インプレッション

マツダ「アテンザ」

「雄(タケリ)」のイメージを崩さず、これほど早く出てくるとは

 マツダのスカイアクティブには、かねてから大いに期待していたものの、当初は一般ユーザーに伝わりにくいのではないかと危惧していた。

 ところが、まったくそれは杞憂だったようだ。「CX-5」の販売は好調だし、「アテンザ」も発売1カ月で月販目標の7倍を超える7300台を受注し、しかもディーゼルの比率はCX-5の73%(発売1カ月後)を超え、76%に達していると言う。

 SUVのCX-5ならまだしも、セダン/ワゴンのアテンザでディーゼルがこの比率というのは、一重にCX-5の評判が高いからが故のことだろう。そして、3代目アテンザでは5ドアハッチバックは廃止され、セダンとワゴンの2本立てとなったのだが、セダン/ワゴンの比率が54:46とセダンが上回っているというのも、セダン人気の低迷する日本市場において意外な話だ。

 その新型アテンザだが、まずデザインに目を奪われる。

 前回の東京モーターショーに出品された中型セダンのコンセプトモデル「雄(タケリ)」を見た際に、こんなにスタイリッシュなクルマがいつか出てくるのかと楽しみに思った半面、まだまだ先のことだろうし、このイメージがどのくらい残されるものかとも思った。ところが、これほど早いタイミングで、しかもほぼそのままの形で出てきたことに驚かされた。ワゴンも同社の新デザインテーマ「魂動(こどう)」のイメージを崩さないよう上手くデザインされている。

前回の東京モーターショーに出品された中型セダンのコンセプトモデル「雄(タケリ)」

 そしてひと足先に生産がスタートし、量産車の準備が整ったガソリン車に、ディーゼルよりも先に試乗することができた。ディーゼルを含めた総合的なインプレは、改めてお伝えすることにしたい。

直列4気筒 DOHC 2.5リッターエンジンを搭載するセダンの25S L Package。ガソリン車はすべて6速AT仕様となる。ボディーサイズは4860×1840×1450mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2830mm
同じく直列4気筒 DOHC 2.5リッターエンジンを搭載するワゴンの25S L Package。ボディーサイズは4800×1840×1480mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2750mmとなる
直列4気筒 DOHC 2.0リッターエンジンは最高出力114kW(155PS)/6000rpm、最大トルク196Nm(20.0kgm)/4000rpmを発生
直列4気筒 DOHC 2.5リッターエンジンは最高出力138kW(188PS)/5700rpm、最大トルク250Nm(25.5kgm)/3250rpmを発生

 開発者によると、ガソリン車はリニアリティに徹底的にこだわったと言う。排気量は直列4気筒 DOHC 2.5リッターと直列4気筒 DOHC 2.0リッターが用意され、スペックもそれなりに違う。

開発陣の面々。新型アテンザの開発担当主査 梶山浩氏(写真中)、チーフデザイナーの玉谷聡氏(写真右)

走り始めたときからすべてがしっくりくる

2.5リッター車

 まず2.5リッター車に試乗。

 シートに収まって走り出した瞬間から、アクセルを踏み、ステアリングを切り、ブレーキを踏むというあらゆる運転操作に対して、最初からとてもしっくりとくるように感じた。大抵は少し走ってみて、色々と操作するうちに慣れてくるものだが、アテンザは走り始めからイメージどおりに走れるのだ。こんな感覚を味わわせてくれるクルマにはそうそう出会えない。

 その源が、まさにリニアリティにある。

 アクセルペダルの踏み方に応じてエンジンはリニアに出力を発生し、6速ATは、ごく初期だけトルコンをスリップさせた後、即座にロックアップ。ATとしてかつてないほどのダイレクト感ある加速フィールを実現している。そして、ドライバーがペダルを踏み込む加速度からどのように走りたいかを判断し、最適な制御をしているとのことで、そのとおりシフトの制御がとても緻密かつ的確に行われることを感じた。

 ダイレクト感を維持したまま、加速したいと思えば瞬時にシフトダウンして加速し、巡航しようとなればシフトアップして効率よく走らせる。その一連の感覚がとてもリニア。ビジーな印象もなくちょうどよい味付けで、まったくストレスを感じさせない。パドルシフトを使うか、フロアセレクターを右に倒すとマニュアルシフトが可能で、軽いショックとともに、素早くスムーズにシフトチェンジできる。

 ゼロ発進では唐突感もなくスムーズに滑り出す。もしもCVTだったら、どんなに突き詰めてもこれほどダイレクトにはならないだろうし、DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)ではこれほど扱いやすくはならなかったはず。マツダが2ペダル用のトランスミッションとして、CVTやDCTではなくATを選んだことには、筆者も大いに賛同したい思いである。

 また、試乗車にはオプションのボーズ サウンドシステムが装着されていたが、これを選ぶとオーディオの音質がよくなることに加え、中~高周波数域の不快な音を低減した上で、加速時に排気音ではなく、エンジン自体が発するサウンド(同社は「鼓動音」と表現している)を強調してスピーカーから発する仕組みを有する。

 同サウンドシステムはそうした機能も備えており、開発者によるとノイズを打ち消して静粛性をもっと高めることも技術的には可能だったところ、ドライバーに“走り”を感じてもらうため、あえてそれはしなかったそうだ。ちょっと不思議な感覚で、確かにエンジンの心地よいビートが際立って伝わってくるという感じ。音楽だけでなく、このエンジンの鼓動音を楽しむためにも、ボーズ サウンドシステムはぜひ選んでおきたいところだ。

2.0リッター車でも市街地では2.5リッター車と大差ない

 続いて2.0リッター車に試乗。

 2.0リッターエンジンと2.5リッターエンジンでは、前述のとおりスペックにはそれなりに差があるが、2.0リッターのファイナルギアをローギアード化しているので、60km/h程度までの市街地走行ではそれほど2.5リッター車との差を感じない。2.5リッター車で感じたよいところの多くは、2.0リッター車でも概ね同じように感じられた。

 ただし高速道路など、もう少し上の速度域での走行となると、やはりトルクの細さを感じる。高速走行をする機会が多く、より余裕を求めるのであれば、ガソリン仕様なら2.5リッターを選んだほうがよいだろう。

2.0リッター車

 そして、ディーゼルはまだドライブしていないが、エンジンとATのリニアなレスポンスと、ガソリンエンジンらしい吹け上がり、そして前述のこの音。これらがガソリンモデルならではの持ち味なんだろうと思う。

 ちなみに2.0リッター、2.5リッターとも、ガソリンモデルの使用燃料はレギュラーガソリンで、ハイオクガソリンである欧州仕様車に対して圧縮比が低められている(とはいえスカイアクティブの直噴エンジンなので、2.0リッター・2.5リッターとも圧縮比は13.0)。個人的には、日本仕様車も2.5リッターについてはハイオク仕様としてもよかったように思う。試乗したクルマよりも、さらに上のドライブフィールを持っているのは間違いないのだから。

 ブレーキも、踏む側だけでなく戻す側もリニアなので、とてもコントロールしやすい。これなら挙動が乱れにくく、結果的に同乗者に不快な思いをさせる可能性も小さくなるはずだ。

 ハンドリングは軽快で、微小舵角から切った分だけリニアに反応してくれる。ステアリングを切り込むと、Gの高まり方と、クルマが曲がろうとする力がリニアにリンクしている印象だ。サスペンションも、ロールを抑え込むのではなく、ロールを活かす方向で味付けされていて、クルマの動きをとても把握しやすい。すべてがリニアで、まさに“意のまま”の走りを楽しむことができる。

 後席の居住性重視のセダンは、荷室重視のワゴンよりも80mmロングホイールベースで、乗り味も微妙に異なる。

 セダンとワゴンにおいて、ドライブフィールとしては同じになるようにスプリングやダンパーの調整を図ったとのことだが、リアの重さを感じるものの、ワゴンのほうがキビキビ感があり、若干硬めの乗り心地であるように感じた。半面、セダンの方が走りに一体感があり、微妙にライントレース性に優れるようにも感じられた。

 まずは第一印象は上々のアテンザ。世の中の注目は、とかくディーゼルモデルに向きがちのようだが、ガソリンモデルも素晴らしい完成度であることを、しっかりとお伝えしておきたい。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。