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住友ゴム、天然ゴムの試験管内での生成に成功。詳細構造も明らかに
2020年に安全性、快適性を追求した“創生高機能第2世代”の高性能タイヤを製造する方針
2016年12月3日 00:15
- 2016年12月2日 開催
住友ゴム工業は12月2日、同社が開発・製造する自動車用タイヤに将来活かされる可能性のある新たな研究成果を報告した。天然ゴムの試験管内での生成に成功したことに加え、天然ゴムの構造を分子レベルで解析した結果についても明らかにした。
天然ゴム相当の分子量を試験管内で生成。将来はゴムの木が不要に!?
同社が開発する自動車用タイヤを構成する成分のうち、最も大きな29.4%という割合を占めるのが、天然ゴム。天然ゴムの性質がタイヤの性能に与える影響が大きいことから、同社は自動車用タイヤの性能を引き上げるために、天然ゴムという素材自体に工夫を加えてきた。
その成果として、低転がり抵抗とグリップ力という相反する性能を両立する「改質天然ゴム」を作り、実際の製品「エナセーブ100」に採用したほか、不純物を除去して低燃費・低摩耗を実現した「高純度天然ゴム」により「エナセーブNEXT II」も開発した。
ただ、樹液の一種である天然ゴムが、そもそもゴムの木のなかでどのようにして作られているのか、これまで明らかになっていなかった。もし天然ゴムの生成メカニズムが判明すれば、品種改良などにより高い生産性と品質を実現するゴムの木を生み出したり、“植物体”であるゴムの木を用いる以外の生産方法の発見に結び付く可能性も出てくる。
そこで同社はまず、天然ゴムを作り出しているとされる“酵素”の働きに着目。本来天然ゴムは水に溶けないが、試験管内の水中に天然ゴムが存在できるようにする“膜”を用意し、その膜に酵素を組み込んだうえで、単量体(モノマー)状態の天然ゴムと混ぜ合わせた。すると、膜のなかで高分子(ポリマー)状態の天然ゴムが徐々に生成され、結果的にゴムの木から採取した天然ゴムに相当する分子量の天然ゴムを生成することができたという。
人工的に天然ゴムを生産できる道筋がつけられたことにより、さらなる生成メカニズムの分析、解明を進め、高効率な生産手法を開発できれば、将来的にはゴムの木という植物体に頼ることなく、安定した天然ゴムの供給が可能になるとしている。
分子の結合部分の解析にも成功。天然ゴムの加工手法や性能の改善へ
天然ゴムの生成メカニズムと同様に、タンパク質と結び付いている高分子状態の天然ゴム分子の一端である「α末端」と、天然ゴム分子同士が接続して分岐している部分の「ω(オメガ)末端」と呼ばれる「末端基」の構造も不明だった。
同社はこの末端基を分析するため、化学処理によって結合部分を切断。通常は天然ゴム内で微量しか存在しない末端基を、結合を解除することで増加させ、高純度天然ゴムの製造技術も活かして不要物質を除去し、分析しやすくした。そのうえで、国立大学法人大阪大学がもつ高感度NMR(核磁気共鳴)装置を用いて解析。末端基の微弱な信号を検出し、末端基の種類を特定することに成功した。
この解析結果により、ω末端はジメチルアリル基であることや、α末端は全部で4種類存在し、そのうち2種類が分岐構造とゲル状物質の形成に関与していることが判明した。同社はこの結合箇所の詳細も把握することで、天然ゴムの加工手法や性能の改善につなげることができ、高性能なタイヤの開発にも結びつけられると考えている。
ゴムの負荷をコントロールする新たな「結合剤」を発見
記者会見ではさらに、耐摩耗性能を飛躍的に向上させた高性能タイヤ「エナセーブNEXT II」で採用された「ストレスコントロールテクノロジー」、新スタッドレスタイヤ「WINTER MAXX 02」に用いられている高機能バイオマス材料「しなやか成分」といった、最新テクノロジーについても解説した。
同社がタイヤ開発において現在フォーカスしているのは、「新材料」と「高機能バイオマス材料」の2つ。また、タイヤの性能面においては「グリップ性能」「低燃費性能」「耐摩耗性能」という相反関係にある3つのポイントを重視している。
「新材料開発」については、2015年に発表した「ADVANCED 4D NANO DESIGN」が「エナセーブNEXT II」(2016年11月発売)で初めて採用された。ADVANCED 4D NANO DESIGNは、ゴムの構造解析を大型放射光施設である「SPring-8」で、ゴムの運動解析を大強度陽子加速器施設の「J-PARC」でそれぞれ行ない、それら解析内容とスーパーコンピューター「京」によるシミュレーションを組み合わせる連携解析技術だ。
これにより、負荷発生時に分子の破壊起点となるタイヤ内のゴムにおける高ストレス発生箇所を、ポリマー(ゴム)と補強材料であるシリカとの境界付近にあることを確認した。ポリマーとシリカの境界にある「シリカ界面ポリマー」の動きがゴムの性質に影響を与えているのではないかと推測し、同社はポリマーとシリカを結びつけている結合剤に着目。この結合剤の種類を変化させたところ、シリカ界面ポリマーの動きやすさ(可動領域)が50%向上することが分かった。
同社では、シリカ界面ポリマーの運動性を改善し、破壊を抑制しやすい最適な“長さ”の結合剤を「新フレキシブル結合剤」として開発。グリップ性能、低燃費性能、耐摩耗性能の3つ全てをコントロールする「ストレスコントロールテクノロジー」の1要素とした。新フレキシブル結合剤を採用したエナセーブNEXT IIでは、従来モデルから達成していたタイヤラベリング制度「AAA-a」を維持しつつ、耐摩耗性能についてはさらに約51%のアップを果たしたという。
タイヤ寿命を伸ばす、石油外天然資源を用いた「しなやか成分」
一方、2016年8月から発売されているスタッドレスタイヤ「WINTER MAXX 02」で採用された「高機能バイオマス材料」については、タイヤの材料であるポリマー、フィラー、架橋剤、添加剤のうち、ゴムの機能を変化させる添加剤にフォーカスして開発してきた。
一般的なスタッドレスタイヤでは、氷上(でのグリップ)性能が一番に求められるため、夏タイヤに比べて柔らかいゴムを使用したり、路面(氷)をひっかくための素材(混ぜ物)を用いたりすることが多い。しかし、いずれの方策もタイヤの耐摩耗性能をダウンさせる方向に働くため、氷上性能と耐摩耗性能の両立は難しいとされている。
そこで同社は、2011年から発売した前モデルのWINTER MAXX 01で、タイヤブロック全体としては剛性を保ちながら、ミクロの領域では柔らかさを実現する「ナノフィットゴム」を開発し、氷上性能と耐摩耗性能の両方を向上させた。ただ、タイヤを長期間使用しているうちに、タイヤに配合されているオイルが抜けてしまい、コンパウンドが硬化して本来の性能を発揮できなくなる経年劣化の問題は残されていた。
この問題を解決するために開発したのが、「しなやか成分」というバイオマス材料の軟化剤だ。しなやか成分は、従来のオイルによる軟化剤と比較して分子量が大きく、ゴム自体と結合できる性質であることから、経年によってゴムから抜けることが少ない。したがって、高い氷上性能と耐摩耗性能を長期間に渡って維持できるとしている。
しなやか成分を採用するタイヤは「創生高機能第1世代」の製品とし、WINTER MAXX 02以外のシリーズにも順次適用していく計画。今後も高機能バイオマス材料の開発を進め、2020年には「創生高機能第2世代」として、安全性、快適性、経済性を追求した、環境負荷の少ない高機能・高性能タイヤの製造につなげる方針だ。