【インプレッション・リポート】
ポルシェ「911カレラ」ワークショップ・リポート

Text by 河村康彦


 

 あれ? 一体どこが変わったの? と、うっかりするとそんな言葉も聞かれそうなほどに、「どこから見ても911」というイメージを強く放つ新型「911カレラ」シリーズ。9月に開催されたフランクフルト・モーターショーで正式にデビューをしたこのモデルのルックス上のコアは「そのプロポーションにこそある」と、デザイン開発の担当氏は紹介する。

 かくして“いかにも911らしいルックス”で登場となった開発コード991型を名乗る新型の“内容”の進化ぶりは、しかし「911の48年に及ぶ歴史の中でも最大級のもの」と、開発担当役員がそのようにも語っている。歴史ある見た目上のイメージを大事にした“革袋”に、最新の中身を詰め込んだ1台──991型は、そんな最新世代の911と表現してもよいのかも知れない。

95%のパーツを新規開発
 今回発表された2タイプのクーペのうち、ベースグレードである「カレラ」に積まれる心臓は、従来型よりもピストン・ストロークを4mm短縮する事で、178ccのダウンサイジングを図った3.4リッター・水平対向6気筒ユニット。一方、従来型同様に3800ccちょうどという排気量で据え置かれた「カレラS」用のユニットを含め、エンジン本体の基本デザインは従来型のそれを踏襲している。

 従来型のモデルライフ中にデュアルクラッチ方式へと刷新された2ペダル式の7速トランスミッション「PDK」も、今回は基本デザインは同一のまま。一方、見方を変えればそんなエンジンや2ペダル・トランスミッション以外のアイテムは、「点数にして実に95%ものパーツを新規開発した」という文字通りのオールニュー・モデルでもあるわけだ。

 そんな新型の、どんなアングルから目にしても911そのものというエクステリアのデザインも、もちろんそれ自体が機能的に大幅な進化を遂げたものだ。

 まず特徴的なのは、全長を50mm少々の延長に留めた一方で、ホイールベースは一挙に100mmものストレッチを図ったこと。ただし、それはデザイン上の理由からではなく、「モータースポーツ部門からの声も含めた、走行安定性向上の要件から来たもの」というのが興味深い。

 空気抵抗係数は0.29。幅が拡大されたリトラクタブル式リアスポイラーは、トップスピード時には最大880Nmのダウンフォースを発生させるという。

 空力性能の追求はサンルーフのデザインにまで及び、走行速度に応じてメッシュ式のウインドデフレクターをコントロールすることで200km/hでのオープンも実現。同時に、構造をアウタースライド式とする事で開口面積を30%拡大させると同時に、より大きな室内頭上空間の確保も両立。

 そんなサンルーフを選択した場合、最適な空力特性が得られるようにその開口状態に応じて前出リアスポイラーのアタック角も随時変更されるという。サンルーフの開閉状態によっても車両全体の空力性能を管理しようという発想を採用したモデルは、自分の知る限りこの新型911が初めてだ。

991のリトラクタブル・リアスポイラー
アウタースライド式になったサンルーフ。サンルーフ開口状態に応じてリアスポイラーのアタック角も変更される

全方位の商品力アップ
 フロント側に30mm、リア側に70mmとホイールベースを延長して20インチのシューズも新設定すると同時に、走行安定性の向上や前輪切れ角増加による小回り性の確保なども狙ってフロント・トレッドの50mmほどの拡大を敢行するなど、改めて“4輪の位置設定”も見直すなど、1台のクルマとしての基本ディメンションの進化にも取り組んだ新型911。そんなこのモデルでは、そもそもライバル比で軽量だった車両重量を、さらに大幅に低減させている。

 “スチールアルミニウム・ボディ”と称する新しい骨格は、重量比で44%分がアルミ、2%分がマグネシウムなどと、これまでもポルシェが取り組んで来ていた“適材適所”の考え方をより徹底させたもの。これにより、ボディ単体では70kg。その他、補器類や装備品部分での減量も含めるとトータルでは100kg相当に迫る軽量化を実現し、燃費改善技術や衝突時の安全性向上に寄与するアイテムの新採用などによる59kg相当分の重量増と相殺しても、40kgほどの“純減量”を実現させるに至っている。

 車両重量の低減が、燃費性能の向上(≒CO2排出量の削減)と運動性能の向上を両立させるのは自明ゆえ、新型911では「最も重要なテクノロジーの進化点のひとつ」と紹介できるポイントが、ここにあることは間違いない。

水色の部分がアルミ黒い部分がマグネシウムそのほかの色は各種鋼板

 ちなみに、そうした徹底した軽量化に加え、エンジン本体のリファインによる効率向上やアイドリング・ストップメカの採用、PDK仕様車での、アクセルOFF時の惰性によるアイドリング走行を可能とする「セーリング・モード」や、乗用車用としては世界初という7速MTの採用、さらには、ポルシェ車としては初のフル電動式パワーステアリングの採用を筆頭とする様々な手法による走行抵抗の低減などを行った新型911の燃費性能は、ベースとなるカレラのPDK仕様でのヨーロッパ測定法「NEDC」によるCO2排出量が194g/kmという値。

 これは、0-100km/h加速が4秒台で、最高速が280km/hを超えるピュアなスポーツカーのデータとしては「文句ナシに優れたもの」と評する以外にない。“罰金”付き規制の本格導入を目前に、このところリリースされる最新ヨーロッパ車では、どれも「なりふり構わぬCO2低減策」を盛り込みつつあるが、そんな動きはポルシェのモデルとて例外ではないという事だ。

 ところで、ベースのカレラが従来型よりも排気量をダウンさせた点に関しては、実はそうしたCO2の削減という目的以外にも、「これまでわずかに200ccと近かった2グレード間の差を、より明確にするという商品戦略上の意図もあった」というのも注目だ。

 ことほどさように、単なる燃費向上だけではなく、単なる走行性能のアップだけでもなく、全方位に対する商品力大幅向上を狙い、それゆえの全身リファインを行ったのが新しい911であるわけだ。

エンジンの基本デザインは従来型と変わらないが……7速PDKには「セーリング・モード」が着いたポルシェ初のフル電動パワーステアリングを採用した

ニュルブルクリンクでGT3とほぼ同タイムタイム
 かくもシェイプアップしたボディを採用し、あらゆる部分の無駄を省いて効率を向上させるという手法の徹底で、時代の要請にマッチした基本性能を獲得するべくモデルチェンジを行った新しい911には、“ポルシェのスポーツカー”に相応しい走りのポテンシャルを獲得するための、これまでのカレラ・シリーズには見ることのできなかった、数多くのハイテク・アイテムが用意されたのも見逃せないトピックだ。

 まず、911レンジでは初となるアクティブスタビライザー「PDCC」を、電子制御の可変減衰力ダンパー「PASM」を標準で採用するカレラSにオプション設定。ちなみに、カレラにはオプション設定となるそんなPASM自体も、新たに各輪に独立したハイトセンサーを配することにより、より精細なコントールが可能になっているという。

 内側後輪に独立したブレーキ力を加え、旋回性能を高めるトルクベクタリング・メカはカレラSに標準で新採用。MT仕様車の場合は機械式LSDと組み合わせた「PTV」を、また、PDK仕様車には、トランスミッション用の油圧を利用して効果を制御する電子制御式のLSDと組み合わせた「PTVプラス」が用意される。

 さらにシャシー関係では、延長されたリアスポイラーなどによってゼロリフトを実現させる「エアロダイナミクス・パッケージ」とセットで選択可能な、20mmローダウンされたよりスポーティなセッティングを持つ「PASMスポーツ」の設定もトピック。また、ローンチコントロールやレーシング・シフトプログラム機能も加わる「スポーツクロノパッケージ」をオプション選択した場合、そこには従来の「911 GT3」に初採用されて話題となった「ダイナミックエンジンマウント」が、カレラ・シリーズとしては初めて組み合わされる。

アクティブスタビライザー「PDCC」トルクベクタリング・メカ「PTVプラス」ダイナミックエンジンマウント

 これまで触れてきた分野以外にも、快適性や安全性向上に纏わるトピックスを紹介し始めれば、まさにそれは「キリがない!」ということになりそうな991型の911。ちなみに、そうした991という従来型までと連続性を持たないコードネームは、「従来の997に続く“998”という呼称を開発時に用いると、下請けメーカーにパーツを発注した際などにすぐに新型と判明し、秘匿性の確保が難しくなることから決定したもの」(!)であるという。

 そんな新型は、カレラSのPDK車にこれまで取り上げて来た様々な走行性能向上に関わるオプション群を“てんこ盛り”した仕様で、ニュルブルクリンクの旧コースを7分40秒で駆け抜ける実力を持つという。そしてそれは、「かつてのGT3のタイムとほとんど変わらないデータ」でもあるというのだ。

 そうした、まさに新世代の911に乗れるようになるのはもうすぐ! 日本でのデビューは間もなく開催の、東京モーターショーの舞台になる。

 

911
〈〉内はPDK仕様の数値
カレラカレラS
全長×全幅×全高[mm]4491×1808×13034491×1808×1295
ホイールベース[mm]2450
前/後トレッド[mm]1532/15181538/1516
重量[kg]1380〈1400〉1395〈1415〉
エンジン水平対向6気筒DOHC3.4リッター水平対向6気筒DOHC3.8リッター
ボア×ストローク[mm]97×77.5102×77.5
最高出力[kW(PS)/rpm]257(350)/7400294(400)/7400
最大トルク[Nm/rpm]390/5600440/5600
トランスミッション7速MT/7速PDK
NEDC燃費:市街地(L/100km)12.8〈11.2〉13.8〈12.2〉
NEDC燃費:高速道路(L/100km)6.8〈6.5〉7.1〈6.7〉
NEDC燃費:総合(L/100km)9.0〈8.2〉9.5〈8.7〉
CO2排出量[g/km]212〈194〉224〈205〉
駆動方式RR
ステアリング電動機械式
前/後サスペンションマクファーソンストラット/マルチリンク
前/後ブレーキベンチレーテッドディスク(330mm)ベンチレーテッドディスク(340/330mm)
前/後タイヤ235/40 ZR19 / 285/35 ZR19245/40 ZR20 / 295/30 ZR20
前/後ホイール8.5J×19/11J×198.5J×20/11J×20
定員[名]4

 


インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2011年 11月 28日