レビュー

【タイヤレビュー】ブリヂストンの2輪タイヤ「H50」「T30 EVO」「A40」「RS10」「RS10 TYPE R」の乗り味を試してみた

ブリヂストンモーターサイクルタイヤ社長 安永豊彦氏にインタビュー

2017年3月9日 開催

 ブリヂストンが販売店向けに開催している同社2輪タイヤ装着車による試乗会に参加することができた。試乗したのは、アメリカンタイプのクルーザー向け「BATTLECRUISE H50」、スポーツツーリングラジアルの「BATTLAX SPORT TOURING T30 EVO」、車高の高いアドベンチャータイプに向いた「BATTLAX ADVENTURE A40」、プレミアムハイグリップラジアルの「BATTLAX RACING STREET RS10」、そしてレースユース向けの「BATTLAX RACING STREET RS10 TYPE R」の5種類だ。

 会場は伊豆・修善寺にある日本サイクルスポーツセンター。風はやや冷たかったものの日差しは強く、多くのタイヤが本来の性能を発揮しやすい環境だったと思われる。ここでは、それぞれに試乗した際の雑感と、試乗会を主催したブリヂストンモーターサイクルタイヤ 代表取締役社長の安永豊彦氏へのインタビュー内容を紹介する。

「BATTLECRUISE H50」で、ハーレーはまるで別物になる

BATTLECRUISE H50を装着したスポーツスター アイアン883
BATTLECRUISE H50

 ハーレーダビッドソン「スポーツスター アイアン883」(XL883N、通称パパサン)に装着されていた「BATTLECRUISE H50」。少し直線を走らせると、それだけで明らかな違いを感じた。試乗会では標準タイヤとの比較試乗はできなかったものの、記憶にあるアイアン883の乗り味がいい意味でダルさを感じる、まさしくアメリカンなテイストだったのと比べ、H50をはいたそれは、ダイレクト感のある“締まった”乗り心地となっていた。

 もともとアイアン883は車格がコンパクトとはいえ、H50装着車はさらにひとまわり小さくなったかのよう。少しでも傾けると右側はマフラーが接地してしまう少ないバンク角の車両ではあったが、左コーナーでのハンドリングはブリヂストンタイヤらしくナチュラルで、不安になりそうな挙動も一切ない。エンジンによる車体の振動も小気味よいリズムになったかのようで、もしあとわずかでもバンク角の稼げる車両だったなら、よりスポーティに走り込みたくなっただろう。

 ただ、ダイレクト感とともに多少の“硬さ”が気にはなる。これは、開発者いわく「より車重の大きいソフテイルをベースに開発を行なった」からかもしれない。同社独自のタイヤ技術「ULTIMAT EYE」により、グリップ力とともに耐摩耗性能を向上させ、ロングライドにも最適とするH50。実際に長距離走行した際の疲れがどう出るかは試乗の範囲内では確認できなかったが、いずれにしてもH50に変えることで、おそらく多くの人がその変わりように驚き、“新しいハーレーの楽しみ方”を発見できるはずだ。

ダイレクト感のある“締まった”乗り心地

まったりツーリングならベストチョイスの「BATTLAX SPORT TOURING T30 EVO」

BATTLAX SPORT TOURING T30 EVOを装着したホンダ CB1300 SUPER FOUR
BATTLAX SPORT TOURING T30 EVO

 ツーリングメインで、ワインディングも難なくこなしたい、という用途に適しているのが「BATTLAX SPORT TOURING T30 EVO」だ。試乗会では川崎重工業「NINJA1000」や本田技研工業「CB1300 SUPER FOUR」などに装着されていた。

 最初に試乗したNINJA1000は、ポジションが前につんのめるようなかなり独特な車体で、正直なところタイヤの感触を正しくつかむことができないように思えたため、改めてCB1300でチェック。しかし、低速時のハンドリングの軽快さは、NINJA1000の時もCB1300の時も、同じように感じることができた。

 ただ、少しペースを上げていくと、今度は倒し込みがわずかに鈍く感じてくる。ワインディングでのヒラヒラ感は出にくいところだが、このあたりは好みの範ちゅうとも言えそう。通常の走行シーンではグリップ感は十分すぎるほどだし、ギャップや荒い路面を走り抜けた時のクッション性も高く、乗り心地は上質。1段階スポーティさが増す「BATTLAX HYPERSPORT S21」と比べたくなるところだが、ツーリング主体ならパフォーマンス面ではT30 EVOで十分と感じる人が多いことだろう。

スローペースでは比較的軽快に感じるハンドリング。クッション性もよく、ポテンシャルは高い

“没個性”が“個性”のオールラウンドな「BATTLAX ADVENTURE A40」

BATTLAX ADVENTURE A40を装着したスズキ V-STROM1000
BATTLAX ADVENTURE A40

 スズキ「V-STROM1000」に装着されていたのが「BATTLAX ADVENTURE A40」。このタイヤは、V-STROMやBMW「R 1200 GS」など、オフロードチックな“トラベルエンデューロ”とも呼ばれるアドベンチャーモデルに最適な製品だ。その狙いは、一般的に車高が高く、パニアケースなどで大容量の荷物を載せて運ぶそれら車両を、より安定させて走らせるというもの。

 しかし、このA40は今回試乗したなかで最も特徴が捉えにくいタイヤだった。タイヤの個性と感じられるところがなかなか見つけられず、「当たり前に違和感なく走れる」という印象だったのだ。いい意味で「平凡」。そう開発者に感想を告げたところ、その通りだと言われてしまった。個性がないのがむしろ個性、ということなのかもしれない。

 没個性とは言っても、走り続けるうちにそれなりにタイヤの性格みたいなものは感じることができた。特に伝わってきたのが“立ちの強さ”。左右に振った時にわずかに押し戻されるような直進性の強さがある。これは、重量物を載せながらの高速走行でも安定して走れるように、という主に欧州でのユースケースに対応した設計が影響しているものと思われる。

 試乗車のV-STROMは見かけによらず乗車時の重心や視点が低く、足つき性も比較的良好なためもともと安心感はあるのだが、R 1200 GS(今回試乗車としては用意されていなかった)ではつま先ツンツン状態の高重心ということもあり、A40の直進性、安定性の高さはありがたいのではないだろうか。

A40は、パニアケースなどをフル装備して走ることも多いアドベンチャーモデルには最適なタイヤだ

安心の「BATTLAX RACING STREET RS10」と、気むずかしい「BATTLAX RACING STREET RS10 TYPE R」

BATTLAX RACING STREET RS10を装着したSUZUKI GSX-R1000。親しみやすいフィーリング
BATTLAX RACING STREET RS10 TYPE R

「BATTLAX RACING STREET RS10」と「BATTLAX RACING STREET RS10 TYPE R」、本来この2製品は、似たようなブランド名でありながら全く性質の異なるタイヤのため、並べるべきではないのかもしれない。しかしながら、両者を同時に比較試乗する機会はあまりないだろうし、どちらも公道走行可能なタイヤとはいえ、なぜRS10がストリート向けで、RS10 TYPE Rがレーストラック向けなのか、並べて書くことである程度理解しやすいのではないかと考えた。なお、試乗会ではRS10はスズキ「GSX-R1000」に、RS10 TYPE Rはヤマハ「YZF-R1M」にそれぞれ装着され、RS10 TYPE Rは試乗会の開始までタイヤウォーマーが巻かれていた。

 RS10は、実に安心感のある“親しみやすい”フィーリングのタイヤだ。ライダー側がさほど意識しなくてもセルフステアで自然に曲がっていくし、バンクのどの段階でも抜群の接地感と安定感が常に得られる。リアに荷重をかけるようにすれば、アクセルをガバ開けしてもしっかりついてくる。フロントに頼らざるを得ない下りコーナーの侵入でも全く不安はない。なによりイメージ通りに走れるのが気持ちよい。おかげで楽しくなり、ついついハイペースで飛ばしてしまいそうになる。

 一方RS10 TYPE Rは、もはやRS10の快適性とは対極にあると言ってもいいかもしれない。走り始めは特に、コーナーでどこにどう荷重させればいいのか、どう体を使えばいいのか戸惑ってしまうほど。ゆっくりとしたペースで走っていると、マシンは全く曲がってくれない。YZF-R1Mは以前、アブダビのサーキットでS21の試乗会が行なわれた際(別記事参照)に乗ったことがあるのだが、あの時の親しみやすさはどこに行ったのか。RS10 TYPE RをはいたYZF-R1Mは、まるで扱いにくい。

BATTLAX RACING STREET RS10 TYPE Rを装着したYAMAHA YZF-R1M

 でも、それは一般公道で扱うようなスピードレベルでの話。ある程度ペースを上げていくことで、その扱いにくさはすっと消え、徐々に思いどおりにマシンを操れるようになる。試乗会のコースの都合上、本格的にペースを上げるには至らなかったものの、タイヤから「速く走らないとオレは仕事しないぞ」と言われているようで、常にプレッシャーにさらされているようだった。おそらく公道だと、走っている間じゅうそんな緊張感から解放されることはないだろう。サーキットをメインで走るのでない限り、RS10の方があらゆる場面で最高の性能を発揮してくれることは間違いない。

RS10 TYPE Rは、公道では扱いが難しそうだ

ブリヂストンモーターサイクルタイヤ社長 安永氏ショートインタビュー

ブリヂストンタイヤの試乗会が修善寺の日本サイクルスポーツセンターで開催された
ブリヂストンモーターサイクルタイヤ株式会社 代表取締役社長 安永豊彦氏

――昨年2016年の2輪タイヤの販売状況と、2017年の見通しを教えていただけますか。

安永氏:2016年、2輪タイヤ市場は、上期1~6月はかなり活性化したと思います。ただ下期の7月終わりくらいから長雨が続いて、ライダーが走ることができなかったおかげで、秋シーズンのタイヤ需要は冷え込んだようです。下期は前年同期と同程度の需要を、年間では前年を若干上回る程度を確保したと思います。そのなかでも、ブリヂストンとしては目標を上回る数字を達成できました。大きな要因は新商品のS21が牽引してくれたこと。T30 EVOもそのよさをユーザーに認めてもらえたのかなと思います。

 2017年は1~2月に降雪が多く、タイヤ販売の動きとしてはスロースタートになっているかと思います。本格的な需要は3月からということになるでしょう。当社の目標としては、前年は下半期が長雨だったこともありますので、そういった天候でなければ、より上向きの数字を狙っていきたいところではあります。

――御社の2輪タイヤの基本的な販売方針というのは、どういうものでしょうか。

安永氏:バイクの新車販売については、かなり成熟化が進んでいます。ライダーも高齢化により、走る距離が短くなってきていると実感しています。当社ではそうした成熟市場に対して、1人ひとりのライダーの走りをサポートする“質”を上げていく、というのを基本方針にしています。

 バイクメーカーさんもそうした成熟市場のなかで、1人ひとりのライダーを大事にしていきたい思いが強いと思うんです。新車に関してはタイヤにもこだわって開発されていると思いますので、我々の新車装着タイヤについて、アフターでもそれに連動してしっかり売っていく。と同時に、ライダーやバイクごとの走り方に合う、満足度の高いタイヤの提案を行なう、というのが基本です。

――どんな人にも価格、性能の高いプレミアムタイヤを、ということではなく、その人の走りに合った製品を提案できるようにする、ということですね。

安永氏:量を売ればいいということじゃなくて、質として満足度を上げるような販売をしていきたい。でもそれは我々だけではできない。販売店さんと一緒になって、今回のような試乗会をやっていく。それも、新商品にスポットを当てた試乗会ではなくて、ラインアップとそれぞれのバイクとの組み合わせで、どんな走りができるのかということを販売店のみなさんに実体験してもらうことが重要です。

 もちろん、お客様の価格志向もあると思いますけども、成熟市場において個々のライダーに対して大事に、しっかりサポートしていくのは販売店さんのためにもなるのではと思います。価格が高い・安いということよりも、求められる性能レベルやライダーの走り方によって、価格と性能のバランスを見て推奨していきましょう、というのを大事にしていきたいですね。

――そういう意味で、昨年から本格的に開催されている走行会も、啓蒙という意味では重要な位置付けになりますね。

安永氏:昨年、当社主催のBATTLAX走行会を計10回開催しました。2種類ありまして、10回のうち6回はプロショップ経由で参加者を募る「BATTLAX PRO SHOP走行会」、4回はどなたでも参加できる「BATTLAX FUN & RIDE MEETING」です。

 今年は会場の都合で1回減ってしまいますが、PRO SHOP走行会を6回、FUN & RIDE MEETINGは3回、計9回開催します。4月16日、袖ケ浦フォレストレースウェイで開催する1回目のFUN & RIDE MEETINGは、100名以上の定員が一杯になってしまうくらいの人気となりました。今年から、FUN & RIDE MEETINGはどのメーカーのタイヤでも参加可能としていますので、サーキット初心者で気軽に走ってみたい方はぜひ応募してみてください。

――お忙しいところ、ありがとうございました。

バイク用品店に勤める多くのスタッフがタイヤの感触を確かめていた

日沼諭史

日沼諭史 1977年北海道生まれ。Web媒体記者、IT系広告代理店などを経て、フリーランスのライターとして執筆・編集業を営む。IT、モバイル、オーディオ・ビジュアル分野のほか、四輪・二輪や旅行などさまざまなジャンルで活動中。Footprint Technologies株式会社代表取締役。著書に「できるGoPro スタート→活用完全ガイド」(インプレス)、「はじめての今さら聞けないGoPro入門」(秀和システム)、「今すぐ使えるかんたんPLUS Androidアプリ大事典」(技術評論社)など。2009年から参戦したオートバイジムカーナでは2年目にA級昇格し、2012年にSB級(ビッグバイククラス)チャンピオンを獲得。所有車両はマツダCX-3とスズキ隼。

Photo:高橋 学