インプレッション

スバル「レガシィ アウトバック」「レガシィ B4」

“グローバルでのベスト”な6代目レガシィ

 レガシィ誕生25周年となる2014年は、スバルにとってもかなりがんばった1年だったように思う。

 業績が好調であることはたびたび伝えられているが、それにしても、この規模の自動車メーカーながら、主役級の車種を短期間に3モデルも矢継ぎ早に送り込んだことには驚かされた。レヴォーグ、WRXときて、トリはレガシィ。思えばレヴォーグもWRXも、もとをたどればレガシィに行き着くと言ってよいと思うが、当のレガシィは今やスバルのれっきとしたフラグシップだ。

 その6代目となるレガシィ。スバルが考えるフラグシップとしてどのように仕立てられているのか興味深いところだが、ツーリングワゴンの設定はなく、「アウトバック」と「B4」という構成になっているのはすでに報じられているとおりだ。

 さて、同6代目レガシィを開発するにあたり、スバルでは「静的質感」と「動的質感」、要するにデザインと走りに大いにこだわったのだという。

 エクステリアデザインは「歴代スバル車でもっともスタイリッシュ」と開発関係者も述べるとおりで、個人的に気に入っており、なかなかよいと思う。レヴォーグでこれまでとひと味違うテイストを見せ、続くWRXもまとまりのよいデザインだと感じた。レガシィもその延長上にあり、フラグシップとしての威厳も感じさせる。

6代目レガシィ アウトバック。ボディーサイズは4815×1840×1605mm(全長×全幅×全高)でホイールベースは2745mm。ボディーカラーはタングステン・メタリック

 大きくなりすぎたと言われた先代の5代目レガシィより、全幅はさらに60mmも大きくなったが、これは主にスタイリングのために必要だったとのこと。思えば先代の1780mmという全幅も、実は日本市場を意識してのものだったのだが、この大きさになると日本では数を見込めないことが5代目で明らかになった。そこで、遠慮することなく“グローバルでベストなレガシィ”を追求したのがこの6代目だと言える。それを日本でも販売し、共感する人が買ってくれればよいと割り切ったわけだ。

 ただし、むろん車格はレヴォーグやWRXよりも上に位置することには間違いないのに、とても割安感を覚える価格設定であることも、あらかじめお伝えしておこう。

6代目レガシィ B4。ボディーサイズは4795×1840×1500mm(全長×全幅×全高)でホイールベースは2745mm。ボディーカラーはヴェネチアンレッド・パール

ターボがなくても走る楽しさはある?

 これまでは強力なターボエンジンでならしたレガシィだが、6代目では、海外では別の仕様があるものの、日本向けでは自然吸気の2.5リッターのみとされたことも興味深い。前後不等トルク配分を行う「VTD-AWD」の設定もなくなった。このあたりから走りを求めるユーザーは、セダンならWRX、ワゴンはレヴォーグに任せるというスバルの意図が見て取れる。レガシィに付いてまわる「走り屋」的なイメージの払拭を狙っているようだが、それでもスバルらしい走りの楽しさを追求しているという。はたしてその仕上がりはいかがだろうか?

 まず、動力性能については可もなく不可もなく、ごく普通に乗るぶんには性能的に大きな不満はない。ただし、「走りの楽しさ」というには、WRX S4でも同じことを感じたが、現状のCVTでは少々無理がある。初期のレスポンスがどうにもよろしくない。踏んだら即座についてくる瞬発力が欲しいところだ。

 一方で、今回からどのモードを選んでもトルコンATのようなステップ変速制御を行うようになったのは、個人的にはアリだと思う。全体としては“これでも十分”という見方もできるが、レガシィとしては物足りなさがあるように感じなくはない。

約8割の部品を新設計したという水平対向4気筒DOHC 2.5リッターの「FB25」エンジンは、最高出力129kW(175PS)/5800rpm、最大トルク235Nm(24.0kgm)/4000rpmを発生。マニュアルモード付きのCVTであるリニアトロニックと組み合わされる
アウトバックは200mmの最低地上高となり、アクティブトルクスプリットAWDにはフォレスターでも採用されている「X-MODE」を装備して高い走破性を獲得

スタブレックス・ライド装着車がオススメ

 フットワークの仕上がりにもいろいろなことを感じた。まず、ステアリングがかなりクイックだ。むろんこれがよいという人もいるだろうが、個人的にはちょっと速すぎるという気がした。

 開発関係者に訊くと、承知の上でわざとこのようにしたようだ。たしかに、それなりに心得のある人が乗れば楽しめるだろうし、ステアリング操作にしっかりついてくる車体剛性の高さも感じる。十分に操縦安定性を確保できているからこそ、こうした味付けも可能になったことに違いない。

 しかし、運転スキルのあまり高くない人では、過敏すぎて不要にヨーを出してしまいそうなところが危惧される。とくに戻し側の中立付近を上手く合わせるのが難しい。フラついて同乗者に不快な思いをさせないようにするには、けっこうシビアに気を配る必要がある。

 乗り心地はやや硬め。アウトバックとB4ではタイヤ外径が異なり、アウトバックはステアリングはクイックながら、動きとしてはややおっとりとした味となり、乗り心地もタイヤの厚みでだいぶ衝撃が緩和されている。グレード別に17インチと18インチ仕様が用意され、それぞれ味は異なるが、いずれもスタブレックス・ライドを標準装備する18インチのほうがフラット感はある。

 実のところ、最近のスバル車はどれに乗ってもピッチングの傾向が強いように感じているのだが、レガシィのスタブレックス・ライド装着車についてはだいぶ抑えられている。また、従来型となる5代目は、乗り心地は硬いのにコーナリングでのロールが大きめで、全体のフィーリングはあまりよろしくなかったが、新型の、とくにスタブレックス・ライド装着車は適度にロールが抑制されており、一連のロール感もまずまずの仕上がりだ。

シリンダー径拡大によりフロントショックアブソーバーに採用された「STABLEX-Ride(スタブレックス・ライド)」は、ピストンの入力を利用して内部のリーフバルブの開度を可変。ピストン速度が遅いときは減衰力を高めてハンドリング性能を向上させ、ピストン速度が速くなると減衰力を下げて乗り心地をよくする働きを持つ。赤く塗られた部分のあいだがオイルの流路、黄色い部分がリーフバルブ

 ただ、全体をとおして思ったのは、走る楽しさは分かったが、速いステアリングに硬さを感じる乗り心地、ややもの足りない動力性能など、「動的質感」という面ではやや見えにくいように感じたのは否めないということだ。見た目はとてもよくなったと思うし、走りの素性もよいものを持っているのだから、上手く手当すれば、そう遠くないうちにずっとよくなることに違いない。

 コストパフォーマンスとしては現状でも相当に高いと思うが、スバルのフラグシップとして、さらなる洗練にも期待したい新型レガシィであった。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一