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住友ゴム、2016年1~6月実績はグッドイヤー株の売却益で過去最高となる281億円を計上
北米・欧州の高付加価値なSUV用タイヤ拡充で「VISION 2020」達成を目指す
2016年8月9日 16:10
- 2016年8月8日 開催
住友ゴム工業は8月8日、2016年12月期第2四半期(2016年1月1日~6月30日)決算を発表。都内で記者発表会を実施して決算内容について説明したほか、合わせて同社の長期ビジョン「VISION 2020」の達成に向けた取り組みなどについて紹介した。
2016年上半期6カ月の連結業績は、売上高が前年同期比3.9%減の3735億6600万円、営業利益が前年同期比5.2%増の307億8200万円、経常利益が前年同期比10.9%減の276億5800万円、親会社株主に帰属する四半期純利益が前年同期比40.5%増の281億700万円となった。
同社の事業の主力であり、売上高の80%以上を占めるタイヤ事業では、国内市販用タイヤにおいてダンロップブランドの「エナセーブ」シリーズや、2月にリニューアルを実施して転がり抵抗性能を「A」から「AA」に高めた「ル・マン・フォー」などを中心に販売拡大に努め、販売本数、売上高で前年同期を上まわった。しかし、国内新車用タイヤでは国内市場での自動車の生産台数が減少したことにより、販売数量と売上高が前年同期を下まわっている。
海外市場では2015年6月に米グッドイヤー(The Goodyear Tire&Rubber Company)とのアライアンスを解消したことを受け、市販用タイヤにおける自由度が増した北米や欧州、中近東、アフリカ、中南米などで販売を拡大。しかし、急速な円高による為替の影響から、売上高は前年同期を下まわる結果となった。新車用タイヤでは、中国とインドネシアで納入モデルの減産から販売数が減少したものの、従来から販売数の多い北米・欧州で販売を拡大したほか、タイ、南アフリカ、ブラジルで販売を伸ばしたことで、販売数は前年同期を上まわるという結果。しかし、やはり為替の影響により売上高は前年同期を下まわっている。
これらにより、タイヤ事業全体では売上高が前年同期比3.5%減の3204億6300万円、営業利益が前年同期比0.3%減の274億4500万円となっている。
このほか、スポーツ事業では、売上高が前年同期比3.7%減の364億3900万円となったものの、2015年12月にリリースした「ゼクシオ ナイン」シリーズの増販による販売構成の良化、円高による仕入コストの減少などを受け、営業利益が前年同期比189.8%増の25億9900万円と増益になった。産業品他事業では売上高が前年同期比11.7%減の166億6400万円、営業利益が前年同期比11.3%減の7億3100万円となっている。
決算内容について説明の説明で登壇した住友ゴム工業 代表取締役社長 池田育嗣氏は、今年度の第1四半期に米グッドイヤーの株式を売却した売却益を計上したことから、純利益は過去最高記録となる前年同期比40.5%増の281億700万円となった経緯を語った。また、営業利益の増減要因では、原材料の価格で190億円の増益、数量・構成他では販売数が増えたものの国内市場で伸び悩んだことで12億円に増益に止まり、直接原価は生産性の改善などの原価低減に取り組んだことで15億円の増益となり、スポーツ事業も17億円の増益となる。
半面で、価格では海外市販タイヤで行なった価格改定で109億円の減益、米国拠点の取得、生産能力の拡大といった増産投資に伴う固定費で77億円の減益、米ドルが120円から112円、ユーロが134円から125円に円高となった為替で8億円の減益。これに経費の24億円、産業品他事業での1億円といった減益を合計して、最終的に15億円の増益になったことを解説している。
SUV向けの高性能タイヤで北米・欧州市場の販売拡大を目指す
同社が2012年に掲げた長期ビジョン「VISION 2020」については、日本の本社集中体制から、日本をグローバル本社にしてベース技術をさらに加速させていきつつ、世界市場を「米州」「欧州・アフリカ」「アジア・大洋州」の3つに分け、市場ごとにユーザーニーズを製品に取り込んだ商品づくり、エリアごとの特製に合わせた施策を進める意思決定のスピード向上などに取り組んでいる。
それぞれのエリアでの施策では、米州では需要が伸び続けているSUV用タイヤに注力し、北米工場(ニューヨーク州・バッファロー)の小型車向けタイヤの生産能力をSUV用タイヤにシフト。また、2017年1月を目標に北米工場内に米国テクニカルセンターを設立してデザインなどのユーザーニーズの吸い上げを本格化。さらに同じく2017年1月からアラバマ州・ハンツビルに米国タイヤテストコースを開設してユーザーニーズに対応する。このほかに米州ではブラジル工場でトラック・バス用タイヤの生産を現地化し、関税の回避や為替リスクの回避に取り組む方針。
欧州・アフリカでは、これまでドイツの3カ所に分かれていたグループ会社をドイツ・ハナウ市の新施設に集約。同時にこれまでドイツ中心となっている販売体制を見直して、欧州地域それぞれに合う国別の販売体制の構築を目指す。このほか、トルコ工場、南アフリカ工場などの生産能力を増強して、製品の安定供給と為替リスクの回避に努める。
アジア・大洋州では、今後は環境規制が強化されると予想されているアジア市場でエナセーブシリーズなどの“環境対応タイヤ”を拡充して市場での存在感をアピールするほか、販売店網の整備・拡大を実施。各国の市場に合わせた販売チャネルを展開などと合わせた戦略を推し進めている。
このほか、前出の米グッドイヤーとのアライアンス解消に関連して、従来注力していた欧州市場以外でのファルケンブランド展開を強化。ベーシックタイヤからスポーツタイヤまで幅広くラインアップするダンロップブランドとは方向性のことなるブランドバリューを訴求していくという。
発表会の終盤に行なわれた質疑応答では、7月にブラジル工場、8月に米国工場での生産に関して能力増強などを発表した理由について問われ、池田社長は「私どもは現在、ブラジルではトラック用タイヤの生産能力がありません。そこで今は高い関税を払いながらトラック用タイヤの販売を拡大している状況です。これをずっと続けるというわけにはいかないので、ずっとタイミングを見計らっていました。確かにブラジルの景気はあまりよくないのが現状ですが、タイヤの需要については非常に強いという状況が変わっておりません。そこで、今がいいチャンスだということでブラジル進出を決めました」。
「アメリカでは5000本/日の乗用車用とSUV用タイヤを生産していますが、以前に私が(北米に)駐在していたころは8000本を超える生産をしていました。これが5000本まで下がって、本数を生産する能力はあっても高性能なタイヤが作れないんです。高性能タイヤの需要はどんどん高まっているにも関わらず、それが作れないので5000本に止まっている。そうして販売のチャンスを失っているような現状なので、まだまだSUV用の大きなタイヤはこれからも北米で伸びます。そこで今の設備を取り払って、高性能なタイヤを生産できる設備に振り替えていこうという計画です。今後はもっと生産能力が必要になるのかもしれませんが、まずは1万本のレベルで、新しい低燃費タイヤや、将来はランフラットタイヤなども作りたいです。そのように進めていきたいです」と展望について語った。
また、円高など為替の影響については「私としては公表している数値を確実に達成したいとずっと思っているのですが、円高の影響がなければ好評の数字を達成できたと思っています。急激な円高に対して、販売部門はがんばって市場の状況よりも売ってはいるのですが、それでも追いつかなかった。下期は『さらにもっと売れ』ということでやっているのですが、我々が想定していたよりも円高が進んで、今は(1ドルあたり)100円近くまできて、それに負けてしまっているのが私としては残念な気持ちです。ただ、為替次第で動くというリスクも考えて、もっと『売る力』というものを付けておくべきかなと考えています。今回、年間の販売見込みを公表から下げざるを得なかったのですが、これをミニマムとしてさらに上を目指していくんだというのが私の今の考え方です」と池田社長はコメントしている。