールディング式で、完全に倒してしまえば広くフラットなラゲッジスペースが出現するのだが、このユーティリティと“トレード・オフ”で、クッションがやや平板な座り心地となっているのはやむを得ないところ。しかし、絶対的な室内スペースの限られるBセグメントでパッケージングにこだわった成果としては、合格点が与えられて然るべきだろう。
高めのヒップポイントの前席のシート | 限られたサイズの中で十分な室内スペース | シートを倒せばフラットで広大なラゲッジスペース |
■この上なくクレバーな選択
このように、新たな“宝刀”1.2リッターTSIエンジンを得たポロは、非の打ちどころがないことが小憎らしく思えてしまうほどの車となっていた。上級のゴルフと比べてしまっても、あの圧倒的なプレミアム感こそなないものの、実用上で我慢を強いられるようなことは皆無に等しい。特に、市街地走行をメインとする都市生活者にとっては、インテリジェンスさえも感じさせるチョイスと言えるだろう。
さらには、「TSIコンフォートライン」ならば200万円をちょっとだけオーバーするリーズナブルな価格や、平成22年度基準を上回る燃費と低排出ガス認定4つ星取得によりエコカー減税および購入補助金の対象となり、減税と補助金(最大25万円)のトータルで、最大約38万円(TSIハイライン)のサポートが受けられることなども考慮すれば、これ以上はないと言うほどにクレバーな選択と思われるのだ。
あとは唯一気になることがあるとすれば、今年のジュネーブショーで発表された「ポロGTI」の存在だけであろうか?
平成22年度燃費基準を上回り、低排出ガス認定は4つ星 | 「TSIコンフォートライン」なら213万円で購入できる。見た目の違いはアロイホイールやフォグランプの省略や、クロームのないフロントアンダーグリルを装備する | 両グレードともにリアには「TSI」のバッヂが付く |
2010年 6月 14日