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住友ゴム、2017年12月期の決算発表会で「2022年に向けた新中期計画の取組み」を解説

2017年12月期決算は売上16%増の8779億円、純利益14%増の470億円

2018年2月14日 開催

2017年12月期の決算内容と新中期計画の取り組みなどを説明した住友ゴム工業株式会社 代表取締役社長 池田育嗣氏

 住友ゴム工業は2月14日、2017年12月期(2017年1月1日~12月31日)決算を発表。都内で記者発表会を実施して決算内容について説明し、合わせて新しい「2022年に向けた新中期計画の取組み」について紹介した。

 第126期となる2017年通年の連結業績(IFRS)は、売上収益が前年同期比16.0%増の8778億6600万円、事業利益が同10.6%減の669億7500万円、営業利益が同8.0%減の674億4900万円、親会社株主に帰属する当期純利益が同13.6%増の469億7900万円となった。

2017年通年の連結業績

 この連結業績について、住友ゴム工業 代表取締役社長 の池田育嗣氏が説明を実施。世界経済は米国で景気拡大が継続しており、中国でも比較的高い経済成長率を維持。欧州でも緩やかに経済が回復基調となり、中東地域で地政学的リスクが顕在化しているものの、多くの新興諸国で景気が拡大するなど総じて堅調に推移しているとコメント。日本でも雇用環境の改善や企業収益の向上、設備投資が増加しているなど堅調に推移しているとした。

 タイヤに関連する部分では、期初から天然ゴム価格や石油系原材料である「ブタジェン」の相場が高騰しており、年央に急騰前の水準に戻ったものの通年ではコストアップとなって営業利益を押し下げる要因となった。一方で為替は安定しており、通年では増収要因となっている。

 セグメント別では、同社事業の主力となっているタイヤ事業で、国内の自動車生産台数が増加となり、低燃費タイヤなどの高付加価値商品の納入拡大に取り組んだことで国内新車タイヤの売上収益が拡大。国内市販用タイヤでもダンロップブランドの低燃費タイヤ「エナセーブ」、特殊吸音スポンジ採用の「LE MANS V」などで拡販を推進し、ファルケンブランドでは「レッドブル・エアレース」の千葉大会に協賛するといった活動でブランド認知度を高め、プレミアム商品である「AZENIS FK453」などの販売を推進。さらに降雪の影響でスタッドレスタイヤの「WINTER MAXX 02」の出荷が好調に推移するなど売上収益が拡大。

 さらに海外でも2017年2月に販売会社の買収を行なった英国を含む欧州、SUV用タイヤが好調となった米国、中国を含めたアジア地域などで販売が伸び、全体での売上収益は前年同期比16.7%増の7565億7600万円となったが、原材料価格の高騰が影響して事業利益を14.1%押し下げているという。

 スポーツ事業、産業品他事業のセグメントは売上収益、事業利益共に増加となっており、とくに産業品他事業では住宅用制振ユニット「ミライエ」の販売好調、2015年に買収したスイス ロンストロフを核にグローバル展開する医療用精密ゴム部品の販売拡大、インフラ系商材でオリンピック関連の建設需要の取り込みが始まるといった要因などから売上収益が前年同期比11.5%増の395億5600万円、事業利益が同58.2%増の42億2900万円と拡大している。

セグメント別の売上収益と事業利益。売上収益はそれぞれ増加となっているが、事業利益は原材料価格の高騰でタイヤ事業が14.1%減となっている
事業利益の増減要因イメージ。原材料費の高騰が約360億円の悪化要因となっている
2017年12月期には連結子会社が17社増えた90社となっている
自己資本と有利子負債の推移
英国のタイヤ販売会社の取得、ダンロップブランドの商標権とスポーツブランドの譲受、ダンロップスポーツの吸収合併などの財務活動を積極的に行なったことで、フリーキャッシュ・フローはマイナスとなっている
設備投資もトルコのタイヤ製造工場の拡充を続けていることなどで投資額が増えている

 今後の見通しについては概ね堅調に推移すると予想しつつ、米国の保護主義政策の進行、英国のEU離脱によるグローバルな影響、北朝鮮や中東地域での地政学的リスクの顕在化などにより、景気の不確実性が高まっていくとしている。

 これを受け、次年度となる2018年12月期の連結業績予想は、売上収益が前年同期比3.7%増の9100億円、事業利益が同9.0%増の730億円、営業利益が同8.2%増の730億円、親会社株主に帰属する当期純利益が同2.2%増の480億円と見込みとなった。この予想について池田氏は「2018年度は収益力の強化を図り、4期ぶりとなる増益予想としております」とコメント。

 決算説明の最後に池田氏は「今後もグローバルの市場環境の変化は早く、他社との競争関係もますます激しさを増していくと予想しております。このように不確実性が高まっている経済環境のもと、当社グループは本年1月からスタートした新たな体制でブランド活動のいっそうの向上、事業の拡大、収益力の強化に取り組んでまいります」と意気込みを語った。

2018年12月期の連結業績予想。4期ぶりとなる増益予想となっている
セグメント別の売上収益と事業利益の予想と事業利益の増減要因イメージ。原材料価格の高騰は2017年に歯止めがかかっており、2018年には改善要因になるとの予想
中国、トルコ、ブラジルの生産能力を増強してタイヤ生産を高める計画
事業利益、営業利益は減益となったが、株主に対する配当金は2016年12月期と同じ55円/株を予定

“真のグローバルプレイヤー”を目指す新中期計画

 決算説明に続いて池田氏から紹介された「2022年に向けた新中期計画の取組み」は、同社が2012年に掲げた長期ビジョン「VISION 2020」の内容を、その後5年の国際情勢の変化や技術革新といった環境変化を反映し、2022年までの5年間で取り組む方向を新たに策定した中期計画。

 原材料価格の高騰や為替の変動、グローバルのGDP成長率の鈍化といった外的要因のほか、2016年12月期の期末決算から導入を開始したIFRS(国際財務報告基準)、2015年6月の米グッドイヤーとのアライアンス契約や合弁事業を解消したことでのグローバル経営戦略の見直しも内部要因として大きく影響しているという。具体的にはタイヤ需要が減少するとの予想から、2020年度の目標としてきた売上収益1兆2000億円、事業利益1500億円という数字を売上収益1兆円、事業利益1000億円に下方修正。これを2022年に売上収益1兆1000億円、事業利益1300億円に高める計画とした。

 これについて池田氏は「しかし、これらの環境変化は真のグローバル企業を目指す当社にとって大きなチャンスであり、このチャンスの波を確実に捉えるために、内外の環境変化や前中期計画の進捗状況をふまえ、『VISION 2020』の達成に向けた最終ステージとして、また2020年以降を見据えた施策として、2018年度を初年度とする新たな5カ年の中期計画として策定しました」と解説した。

「高収益・高収入の真のグローバルプレイヤーになる」「ステークホルダーにとっての価値向上と、全社員の幸せを追求する」という目標を掲げた「VISION 2020」。新しい中期計画でもこの理念を引き続き目指していくという
「VISION 2020」では「政治」「経済」「社会」「技術」の4項目で2020年までの環境変化を予測していたが、5年間で大きく環境が変化
環境変化をチャンスにするべく、2018年からの5カ年計画として新しい中期計画が策定された
2012年の予想よりもタイヤのグローバル需要が低下する見込みであることを受け、数値目標を下方修正

 具体的な取り組みとしては、これまで「3つの成長エンジン」として注力してきた「新市場への挑戦」「飽くなき技術革新」「新分野の創出」の3項目を柱としてきたが、それぞれに新しい要素を追加。「新市場への挑戦」に追加された「欧米事業の拡大」では、同社では売上収益の約6割が海外市場となっている一方、事業利益の比率では海外市場は約4割に止まっており、依然として日本国内で収益を確保する体質になっていると池田氏は分析。「VISION 2020」で目指す「高収益・高収入の真のグローバルプレイヤー」という企業像の道半ばになっていると語る。

 このため、今後は「欧州・アフリカ」「米州」といった市場での取り組みをさらに加速させ、2022年には海外での売上収益と事業利益をどちらも7割以上に高め、「欧州・アフリカ」「米州」での売上収益と事業利益をそれぞれ4割以上にすることを目標とした。具体的な施策として米国とトルコにあるタイヤ生産工場を最大限に活用して販売を強化。さらに新車用タイヤを増やすべく、既存の取引先となっているフォルクスワーゲンやFCA(フィアット・クライスラー・オートモーティブ)向けについて拡大するほか、アウディ、ポルシェ、メルセデス・ベンツなどの新車装着タイヤに新規参入する取り組みを強化していくという。

「VISION 2020」の「3つの成長エンジン」にそれぞれ項目を追加
「新市場への挑戦」では2015年6月に米グッドイヤーとアライアンス契約などを解消したことから、欧米事業を拡大していく
2022年には、海外での売上収益と事業利益をどちらも7割以上に高める計画
“真のグローバルプレイヤー”を目指すため、2016年4月から「欧州・アフリカ」「アジア・大洋州」「米州」の3極に責任者を置く体制となっている
「欧州・アフリカ」と「米州」での売上収益と事業利益を高めるため、米国とトルコにある生産工場を最大限に活用していく

「飽くなき技術革新」には、2017年10月の東京モーターショー2017で発表した「SMART TYRE CONCEPT」の推進を追加。深刻さを増していく環境問題やユーザーニーズの変化、クルマのコネクテッド化などによって変化を遂げるクルマに向け、さらに高い安全性能、さらに高い環境性能を実現するため、既存のタイヤ材料開発技術「4D NANO DESIGN」やタイヤシミュレーション技術の「Tyre Lifetime Simulation」をコアテクノロジーに、安全性を高める「セーフティ」テクノロジー、環境性能を高める「エナセーブ」テクノロジーを進化。路面状況に合わせてゴムが性能変化する「アクティブトレッド」、路面状況をモニタリングするセンサーとなってほかのクルマに情報発信する「センシングコア」、パンクしないタイヤとなる「エアレスタイヤ」などがコアとなる方向性として発表されており、2020年代後半には全技術を投入した「全く新しいタイヤ」を完成させるとしている。

自動車産業を取り巻く大きな環境変化に対応する「SMART TYRE CONCEPTの推進」が2つめの新しい要素
2017年10月の東京モーターショー2017で発表した「SMART TYRE CONCEPT」でタイヤ技術を進化させ、「全く新しいタイヤ」を完成させる計画

 3つめの「新分野の創出」では、スポーツ事業での「DUNLOPブランドの活用」を挙げた。2017年までは別会社だったダンロップスポーツは、2018年1月1日から住友ゴム工業と経営統合を行なっており、現在は住友ゴム工業のスポーツ事業本部となっている。また、2017年4月には英スポーツダイレクトインターナショナルから海外でのダンロップ商標権、ダンロップのスポーツ用品事業とライセンス事業を譲り受けており、タイヤ事業でも欧米、インド、豪州などを除くグローバルでダンロップブランドの所有権者になっていることから、グループ全体でリソースを活用し、ブランド価値の向上と事業の最大化を図っていくという。具体策としてはすでに契約してるプロテニス選手のケビン・アンダーソン選手、アグニエシュカ・ラドワンスカ選手に加え、新たに8選手と用品使用契約を結んだという。また、今後はバドミントンなどほかのラケット競技の分野にも拡大していく計画となっている。

 このほかにも産業品事業のセグメントで、欧州の大手製薬メーカー向けを中心に医療用精密ゴム部品などを製造するロンストロフの新工場をスロベニアに新設。約44億円を投じる新工場の稼働によって欧州での生産能力を2016年比で3倍に高めるという。

 最後に池田氏は、2018年がダンロップの創業者であるジョン・ボイド・ダンロップ氏が空気入りタイヤを実用化してから130周年となり、さらに2019年は住友ゴム工業の創業110周年になり、記念すべき年が連続することを紹介。この節目の年を迎えるにあたり、企業理念である「信用と確実」の重要性を再度確認し、企業存続のベースとなる品質、企業理念、法令遵守についての意識を全社で徹底していくと語り、社員1人ひとりが高い志を持ち、自由闊達な雰囲気の中で互いに高め合う企業風土を醸成に努め、地域・社会に貢献してさらに信頼される企業グループを目指していくとの考えを示した。

3つめの要素は「DUNLOPブランドの活用」。スポーツ用品でダンロップブランドを訴求することで、タイヤ事業にもシナジーを出していく
産業品事業でもロンストロフの新工場をスロベニアに新設し、医療用精密ゴム部品などの生産能力を2016年比で3倍に高める
2018年はジョン・ボイド・ダンロップ氏の空気入りタイヤ実用化130周年、2019年は住友ゴム工業の創業110周年となる

 終盤に行なわれた質疑応答では、2018年に実施される投資内容について質問され、池田氏が「海外ではブラジルでトラック用のタイヤ生産を拡大するための投資が増えます。また、中国では湖南工場の生産能力を上げていく計画で、最終的には年間6万本近いところまで持っていきたいと考えています。また、米国とトルコでも引き続き能力を高める投資を続けていく計画です」と回答。

 また、「VISION 2020」の数値目標を下方修正した具体的な理由については「1つは、我々は世界のGDPが4%を超えるぐらいまで伸びるだろうと考えていて、2020年までに20億本の需要が出てくるだろうと思っていました。それをもとにいろいろな計画を立てていたのですが、それが18億本ぐらいまでしかいかないという予想になり、その影響から数字を変更したのですが、この達成は欧米でいかに利益率を上げていくかというところです。販売力の強化、ブランド力の強化はかなりできてきました。あとは欧米で利益率をいかに高めていくかというところがポイントになると考えております」とコメントしている。

質疑応答に対応する池田氏