レビュー

【タイヤレビュー】乗り心地と静粛性を高めたダンロップの低燃費タイヤ「LE MANS V(ル・マン ファイブ)」を試す

特殊吸音スポンジ「サイレントコア」、新技術「SHINOBIテクノロジー」。その実力は?

ダントツの快適性能を追求

 現在につながる空気入りのタイヤというのは、1888年にアイルランドの獣医だったジョン・ボイド・ダンロップという人物が発明したということをご存知だろうか? きっかけは息子の3輪車をもっと快適に走らせてあげたいとの思いからだったという。それから129年、そのアイデンティティは今でもダンロップブランドに引き継がれている。

 中でも「ル・マン」は特別な存在だ。1982年に初めて「ル・マン24」という商品が世に送り出されてから15代目となる新製品の「LE MANS V(ル・マン ファイブ)」は、ユーザーにさらなる快適を届けたいとの思いから、「誰もが実感できるダントツの快適性能」をテーマに開発された、技術陣にとっても自信作だという。特殊吸音スポンジ「サイレントコア」に加えて、新技術である「SHINOBIテクノロジー」を採用し、乗り心地性能と静粛性能を高めているのが特徴だ。

 今回走ったのは、住友ゴム工業の神戸本社からのアクセスにも優れる、明石海峡大橋をわたって淡路島に入ったあたりの公道の推奨コース。それほど長い距離ではないものの、高速道路もあればザラついた路面や段差もあるなど、バリエーションに富んだコンディションを走れたうえ、いくつかの車種では先代の「LE MANS 4(ル・マン フォー)」と今回のル・マン Vを乗り比べることもできた。

2月に発売されたばかりの低燃費タイヤ「LE MANS V(ル・マン ファイブ)」では、155/65 R14 75H~245/40 R20 95Wの計61サイズをラインアップ。ラベリング制度による転がり抵抗性能は全サイズにわたり「AA」を獲得。ウェットグリップ性能はサイズによってb~cとなる
ル・マン Vでは、特殊エーテル系ポリウレタンを材質に用いた2山構造の特殊吸音スポンジ「サイレントコア」をタイヤの内側に搭載。これにより、タイヤ内部の空気振動を吸収し、空気の共鳴による車内のノイズを低減させるとともに、ロードノイズの低減にも寄与。これまでは困難とされていた周波数250Hz付近のノイズを低減
左右非対称のトレッドパターンを採用し、外側ブロックの剛性を上げることでル・マン 4比で耐偏摩耗性能を27.0%向上。また、新プロファイル採用によって接地形状を丸くし、トレッド部中央から徐々に設置させることで路面からの衝撃を緩和
ル・マン Vでは目線がぶれることなく静かに走る忍者をイメージして名付けられた新技術「SHINOBIテクノロジー」に基づいてタイヤ骨格の見直しを図り、サイドウォール全体がたわむ構造に刷新。路面からの入力を広いエリアで吸収することでクッション性を高め、乗り心地と静粛性を高めている。これらにより、ル・マン 4から突起乗り越し時の入力を10.0%、ロードノイズを36.9%、パターンノイズを32.4%低減させることに成功している

「SHINOBIテクノロジー」の効果のほどは?

ル・マン Vの試走会で用意されたモデル。ゴルフ、A4、マークXでは単体の評価を、プリウス、ノート、CH-Rではル・マン 4とル・マン Vの比較を行なうことができた

 まずはル・マン4もよいタイヤであることをあらためて確認しつつも、意外と音が気になるのは否めず。車種によって程度の差はあれど、走り出してすぐの国道を50km/h程度で走行していても、思ったよりゴー音が出ていて、ロードノイズが小さくないことを感じた。対するル・マン Vはマスキングしたように静かで、いわば音源が遠くにある印象。

 さらに高速道路で巡行すると、ル・マン 4では少なからず出ていたシャー音がル・マン Vではあまり出ない。これはパターンの改良による部分が大きいものと思われる。両者の違いは明らかだ。

 実を言うと、件の「サイレントコア」が実際の能力以上に万能なものと受け取られたフシがあるようで、率直なところル・マン 4は期待外れと思われた部分もなくはないそうだ。そこでル・マン 5の開発にあたっては、誰が乗っても静かさを確実に直感できるようにしたとのこと。実際にもそのとおりで、全域にわたってとても静かに仕上がっている。これなら期待を裏切ることはないだろう。

予想を超える乗り心地性能

 乗り心地についても、ル・マン 4とル・マン Vを装着した4車種をそれぞれ乗り換えることができたおかげで、より違いが分かった。ル・マン 4も十分に快適で、けっして乗り心地がわるいわけではない。ところがル・マン Vは、タイヤだけでここまで乗り心地がよくできるのかと思わずにいられないほど、人にやさしい良質な乗り心地を実現しているのだ。これまた予想を超えていて驚いた。全体的に路面への当たりがソフトで、段差を乗り越えた際にもカドが丸い感じがする。

 これにはサイドウォール全体がたわんで、路面からの衝撃を吸収するという新プロファイルの採用により、クッション効果を増大させたことが寄与しているようだ。まさしくサスペンションのバネを長くしたようなイメージで、実にフトコロのふか~い乗り味になっている。しかも転がり抵抗性能のグレーディングは「AA」と立派なエコタイヤ。エコタイヤでありながらこれほど乗り心地に優れる商品というのはちょっと記憶になく、乗り心地では不利といわれるエコタイヤの常識を覆した点にも感心せずにいられない。

 運転してもらって後席にも座ってみたところ、やはり違いは顕著。当たりのソフトさと音の静かさは、前席にも増して違いが感じられたほど。ル・マン Vは同乗者にとっても喜ばれるタイヤであることも念を押しておこう。

 新プロファイルによりたわみが増えたことで、操縦性が落ちることも危惧されるところだが、たしかに操縦感覚はル・マン 4とは印象が異なる。まず気づくのはステアリングの中立付近がゆるやかで、操舵に対する反応がマイルドなことだ。開発陣に聞いたところ、「操縦性よりも安定性を重視し、フロントは応答性をあえて落としてヨーを出にくくするとともに、リアの応答性を上げて追従性を高め、ステアリングを切ったらヨーが出てリアがついてきて平行移動するような挙動を追求した」とのことで、なるほど納得である。

 また、ル・マン 4ではそれなりにロードインフォメーションも伝わり、しっかりとした手応え感があるのに対し、ル・マン Vはあえてそれが薄められているのは、そのほうが快適性能を高める上では好ましいとの判断があったようだ。

 全体としては、ル・マン 4のほうが“自然”に感じられたのは事実だが、それに対しル・マン Vは快適性を高めるために考えうる手を尽くしたことがうかがい知れる乗り味である。その点で、ル・マン Vは商品性の位置づけとしてはル・マン 4の後継ではあるが、方向性はやや変わったといえる。とにかく現時点で、これほど快適性能に優れたタイヤというのは他に思い当たらない。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。